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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
553/800

第553話

ギルバートは地下への階段を、走って駆け下りる

ここはドワーフの郷の、さらに下へと向かう階段だ

この先には死霊と、危険な魔道具の兵器が放置されている

それが何かの拍子に、発動しては危険なのだ

先に向かったアーネスト達は、兵器を破壊する為に潜っていた

精霊の力を利用した、危険な魔導兵器が残されている

それを破壊して、精霊を解放するのが目的だ

しかしその為には、先ずは死霊を倒す必要があった


「ホーリー・ライト」

「くそ!

 数が多過ぎるじゃろ」

「はあっ!」

「文句を言っとる暇があるなら、何とかせんか」

「しかし何とかと言ってものう」

「さっきの爆発を見たじゃろう」


爆発が起こったのは、魔道具を起動させたからだ。

ドワーフ達が死霊を倒す為に、拾った魔道具に魔力を流した。

魔法が使えなくても、ドワーフ達も魔力は持っている。

むしろ大きな魔力を持っているから、物作りでその力を発揮していた。


しかし戦う事に関しては、簡単な身体強化ぐらいしか使えない。

これがゾンビやグールなら良かったが、魔力を持たない攻撃は霊体には効かなかった。

そうなれば当然、霊体である死霊には有効打が与えられなかった。

それで魔道具で、何とか攻撃出来ないか試したのだ。

結果は炎が噴き出して、魔道具は爆発してしまった。

直前で放り出したから良かったが、危うく爆発に巻き込まれるところだったのだ。


「他には無いのか?」

「あったとしても、何が起こるか分からん」

「一か八かにしても、危険じゃろう」


先の爆発で、ドワーフ達も魔道具を使うのを躊躇っていた。

爆発も怖いが、何が起こるか分からない魔道具も多いのだ。

そんな物を迂闊に、使うのは危険すぎるのだ。


アーネストが何とか、死霊が近付かない様に魔法を放つ。

しかしどうしても隙が生じて、皇女が牽制しても死霊が近付いて来る。

ガンドノフ達に死霊が迫った時に、後ろから階段を駆け下りる音が聞こえる。


「うおおおお…」

「この声は?」

「まさか?」

グガアア…

グギギギ…


声と生命力の大きさから、死霊はガンドノフ達から標的を切り替える。

それは階段から、猛烈な突進を行って来る者に向けてだ。

しかし死霊達は、動きが緩やかだった。

思考する頭を持たず、ただ生命力に引き寄せられるからだ。


光の欠片(ティリヌス・エスト)よ、オレに力を!」

ザン!

ドシュッ!

ゴアア…

イギイイ…


煌めく光が駆け抜けて、死霊達に軌跡を残す。

それは光の斬撃で、次々と死霊の身体を切り裂く。

切り裂かれた死霊達は、安らかな笑顔を浮かべて消えて行く。

まるでその一撃で、軛から解放される様に。


「ギルバート!」

「ギルバート殿下!」

「こ、小僧か?」

「はあ、はあ…

 間に合ったか?」


ギルバートは剣を構えると、目の前に漂う死霊の群れを見据える。


「何んで来た!

 お前は…」

「助ける!」

「はあ?」

「無茶ですよ!

 死霊はまだまだ居ます」


アーネストや皇女の声を無視して、ギルバートは剣を頭上に掲げる。

光の欠片から放たれる光に、回廊が明るく照らされる。

その光に焼かれて、死霊達は後退りを始めた。


「もう…

 逃げない!」

「馬鹿か!

 お前はアモンの死に…」

「ああ!

 怖いさ…

 お前達が死んで行く事がな

 でも、それでも!」

ウアアア…

アアアウウ…


再び何体か、死霊達が向かって来る。

その身体を光に焼かれても、暖かい光を求める様に。

しかし身体はじりじりと焼かれ、ギルバートの前に来る頃には薄く透けている。


「こいつ等には…

 触れさせん!」

シュバッ!

