第538話
ギルバート達は野営地で、魔獣に悩まされる事無く過ごしていた
予想に反して、野営地の周りには魔物は居なかった
夜も警戒を続けるが、結局朝まで何も起こらなかった
その事が却って、不気味な雰囲気を感じさせる
朝になってギルバートは、アモンを探して確認をする
あまりにもここが、魔物が現れなくて平穏だったからだ
ハイランドオーク達も、魔物が居るかも知れないと言っていた
しかし実際には、何も現れなかったのだ
「アモン」
「何じゃ?」
「どうしてここは、こんなに静かなんだ?」
「ん?」
「魔物どころか、魔獣も現れないじゃないか」
「良い事じゃないか
兵士も休めたじゃろう?」
「それはそうなんだが…」
アモンの言う通り、魔物が現れないので兵士は交代で休めた。
その為に疲れていた騎兵達も、少しは元気が出ていた。
しかし何も無いのに、こんなに平穏なのが不気味であった。
何か理由がある筈なのだ。
「何でこうなのか気になるんだ」
「何でじゃ?
何も無い方が良いじゃろう?」
「それはそうなんだが、何か理由があるんだろう?
そうで無ければ、これだけ魔物も魔獣も来ないなんて…」
「そうじゃな
それはこの後に向かう、場所に関係があるとだけ言っておこう」
「場所?」
「ああ
詳しくは教えられんがな」
「何だよ
教えてくれても…」
「はははは
それは着いてからのお楽しみじゃ」
アモンはそう言って、あくまでも秘密は明かさなかった。
それでギルバートは気になったが、止む無く出発する事にする。
ここでまごまごしていても、何も分からないからだ。
騎兵を先行させて、次の目的地に向かう。
しかし進んでも、魔物は現れる事は無かった。
「魔物が現れませんね」
「ああ
どうやらこの先に、魔物が現れない原因があるらしいが…」
「何でしょうね?」
「さあな?
しかし友好的な…理由なんだろうな」
「でしょうかね?」
ギルバートとしては、魔物を倒す様な何かがあると予想していた。
それが在るのか居るのか?どちらかは分からない。
しかし何かがあって、魔獣も近寄らないと考えていた。
「大分進みましたが…」
「そろそろ太陽も頂点ですね」
「ああ
昼にしようか」
「殿下!」
ギルバートが昼にしようかと言ったところで、先行する騎兵が何かを見付ける。
「殿下
この先に人工物があります」
「人工物?」
「ええ
柵が広がっています」
「柵だと?
村でもあるのか?」
「それが…」
騎兵の案内で進むと、確かに柵が張り巡らされている。
しかしそこは平原の途中で、近くには集落の痕跡も無かった。
柵自体は木で出来ていて、特に何の変哲も無かった。
しかもその辺の木を集めて、取り敢えず組んだだけに見えた。
「何だ?
これは?」
「さあ?
柵には見えますが…」
「しかし何でここに?」
「ですよね…」
近くに見えるのは、まばらに木が生えた林があるぐらいだ。
とても柵で守る様な物は見当たらなかった。
「うむ
着いた様だな」
「え?
ここが目的地か?」
「ああ、いや
この先にあるんじゃが…」
アモンはそう言って、柵の入り口を探す。
そこを開いてから、騎兵達も柵の内側に入る。
柵の入り口自体は、馬車も通れる様に幅を取っている。
しかし雑に置いた様に見える木も、よく見たら頑丈に加工されていた。
「なあ、この木って…」
「あれ?
加工されていますね」
「ああ
よく見たらここも…」
そのまま拾ったて来た木を使った様に見えるが、よく見たら所々加工してある。
どうやら柵を作った者は、拘りを持っている様だった。
「自然に置いた様に見えて…
しっかりとしてるな」
「ええ
これって…」
カンカン!
「剣で叩いても簡単には壊れませんよ?」
「え?
本当だ」
ギルバートが本気で切り付けても、表面に傷が入る程度だ。
見た目は木材だが、未知の加工技術が施されている様だ。
まるで女神の作った、竜の背骨山脈の迷宮の様だった。
「おい!
壊すなよ
怒られるぞ?」
「え?
怒られる?」
「ああ
これを作った奴等は、自分の作品に自信がある
壊したら怒られるぞ」
「そうなのか…
って奴等?
知ってる奴らなのか?」
ギルバートの突っ込みに、アモンは一瞬しまったという顔をする。
「どんな奴等なんだ?」
「それは…
会ってみてのお楽しみだ」
「なあ
いい加減教えてくれても…」
「良いから行くぞ」
「ちぇっ
教えてくれても良いじゃんか」
ギルバートはむくれるが、アモンは教えようとしなかった。
それで仕方なく、ハイランドオークに着いて目的地に向かう。
「こちらです
しかし奥になるので、ここで一旦休憩しましょう」
ハイランドオーク達は、林の中の休憩場所に案内する。
そこには切り株を加工した、座り心地の良さそうな椅子が並んでいる。
「あれ?
