表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
539/800

第539話

平原の中にある、地下へと続く長い階段

その先には広大な広場があり、大きな扉が待ち構えて居た

そしてその中からは、男達の声が聞こえてきた

彼等が門を守っている様子で、門の中から声が響いていた

彼等はアモンと知古な様子で、門の前で言い争いをしていた

しかし門の中の者達は、ギルバートに用事がある様子だった

門を開けると、男達はギルバートの前に集まる

そうしてまじまじとギルバートを見詰めていた


「間違い無い

 この男がそうじゃろう」

「そうだな」

「待て

 何の話じゃ?」


「黒の猛獣

 貴様だけなら入れておらん

 ワシ等が用があるのは、そこの人間の男じゃ」

「だから、それは何の話じゃ?」

「お前には関係の無い話じゃ」

「さあ

 お待ちになられておる

 早く来い」

「え?」


ギルバートも状況が理解出来ず、首を捻ってアモンを見る。

しかしアモンも、何が何だか分からない様子だった。

分かる事は、彼等が門の向こうに居た者で、ギルバートに用事があるという事だけだった。


「私に用事があるのって、あなた達の仲間なのか?」

「何を言うておる

 ワシ等の主に決まっておろう」

「主?」

「何じゃ?

 そんな事も知らんで来たのか?」

「ああ

 何も知らされていないからな

 ここに来れば分かるって…」

「おいおい…」


「まさかとは思うが…

 ワシ粗の事も知らんのか?」

「え?」

「ギル

 彼等はドワーフだ」

「え?」


ギルバートはアーネストに言われて、改めて男達を見る。

男達はよく見ると、背が低くてずんぐりとしていた。

その胴は樽の様に太く、腕もがっしりと太かった。

言われてみると、確かに話に聞いていたドワーフの姿に酷似している。


「ドワーフ?

 そう言われれば…」

「何じゃ?

 本当に知らなんだのか?」

「魔王よ

 お前等の秘密主義も…」

「いや、ワシはお前等の事を思って…」

「良いから行くぞ」


案内を申し出ていた、ドワーフがイライラしながら呟く。


「しかしガンドノフ…」

「どうでも良いじゃろ?

 そんな事」

「それはそうじゃが…」


ガンドノフと呼ばれた男は、イライラしながら足踏みをする。

どうやら気が短いらしく、ギルバートを早く案内したそうだった。

そうして鼻を鳴らすと、早く行くぞと腕を振り回す。


「良いから、行くぞ」

「行くってどこに?」

「じゃじからワシ等の主じゃ」

「はあ…

 アモンもだが、あんたらも話してくれないのか?」

「だから話しておるじゃろう!」

「ガンドノフ

 お前主しか言っておらんぞ」

「それじゃあその人間も、躊躇って困っておるじゃろう」

「何じゃと?

 むう…」


ガンドノフはそこまで言われて、改めてギルバートをジロジロと見る。

ギルバートも困った顔をして、その男を見ていた。


「そうじゃな

 こ奴にも知る権利はあるか…」

「ギルバート

 私には名前があるんだ」

「そりゃすまなんだ

 ワシはガンドノフ

 この穴倉の責任者じゃ」

「また勝手な事を」

「お前が責任者じゃないだろう」

「お前は単なる、職人の代表じゃろう?」

「良いじゃないか

 他に適任者が居ないじゃろう」

「それはそうだが…」


どうやらガンドノフが職人の代表で、同時に気が強いのでリーダーを買って出ている様子だった。

それで主とやらに、案内する事も自ら買って出たのだろう。

しかし他のドワーフ達は、その事を不服に感じている様子だった。


「それで?

 主と言うのは誰なんだい?

 ドワーフの王でも居るのか?」

「王じゃと?

 ふん

 そんな者は役に立たん」

「そうじゃそうじゃ

 ワシ等ドワーフには、王など必要無い」

「ワシ等は職人が主で、治める様な者は必要無い」

「へ?

 そうなのか?」


「ああ

 ドワーフには明確な、統治が出来る者が滅多に現れない

 それでいつも、何かするには集まって決めておる」

「そうじゃな」

「集まって意見が割れれば、腕っ節で決める」

「大体それで上手く行く」

「え?

 そんないい加減な…」

「いい加減な物か!

 意見を出し尽くし、それでも決まらないんじゃ

 そうなれば代表の腕次第で決める

 それが一番揉め事が無く済む」

「そうじゃそうじゃ」


ギルバートはドワーフ考え方に、衝撃を受けていた。

人間と違って、王や領主の様な存在が居ない。

そして揉め事も、腕っ節で決めると言うのだ。

よくそれで、ここが纏まっていると驚いていた。


「それじゃあ主って?」

「それは精霊様じゃ」

「精霊?

 ここには精霊が居るのか?」

「ん?

 ワシ等ドワーフの住処には、大概精霊様が居られるが?