ザシュッ!


再び剣が振るわれると、死霊達は切り裂かれて消えて行く。


「なあ?

 お前は馬鹿なのか?」

「そうかもな?

 オレはお前ほど、頭は賢く無いからな」

「お前…

 ん?」


アーネストはそう言いながら、何か違和感を感じていた。

それはこれまで、田舎臭くても気品を保っていた、ギルバートの様子が違っていたからだ。

荒々しく怒りを纏い、まるで王都やダーナが襲撃された時の様だった。

そして何よりも、口調も変わっていた。


「ギル?

 口調が…」

「ここは任せろ

 お前は皇女とドワーフ達を守れ!」

「あ、ああ…」


ギルバートの気迫に押されて、アーネストは思わず頷く。

そして皇女の手を引いて、数歩後ろに下がった。


「皇女!」

「しかし…」

「任せた方が良さそうだ

 それに近くに居ては…」

「くっ…」


ギルバートが手に持つのは長剣だった。

それを存分に振るうには、この回廊では狭いのだ。

周囲に人が居れば、巻き込む可能性も少なくない。

皇女もそれに気付いて、止む無くガンドノフの横まで下がった。


「しかし、大丈夫なのか?」

「ああ

 あれは負の魔力を切り裂く剣だ

 どうやら死霊にも効くみたいだ」

「そうじゃ無くて!

 殿下はアモンの死で苦しんでいたのだろ?」

「そうだな

 しかし今は…」


どう立ち直ったのか分からないが、戦う気力は取り戻した様だ。

いや、むしろ今まで以上に気迫に満ちている。

それで口調まで、荒々しく変わっていた。

後にも先にも、ギルバートがオレと言う事は今まで無かったのだ。


「ギル

 行けるのか?」

「ああ

 たかだか死霊、そうだろ?」

「そうなんだが…

 お前、恐怖に震えていただろ?」

「そう、だな!」

ザシュッ!

オアアア…


再び死霊を切り裂き、ギルバートは正面を睨む。

しかしそこには、まだまだ10体以上の死霊が漂っている。


「大丈…」

「大丈夫だ!

 もう逃げない」

「しかし怖くて…」

「ああ

 正直言うとな、今でも…怖いさ!」

ザシュッ!

ウオアアア


「だったら何で…」

「言っただろ?

 お前達を死なせない」

「だからってお前が死んだら…」

「オレも死なない

 セリアと約束した」

「あ!

 ははん…そういう事か」

「むっ…」

「え?」


アーネストは何となく察して、それ以上は口を挟む事を止めた。

ここで集中力を欠く事を言うのは、ギルバートの邪魔をする事になるからだ。


「分かった

 お前に任せる」

「ああ

 こいつ等を倒せば良いのか?」

「いや、その奥に兵器がある」

「兵器?

 それが危険な兵器とやらか?」

「ああ

 だから出来れば…」

「分かった…

 うおおおお!」

シュバッ!

ザシュッ!

ウオオオ…

アアア…


ギルバートは一気に踏み込むと、剣を振り回して死霊に切り掛かる。

死霊は16体も集まっていたが、ギルバートの剣に切り裂かれて消えて行く。

あれだけ梃子摺っていた死霊の群れは、ギルバートの手で僅か数分で片付けられた。

これは単に、相性の問題もあっただろう。

死霊を切り裂き、浄化する事が出来る剣を持つ。

それはこの戦いに於いては、優位に戦える貴重な武器だった。


「おお…

 あれだけ集まっておった死霊共が…」

「まだ油断は出来ないぞ」

「ええ

 さっきもそれで、酷い目に遭いましたからね」


魔道具を暴発させたのも、元々は魔物を倒したと安心したからだ。

それで油断していたドワーフ達に、死角から死霊が現れたのだ。

彼等は身を守る為に、咄嗟に袋から魔道具を取り出した。

それが結果として、暴発して爆発したのだ。

死霊は倒せたが、危うく怪我人や死者が出るところだった。


「ギル

 その剣で周囲を照らせるか?」

「ああ

 しかしこんな暗闇で…」

「仕方が無いだろう?

