第544話
ドワーフの郷がある、洞窟の前
そこには無数の魔獣が集まっていた
大型の合成魔獣であるキマイラを始めとして、魔獣や魔物が集まっている
それらを前にして、ギルバート達は懸命に戦っていた
魔獣は咆哮を上げて、ギルバートを鋭い前足の爪で襲う
ギルバートはそれを、小剣で受け止めて弾く
身体強化で何とか弾けるが、武器の方は既に限界が近付いていた
受け止める度に、剣はギシギシと悲鳴を上げていた
ギャオオオ
ガギン!
バキャン!
「くそっ!」
遂に小剣も折れて、ギルバートは武器が無くなってしまう。
それを見て、魔獣はここぞとばかりに前足を繰り出す。
ガルルルル
「くそっ!」
ギルバートはそれを、必死になって躱していた。
一撃でも受ければ、それだけで重傷を負うだろう。
そうすればもう、ギルバートには反撃する機会は無い。
そして後ろに回ったアモンも、爪が砕けて手が出せなかった。
爪が回復するまで、もう少し時間が必要なのだ。
「くそっ!
ワシの爪があれば…」
「あ、アモン
無理、する、な」
「お前こそ
避けるのに集中しろ」
「とは、言っても…」
ガルルル
キマイラはギルバートの武器を壊して、余裕を感じていた。
本来なら傷付けられ、尻尾の蛇まで失っている。
とてもそんな余裕など無かっただろう。
しかし武器を破壊した事で、魔獣に精神的余裕を生まれさせていた。
そこでキマイラは、獲物を甚振る事にしたのだ。
ギルバートが疲労する様に、わざとギリギリの攻撃を繰り返す。
それで疲れ切ったところを、止めを刺そうと狙っていたのだ。
しかしその余裕が、ギルバートに反撃の機会を与える。
下の工房から、一人の老ドワーフが剣を持って来たのだ。
「が、ガンドノフ
これを、あの人間に…」
「あん?
何を持って来た?」
「良いから
とっとと投げろ」
「分かった」
ガンドノフは剣を受け取ると、それを頭上に掲げる。
「小僧!
新しい剣じゃ!」
「っ!」
ギルバートも振り返るが、その声に魔獣も反応した。
魔獣はドワーフが掲げた、その板に危険を感じていた。
それで魔獣は、ガンドノフ達に向かって跳躍する。
しかしそれは、ガンドノフが狙っていたチャンスでもあった。
「甘いな…」
「放て!」
ビュオン!
ズガッ!
ギャオン
カウンター気味に、奥から弩弓の矢が放たれた。
それは魔獣の右目に、鋭く突き刺さっていた。
矢は途中で折れたが、それでも十分に右目を射抜いていた。
魔獣はそれで、片目を失っていた。
「良いのを渡したんだ
勝てよ」
「ああ
ふう…」
ギルバートはガンドノフから、大振りの大剣を受け取った。
それはそのままでは、細身の長剣に仕上がる予定だった。
しかし職人が、直前で余った素材を加工して加えた。
それでギルバートの剣は、元よりも武骨で大きな剣に仕上がっていた。
その剣は中心に、白銀の剣を埋め込んだ様な見た目をしている。
その刀身を包む様に、厚い鋼板が広がって武骨な刃を作り上げている。
それで幅50㎝の長さが1m50㎝を超す、大きな大剣となっている。
こんな鉄の板では、普通はまともに振り回せないだろう。
しかしドワーフ達は、ギルバートの動きを見ていた。
だからこそ逆に、慌ててこの様な仕様にしたのだ。
力任せに振り回しても、そう簡単に壊れない様に。
「良い武器だ」
「はははは
そう言うのはお前さんぐらいじゃろうて」
「そうか?
私にはちょうど良いみたいだがな?」
「ああ
それは長さや重さは調整してあるからな
言わばお前さんにしか、扱えん剣って事じゃ」
「そうか
ありがとな」
ガフッ
グルルル…
「そろそろ…
止めだ!」
ギルバートは大剣を振り上げると、一気に魔獣の懐に迫る。
しかしいくら頑丈にしても、そのままではそれはただの鈍器にしか過ぎない。
「小僧!
いや、ギルバート
振り抜く瞬間に凍気の衝撃と念じて魔力を流せ」
「何?」
「良いから、言われた通りにしてみろ」
「分かった
アイス・インパクト」
キン!
ズシャッ!
