第55話
領主の執務室で、ギルバートとアーネストが領主と会談している時、再び使徒のベヘモットが現れた
彼は話があると領主に持ち掛ける
果たして彼は、何を語るのか?
突如現れた女神の使徒ベヘモット
彼は話があると言うが、それは一体何なのか
ギルバート達は警戒して身構えていた
使徒はニコリと笑うと、宙から紅茶を取り出して飲み始めた。
「何なんだ、お前は!」
ギルバートは突如現れた彼に警戒していた。
前回はギルバートは居なかったので、ベヘモットが転移を使うのを理解していなかった。
「何処から入って来た!」
「まあまあ
落ち着きなさい」
「ぐぬぬぬ」
「それと、君
わたくしは女神様の使徒ですよ
口に…気を付けなさい」
男は急に凄み、その気迫にギルバートはたじろぐ。
「う…」
「さあ
突っ立てないでお座りなさいな
話が出来ないでしょう」
「ふん!」
ギルバートはムスリとして男の前に座った。
アーネストとアルベルトも肩を竦めて座った。
「それでは…
先ずは、魔物との戦いに勝利しまして、おめでとう」
男はパチパチと一人で拍手をする。
それを見て、ギルバートは露骨に嫌そうな顔をする。
「勝利を祝っていただくのはよろしいですが、あの魔物は貴方の配下なんですよね?
それを勝った相手を祝うんですか?」
「ええ、そうよ
彼等はわたくしの可愛い子供達
ですから、本当は…あなた達を殺してやりたいくらい憎いですよ」
男の殺気に、ギルバートは思わず腰に手を伸ばすが、帯剣していないので剣は無かった。
その様子を見て、男は殺気を収める。
「いいのよ
これは約束してた事だから、今回の負けは目を瞑るわ」
「…」
「それで
話と言うのは?」
アルベルトは、このままでは話が進みそうにないので、先を促す。
「そうそう
先ずは、そこの坊やに褒美をあげなくてはね」
「ボクにですか?」
男はニコリと微笑み、アーネストの方を向く。
「ええ
坊やは魔術師の称号を持っているわよね」
「はい」
男は羊皮紙を取り出すと、アーネストの前に差し出した。
「これは?」
「魔力操作の方法よ
慣れれば今より少ない魔力で魔法を使える様になるでしょう
まあ魔術師には基本の技術なんだけどね」
「え!
それは凄い」
「魔術師は魔力が無ければただの人
って昔の人は言ってたわ
せいぜい頑張って、魔力を高めるのね」
「はい」
「ただし
魔術師ってのは、ただ呪文を覚えて唱えるだけじゃあダメよ
何度も使って、熟練度を上げないとダメ
その辺はスキルとお・な・じ」
「へ?」
「スキルって
熟練度?」
「そう
貴方達が身に付けたスキルや魔法、それには熟練度という概念があります。
これは女神様が決めたのではなく、先代の勇者が決めたのよ」
「先代の勇者?」
「そう、君の前に勇者になった男の子」
男はギルバートの方へ向き、ウインクをした。
「ボクの前に勇者…
でも、ボクは勇者ではありませんよ」
「あ!
そうか…
君は覇王の卵ですものね」
「え?
覇王?」
「ええ!!
あんた、それすら話していないの?」
男は視線を鋭くして、アルベルトを睨んだ。
「う…」
「父上?」
「領主様?」
「いい!
彼は目覚めてしまった
望もうと、望まざると」
「しかし!」
「わたくしとしては、この子が目覚める前にどうにかしたかったんだけど…
目覚めたからには、その子には地獄の様な試練が立ちはだかるわね
それもこれも、貴方達二人のせいね」
「どういう事です?」
「わたくしからは…言えないわ」
「そんな…」
「やはり…何か秘密が?」
「そもそも
貴方達が犯した罪が原因なのよ
今回の事も、女神様からの依頼でね
魔物の開放は約束だったから、でもその交換条件は貴方達の殲滅」
「え?」
「わたくしは頼まれただけ
ただ…可能なら君も殺してくれって
女神様からは言われてたわ」
「女神様が…僕を?」
「そう
君がこの件の原因だからね」
「え?」
「それも…
秘密ですか?」
アーネストが横から挟むと、男は素直に頷いた。
「そう
言える者なら教えてあげたいわ
でもね、わたくしが許されているのは断罪のみなの
それ以上は関与出来ませんわ」
「そうですか
なら、後は領主様に聞くしかありませんか…」
「ええ
そうね」
「…」
「それで、領主様
話していただけるんですか?」
「う、うーむ」
「父上」
「しかし
しかしな」
「どうしてなんですか?
