第551話
ギルバート達がイチャ付いている間、アーネスト達は地下を進んでいた
既に入り口の罠は解除して、危険な魔道具も端に片付けられている
しかし道のりは、まだ回廊の半分ぐらいしか進んでいなかった
予想よりも、死霊の数が多かったのだ
アーネストの浄化の光が、死霊の一群を光に包む
動きが遅くなったところへ、皇女が細剣を鋭く叩き込む
こうして二人が協力して、死霊はその数を減らして行く
しかしそれでも、奥から次々と死霊が湧いて来ていた
「一体何体居るんだ?」
「くそ!
こんなに居るとは思わんかったわい」
「はあ、はあ…
一旦退きますか?」
「そうじゃなあ」
ガンドノフは合図を送り、同行するドワーフ達を下がらせる。
その間にアーネストは、呪文を唱えて光を解き放った。
聖なる浄化の光に焼かれて、魔物はその進行を止められる。
その隙にアーネストと皇女は、入り口の扉の場所まで戻った。
「はあ、はあ…」
「ふう…
ここまで来れば、大丈夫か」
扉には魔石が着いていて、その周囲には死霊は近付けなかった。
それで一行は、一旦仕切り直しをする事にする。
少し離れた場所で、死霊達は恨めしそうに呻き声を上げていた。
ウアアアア…
オオオオ…
「くそっ!
しつこいな」
「ゴーストは生者の生命力に惹かれる
仕方の無い事じゃ」
アーネストは死霊達の様子を、扉の向こうから眺める。
確かに死霊達は、アーネスト達の事は見失っている。
しかし扉の向こうには、何かを感じるのかじっと見詰めていた。
まるでその向こうに、餌が集まっているのを感じている様子だ。
「生命力か…
しかし生きている者が見える訳では無いんだな」
注意深く見ていると、死霊はアーネスト達よりも、その向こうのドワーフ達に反応していた。
そして足元を走る、ネズミには反応していなかった。
回廊の中には、他にも虫も足元を這っていた。
しかし死霊達は、そんな小さな生き物には目もくれていなかった。
「う…
よく見たら…
ネズミ?」
「ああ
他にも蜘蛛も居るな
大方死体を…」
「止めて
想像もしたくないわ」
皇女は顔を顰めて、ネズミから視線を逸らしていた。
「まあ、魔獣では無いからな
普通の腐肉食らいの虫やネズミだ」
「それでもよ
気持ち悪い…」
「あ…」
「何じゃ?
お嬢ちゃんは慣れておらんのか?
ワシ等は見慣れて…」
「見慣れたくないわよ」
顔を顰める皇女を見て、アーネストとガンドノフは肩を竦める。
アーネストも廃墟で見慣れていたし、ガンドノフもここで見慣れている。
しかし皇女は、その様な光景には慣れていなかった。
「まあ、死体は既に無いからな
ん?」
「どうした?」
「それならあいつ等、何を餌にしてるんだ?」
「ううむ…
そうじゃな」
「どうでも良いじゃない」
皇女は想像したく無いのか、顔を顰めたまま視線を逸らした。
「それで?
これからどうするの?」
「そろそろ魔力も回復しただろ?」
「え?
もう?」
「オレはそんなに時間は掛からない
皇女は回復して無いのか?」
「う…
あと少しよ」
「そうか
それなら回復したら…」
「もう一勝負じゃな」
「ああ」
「分かったわ」
アーネストは待つ間に、干し肉を齧り始めた。
時間も結構経っていたので、軽く食事をしておこうと思ったのだ。
しかし皇女は、そんなアーネストを見て眉を顰める。
「ん?」
「よく食べれるわね…」
「そうか?」
「私は食欲が湧かないわ」
皇女はそう言って、渡された革袋から水を飲む。
「そうかな?
戦場では…」
「慣れたく無いの」
「そうか…」
アーネストは肩を竦めて、革袋を受け取る。
「しかし、慣れておいた方が良いぞ」
「どうして?」
「これからより厳しい戦いになる
そうなってくれば、多くの者が死ぬだろう」
「それは…」
「それに、戦場では…
言い難いが食事もゆっくり出来ないぞ」
アーネストが言いたいのは、それこそ仲間が近くで死んでいても、生き残る為には食事も必要だ。
それこそ死体に隠れながら、食事をして逃げる必要もあるかも知れない。
それぐらい厳しい戦況では、生きるか死ぬかの判断になるのだ。
「そうね
慣れないと…」
「無理をする必要は無いが…
覚悟はしておいてくれ」
「分かったわ」
皇女はそう答えて、自分の革袋から干し肉を獲り出す。
しかし暫し眺めてから、やはり無理だと諦める。
代わりに干した果実を取り出し、それを口に含む。
「さあ」
「ああ
行こうか」
再び皇女は細剣を引き抜き、扉からいつでも飛び込める様に身構える。
そしてアーネストが、死霊に向けて呪文を唱え始めた。
「ホーリー・ライト」
シュバッ!
ギョオオオ…
ゴオオオ…
浄化の光を浴びて、彷徨っていた死霊はその場で身悶える。
そこへ皇女が飛び込んで、素早く細剣で突き刺して行く。
「やああああ
はあっ!