 そんな事も知らないのか?」

「ああ

 始めて聞いたぞ」


ギルバートはアーネストを見るが、アーネストも知らないと首を振る。

どうやらこの事は、アーネストでも知らない事だったらしい。


「セリア

 ここには精霊が居るのか?」

「うん

 ノームが居る筈だよ」

「え?」

「まさか?」


セリアが返事をすると、ドワーフ達が慌てて身構える。


「な、何でここに!」

「妖精の小娘じゃと!」

「魔王、貴様!」


ドワーフ達はセリアを警戒して、身構えて取り囲む。


「何するんだ!」

「うるさい!

 貴様、この小娘が何か知らないのか!」

「はあ?」


「森の妖精の小娘が、何の用事でここに居る」

「穴倉の民よ

 私は争う為に来てはいないわ」

「それを信じろと?」

「うむむむ…」


ドワーフ達がセリアを囲むが、セリアは動揺する事も無く呟く。


「私は今代の精霊女王です

 精霊達からそう聞きませんでしたか?」

「精霊女王?」

「まさか!

 そんな…」

「女王は絶えたと…」

「ここに健在ですよ」


セリアは女王の姿になると、ドワーフ達をゆっくりと見回す。

それにはさすがにドワーフ達も、跪いて恭しく頭を下げた。


「え?」

「彼らからすると、エルフは仲の悪い隣人です

 しかし女王である私には、彼等も逆らえません」

「そう…なのか?」

「ええ」


「女王よ

 どうか我らの主にお会いしてください」

「それには及びません

 いずれ機会をみて会いましょう

 それよりも今は、急ぐのでしょう?」

「ですが…」

「急いでいたのでしょう?」

「う…」


セリアの女王の圧に、ガンドノフは頭を下げるしか無かった。


「分かりました

 おい!

 行くぞ、人間」

「ギルバート

 私の大事な人です」

「え?」

「ですから、彼は私の夫と言いました」

「はあ?」


セリアがガンドノフに、無礼な態度を取るなと釘を刺す。

ガンドノフは何が何だか分からず、混乱した顔をしていた。


「え?

 女王が人間と?

 ええ?」

「ですからそう…

 あ!」

ポヒュン!


精霊力が切れたのか、セリアは元の子供の姿に戻った。


「え?

 やっぱり妖精の小娘じゃねえか!」

「止しなさい」


ガンドノフが声を荒らげたところで、遠くから声が聞こえる。


「その方は確かに、今代の精霊女王ですよ」

「しかし精霊様

 この人間と…」

「女王も申してましたが、その方は確かに女王の想い人ですよ

 口を慎みなさい」

「は、ははあ」


ガンドノフは頭を下げると、地面に擦り付ける様に下がる。

そうしてチラリと、忌々しそうにセリアを睨んでいた。


「はあ…

 ガンドノフ

 もう良いですから案内を」

「は、はい」


ガンドノフは再びギルバートの前に来ると、不服そうな顔をして着いて来いと促した。


「けっ

 人間風情が…」


彼がボソリと呟くのを、ギルバートは聞き洩らさなかった。

それで振り返ると、アーネストに警戒する様に合図を送った。

アーネストは頷くと、小声で騎兵達に指示を出す。


門の中には案内されたが、ドワーフ達はまだ警戒をしている。

特にセリアに関しては、本物の女王なのか訝しんでいる。

しかし短時間とはいえ、セリアは女王の姿になって威厳を示していた。

それで今すぐにどうこうとは、ドワーフ達も行動を起こせなかった。


「やれやれ…」

「どうしたものか…」


「なあ

 少し休みたいんだが?」

「ああ

 しかし…」

「もう少し待ってもらえんか?

 精霊様の判断も仰ぎたい」


アーネストが休みたいと申し出るが、ドワーフ達も困惑していた。

当初の予定では、ギルバートだけを中に入れるつもりだった。

それは精霊から、ギルバートが来る事を知らされていたからだ。

その他の者達は、適当にあしらって帰すつもりだったのだ。


「出来れば中には、入らんでもらいたいと…」

「それはアモンの事があるからか?」

「それは…」

「そうじゃろうな

 ワシは何度かここに攻め込んだからのう」

「はあ…

 何でそんな事を?」

「簡単じゃ

 先ほども申したが、女神様からの指示じゃ」

「女神のねえ…

 何でドワーフの穴倉を?」

「それはここが危険じゃからな」

「危険?」

「おい!

 魔王よ!」

「それ以上は…」

「そうじゃ!

 ぺらぺらと喋るな」

「と、いう事なんじゃが」


アモンは肩を竦めて、ドワーフ達から口止めされていると示す。


「なるほど

 その危険とやらも含めて、アモンが来る事になったのか」

「ああ

 ワシなら適当に、こいつ等と戦ったと誤魔化せるからな」


アモンが攻めたのも、仕方が無い理由があるのだろう。

それで攻め込んだと、女神に示す必要もあった。

だからアモンは、殺さない程度に痛めつけるに留めていた。

そしてドワーフ達も、それが分かっているので対処に困っているのだろう。


「それで?