 残っていた魔道具のランタンも、殺気の爆発で吹き飛んでしまった」

「そうだ!

 さっきの爆発は?」


「ああ

 魔道具が爆発したんだ」

「魔導具が?

 随分と危険な魔道具を使っているな」

「使いたくて使ったんじゃ無い

 咄嗟にあいつ等が…」

「そうか

 それで爆発はもう…」

「いや

 その辺に転がっているのも、その魔道具だ」

「え?

 何だって!」

「大丈夫だ

 触れなければ魔力も通らないし、全部が爆発するとは限らない」

「しかし、危険な事には変わりが無いがのう」

「むう…」


ギルバートは周囲を見回し、金属製の筒が転がっているのを確認する。

このどれかが、爆発する危険性のある魔道具なのだ。

迂闊に触れる事も出来ないので、周囲を警戒しながらドワーフに拾わせる。

それで退路が出来たのを確認して、ギルバートは提案をする。


「ここでこのまま居るのも危険だろう?

 上に戻るぞ」

「いや、まだだ」

「何でだ?

 死霊は片付けて…」

「ここに来たって事は、事情は知っているだろ」

「ああ

 この先に危険な兵器?

 それが在るんだろう?」

「そうだ

 だからそれを、破壊しないといけない」

「しかし…」


アーネストの言いたい事は分かる。

しかし破壊出来るかも分からない、兵器を調べに行くのだ。

このまま進むのは、あまりにも無謀だろう。


「そもそも、破壊出来るのか?」

「そうだな

 少し前は自身が無かった」

「そうか

 ならばやはり…」

「いや、今はお前が居る」

「ん?」


「お前のその剣

 光の欠片(ティリヌス・エスト)なら、あるいは破壊出来るかも知れない」

「これが?

 しかしこれは、負の魔力を切り裂く剣だぞ

 他の物に関しては、それほど効力を発揮出来るとは…」

「だからさ

 流れている魔力を切れば…」

「魔力を切る?」

「そうか!

 流れを止めれれば…」

「ああ

 魔法金属の効力も落ちるだろう

 そうすれば破壊も…」

「ああ

 壊すだけならば、ワシ等の工具が役に立つ」

「何とかなりそうなのか?」

「ああ

 ならないにしても、試してみる価値はある」


魔力の流れを切れれば、兵器の力を止められる。

それは兵器を無力化出来るだけでは無く、精霊を解放出来る可能性も示唆している。

精霊が軛から解放されれば、兵器もその力を失うだろう。

それはこの郷を、救う事にも繋がる。


「むう…

 そうは言うが、大丈夫なのか?」

「ああ

 魔力の流れを切るって事は、その魔導兵器の力も失わせる」

「つまりは、爆発の心配も無くなる…

 そういう事か?」

「ああ」


勿論、若干楽観的な考えではある。

しかし今の状況では、これが一番危険を取り除ける方法だった。

このまま未知の兵器を放って置く事は、それだけでも危険なのだ。


「分かった

 そういう事なら」

「ん?」


ギルバートは剣を構えて、回廊の奥を睨む。


「団体さんの到着だ」

「え?」

「そんな…

 まだ居ますの?」

「どうやらその様じゃな…」


「しかしこれまでも、かなりの数の死霊を祓ったわ

 それなのにまだ居るなんて…」

「そうじゃな

 明らかに数が合わん」


ガンドノフも気が付いて、顎に手をやって髭を扱く。


「ううむ…

 今までの数からしても、王国の兵士やワシ等の親族だけでは無い

 それ以外に何か…」

「そうだな

 そもそも、ただの死者がワイトになるなんておかしいんだ

 ワイトは大規模な戦場の跡なんかで発生する筈だ」

「そうじゃな

 それ自体は大した力を持たん

 むしろ死体に潜り込んで、ゾンビの様に襲って来る筈じゃ

 しかしこれでは…」

「レイス…

 そうか!

