第542話
ギルバートがアルフリートとして、ギルバートと対峙してから一夜が過ぎていた
正確には地下なので、今は昼前になっている
しかし地下の洞窟内では、重苦しい空気が流れていた
セリアがドワーフ達に、危機が迫っていると告げたからだ
ドワーフ達は、深刻な悩みを抱えていた
ここに強力な魔力を持つ、何者かが迫っている
しかしドワーフ達としては、ここを離れたくは無かった
ここには精霊が居るし、危険な魔導兵器が隠されているからだ
「ううむ…」
「ガンドノフ
みなの命には代えられん」
「そうじゃな
しかしノーム様を残して…」
「ノームからの伝言は、さっきも話した通りよ
みなで逃げなさい
ここは私が破壊するからって…」
「しかし…」
彼等がここで生きて行けたのも、ノームの加護があったからだ。
その恩もあるので、一部のドワーフはここで死ぬ事を望んでいた。
しかしドワーフの全てが、それを望んでいる訳では無いのだ。
中には生きて、地上で死にたいと望む者も居た。
「ワシ等だけなら…」
「馬鹿を言うな!
それなら生き残った奴等を、誰が導くんじゃ」
「しかしワシは…」
「お前は生きろ!
それが責任者の使命じゃ」
ドワーフの指導者達は、ガンドノフに生きろと告げる。
他の指導者達は、ガンドノフに比べると高齢だった。
それで若いガンドノフに、生きて仲間を導いて欲しかったのだ。
しかしガンドノフも、既にドワーフにしては壮年を越えているのだ。
「ワシも若くは無いんじゃ
ここは若い者に、一族の命運を任せて…」
「馬鹿を言うな
他に誰が指導者になれる?」
「お前ぐらいしか居らんじゃろうが」
「それを言うならあんた等が…」
「ワシ等はもう歳じゃ」
「この先は長くない」
朝からこんな調子で、ガンドノフ達は頭を悩ましていた。
その間にも、若いドワーフ達が主導して、武器や防具の手入れが続けられれていた。
騎兵達も武器を手入れしてもらって、新たな武器や防具の相談をしていた。
しかし新しい武具を作り出すには、時間が足りていなかった。
「このダイヤ・フィッシュの鱗を使えば…」
「そうじゃな
しかし先ずは、第一に数が足りない
これじゃあ鎧一着が限界じゃな」
「どうにか出来ませんか?」
「ううむ…
スケイル・メイルにして…
後は必要な個所を守るか?」
「それで出来ますか?」
「ああ
しかし鎧と言うには…」
「それならイーセリア様に」
「精霊女王にか?
それは無理がある」
「何でですか?」
「女王は精霊使いじゃ
金属製の鎧なんぞ、精霊力の妨げになる」
セリアには以前から、子供用の革鎧を分割して使っていた。
それは子供の体力なので、重たい鎧が着れないからだ。
しかしダイヤ・フィッシュの鱗なら、そこまで重く無いだろう。
騎兵達はそう考えて、ダイヤ・フィッシュの鎧を考案していた。
「そうじゃな…
あっちのひょろっこい魔術師ならどうじゃ?」
「アーネスト様ですか?」
「ああ
魔術師なら、多少は金属が加わっても問題は無かろう
後は着れる体力があるか…」
結局スケイル・メイルは、ギルバートに誂える事になる。
そしてローブに補強をして、アーネストも部分鎧を着ける事となった。
しかし問題は、ダイヤ・フィッシュの鱗を加工する時間だった。
今から突貫作業で作っても、魔物の襲撃に間に合わないだろう。
ドワーフ達は鱗を抱えて、さっそく作業を始めた。
「こっちの魔獣の骨や皮は?
何か使えないか?」
「ほう…
ポイズン・サーヴァントの素材か
よく持って来れたな」
「ああ
お陰で樽が駄目になってしまったよ」
少ないながら、ポイズン・サーヴァントの骨と皮も回収されていた。
全てを運ぶには無理があったが、少しだけ樽に入れて運んだのだ。
しかし樽が腐食して、その都度棄てる事になった。
運んで来たのは、アーネストが勿体無いと思っていたからだ。
「これで武器に、腐食毒を込められないか?」
「ふむ
毒袋もあるんじゃな」
「ああ」
「沢山は出来んが、鏃に毒を込めれる」
「それとダガーじゃな
ワシなら何本か打てるが…」
「数は揃えられないか…」
「ああ
剣やそっちの…」
「クリサリスの鎌だな」
「そうそう
その鎌に毒性を付与するには、それなりの素材が必要じゃ」
「そうか…」
毒を使った武器も作れるが、素材があまりにも少なかった。
だからダガーを数本と、作れるだけ鏃を作る事になる。
勿論毒は、ポーションに回す必要もある。
ここの設備を使えば、上級の回復ポーションも作れるそうだ。
後は効果の底上げに、ポイズン・サーヴァントの毒を加える必要がある。
「魔力を込めたり、属性を付与した武器は?」
「作れなくは無いがな…
如何せん材料が無い」
「魔石だけでは作れんのじゃ」
「元になる魔物の素材
それが必要じゃ」
魔鉱石にも魔物の素材が使われているが、それだけでは足りないのだ。
その魔物が何か、特性を秘めている必要があった。
「それなら…
この剣はどうだ?」
「むむ!
