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聖王伝  作者: 竜人
第十七章 土妖精の郷
545/800

第545話

ドワーフの郷の前での戦闘は、依然続いていた

合成魔獣であるキマイラと、ヒル・ギガースは倒されている

しかし魔獣アーマード・ライノは、依然として生き残っている

騎兵とハイランドオークが戦っていたが、まだ倒し切れていなかった

そしてギルバートの横では、アモンが倒れて血を流していた

ギルバートとアモンは、鬼人であるヒル・ギガースを倒した

そして騎兵達を助ける為に、二人はアーマード・ライノに向かおうとしていた

しかしギルバートの横で、突然アモンは倒れる

そして動かなくなった彼の頭から、夥しい量の血が流れる


ドサッ!

「へ?」


倒れたアモンは、ピクリとも動かない。


「おい?

 何寝てんだよ?」


ギルバートは跪いて、アモンの顔を覗き込む。

しかしアモンは動かず、その彼の頭の辺りから血が広がる。


「おい!

 起きろよ!

 起きろよアモン!」

「アモン様?」

「くそっ!

 もう寿命が…」


ハイランドオーク達も異変に気付き、その為に隙が生まれる。

そこをアーマード・ライノに突進されて、何体か地面に叩き付けられる。


「ぐがっ」

「ぐふっ」

「おい!

 くそっ!」

「何とか態勢を立て直すんだ」

「くそっ!

 ガブル

 大丈夫か?」

「私の事は良い

 魔獣を…」


アモンが倒れた事で、ハイランドオーク達の士気が著しく落ちる。

何とか騎兵が踏ん張るが、そう長くは持たないだろう。


「アモン

 アモン

 うわあああ…」


ギルバートは頭を抱えると、激しい絶叫をする。


「くそっ!」

「殿下にも影響が…」

「踏ん張れ

 何としてもここを死守するんだ」


騎兵達は声を振り絞り、懸命に魔獣の攻撃を防ぐ。

しかしこのままではジリ貧だ。

いずれ戦端は崩れて、魔獣に抜けられるだろう。

そうなってしまえば、後はドワーフしか居なかった。


「アモン

 アモン

 私が不甲斐ないばかりに…」

「確かに…な」

「アモン?」


アモンは力を振り絞って、何とか起き上がろうとする。


「アモン

 大丈…」

「この…

 馬鹿者が…」

「アモン?」

「これでは…おちおちと

 死んでおれ…がふっ」

「アモン!」

「行け!」

「へ?」


アモンは何とか首を動かして、ギルバートを睨み付ける。


「行って…お前の

 お前の成す事を…げはっごほっ」

「アモ…」


ギルバートはアモンを、抱き起そうとする。

しかし彼は、力無い腕でそれを振り払う。

そして何とか、口元を笑みにしようとする。


「ごはっ」

「アモン…

 分かったよ」


ギルバートはアモンを、そっと横にしてやる。

そして剣を握ると、涙で滲んだ目元を擦る。


「うおおおお…」

「ふっ

 世話の…焼ける…」


「アイス・インパクト」

ザシュッ!

グガ…


ギルバートの一撃は、固い魔獣の首を力任せに切り落とす。

その目には時間が無いと、焦りの色が見えていた。


「殿下?」

「騎兵は左右に展開

 魔獣の気を引き付けろ」

「は、はあ…」

「ハイランドオーク達は洞窟の前で

 何としても死守してくれ」

「はい、しかし…」

「良いから、頼む」

「はい」


騎兵達はギルバートの指示に従い、魔獣を攻撃しながら左右に広がる。

魔獣はそこまで賢くないので、騎兵に釣られて左右に広がった。

それで攻撃が分散して、ハイランドオーク達も移動出来る様になる。

彼等は洞窟の前に移動して、盾を構えて防御姿勢に入る。


ここまでの戦闘で、50体以上居たハイランドオークも半数近く減っていた。

そのほとんどが、騎兵を守って魔獣に殺されている。

そして騎兵達も、既に半数近くまで減らされていた。

負傷者を合わせても、今では30名ぐらいしか生き残っていない。


ここまでやられたのは、何も魔獣が強いからではない。

アモンが倒れて、ギルバートが一時的にせよ戦意を失ったからだ。

ギルバートはその事で、自分を激しく責めていた。

もう、誰も失いたく無いと思っていたのに、再び多くの命が失われた。

その事が彼の、闘争本能に火を着ける。


「ぅおおおおお…」

ビリビリ!