それすら話せないんですか?」
「ぐ、むむむ」
領主は苦悶の声を上げたが、観念したのか約束をした。
「頼む
後2年待ってくれ」
「何で2年?」
「本来なら、あと2年後にギルバートに話す予定だった
だから、だから…」
「分かりました
では、必ずギルに話してくださいね」
「ああ
ワシのクリサリスの名に賭けて
必ず話す」
「なら良いです」
「ふふふ
話がまとまって良かったわ」
男は嬉しそうに笑った。
「ところで
肝心の用事は?」
「え?」
「え?」
男は当初の予定をすっかり忘れていた。
「ああ、そうそう
坊やに渡す予定だった報酬よね」
「ええ」
「忘れてた?」
「はあ…」
「そもそも、貴方が悪いのよ
いつまでも黙っていて
また悲劇を繰り返したいの?
わたくしはカイザードやイチローの様な悲劇はもうごめんよ」
「そう
貴方がいつまでも幻想を抱くのは良いけど
後悔する事になるわよ」
「そ、それは…」
「何の事です?」
「いずれ分かるわ
貴方の身に流れる血が、どういう意味を持つのか…」
「まさか!」
「アーネスト!」
アーネストは何かに気が付いた様であったが、アルベルトがそれを止めた。
アルベルトが首を振ると、アーネストもそれ以上は言わなかった。
「アーネスト?」
「すまん、ギル
オレからは言えない
いずれ領主様が話すその時まで、ボクは黙っていたい…」
「?」
「すまない…」
「あら、嫌だわ
わたくしのせいね
でも、許してね
わたくしもこの件に関しては納得してませんので…」
「はあ…」
男は芝居がかった仕草で礼をすると、話題を変えようとした。
「兎に角
今回の件で、わたくしのお気に入りの子供達は死んでしまった
暫くは、ここへは来ないつもりよ
…わたくしはね」
「それは、魔物は来ないと言う事ですか?」
アーネストがすかさず尋ねる。
「いえ
先にも申し上げましたが、魔物は開放されました
わたくしの子供達は来ませんが、他の人達の子供までは…
知りませんわ」
「そう、ですか…」
「はあ
結局、魔物は出て来るんだね」
「ええ
彼等をどうすかは…任せるわ
わたくしは暫くは、別件にて離れるわ」
「なるほど
それでは好きにさせてもらいますよ」
アーネストは手をひらひらさせて、男の方を見た。
「ええ
任せるわ
その代わり…死なないでね」
「へ?」
「言ったでしょ
わたくしは、坊や、君を気に入っているの
だから、死なないでね」
男はニッコリ笑ってアーネストを見詰めた。
「え”…」
「だからプレゼント
君にはわたくしの字名をあげる
わたくしの加護と共に」
ポーン!
アーネストは称号:ベヘモットの加護を得ました
「今日からわたくしの字を名乗りなさい」
「ええ!」
「何と!
使徒の名を授かっただと!」
「凄いよ、アーネスト」
「わたくしの加護が何なのか
今は見れないでしょう
いずれ力を身に付けたら、改めて見てみなさい
わたくしの贈り物を」
領主とギルバートは興奮して喜んだ。
しかし、アーネストは不思議な感覚に包まれて、何が起きたか戸惑っていた。
「今日からアーネスト・ベヘモットと名乗れる訳だ
これは貴族になるより名誉な事だぞ」
「凄い」
「ええと
しかし、栄誉とは言え、敵対していた者の名前を貰うのはどうかと…」
「そこはそれ
今回の試練に打ち勝った証として、女神様の使徒に認められて名前を授かったと喧伝すれば問題ないだろう」
「はあ…
そんなもんなんですか?」
「そんなもんだ」
男は、ベヘモットは席を立つとニコリと微笑む。
アルベルトはそんなベヘモットを見て、溜息を吐く。
「それでは、わたくしの話はお仕舞い
これで失礼するわ」
ベヘモットは手を振りながら、立ち去ろうと窓際に向かう。
それを見て、アーネストは呟いた。
「ありがとうございます
でも、何でです?