その瞬間に、ただの鉄の板は氷の剣に変わっていた。
大きな刀身を持つそれは、魔獣の首を腕ごと容易く切り裂いた。
そして振り抜いた頃には、元の武骨な鉄の板に戻っていた。
「な…
何じゃこりゃあああ」
「ふはははは
それが魔法剣じゃ
上手く使えよ」
「魔法剣?」
「使い手の魔力を使って、桁違いの威力を発揮する
嘗てはワシ等も、そんな武器を作っておった」
「それじゃあこれは?」
「ああ
今出来得る最高傑作じゃ
壊さぬ様にしてくれよ」
「ああ
助かる」
キマイラを討伐した事で、ギルバートは改めて戦況を見回す。
騎兵達は負傷しながらも、何とかアーマード・ライノと戦っている。
このままでは危険だが、問題はその奥だった。
アーネストが必死に押さえているが、ヒル・ギガースは未だ健在なのだ。
その内包する魔力からも、その魔物が一番危険だと告げている。
「先ずはあいつ等か…」
「ヒル・ギガース
今のお前さんの武器でも、そう簡単に倒せる魔物じゃ無い」
「そうなのか?」
「ああ
だからこそ、魔法の力が必要じゃ」
「魔法の力?」
「ああ」
「その剣の腹を魔物に向けて、魔力を込めて叫ぶんじゃ
凍気の竜巻とな」
「アイス・テンペスト?
それで何が?」
「足止めじゃ
小僧の魔力を考えても、そう長くは持たんじゃろう
早目に奴等を足止めしろ」
「分かった」
ギルバートは剣を担ぐと、そのまま魔獣の脇を駆け抜ける。
「うおおおおお」
「殿下?」
「あのオーガを倒すんですか?」
「行ってください!
ここは我々が押さえます」
「頼んだぞ!」
騎兵達は鎌を構えると、ギルバートが通る為に道を作る。
アーマード・ライノは硬く、力も強い魔獣だ。
しかしその分体重が重く、動きは愚鈍だった。
何とか力押しすれば、道ぐらいは作れた。
「うおおおお
喰らえ、アイス・テンペスト」
ゴウッ!
「ぐうっ
がああああ」
ヒュゴオオオ!
ギルバートが呪文を唱えると、剣の腹から猛烈な吹雪が出た。
勢いに負けそうになって、ギルバートは慌てて剣を地面に突き刺す。
そうしてそこから、ヒル・ギガース全体に吹雪をぶつける。
勿論それ自体では、魔物をどうこう出来ない。
しかし急激な体温の低下で、魔物は動きが鈍っていた。
「今じゃ
一気に魔物を蹴散らせ」
「分かった
うりゃあああ」
ギルバートは剣を引き抜くと、魔物に向かって跳躍する。
「アイス・インパクト」
バキン!
グガア…
最初の1体は、それで首を刎ねる事が出来た。
しかしここで、アーネストの気力が尽きてしまった。
「ぐっ…
後は…頼…」
「アーネスト様」
「くそっ!
まだ魔獣が倒せていないのに」
「最早ここまでか」
騎兵達も、さすがにもう戦線が持たないと覚悟していた。
「止むを得んな
ハイランドオーク達よ」
「はい」
「友を助ける為に!」
「ウオオオオ」
ここで満を持して、ハイランドオーク達が戦場に出て来た。
しかしいくら彼等が強いと言っても、それは防御に関してだ。
魔獣を相手にするには、彼等でも危険なのだ。
何体かのハイランドオークが、魔獣の牙や爪に倒れる。
それでも彼等は、友である騎兵を助ける為に共に戦った。
「ワシも…
いい加減我慢が出来ん」
ジャキン!
アモンも爪が修復出来て、再び戦線に加わる。
ここでギルバートとアモンが、ヒル・ギガースと戦いを始める。
その後方で、騎兵とハイランドオークがアーマード・ライノと戦っていた。
そしてそれを援護する様に、弩弓も持ち出されて撃たれていた。
「うおおおお
アイス・インパクト」
グガアアア
ガギン!
さすがにヒル・ギガースは、他の魔物とは違っていた。
身体強化を使って、ギルバートの必殺の一撃をなんとか防ぐ。
しかしそれでも、無傷と言う訳には行かなかった。
少しずつだが、魔物の腕や足には傷が刻まれて行く。
「うおおおお」
グゴオオオ
ギャリン!
ガキン!
アモンもその横で、宙を駆けて爪を振り回す。
しかしギルバートの一撃に比べると、その攻撃力は低かった。
何とか手数で圧倒するが、その表皮には傷を残す事が出来ない。
アモンはそれで、苛立ちを感じていた。
「くそっ!
くそっ、くそおおおお」
「アモン?」
「ワシの力が…
こんな物じゃあ無い
こんな物じゃあああああ」
しかしアモンが叫んでも、ヒル・ギガースの身体には傷が付かなかった。
それでヒル・ギガースは、ニヤニヤと侮蔑の笑みを浮かべる。
アモンは怒りで、我を失い掛けていた。
「ぐるるる…
ごがああアアア…」
「アモン!」
「アモン様!」
「駄目です!」
「それはお身体が!」
「ぐっ
がはあっ」
アモンは一瞬だが、獣人化仕掛けていた。
しかし不完全に変身仕掛けて、そのまま変身が解ける。
そこへヒル・ギガースの、強烈な拳が振り下ろされる。
ゴハアアア
ゴスッ!
「ぐはっ」
「アモン!」
「大丈夫…じゃ
これしき…」
アモンは立ち上がると、再びヒル・ギガースの方を睨む。
ヒル・ギガースは勝ったと思ったのか、ニヤニヤとアモンを見ていた。
「ふっ
格下にここまでコケにされるとはな…」
アモンはそう言うと、自分の顔を拳で殴った。
ごすっ!