 こいつはレイスだ!」


見た目は区別が付き難いが、ワイトは霊体で死者の肉体を操る。

そして新たな死者を生み出しては、仲間として生者に襲い掛かる。

霊体の状態では大した力を持たず、生命力を吸う力だけを持っている。

ここには死体が残されていないので、アーネストもワイトと勘違いしていた。

しかしこの魔物は、それとは違っていたのだ。


レイスはワイトと違って、苦しんで死んだ者の魂から生まれるとされている。

その身体は負の魔力で形成され、半透明な姿はワイトに非常に似ている。

しかしその本質は、生者を憎み、その生命を絶とうと執拗に狙って来る。

それにワイトと違って、魔物化した時に負の魔力も帯びている。


「そうか…

 それで周囲が薄暗く…」

「そうじゃな

 闇の魔法である、ブラインドネスの効果じゃな

 ワシも気付かなんだぞ」

「そうだな

 初めて食らったし、知らない魔法なら分からないさ」


視界を奪うブラインドネスの魔法は、周囲に負の魔力の靄を生み出す。

それで視界を奪って、気付かれない様に忍び寄るのだ。

しかしレイスの力が不完全なのか、その効果は思ったよりも低かった。

それでアーネストも、魔法を使われていると気付かなかった。


「どうりで薄暗い訳だ

 それに神聖魔法で打ち消せる」

「そんな魔法があるの?」

「ああ

 オレも初めてで、よく分かっていなかった」

「それで…

 どうする?」


「どうするも何も

 相手がレイスでもワイトでも、やる事は同じだ

 でもレイスと分かった以上…

 ホーリー・ライト」

ウオオオ…

アアア…


アーネストは遠慮なく、暗がりに固まる死霊に向けて魔法を放つ。


「ワイトに比べると、レイスは闇の中にしか存在できない」

「そうか

 光を当てれば…」

「そういう事

 奴等は存在を否定されて、その力を大幅に失う

 思えば魔法が不完全なのも…」

「神聖魔法の効力で打ち消されておったか」

「それなら私も

 ホーリー・ライト」


皇女も呪文を唱えて、神聖魔法の光を放つ。

アーネストに比べると、自身の周囲しか照らせれていない。

しかし魔法の効果では、皇女の光の方が強力だった。

光に浮かび上がった死霊は、その身体を焼き消されて行く。


「ふむ

 ではオレは

 うおおおお」

ザン!

ザシュッ!

ウアアア…

オアアア…


「おお

 遠慮無いな」

「でも、助かるわ

 私達では周囲しか対処出来ないもの」

「そうじゃな」


ギルバートが切り込んで、奥に潜むレイスを切り刻んで行く。

しかし魔物は、まだまだその数を増やして行く。

まるで無尽蔵に湧く様に、奥から追加のレイスが漂って来る。


「おかしい

 数が多過ぎる」

「どうなっておるんじゃ?

 レイスは増えるのか?」

「そんな筈は無い

 使者を仲間に引き込むが…

 死んだ者が居なければ…」


魔物の湧き方は、明らかに異常だった。

ギルバートは何とか数を減らして、少しずつ前に進む。

しかしこうしている間にも、さらに奥から数体のレイスが現れた。


「何だってこんなに…」

「おい!

 ガンドノフ

 その兵器って死霊を生み出すのか?」

「違う!

 そんな物では無い筈じゃ」

「それじゃあ何で…」


アーネスト達は死霊を祓いながら、さらに奥を目指す。

しかし奥からは、追加の死霊が現れていた。

まだまだ続きます。

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