これって切り株だよな?」
「ああ
そうだな
それが何か?」
「いや、何でこんなに綺麗に並んでいるんだ?」
「それ以前に、形が不自然だろ?」
「それもそうだな…」
切り株は均等に並んで、同じ様な高さで切り揃えられている。
それによく見ると、大きさも不自然なほどに同じだった。
さすがに全員では座れないので、交代で休憩しながら食事を摂る。
全員が食事を終わるのに、1時間近くが掛かっていた。
「殿下
食事も終わりました」
「ああ
魔物も現れないし、先に進むか」
「ええ」
再びハイランドオーク達に先行させて、一行は林の奥に進む。
暫く進むと、林の先に小さな高台が見えて来る。
それは土と岩を混ぜて、小さく盛り固めた様に見えた。
そしてその一角に、地面に階段が見えていた。
「え?
何だこれ?」
「ここじゃ、ここじゃ
この奥にあるんじゃ」
「え?
どう見たってこれ…」
階段は大きなスロープになっていて、馬でもゆっくりと入れる様になっている。
さすがに馬車は無理なので、近くに置いて行く事になる。
「ここからは馬で入る事になる」
「大丈夫なのか?」
「ああ
馬でも大丈夫な構造になっておる」
ハイランドオーク達が先行して、洞窟の中に入って行く。
アモンは周囲を見回して、馬車を停めておく場所を指定する。
「ここなら魔物も、滅多に入って来ない
そこに馬車を置いておけ」
「良いのか?」
「ああ
さすがに馬車は入れないからな」
「分かった」
毒を受けた騎兵達も、何とか馬に乗れるぐらいには回復していた。
セリアはギルバートの後ろに乗り、アーネストと皇女は馬車に繋いでいた馬に乗った。
そうして準備が出来たところで、ハイランドオークの後を追って入る。
洞窟には壁面に、ランタンが吊るされていた。
「光源は申し分ないな」
「気が付いたか?」
「え?」
「いや、何でも無い」
「おい!
どういう意味だよ?」
アーネストは溜息を吐くと、ランタンを指差した。
「このランタンだよ」
「え?」
「普通のランタンに見え…
え!」
「これ…
魔道具だわ」
「ああ
中には魔石が入っていて、魔力を込めると灯りが灯る
それも効率的に魔力を消費するから、一度魔力を込めると暫く…」
「おい!
そんな事よりも遅れてるぞ」
ランタンは気になるが、今は洞窟を潜る方が先決だ。
これを作った者達が、この先に待ち構えて居る。
その者が何者か分からないが、先を急ぐ必要があった。
「そんな事って、これは画期的な…」
「良いから、急ぐぞ」
ギルバートは先に進み、アーネストも肩を竦める。
魔道具の構造は気になったが、確かに置いてかれる訳にはいかない。
それに住民に会えれば、この魔道具の事も聞けるだろう。
アーネストもギルバートを追って、階段を下って行く。
「長いな…」
「ああ
城で考えると、3階分は下ったか?」
「馬で良かったな
歩きならもっと時間が掛かっている」
1時間を掛けて、ようやっと下の広場に出る。
そこは天井も広がっていて、地下に大空洞が出来上がっていた。
「大きさは…」
「約6mぐらいか?
城でも建てれる大きさだな」
「ああ
しかも目の前には…」
広場は高さ6mぐらいで、大きさも200mほどの広間になっている。
その奥には、これまた大きな鉄製の扉が、行く手を阻む様に作られていた。
それは見た目は鉄製だったが、未知の鉱物を加工して作られていた。
試しに殴ってみるが、固くて簡単には壊れそうに無かった。
「これは…」
「鉄に見えるが、魔鉱石の一種だな
今のオレ達の装備でも、壊すのは容易じゃ無いだろう」
「そうか?
それなら試しに」
「試すな!」
「止めろ!
馬鹿者!」
アーネストとアモンが、同時にギルバートに突っ込みを入れる。
特にアモンは焦っていて、そんな事をするなと首を振る。
どうやらアモンにとっても、この先に住む者を怒らせたくない様子だった。
ギルバートを強く睨んで、武器を仕舞うまで睨み続けていた。
「どうした?
そんなに睨んで」
「頼むから止めてくれ
ワシも奴等を…
彼等を怒らせたくは無い」
「それは懸命な判断じゃな」
「っ!」
「何処から?」
謎の声が響いて、一行は周囲を見回す。
アーネストも先ほどから、魔力察知で周囲を探っていた。
しかし扉が魔力を遮断して、その先は感知出来なかった。
「扉の向こうなのか?」
「しかしどうやって?」
「この扉は魔力を…
恐らく魔法の効果を制限するルーンが刻まれている
だから魔法を行使しても、この扉が防ぐ筈だ」
「その通りじゃ
博識じゃのう」
「どうやら魔導士の様じゃ」
「それなら分かるか…」
謎の声は一人では無く、何人かがぼそぼそと相談していた。
「それにしても
黒の猛獣が人間を連れて来るとはな」
「珍しい事があるもんじゃ」
「黒の猛獣?」
「ワシの事じゃ」
「え?
