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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
552/800

第552話

ギルバートはセリアと、天幕を出て食事をしていた

セリアの慰めが効いたのか、ギルバートは精神的に余裕が出て来た

それでようやっと、食事を食べる事が出来ていた

時間にして2日ほどだが、少しずつ立ち直り始めていた

アーネスト達の事情を知らないので、ギルバートはゆっくりと食事を摂る

野菜と魔獣の肉のスープと、柔らかい白パンを食べていた

魔獣の肉は、倒したアーマード・ライノの肉が使われていた

キマイラの肉もあったが、こちらは塩漬けにしてから干し肉に使われる


「これは…」

「美味しい?」

「ああ

 やはり魔獣の肉は、高ランクの物が美味いんだな」

「そうね

 内包する魔力の違いだって、アーネストが言っていたわ」

「へえ…」

「魔力が大きいほど、肉に旨味が増すんだって」

「なるほどな…」


ギルバートは頷きながら、スープに入れられた肉を齧る。

確かに肉からは、旨味とコクを感じていた。

これが魔力の違いなら、ランクの高い魔獣を積極的に狩るべきなのだろう。

しかしギルバートは、安易にそう考えたく無かった。

高ランクの魔物を狩るという事は、それだけ仲間に危険が及ぶのだ。

それをアモンを失った事で、まざまざと思い知らされた。


「美味い肉が手に入るなら…

 いや、安易に戦うべきじゃないな」

「うにゅ?」

「ああ

 オレが戦いたいって言わないから、心配なんだろ?」

「ふみゅう…」


「そうだな

 以前のオレなら、美味い肉が食えるなら、どんどん狩ろうとか言っていただろう

 しかしな、それは危険だって思い知ったんだ」

「大丈夫?」

「え?

 ああ

 正直…まだ恐いよ」

「お兄ちゃん…」

「でも、みんなを守る為なら…」


ギルバートは拳を握り締めて、それをじっと見詰める。

少し震えていたが、先ほどまでよりは顔色もマシになっていた。


「お兄ちゃん…」

「ああ

 もう、逃げ出さない…」


ギルバートはそう言って、スープの残りを口に運ぶ。


「ねえ

 怖い時は…

 セリアを抱いて」

「ぶふっ!

 ゲホゲホ」

「だ、大丈夫?」


最後の一口を、ギルバートは思わず吹き出す。

そして周りを見回すと、騎兵達が何とも言えない表情で見ていた。

セリアの言った意味を、理解していたからだ。

そしてハイランドオーク達は、ニコリと笑って親指を立てていた。


「そういう…事は

 人前では、言わない様に」

「ええ?

 どうして?」

「は、恥ずかしいだろ」

「恥ずかしいの?」

「ああ」


「それって…

 セリアが子供だから?」

「ぐ…」


セリアは涙を滲ませて、自分のささやかな膨らみを見る。


「ち、違う

 そうじゃ無い!」

「じゃあ…

 どうして?」

「人前でああいう発言をするのは、恥ずかしい事なの」

「そうなの?」

「ああ」

「じゃあ…

 エッチな事、し・て・ね?」

「だあ!

 もっと恥ずかしいわ!」

「駄目?」

「駄目、駄目、駄目!

 そう言うのは大体、オレが言う事だ」

「そうなの?

 それじゃあ今夜も、セリアをさ・そ・って」


どこで覚えたのか、セリアは上目遣いに潤んだ瞳で見詰める。

ギルバートは顔を赤くして、周囲の羨ましそうな視線に狼狽える。


「だあ!

 誰がこんな事を教えた!」

「え?

 騎兵の人達が、そうやってせがむんだって…」

「な!」


ギルバートがキッと睨むと、騎兵達は慌てて視線を逸らした。

やましい事があるので、視線を逸らしているのは間違い無かった。


「お前等…」

「い、いえ」

「酒の席での話で…」

「そもそも殿下が、姫のお相手をされなかった頃の事ですよ」

「そうですよ

 姫様が不安がっていたから…」

「だからって!