「ぐっ…」
その様子に、ヒル・ギガースは理解出来なくて呆然としていた。
「ふふふふ
すまんな、雑念が入っていた
仕切り直しと行こうか」
バキボキ!
アモンは拳を鳴らすと、肩をグルグルと回す。
それから身構えると、片手でヒル・ギガースを挑発する。
「来いよ
唐変木」
ゴ…グガアアア
ヒル・ギガースも馬鹿にされたのが分かったのか、怒りに顔を歪ませる。
そして拳を握り締めると、そのままアモンに殴りかかった。
アモンは長身と言っても、2mぐらいの身長しか無い。
対するヒル・ギガースは、4m近くの大きさになる。
そのまま拳を受ければ、普通はアモンが吹き飛ぶだろう。
「アモン!
危ない!」
「ふっ」
グ…ガ?
しかし次の瞬間、宙を舞っていたのはヒル・ギガースだった。
アモンはヒル・ギガースの拳を、軽く受け流してそのまま前進する。
そして魔物の足元を、強烈な蹴りで払ったのだ。
グガアア…
ズシン!
「はははは…
凄いな」
グガアアア
ガキン!
ギルバートはヒル・ギガースの攻撃を受け流しながら、アモンの攻撃を見ていた。
それは体術に自信のある者が、大柄な相手を投げるやり方に似ていた。
それで傷は負わせないが、ダメージを与える事は出来る。
アモンは爪が効かないとみて、攻撃手段を変えたのだ。
「ふふ…
私も負けていられんな」
グガアアア
ブウン!
ギルバートもアモンを真似て、ヒル・ギガースの攻撃を躱してみせる。
剣で受け流すのも、確かに確実な防御手段だ。
しかし多用すれば、それだけ剣に歪みが生じてしまう。
躱せる攻撃は、なるべく躱した方が得だろう。
ギルバートはアモンの動きを見て、また一つ戦い方を学んでいた。
グゴガアアア
ブン!
ブオン!
「うん
確かにこれなら、躱した方が安全だな」
いざ真似してみれば、ヒル・ギガースは攻撃が雑だった。
それが種族の特性か、単に学習していないかは分からない。
しかしヒル・ギガースは、明らかに戦いに慣れていなかった。
そうして改めて見ると、それはアーマード・ライノも同じだった。
魔物や魔獣の力は確かに恐ろしい。
しかし戦いに慣れていないのなら、まだ付け込む隙が十分にあった。
これならば、先に戦ったキマイラの方が手強いだろう。
「騎兵部隊!
ハイランドオークの防御を信じろ!」
「殿下?」
「ハイランドオークの防御は鉄壁だ
信じて魔獣の隙を突け」
「は、はい」
「分かりました」
ヒル・ギガースの攻撃を避けながら、ギルバートは騎兵達に指示を出した。
その事が騎兵達に、冷静になる機会を与える。
それまでがむしゃらに突っ込んでいたのが、ハイランドオーク達に前を任せる事にする。
そうして魔獣の意識が、片方に向くのを待つ。
後は反対側の騎兵が、その機会に攻撃を繰り出す。
少しずつだが、戦況がこちら側に有利になってくる。
そうなってくれば、後は気力の問題だった。
魔獣達は少しずつだが、騎兵に押されて苛立って来る。
その隙を突かれて、さらに手傷が増えて来ていた。
ヒル・ギガースも、アモンに勝てると思っていたのに攻撃が当たらなくなって来た。
そしてギルバートも、遂にヒル・ギガースの膝を着かせた。
ゴグガ…
「止めの!
アイス・インパクト」
ズドッ!
グガ…
遂に首元に、止めの一撃が入った。
ヒル・ギガースは首を押さえながら、地面にそのまま倒れる。
最後の1体になったヒル・ギガースは、不意に不安になって腕を振り回す。
グガアアア…
しかしアモンは、その程度の事では動じなかった。
そのまま腕を振り払うと、バランスを崩させて転倒させる。
その際に頭を、しっかりと捻ってみせる。
グガオオ…
ゴギン!
魔物はそのまま、首を捻じらせたまま倒れる。
自分の体重で首が決まり、首の骨が砕ける音がする。
こうして何とか、アモンもヒル・ギガースを倒す事が出来た。
「さあ
後はあの蜥蜴だけか」
「ああ
何とかなったな」
ギルバートとアモンは、騎兵達を救う為に蜥蜴の群れに向かう。
これで何とか、ドワーフの郷も守られた。
二人はそう思っていた。
ドサッ!
「へ?」
駆け出したギルバートの隣で、不意にアモンが倒れた。
「おい?
何寝てんだよ?」
しかしアモンは、いつもの憎まれ口も叩かない。
そのまま彼の頭の辺りに、血が流れ出て来る。
「おい!
起きろよ!
起きろよアモン!」
「アモン様?」
「くそっ!
もう寿命が…」
「アモン
アモン
うわあああ…」
まだ続く戦闘音の中で、ギルバートの叫びがこだました。
まだまだ続きます。
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