この素材は…
一体何処で手に入れた!」
「いや、それよりも魔力が抽出できるかじゃ」
「ううむ
勿体ないのう
素材を活かせておれば、さぞ面白い武器になったじゃろうに…」
「それで?
使えるのか?」
「さあのう」
「試してみんと分からんわい」
「それじゃあ試してみてくれ
どの道折れて、使い物にならないんだ」
その剣は、ギルバートが以前使っていた物だった。
白い熊の素材を使った、魔鉱石を打ち出した物だ。
しかし頑丈さや切れ味は上げれても、属性の付与は出来なかった。
王国の鍛冶師では、そこまでの能力は無かったのだ。
そしてアーネストも、魔法を付与する能力を解明出来ていなかった。
結果として、剣は不完全な出来上がりだった。
ドワーフ達からしてみれば、何とも勿体無い武器に見えただろう。
「よし
溶かしてから鋳流してみよう」
「量が不十分じゃわい」
「そうじゃのう
出来上がっても小剣か、出来て長剣ぐらいかのう?」
折れた破片は集めていたが、それでも元の大きさにはならない様子だった。
ドワーフ達はさっそく、剣をバラシて炉に放り込んだ。
「このままじゃあ強度が足りんのう」
「前に倒したアーマード・ライノの鱗は何処へ行った?」
「馬鹿
あれはもう何ヶ月も前に使い切ったじゃろう」
「いや
そもそも何年も前に倒した魔物じゃ
素材の価値が下がっておろう」
「あん?
そんなに前じゃったか?」
ドワーフ達は足りない強度を、他の素材で賄おうとしていた。
そもそもがこの素材では、強度に難があったらしい。
切れ味が高かったのは、単に研ぎが上手だったからだ。
込められた魔法は、思ったほどの効果を上げていなかったのだ。
「ほれ
これがワシ等の刻む魔法刻印じゃ」
「え?
何だこれ?」
そこには複雑な呪文が、魔法陣と共に刻まれている。
それに魔石を載せて、見た目は飾りにしか見えなかった。
「え?
それじゃあこっちの呪文は?」
「そっちは飾りじゃ
どんな魔法が込められているか、見た目で分る様にしておる」
「え?
それじゃあ…」
「ああ
こっちの集積魔法陣が、本命の付与魔法じゃ
こんな魔法刻印を刻んだだけじゃあ、効果はほとんど無い」
「じゃあ…
人間に伝わっている魔法武器の技術は?」
「欠陥だらけの不完全な物じゃな
そもそもどうして、こっちの刻印だけ残ったのか…」
「あー…
それは恐らく、見た目の影響だろうね
如何にも魔法が付与してある様に見えるから」
「そうか?
こんな刻印だけでそう見えるのか?」
ドワーフにとっては、それはとても不思議な事だろう。
彼等にとっては、魔道具も緻密な魔法陣を計算して刻んでいる。
しかし人間は、それを真似する事が出来なかった。
結果として、見た目だけ真似して作ったのだ。
過去の強力な武具は、ドワーフが残した物しか無かったのだ。
「ここをこうして…」
「ああ、違う
それじゃあ火にしかならない
炎にするには…」
それからアーネストは、魔法陣に関して教わる事になる。
そうは言っても、ドワーフにも仕事が山積みだった。
力を持たない老ドワーフが、刻印を刻む作業を手伝う。
その過程で、魔道具に刻む文字や魔法陣を学ぶ事となった。
「こんな魔法陣で?」
「ああ
ここで魔力を集めて、ここから魔法陣の中心に流し込む」
「へえ…
これが起動の魔法陣になるのか」
「そうじゃ
それでここがのう…」
「凄いわね
私も魔法が分かれば…」
「そうは言いなさるが、あんたにはあんたの持ち味がある」
「そうかしら?」
「ああ
あのひょろっこいのには無い、繊細な魔力操作がな」
「ほれ
次はこれを試してみなさい」
皇女は皇女で、婦人のドワーフ達の中で仕事をしていた。
彼女達に教わりながら、ポーションや魔道具の用意をする。
特に魔道具に関しては、繊細な文字を刻む必要があった。
アーネストの様な知識は無かったが、皇女は器用に台座に文字を刻む。
その腕が認められて、魔道具に文字を刻む作業を手伝っていた。
「作業は進んでおる
後はお前等がどうするかじゃ」
「黒の猛獣…」
アモンはそんな光景を見ながら、ガンドノフに答えを求める。
しかしガンドノフは、未だに決断を出来なかった。
これがノームが居なければ、そのまま郷を棄てて逃げただろう。
しかしここには、精霊と魔導兵器が残されているのだ。
「どうするのじゃ?」
「それは…」
「何ならワシが、兵器ごと壊して…」
「止めろ!