 何て事を教えとんじゃ!」


ギルバートは怒りで、言葉遣いが汚くなっていた。

それでも気にせず、セリアに変な事を教えた騎兵達を睨んでいた。


「いや、そもそも殿下が、いつまでも手を出さない事が問題だったんですよ」

「そうですよ

 それで真剣に悩んでいらしたんですから」

「それにあの誘い方…

 破壊力あるでしょ?」

「あれなら朴念仁の殿下も…」

「ぐう…

 確かに…」


なるほど、確かにセリアの誘い方は、ギルバートをその気にさせるには十分だった。

しかしそれを認めるのが、なんだかしゃくだった。


「ぐうっ…」

「これなら十分に効くと」

「そうそう

 シンディちゃんから聞いて来たんですよ」

「シンディ…ちゃん?」

「ええ

 ちょうど姫様ぐらいの見た目の…」

「そうそう

 見た目幼女の…」


二人の騎兵が、思わず暴露をしていた。

しかし気が付くと、周囲の視線は氷点下に達していた。


「お前等…」

「まさかとは思うが…」

「へ?」


「いや、幼女趣味なんじゃ無いかとは、薄々思っていたが

 まさか本気だったとは…」

「シンディちゃんて、あのシンディだよね?」

「ああ

 王都の娼館でも数少ない、低年齢に見えるハーフリングと噂の…」


ハーフリングとは、昔人間の住む街にも住んで居た亜人の一種だ。

その見た目は子供に見えるので、奴隷として扱われていた。

成長が途中で止まって、子供の様な姿で大人になるのだ。

しかし魔導王国の頃に、人間達の前から姿を消していた。


「おい!

 あの犯罪めいた見た目だろ?」

「ああ

 さすがにオレでも…」

「ああ

 手は出さない…

 って言うか、出そうとは思わないな」


思わぬ強者の発言に、他の騎兵達はドン引きだった。

そしてハイランドオーク達も、顔を引き攣らせていた。

それほど二人の性癖は、周りから奇異の目で見られていた。


「えっと…」

「殿下は特別だぞ

 姫様が愛しておられるし、殿下もそれに応えておられる」

「そうだぞ

 普通に考えて、あの見た目に手を出すのは犯罪だろ」

「ふみゅう…

 犯罪なの?」

「え?」

「いや!

 姫様は特別で…」

「そうですよ

 犯罪はこいつ等です」

「お、おい

 お前等も姫様の事を…」

「好きとそれは違うだろ」

「そうだぞ、犯罪者」

「ええ!」


二人が非難を受けている間、セリアはすっかりしょげて自分の膨らみを見詰める。

確かに年齢に対して、些か…いや、かなり残念なサイズであった。

しかし改めてそれを言われると、やはり堪えている様子だった。


「いい加減にしろ!

 セリアが悲しんでいるだろ」

「え?」

「あ…」

「すいません」


騎兵達はセリアの様子を見て、素直に頭を下げる。

元々彼等は、セリアの愛らしい姿を好んでいた。

そういう対象では無く、純粋に守りたいという庇護欲から来る物だった。

2名の騎兵を除いて。


「すいません

 決してそういう訳では…」

「もういい

 この話は二度とするな」

「はい」


騎兵達は謝ってから、2名を鋭く睨んでいた。


「全く…

 セリア

 気にしなくて良いぞ」

「ふみゅう…

 ギルも…大きい方が…良い?」

「いや

 オレはセリアだから好きなんだ

 そんな事は気にしていない」

「本当に?」

「ああ」

「だったら今夜も…」

「う…」

「うにゅう…」

「分かった

 分かったって」


ギルバートはセリアの、頭を撫でながらそう言っていた。

周りの視線は痛いが、可愛いセリアの為なら我慢するしか無い。

そうして頭を撫でていたら、いつの間にか魔物への恐怖も忘れていた。

セリアは可愛くはにかんで、ギルバートを見詰めていた。


ズズン!