折角引き付けた魔獣の意識を、ギルバートの威圧が押さえ込む。

咆哮と共に放たれる気迫が、魔獣を恐れさせていた。

そしてそれは、騎兵達の足も竦ませる。


「ぐっが…」

「いぎい…」

「馬鹿!

 何やってんだ!」

バシャッ!


不意に声が聞こえると、ギルバートの頭上から水が被せられる。


「え?」

「え?じゃない!

 仲間の騎兵まで怯えさせてどうする!」

「アーネスト…」


アーネストは皇女に支えられて、杖を掲げていた。

どうやら先ほどの水は、アーネストが魔法で出した物らしい。

頭から水を被った事で、ようやくギルバートは意識を切り替えられた。


「え?

 あれ?」

「涙を拭え!

 魔獣はまだ目の前に居るぞ」

「殿下!」

「こっちは任せて…

 ってうわあ」

「はははは

 喋ってる暇は無いぞ」


騎兵達も声を上げて、魔獣の気を再び引き付ける。

逃げ掛かって魔獣は、騎兵の攻撃に意識を向けていた。


「お兄ちゃん!

 負けるな!」

「小僧!

 ワシの武器を無駄にするな」

「ギルバート

 さっさと片付けろ」


続いて洞窟の入り口からも、セリアやドワーフ達が声を上げる。

ギルバートは最後に、アモンとハイランドオーク達を見る。

アモンはハイランドオーク達に抱き抱えられながら、戦場から後退していた。

そしてハイランドオーク達は、大丈夫だと頷く。


「ははっ

 何やってんだろうな…」

パシパシ!


ギルバートは頬を叩くと、剣を握り直す。

今度は怒りでは無く、冷静に魔獣を狩る為に握っていた。

そして戦場を見回すと、先ずは右の魔獣に向かって行く。


「うおおおおりゃあああ」


その振り上げる剣には、もう憎しみや悲しみの感情は乗っていない。

純粋に仲間を守る為に、目の前の魔獣を倒す事しか考えていなかった。


「アイス・インパクト」

ズドン!


「アイス・インパクト」

ズバッ!


「アイス・インパクト」

ドシュッ!


ギルバートは強烈な一撃で、次々と魔獣を倒して行く。

既に危険な魔獣は狩っているので、アーマード・ライノに集中出来ている。

それにアーマード・ライノは、ランクの割には移動速度が遅かった。

それで騎兵達もダメージを与えれて、既に弱っていたのだ。


最後の1体は、騎兵達が集中攻撃を加える。

ここまで大した戦績が無くて、悔しかったのだろう。

それに加えて、仲間を殺された恨みも籠っている。

何とか首や腹を切り裂き、魔獣はその動きを止めた。


「た、倒せた…」

「はははは…」

「くそっ!

 仇は取ったぞ」


「よくやったな」

「殿下」

「うおおお」

「生きてる

 オレ達生きています」


騎兵達は感涙して、その場に泣き崩れる。

馬もほとんどが、負傷して座り込んでいた。

そして生き残った兵士達も、傷付き血を流していた。


「さあ

 下で休もう」

「はい」

「馬たちも休ませてやろう」

「そうですね」


騎兵に馬を回収させる。

戦っている内に、主を失った馬も居た。

そして馬を失って、徒歩で戦っていた騎兵も居た。

みなこの戦いで、多くの犠牲を出していた。


そしてギルバートは、ハイランドオーク達の元へ向かう。

そこには血で汚れて、疲れ果てた男が眠っている。


「アモンは?」

「…」

「そんな!