 オレ達人間は、その件には関係無いのだが?」

「分かっておる

 しかしここに人間を入れるのは…」

「一部のドワーフが怖がるか?」

「分かっているのなら…」

「そうやって、いつまで穴倉に隠れ続けるつもりだ?」

「な!」


アーネストの皮肉に、ドワーフ達は拳を握り締める。


「元はと言えば、貴様等人間が…」

「でも、それは一部の人間だったのだろう?

 オレの住んで居た場所では、ドワーフの職人の建築物が残っているぞ」

「それは…」

「それこそ一部のドワーフじゃろうが」


確かに彼の言う通り、残って人間と共に暮らす道を選んだのは一部のドワーフだけだ。

しかし同時に、ドワーフを追い込んだ人間も一部の人間だけだ。

それは長命である彼等の方が、よく分かっている事だった。

彼等からすれば、それこそ経験者がほとんどなのだから。


「人間の全てが敵じゃあ無かっただろう?

 少なくとも、オレの知っているドワーフはそう話していたぞ」

「それは…」

「しかし、ワシの娘は人間に…」

「それに、オレはあんた等の憎む人間なのか?」

「じゃが…」

「ぐうっ…」


彼等は被害者であり、その時代を生きてきた者達であった。

だからこそ、アーネスト達がその人間で無いとよく分かっている。

しかし頭で分かっていても、感情までは抑えようが無い。

それこそ今でも、仲間を殺された時の事を思い出すからだ。


「あなた達がいつの時代の、誰に傷付けられたのかは知らない

 恐らくは魔導王国だとは思うのだが…」

「魔導王国?」

「あ…

 ミッドガルドで分かるか?」

「そうじゃ!

 確かそんな名前じゃったな」


「王国はとっくに滅びている」

「へ?」

「何じゃと?」


「今はその後に興った、別の国が滅びた後だ」

「何と…」

「そんなに時間が経っておったのか?」

「あんた等の寿命は300年ぐらいだろ?

 それからすれば、人間の王国なんて短命さ」

「そうなのか?」

「それじゃあ、ワシ等の家族を奪った奴等は?」

「とうの昔に墓の中さ」

「そんな…」

「ぐうっ…」


ドワーフの内の二人が、ガックリと肩を落としていた。

恐らく彼は、家族を人間に殺されたのだろう。

しかし仇である人間もだが、その人間が居た王国も滅びている。

そして今では、何も知らない人間しか居ないのだ。

恨みや悔しさをぶつけたくても、ぶつける相手はもう居ないのだ。


「分かってもらえたと思うんだけど?」

「それでも…」

「それじゃあ、これならどうだい?

 ドワーフの主義では、宵越しの酒は飲まない

 だから困った者が訪れれば…」

「分かった分かった

 軒先を貸してやれだろ?」


ドワーフは根負けしたのか、溜息を吐いて仲間を見る。

他の者達も、同じ考えに至ったのだろう。


「元々ワシ等は、お前さん達を入れるのは問題無いんじゃ」

「ただのう、まだ苦しんでおる者も居る」

「分かっている

 オレ達はそんな考えを認めていない」

「なら良いがのう…」


ドワーフは肩を竦めながら、門の前を開ける。

そうして頭を下げると、遥か昔に使っていた言葉を口にする。


「ようこそ、旅人よ」

「ここはドワーフの郷、イリナリタルの穴じゃ」

「オレは人間の国から来たアーネストだ

 共に旅の話を肴に、酒を酌み交わそう」

「お?

 それを知っておるのか?」

「さっきの諺といい、若いのに博識じゃなあ」


アーネストはドワーフ達に気に入られたのか、街の中に案内された。

そうして騎兵達も入り、ハイランドオーク達も門を潜る。

最後にアモンが入ろうとすると、一瞬だが空気が変わった。


「黒の猛獣

 分かっていると思うが…」

「ああ

 疑うなら剣を預けるが?」

「馬鹿言え

 貴様は爪も武器じゃろうが」

「いや、そこは表現だろう

 兎も角、ワシはもう争う気は無い」

「どうだか?」


ドワーフはそう言っていたが、さすがに先程よりは大人しかった。

アモンが話している間も、一切武器に手を掛けなかったからだ。

それで本気で、アモンが争うつもりが無いと信用したのだ。

そして今は、アモンよりも重要な物が彼等の目の前にあった。


「ところで、この鉱石は何じゃ?」

「この毛皮は何を加工したんじゃ?」

「ちょっと剣を見ても良いかのう?」

「あ、アーネスト様!」

「ど、どうしましょう?」


あちこちからワラワラと、ドワーフ達が集まって来る。

そんな彼等の興味を引いたのは、騎兵達の身に着けている武器や防具だった。

職人として、彼等の身に着けている武具に興味を示していたのだ。

そうして騎兵達は、休憩する間も無くドワーフ達に捕まるのであった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