「っ!」

「何だ!」


突如地面が揺れて、奥の方から煙が上がるのが見えた。

どうやらどこかで、何か爆発が起こった様子だった。


「何だ?

 何が起こったんだ?」

「あっちの方角は…」

「確かアーネスト様達が、地下に潜っていたな」

「地下?」

「はい

 何やら地下に兵器?

 強力な武器があるらしくて…」

「それを破壊するって…」

「何だって!」


ここで初めて、ギルバートはアーネスト達が地下に潜ったのを知った。

アーネストが地下に向かう頃、ギルバートはまだ魘されていたからだ。


「何だってそんな事を…」

「その兵器というのが、強力で危険らしくて…」

「それを破壊するんだって」

「危険って…

 危なく無いか?」

「はい

 恐らくそれで…」


騎兵達は奥から、吹き上がった煙に視線を向ける。

ドワーフ達の話が本当なら、これはその兵器の仕業かも知れないのだ。

そして予想通り、ドワーフがこちらに向かって駆けて来た。


「大変じゃ!

 地下の魔物が暴れておる」

「魔物?」

「地下にも魔物が居るのか?」

「そうじゃ

 死霊となったワシ等の家族や、王国の兵士達じゃ」

「死霊か!

 厄介な…」


「それで、どういう状況なんだ?」

「これは…

 王太子殿下殿」

「良い

 状況を教えてくれ」

「はい

 死霊とアーネスト殿が戦っておられて…」

「それであの爆発か?」

「いえ

 あれは魔道具が爆発した物ですじゃ」

「魔道具?」

「ええ

 地下には危険な魔道具の兵器が沢山転がっておって…

 どうやらその一つが爆発した様なんじゃ」

「魔道具が…

 それでアーネストは?」

「皇女殿と戦っておられます

 どうか助力を…」


ギルバートは頷くと、騎兵達に視線を向ける。

しかし騎兵達は、悔しそうに己の武器を見ていた。


「どうした?」

「戦いたいのやまやまですが…」

「オレ達の武器では…」

「私達も…」


騎兵もハイランドオークも、魔法の武器は持っていない。

魔鉱石の武器も、あくまで切れ味や強度の補助魔法しか掛かっていない。

死霊を相手では、効果が無くてダメージを与えられ無いのだ。


「くそっ!」

「そいう事なら

 ワシ等が何とか作ってみます」

「作るって…

 しかし今からじゃあ」

「あ…」


ギルバートは天幕を見て、それから騎兵達を見る。

天幕の中には、対魔王用の武器である光の欠片(ティリヌス・エスト)が置かれている。

あれを使えば、負の魔力の塊の死霊も、容易く倒せるだろう。

しかし向かう先には、危険な魔道具も沢山あるという。

ギルバートは震える、自分の両腕を見詰めた。


「大丈夫

 お兄ちゃんなら出来る」

「セリア?」


セリアはそっと、ギルバートの手を握る。

それだけで手の震えが、収まって行くのが分かる。


「アーネストを

 お姉ちゃんを助けたいんでしょう?」

「う…」

「それでもまだ…

 怖いんでしょう?」

「ああ」


「でもね、お兄ちゃんなら大丈夫」

「何故だ?」

「だってお兄ちゃんは、みんなを守りたいって思ってる

 その気持ちは大きな力なの」

「でもオレは…」

「怖くて当然でしょう?

 みんなだって怖いんだもん」


セリアはそう言って、騎兵達の方を見る。

いつもはそう言われると、無理してでも怖くないと強がるだろう。

しかし今は、彼等も本音で向き合っていた。

ギルバートが自信を取り戻す為に、素直な気持ちを吐露していた。


「殿下

 オレ達も…

 いや、オレ達ずっと怖かったんです」

「殿下が魔物に向かって行く時も、本当は怖くて逃げ出したかった」

「でも…

 あなたがいつも先頭で戦われていた」

「だからオレ達は、殿下を守りたいって必死に戦っていました」


「ほら

 みんなだってそうなんだよ?」

「う…

 そんな…」


「亡くなった奴等の事、責めないでください」

「そうですよ

 あいつ等先に行って、オレ達の事を待っています」

「でもよう

 まだ死ねないな」

「ああ

 イーセリア様の事がある」

「お二人の幸せそうな姿、オレ達の励みになってるんですよ」

「お前達…」


「そうだな

 どっちかと言うと、オレはシンディちゃんとまた会いたいからだがな」

「おい!