 まさか…」


ハイランドオーク達は、無言で首を振る。

アモンは鎧を脱がされて、獣人特有の毛皮に覆われた姿になっていた。

その天鵞絨の毛並みは、血と泥で汚れていた。

しかし汚れていても、それは力強く美しく見えた。


「アモン…」

「お気になさらないでください」

「魔王様は寿命だったんです」

「寿命?」

「ええ

 女神から任を解かれた魔王は…

 その長命の力も失います」

「え?」


確かにアモンは、再会した時に女神から解任されたと言っていた。

しかしまさか、それで寿命まで失うとは思ってもみなかった。


「そんな!」

「良いんです」

「最期に魔王様は、戦って逝けたんです

 満足だったでしょう…」

「だって…」

「ええ

 見た目は元気だったんですよ?」

「そうですね

 まるで若返った様に…

 それが…うう…」


「はは…

 寿命?

 嘘だろ?」

「残念ながら…」

「ここに来た時に既に…」

「だったら!」


「最期にあなたの隣で…」

「あれだけ派手に暴れたんです」

「さぞや満足だったでしょう」


ハイランドオーク達はそう言って、アモンの安らかな顔を撫でていた。


「大丈夫だって…

 言ったじゃないか」

ドガッ!


ギルバートは涙を流して、地面に拳を打ち付ける。


「ギルバート様」

「お止めください」

「そんな事は魔王様が…」


「何をやってるんだ?」

「っ!」


不意に声が聞こえた気がした。

そんな筈は無いのに、ギルバートはアモンの方を思わず見る。

しかしアモンは、そのまま安らかに眠っていた。

ではその声は、何処から聞こえたのか?


ギルバートはアモンの、ボロボロになった鎧を見る。

そこには小さな首飾りが輝いていた。


「なんてな

 お前の事だ、恐らくワシが死んだ時には悲しんで暴れておるじゃろう」

「これ!

 茶化すで無い」


声は首飾りから聞こえて、ガンドノフの声も聞こえる。


「アモンの奴が…

 遺言を残したいと言ってな」

「ガンドノフ!」


気が付けば後ろに、ガンドノフが立っていた。


「聞いてやってくれ

 あ奴の…黒の猛獣の最期の言葉じゃ」


「くはははは

 どうじゃ?

 ワシの読みは合っておろう」

「じゃから茶化すなと…」

「湿っぽいのは嫌なんじゃ

 何せワシは、これからカイザート達の元に行くんじゃぞ?」

「はあ…

 これじゃから脳筋獣人は…」

「誰が脳筋じゃ!」

ドカッ!

ゴス!


そこから暫く、罵り合いながら殴り合う音が聞こえる。

ギルバートは呆れて、ガンドノフの方を振り向く。

しかしガンドノフは、その声を聞いて涙を流していた。


「くっ!

 もう、貴様と殴り合えんじゃ無いか

 どうしてくれるんじゃ?