すぇりゃああ」
ザシュ!
ズシャッ!
オオオオ…
アアアア…
皇女の鋭い突きが刺さり、浄化の光が死霊を焼き尽くす。
死霊は最期に、安堵した表情を浮かべて消えて行く。
それを見送ってから、皇女はアーネスト達の方を振り返る。
「さあ
魔物は居なくなったわ」
「そうだな
後は奥に居る5体か」
「そうじゃが、他にも潜んで居るかも知れん」
「さすがに湧いたりはしないよな?」
「ああ
しかし、相手は死霊じゃ
思わぬ場所に隠れて居るかも知れんぞ」
「そうだな」
「油断しないで進みましょう」
皇女とアーネストが、並んで前を進む。
その後ろから、ガンドノフ達ドワーフが着いて来る。
ドワーフは魔法を使えないし、死霊に有効な武器も無い。
足元の魔道具を拾えば、何か有効な物もあるかも知れない。
しかし危険なので、魔道具は魔力を通さない特殊な布の袋に入れられて行く。
「居たわ」
「手前に3体か…
先ずはオレが…」
「ええ
残りを私が倒すわ」
「頼んだぞ
ホーリー・ライト」
シュバッ!
グオオオオ
ゴアアアア
アーネストの魔法に、死霊の1体が浄化される。
残る2体の死霊も、魔法の影響でその場で身悶えしている。
その隙を突いて、皇女は踏み込みながら魔石に魔力を込める。
そのまま鋭い突きが、2体の死霊を貫いていた。
「はああああ」
シュババ!
ゴオオオ…
アアアア…
その間に、奥で漂っていたゴーストがこちらに向かって来る。
皇女はそのまま後ろ向きに飛び下がり、魔物との距離を取る。
魔物がゆらゆらと追い掛ける間に、アーネストはもう一度浄化の光を放った。
魔物はそのまま光に包まれて、光に焼き尽くされた。
「ホーリー・ライト」
ゴオオオ…
ウアアア…
「やったわね」
「油断するな」
「そうじゃぞ
壁や床も注視しろ」
「え?」
「相手は死霊なんだ
床や壁も抜けて来るぞ」
「くっ!」
皇女は左足に、不意に異様な痺れを感じる。
慌ててその場を飛び離れるが、左足が感覚を失っている。
その場で跪いて、足があった場所を凝視する。
そこには足があった場所に、半透明な腕が生えていた。
「な!」
「そういう事だ
もう1体潜んで居たな」
アーネストは浄化の光を放ち、魔物をその場で焼き尽くす。
皇女は痺れた足に、癒しの光を掛けた。
「くっ
油断したわ」
「そうじゃな
しかしこれで、相手の出方は分かったじゃろう?」
「そうね
足元でも油断は出来ないわね」
皇女は地面を蹴ってみて、感覚が戻ったのを確認する。
まだ少し冷えているが、感覚は戻って来ていた。
「しかし…
触れられた時にはゾッとしたわ
足先から痺れる様に冷たくなって…」
「そうじゃ
そのまま掴まれておると、心の臓まで止められるぞ」
「恐ろしいわね」
「逆に言うと、それまでに振り払えば…」
「ああ
さして恐ろしい魔物では無い」
しかしこれは、相手がゴーストだからだ。
これが上位のワイトになると、触れられた時点で危険になってくる。
ワイトの腕に触られると、抵抗出来なければ全身を麻痺させられる。
そしてさらに上位の死霊になれば、触れられただけで命を奪われる魔物も存在する。
「ここはゴーストしか居らんが…」
「ああ
ワイトや厄介な死霊が居れば…」
「厄介な死霊?」
「ああ
例えばゾンビの上位のグールとか、骸骨の化け物のスケルトンとかだな」
「どう厄介なの?」
「グールは動く死体だが…
ゾンビよりも頑丈で素早い」
「動く死体って…」
「死に切れなかった死体が、そのまま負の魔力で動き出すんだ
そして生者の血肉を求めて、徘徊するんだ」
「不気味ね…」
「ああ
しかも死体だから、睡眠や毒といった物は効かない
身体をバラバラにして、焼くか浄化するしかない」
「そう…
会いたくはないわね」
動く死体だけで不気味なのに、さらに生きているみたいに素早く動ける。
それは不気味な存在だろう。
「スケルトンは…
骨だな」
「骨?」
「骨だけが生きているみたいに、動いて襲って来るんだ」
「骨…ですか」
「骨だから、攻撃を当てるのも難しい
特に皇女の武器は細剣だから…」
「ああ
骨の隙間は駄目なんですね」
「そういう事だ」
スケルトンは動きも鈍く、膂力もさして強くない。
しかし手強い理由は、骨を砕かなければ倒せない事だ。
骨を砕いて動け無くしてから、浄化するか火で焼き払う。
そうしなければ、骨に沁みついた怨念は祓えないのだ。
「そうなれば骨や死体が出て来れば…」
「そうじゃな
今さら死体なんぞある筈も無い」
「ああ
間違い無く、魔物だろう」
魔導王国の兵士が居たのは、今から100年以上昔になる。
そんな古い死体が、残されている筈は無いのだ。
だからここで死体を見付けたらら、死霊で間違いは無いだろう。
「それでは…」
「ええ」
「地下に向かうぞ」
再び皇女とアーネストが先頭に立ち、死霊の出て来た先に向かう。
そこは崩れかけた、階段が下に向かっている。
しかもその下からは、不気味な冷気が立ち昇っていた。
「暗いわね…」
「ああ
しかもランタンも無いな…」
「仕方が無いじゃろう
ここは激戦の跡じゃ
ランタンもその時に破壊されておる」
「しかしこう暗くては…」
アーネストは灯りの呪文で、杖の先に灯りを点す。
しかしそれだけでは、周囲を薄っすらと明るくする事しか出来なかった。
足元も見えないので、このまま進むのは危険だった。
「おい!