アモンが?」
「ああ
悪いか?」
「黒の猛獣って…
ぷっ」
「笑うな!」
アモンとしては、その様な二つ名は恥ずかしかったのだろう。
自分で言う時も、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
だからギルバートにが笑うと、顔を真っ赤にして怒っていた。
「ワシが付けた名前じゃ無いんじゃ」
「だからって…
黒の猛獣って…
ぷっくく…」
「笑うな!」
アモンは怒って、鉤爪を伸ばして切り掛かる。
ギルバートは剣を引き抜いて、それを受け止める。
それから二人で、その場で切り合いを始めた。
「おい!」
「ワシ等に会いに来たんじゃ無いんかい!」
「ワシ等を無視するな!」
扉の向こう側から、野太い声が抗議する。
しかしギルバートは、暫くアモンと切り合いを続けた。
「はあ、はあ…」
「もう、止さないか?」
「お前が、謝る、ならな…」
「分かった、よ…」
それで休戦となり、ギルバートは剣を仕舞う。
アモンも爪を仕舞うと、扉の方を向く。
「それで?
いつまで穴倉に籠っておる気じゃ?」
「それはお前さん次第じゃろう?
また襲われては適わんからな」
「襲う?」
「ああ
以前は女神様の指示で、ここを攻略する必要があったのじゃ
しかし今は…」
「違うと申すのか?」
扉の奥の声は、訝しみながら質問する。
「ああ
ワシはもう、女神様の使徒では無い」
「それを信じろと?」
「そうじゃぞ
散々ワシ等を襲っておいて」
「仕方が無いじゃろう
ワシも仕事じゃったんじゃ
それに手加減もしておっただじゃろう」
「何が手加減じゃ
ハロルドは腰の骨を砕かれて…」
「ワシも腕を切り落とされたぞ」
「お陰で3日も炉を止めなんといけんかったわい」
「しかしどれも、ポーションで治る程度じゃろう?」
「それはそうじゃが…」
「ワシが来なかったら、他の魔王が来ておった
その場合は…」
「じゃったら何じゃ?
感謝しろと?」
「そうじゃそうじゃ
ワシ等はお前達のせいで、どれだけ酷い目に遭って来たか」
「何を言う
ワシが梃子摺ったふりをしたから、ここは無事じゃったんじゃ」
アモンと扉の向こうの者とで、言い合いが始まる。
暫く何が起こったのか、扉の向こうの者が不満を言う。
それに対して、アモンが言い返していた。
そうこうする内に、ギルバートは退屈になって来ていた。
「どうでも良いけど、中には入れないのかな?」
「何じゃと!」
「どうでも良くないわい!」
「そうじゃそうじゃ」
「外野は黙ってろ!」
アモンと声の主は、揃ってギルバートに文句を言った。
しかしそれで気勢が削がれたのか、声の主は落ち着きを取り戻した。
「そうじゃな
お前等は関係無いからのう…」
「しかし人間じゃぞ」
「そうじゃ
また何をされるか…」
「しかしあの魔王が一緒に居るんじゃ
変な真似はせんじゃろう」
アモンとは仲は悪そうだが、信頼はされている様子だった。
しかし問題は、彼等の言い方だった。
アーネストが気が付き、アモンに質問する。
「なあ、アモン
こいつ等って人間じゃあ無いんだな?」
「む?
気が付いたか?」
「ああ
あれだけ人間って言ってればな」
「え?
どういう意味だ?」
「…」
「分からん者も居るんだな…」
アモンは呆れながら、肩を竦めて扉に向き直る。
「今回は戦いに来たんじゃない
そこに入れてくれんか?」
「戦う気は無いのか?」
「本当なんじゃろうな?」
「ああ
あの時に言ったじゃろう?
ワシは元々、お前等と戦う気は無いんじゃ」
「何を言う!
散々暴れておって」
「そうじゃそうじゃ
今さら信じろじゃと?」
「そうは言うがな…」
しかし中でも、話が纏まったのだろう。
音を立てて扉が開き始める。
「今回はそこの人間共に免じてじゃ」
「中で暴れるなよ」
「暴れるか!」
ゴゴゴゴ…!
扉の中には、地下とは思えない明かりが付いていた。
その光に目が眩み、ギルバートは思わず目を細める。
逆行をバックにして、そこには背の低い男達が数人立っていた。
「よく来たな」
「人間がここに来たのは、実に数百年振りか?」
「特別に許可するが、大人しくしておけ」
男達はそう言うと、扉の前に出て来た。
まだまだ続きます。
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