 お前…」

「全く…」

「蒸し返すなよ…」

「はははは」


騎兵達の言葉を聞いて、ギルバートの震えは収まっていた。

彼等だって怖いが、必死になって戦っているのだ。


思えばギルバートは、恵まれていたのだ。

恐怖や負の感情を、もう一人のギルバートの魂が押さえてくれていた。

それが失われた事で、アモンが亡くなった戦いでは途中から怖くなっていた。

強大な魔物を前にして、以前の様な気持ちを保てなかったのだ。


恐怖に震えながら、必死に魔物と戦った。

結果として勝てたが、戦いが終わった頃には心が折れていた。

そこにアモンの死が重なり、すっかり怖じ気付いていたのだ。

しかし今は、あの時とは違った気持ちに変わっていた。


何かに気が付いた様に、ギルバートは足元が震えていた。

しかしそれは、恐怖では無く勝ってみせるという気持ちの現われだった。

この仲間達を、必ず守ってみせる。

その思いから、身体の内から力が溢れる様だった。


「お兄ちゃん

 行って」

「しかし…」

「助けたいんでしょう?

 ここは私に任せて」

「出来るのか?」

「うん」


セリアの力では、死霊に対して有効な力は無い筈だ。

しかしセリアは、大丈夫だとギルバートの背中を押す。

それでギルバートは、戦う決心をしていた。

そしてセリアは、止めの一言をそっと呟く。


「その代わりね

 帰って来たらご褒美をちょうだい」

「え?」

「うんとお兄ちゃんが、セリアに愛情をちょうだい」

「くっ!」


セリアの潤んだ瞳を見て、ギルバートは奮い立った。


「うおおおお!

 負けられん!

 負けるもんか!」

「うん

 みんなで無事に帰って来てね」

「うおおおお!」


ギルバートは火が付いた様に、天幕に入って鎧を着込む。

そして光の欠片(ティリヌス・エスト)を手にすると、猛然と地下への階段へと向かった。


「待ってろ、アーネスト、皇女

 必ず助ける!」

「頑張って、ギル」


ギルバートが駆け出すのを見送って、セリアは騎兵達に振り返る。


「さあ

 こっちも死霊の対策をするわよ」

「え?」

「このままでは、討ち漏らしが出て来るわ

 それを食い止めるのよ」

「ですが…」


「ドワーフのみんな

 死霊に有効な魔道具はある?」

「あるかどうかは…」

「探してみて

 何でも良いわ」

「しかし…」

「森妖精の小娘に、良い様に使われるのは…」

「そんな事を言ってて良いの?」


セリアはそう言うと、淡い緑色の光に包まれる。

そして女王として、成長した姿を見せた。


「精霊女王として命じます」

「な!」

「女王様?」


さすがにドワーフも、精霊女王が相手では立場が違った。

セリアを前にして、跪いて頭を垂れる。


「まさか今代の女王様とは…」

「失礼致しました」

「良い

 今は時間が惜しい!

 すぐに武器になりそうな物を探せ!」

「ははあ」


ドワーフはそう答えると、慌てて工場に向かって走り去った。

それを見送って、セリアは光を失ってへたり込む。


「はにゃあ…」

「イーセリア様」

「大丈夫ですか?」

「うん

 大丈夫」


「みんなも支度をして

 ここを守るわよ」

「はい」


セリアの号令で、騎兵達は直ちに地下への入り口へ向かう。

そこで地下から逃げて来る、死霊を倒す為だった。

騎兵達は覚悟を決めて、入り口を固める様に陣を張った。

まだまだ続きます。

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