何とかならないのか?」
「とは言われてものう…」
「ランタンの予備は無いのか?」
「あるにはあるが…」
「ここにあります」
「しかし、どこに提げるんじゃ?」
壁はあちこち崩れて、ランタンを提げる場所も崩れている。
仕方が無いので、試しに一つ点けて足元に置いてみる。
しかし死霊の力の影響か、その周囲しか明かりは届いていなかった。
「ううむ…」
「これでは…」
「ランタンを持って進むのは?」
「それは危険だ
いつ襲い掛かって来るか分からない」
「そうじゃぞ
ランタンを持ったままじゃあ、武器も満足に振れんじゃろう?」
「しかし、それではどうするんです?」
「ううむ…」
ガンドノフは唸って、ランタンを手に持って考える。
試しに腰に提げてみるが、それではすぐ近くしか見えなかった。
先を見通すには、相応の灯りが必要だろう。
「くそっ!
こうなれば…」
アーネストは試しに、清浄なる光を唱える。
これはホーリー・ライトに比べると、より強力な聖属性の光を放つ。
しかしホーリー・ライトよりも射程が短く、離れた魔物には効果が低い。
「ピュリフィケーション」
「え?」
アーネストが杖を掲げると、前方に光が放たれる。
その光は階段を照らすが、すぐに光は消えてしまった。
「何でその魔法を?」
「よく見てみろ」
アーネストが杖で示すと、階段の周りの暗さが和らいでいた。
ランタンの周囲も、先ほどよりは明るくなっていた。
「え?」
「どうやら浄化が効くみたいだな…」
「しかし…
効果は長続きしないな」
一時的には、周囲の暗さは和らいでいた。
しかしゆっくりと、靄に包まれる様に暗くなって行った。
「くそっ…」
「しかし無駄では無かったぞ
死霊の影響だと分かったんじゃ」
「しかしどうする?」
死霊の影響で、さらに暗くなっている事は分かった。
しかしそれも含めて、どうにかして明るくする必要がある。
「どうにか…
神聖魔法の魔力で明るくする必要があるな」
「どうやって?」
「それは…」
「ランタンを改造出来んかのう?」
「ランタンか…」
ドワーフ達が集まって、ランタンを中心に話し合いを始める。
「明かりは50~100ルクスあれば十分じゃ」
「そうは言ってものう
このランタンで200ルクスじゃ」
「じゃからその分を、神聖魔法に割り振れんか?」
「それを何ジュール回すかじゃな」
「半分はどうじゃ?」
「そうすれば100ルクスを下回るじゃろ」
「それでも照らすだけなら、十分な明るさじゃろう?」
ドワーフ達は聞き慣れない単位を並べて、議論を始める。
どうやらランタンに、神聖魔法を加える事は出来るらしい。
そこでガンドノフは、刻み込む魔法陣をアーネストに確認する。
「ワシ等は魔法の事は分からんでな
どの様な魔法陣を描けば良いんじゃ?」
「魔法陣って…」
「そうじゃな
さっきの魔法はどうじゃ?」
「ピュリフィケーションか?
それならこうやって…」
アーネストは地面に、ピュリフィケーションの魔法陣を描く。
ガンドノフはそれを見ながら、直接ランタンの底に魔法陣を描く。
「え?
直接描くのか?」
「これは下書きじゃ
これに触媒を加えて、魔法陣として定着させる必要がある」
ドワーフ達は事前に準備していたのか、触媒の入った溶液の瓶を出す。
ガンドノフはそれに筆を浸けると、魔法陣に触媒を通して行く。
それから呪文を唱えて、魔道具から何かの魔力を流し込む。
「これで乾いたら、魔道具の完成じゃ」
「こんなに簡単に?」
「ああ
しかしこれも、ワシ等じゃから出来る事じゃ
人間が真似したが、なかなか上手く出来んかったのう」
ガンドノフはそう言いながら、ランタンを組み立て直した。
組み上がったランタンは、先ほどとは違った光を放っていた。
「これで進めるじゃろう」
「分かった
進んでみよう」
アーネストはランタンを腰に提げると、ゆっくりと階段に向かって進む。
今度は先程と違って、階段も照らし出されていた。
そのまま一行は、階段をゆっくりと降り始めた。
まだまだ続きます。
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