まるでこれが…最期みたいですよね」
「む?
まさか?」
アルベルトも気が付き、目を細めた。
「え…
やだなあ」
「使命を失敗したにしては、確かに緩いな
何を言われた」
「えー…と」
「相手は強力な力を持っている
そうだな」
「はあ
そうよ
今回の件で目覚めた者が他にも居るの
女神様はそこの坊やかそいつを殺す様に命じられたわ
だから、そいつを殺しに行くだけよ」
「勝てるのか?」
「何よ
貴方もさっき言ってたでしょ
敵だったのよ
何で心配するのよ」
「それも…そうか」
アルベルトは探りを入れてみたものの、確かに敵だった者を心配するのはおかしな話だ。
それでも、嬉しかったのかベヘモットは笑顔になっていた。
今度は誤魔化す為ではなく、心から笑って去って行った。
「でも、心配してくれてありがとう
それでは行くわね
さようなら」
「ああ
お前も死ぬなよ」
「ありがとう
名前に恥じない様に頑張ります」
「さようなら
お気を付けて」
ベヘモットは音も無く消え去り、その後には静寂が訪れた。
「騒がしかったな」
「ええ」
「それで
アーネストの報酬なんだが…」
「この名前だけで十分ですよ」
「うーむ
しかし、それでは収まらんだろうよ
その内、国王からお話があると思う
それまでは名誉騎士号として登録しておく」
「はい
それでお願いします」
「それと、勲章ぐらいは受け取ってくれ
息子を救ってくれた礼だ」
「はあ」
アルベルトは執事を呼び、勲一等の勲章を差し出した。
「今までは、領主権限で不問にしていたが、これで晴れてここに出入りするのは自由になる
これからもギルバートの事を頼む」
「はい」
「さて
領主としての面倒臭い仕事は終わった
一緒に娘達の所へ行くぞ」
「え?
良いんですか?」
「ああ
たまには休まんとな
娘に嫌われてしまう」
「ははは…」
「アーネストも来るんだぞ」
「はあ
領主命令ですか?」
「そうだ」
それから、領主は久しぶりに仕事もしないで、家族サービスに精を出した。
これは、魔物の侵攻を無事に止めれた記念だと言って、街のほとんどの仕事が休みとなった。
そして夕食の後は、ギルバートとアーネストは初めて酒を飲まされた。
祝いと言って、執事にも止められたが、アルベルトが無理矢理飲ませた。
まるで嫌な事を忘れたいかの様に、アルベルトははしゃいで飲んだ。
そして…
ギルバートとアーネストは涼みに庭に出ていた。
食堂では、アルベルトの上機嫌な笑い声がしている。
二人の妹は既に眠っており、母親が晩酌の相手をしていた。
「なあ、ギル」
「ん?」
「親父さんの事、許してやれ」
「え?」
「あれは息子と飲みたかったんだ
ボクはその為のダシだよ」
「そうか…」
「ああ」
「父上…
寂しかったのかな?」
「そりゃそうだろ
お前が急に強くなるし、言う事聞かないし、死ぬかもって必死だったし」
「はははは
そりゃあ大変だ」
「ああ
大変だ」
「アーネスト
すまなかったな」
「ん?」
「お前にはいつも迷惑掛けてる」
「止せよ、今さら」
「それでも、さ
いつも助かる」
「はははは」
「ギル…
いつまでも友達だからな」
「なんだよ?」
「いいんだ
何があっても、オレはお前の友達だからな」
「なんなんだ?」
「あー…
忘れろ」
アーネストが笑い出し、釣られてギルバートも笑い出した。
そして、夜更けまで二人は語り明かした。
ダーナの街は、戦勝祝いで夜明けまでお祭り騒ぎをしていた。
これで、第2章は終わります
次は2年後のギルバートの誕生日から始まります
アルベルトの抱える秘密、それが明かされる時が来ました
少し矛盾があったので修正しました
やはり鑑定なんて強力な能力は簡単には使えない方が良いですね