それだけは、それだけはお前でも…」
「冗談じゃ
ワシでは壊せん」
「ぐうっ…」
「しかしどうする?
このまま家族を犠牲にして、ここで朽ち果てるか?」
「くそっ!」
ドワーフは種族意識が高く、同じ郷に住む仲間は家族や一族と呼ぶ。
そうして結び付きを強めて、結束を高めるのだ。
しかし時として、こうした種族意識が徒になる事がある。
家族を守りたい思いから、戦う事を躊躇ってしまうのだ。
「一族を守るなら、ここは放棄すべきじゃ」
「しかしそれでは、精霊様とあの危険な兵器が…」
「そうじゃな
ワシが女神なら、人間を滅ぼす為に使うじゃろう」
「それだけは…
それだけは許容出来ん!」
「しかしどうする?
壊す事は出来んぞ?」
「ぐうっ…」
魔導兵器は、地下深くに埋まっている。
それはこの郷に来た時に、念入りに埋めて封じている。
しかし時間を掛ければ、再び掘り返す事も可能だろう。
そうして掘り返された兵器は、人間を滅ぼす為に使われる。
それは精霊が、最も望まない結果となるのだ。
「精霊様は、あれが使われる事を恐れておられる」
「そうじゃ
あれは大地を抉り、多くの血を撒き散らすじゃろう」
「そんな物を、二度と解き放ってはならん」
「そんなに危険な物なのか?」
「ああ
あれが在ったからこそ、第二期神魔大戦が起こったと言われるぐらいじゃ…」
「神魔大戦か…
ワシは知らぬからのう…」
「いや、ワシ等も知らんぞ」
「しかし記録は見ておる」
「あんな物を、使ってはならんのじゃ」
「そうか…」
アモンはそれを聞いて、洞窟の奥に向かおうとする。
「何をする気じゃ?」
「そう聞けば、ますます残して置けん
ワシの命に替えて…」
「止すんじゃ!」
「馬鹿な事を考えるな!」
「そもそも壊せんのじゃろう?」
「なあに
ワシの命を賭ければ…」
「止めろ!」
ドワーフ達はアモンを、囲んで通せん坊をする。
「何を考えておる
危険な物なんじゃろう?」
「だからと言って、破壊なんぞさせれるか」
「そうじゃ
あれには精霊様が繋がれておる」
「それに、下手に破壊すれば…
この辺一帯がどうなるか…」
「むう!
そんなに危険なのか?」
「ああ
莫大な精霊力を蓄えておる筈じゃ」
「それが暴発したら…」
「ううむ…」
アモンは唸りながら、その場に腰を下ろす。
「はあ
じゃったらどうするんじゃ?
壊すのも駄目!
逃げるのも駄目!
どうするんじゃ?」
「それが分からんから、ワシ等が悩んでおるんじゃろうが!」
「うるせえ!
その禿た頭使って、何か考えは無いのか!」
「禿と言うな!」
「そもそもどうにかなるなら…」
再びドワーフ達は、集まって議論を始める。
しかしアモンが加わっても、良い案は浮かばなかった。
アモンは壊せと言うし、ドワーフは何とか遣り過ごせないかと頭を悩ませる。
しかし魔物が迫っている以上、戦いは避けられないだろう。
「どうにか…
どうにか魔物を追い返せんかのう?」
「難しいな
魔力量から見ても、ワシが万全でも厳しいじゃろう」
「それなら…」
「ワシが生き残っても、お前等のほとんどが死んでしまう
そんな事をワシが飲めると思うか?」
「ほとんどが死ぬのか?」
「ああ
厳しいじゃろうな
それだけの数が迫っておる」
「ううむ」
「こうなったら!
ここに籠城して…」
「馬鹿か!
それこそ無駄死にで…」
「じゃが、それなら少しでも生き残る可能性が…」
「そうじゃな
どうせなら逃げ道も…」
「昔使った坑道があるじゃろう?」
「ふむ
いざとなったら逃げるか
しかし兵器はどうする?」
「そうじゃな
単に逃げるのなら、使われる恐れがあるか…」
「それならここを…」
「そうじゃな
こんな作戦はどうじゃ?」
時間は掛かったが、ここでようやく妙案とは言えない、拙い作戦が練り始められた。
何も無いよりはマシだが、作戦としては甘いものだろう。
しかしドワーフとしては、それ以上の譲歩は無理だった。
そうして作戦を遂行する為に、突貫工事も始められる。
「急げ!」
「魔獣が来る前に完成させるんじゃ」
「目に物見せてくれるぞ!」
ドワーフはこうして、魔獣と戦う道を選んだ。
それがどれほどの犠牲を出すか、分からない訳では無い。
しかしそれでも、彼等は精霊を諦められなかったのだ。
少しでも長く、精霊と共に過ごす。
そうして可能なら、守ってみせようと思っていたのだ。
まだまだ続きます。
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