 この、このワシの憤りを!」

「ガンドノフ…」


再び首飾りから、アモンの声が聞こえる。


「エリン、マーベック、アザレナ…」


それはハイランドオーク達の名前で、ここに居ない戦死者の名前も含まれている。

それをアモンは、全員分覚えていて、順番に名前を呼んで行く。

名前を呼ばれた者は、涙を堪えながら返事をしていた。


「ツバーク…

 お前等は本当に良く出来た…

 ワシの自慢の子供達じゃ」

「ぐうっ」

「アモン様…」


「ワシが逝った後は、人間と協力して進むのじゃ

 頼んだぞ」

「はい」

「必ずや、必ずや成功させます」

「彼等を無事に、女神の下へ…」


「それからマリアーナ皇女

 其方は気負い過ぎる

 その気質は皇族に必要な物じゃろうが…

 其方は既に解放されておる

 いつまでも背負う必要は無い」

「はい」


いつの間にか皇女も来ていて、アモンの言葉に応えていた。


「アーネスト

 お前は優秀な魔導士になるじゃろう

 しかし慢心するな

 それで失敗した者達を、ワシは沢山見て来た」

「ああ

 分かっている」

「貴様への土産に、この鉱山の秘密を教える

 詳しくはガンドノフの爺に聞け」

「ああ

 そうするよ」

「爺は余計じゃ!」


ガンドノフの声が聞こえて、一同は一瞬吹き出してしまう。

それでその場の雰囲気が、一瞬だが和らいだ気がした。

アモンなりの気遣いだったのかも知れない。


「最期に…

 ギルバートよ

 恐らくお前は、ワシの死も自分のせいだと感じておるじゃろうな…」

「当たり前だ!

 私が未熟なせい…」

「だが、そんな当たり前な事で悩むな!」

「はあ?」

「ワシがどう死のうが、それはワシの勝手じゃ!

 お前を庇って死ぬかも知れん

 突っ走ったお前を引き戻す為に死ぬ場合もあるな

 いや、それを言うなら…

 思い当たる事が多くて困るな」

「おい!」

「くすくす…」

「そうだな

 ギルはすぐに前に出るから」

「ワシもハラハラし通しじゃったわい」

「くそっ!」


「じゃがな、気にするな

 ワシもギルバートも…

 おっと、これは魂だった方のギルバートじゃ

 何だかややこしいのう」

「はあ…

 締まらないなあ…」

「ですが、アモン様らしいです」


「ワシ等はお前じゃから、後を託した

 あの時言った言葉を覚えておるか?

 お前は人間だとか魔物だとか、関係無く見ておった

 ワシ等はそんなお前を気に入った

 だからこの命を賭けようと思う…」


「ワシやギルバートの死を悼むなら…

 この世界を守ってくれ

 そして出来る事なら、女神様を止めてくれ

 それがワシからの…最期の願いじゃ」


アモンの言葉は終わり、後は無音になっていた。

それでギルバートは、新たに決意をする。

女神を倒すのではなく、女神を止めようと思った。

そしてその為にも、女神の神殿に必ず辿り着こうと。


「あ、そうじゃ」

「え?」

「まだ続きがあるのか?」


そう思った矢先に、再び声が聞こえてきた。


「ワシの死体な

 ガンドノフにくれてやる

 精々良い武器に加工してくれよ」

「な!

 おい!

 何を馬鹿な事を…」

「はははは

 ワシに似た漆黒の切れ味良い武器が良いな」

「誰がするか!

 そんな友を…」

「友と呼んでくれるか?」

「はん!

 何十年も続く腐れ縁じゃ

 どっちかと言うと喧嘩友達じゃがな」

「くははは

 それで良い

 お前とワシらしいな

 くはははは…」


最後はアモンの笑い声で、首飾りに封じられた音声は終わった。

それを聞き終わって、みなの視線がガンドノフに集中する。


「おい!

 言っておくがワシはせんぞ!

 こいつの死体は丁寧に埋葬する」

「そうだよな…」

「ああ

 こんな立派な武人を…

 死して尚、戦わせようとは思わないよ」

「祈りは私がしても?」

「はい

 お願いします」


ギルバートはガンドノフを見ると、跪いて頭を下げた。


「何じゃ?」

「ありがとう

 アモンの声を残してくれて」

「い、いや

 ワシはあいつに頼まれて、仕方なく…」

「はははは

 喧嘩友達か

 きっと本当に仲が良かったからなんだろうな」

「ふ、ふん

 そんな事言っても、あ奴の武器なんか作らないぞ

 ワシはそんな非人道的な…」

「そうだね

 もう、ゆっくり眠らせてあげよう」

「あ、ああ…

 そうじゃな…」


ガンドノフはそう言って、涙を拭いながらアモンを見詰めていた。

まだまだ続きます。

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