表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
537/800

第537話

ギルバート達は川を遡り、新たな野営地に到着する

周囲を見回すが魔獣の影も無く、無事に平原の真ん中で部隊を止める

魔獣が居ないので、そのまま川の捜索をしてから天幕を張る

魔獣の襲撃は、ポイズン・サーヴァントが現れてからは停まっていた

川の中には魚も泳いでいる

水質は飲み水としても問題は無さそうだった

残る問題は、ここが魔獣が水を飲みに来るかどうかだ

魔物がこちらに気付かなくても、偶然水を飲みに立ち寄る可能性もある

それを考えて、ギルバートは騎兵達に周囲を見張らせた


「今のところは何も居ませんね」

「魔獣どころか、野生動物の姿も見られません」

「油断するなよ

 それで一昨日に何があったか…」

「分かっています

 あんな失態は二度としません」


騎兵達にとっても、一昨日の失敗は堪えていた。

その為に今も、6名の騎兵が横になっている。

2名は回復していたが、それでも体調は思わしく無かった。

それを懸念して、ギルバートは負傷者を休ませていた。


「治ったとはいえ、まだ調子は悪いだろう

 他の者が見回るから、お前等は休んで居ろ」

「すいません」

「不甲斐ないです…」

「気にするな

 お前等は怪我をしたんだ

 そんな時はゆっくり休むべきだ」


ギルバートはそう言って、騎兵達をゆっくりと休ませた。

その代わりに斥候には、しっかりと周囲を警戒させる。

それは何も罰では無く、彼等の意思を尊重してだ。

彼等自身が、失態の借りを返したいと思っている。

その意思を尊重して、しっかりと見張らせていたのだ。


「ここは灌木が少ないから、薪になる木が少ないな」

「安心しろ

 この先には灌木が生い茂っておる筈じゃ」

「そうなのか?」

「ああ

 ワシの記憶に間違いが無ければ、そこには森に近い状態になっておる筈じゃ」


アモンはそう言って、ハイランドオーク達の方を見る。

ハイランドオーク達も頷き、それを事実だと肯定する。

それでギルバートは、薪を集める必要が無いと判断する。

今も薪の在庫は残っているので、次の野営の際で良いと判断する。


「そこは森みたいなのか?」

「うーむ…

 森というよりは…林かな?

 川の上流に木がまばらに生えておる」

「そうか

 そうなると魔獣も…」

「居る可能性は高いが、それよりも…」

「それより?」

「洞窟があってな」

「洞窟?

 山があるのか?」

「ああ、いや

 山というより、丘の側面に穴が空いておる

 そこから地下に潜る感じじゃな」

「へえ…」


地下に続く穴と聞いて、ギルバートは興味を示す。

ギルバートが今まで潜った洞窟は、山に空いた洞穴だけだった。

地下に続く洞窟と聞いて、どんな場所なのか興味を持ったのだ。


「その洞窟って…」

「行ってみてのお楽しみじゃ」

「え?」

「ここではまだ、どんな場所かは明かさん」

「え?

 それって…」

「ふふふふ

 楽しみにしておれ」


アモンの言い方から、そこがただの洞窟とは思えない。

何があるのか分からないが、たんに洞穴があるとは思えない。

もしかしたらと、ギルバートは尋ねる。


「そこって、もしかして女神の…」

「いや、端末は…無い筈じゃ」

「違うのか?

 それじゃあ…」

「これ以上は秘密じゃ」


アモンはニヤリと笑って、ハイランドオーク達と野営の準備を始める。

ギルバートはハイランドオークにも尋ねるが、彼等も教えてくれ無かった。


「なあ

 洞窟って…」

「駄目ですよ

 アモン様が駄目と言ったでしょう?」

「そこを何とか…」

「駄目ですって」


ハイランドオークはそう言って、洞窟の事は何も話さなかった。

ギルバートは興味を引くだけ引かされて、気になっていた。

アーネストにも尋ねるが、当然何も知らなかった。


「そうだな

 それだけ秘密にするって事は、何かあるんだろう」

「それなら…」

「言っておくが、オレは何も知らないぞ

 そもそもここに関しても、オレはほとんど知らないんだ」

「そうか…」


「明日になれば分かるんだろう?

 我慢しろ」

「そうは言うがな、気になって…」

「はははは

 それは仕方が無い」


アーネストもそう言って、それ以上は話は進まなかった。

それからアーネストは皇女とポーション作りに入る。

ギルバートは仕方が無いので、セリアと話をしていた。


「うふふふ」

「ん?

 そんなに嬉しかったか?」

「うん♪」


セリアはギルバートが側に居るだけで、嬉しそうにニコニコしていた。

ここ数日はギルバートも、魔物を警戒して見回りをしていた。

その前はアモンの居城で、訓練に明け暮れていたし、こうして二人きりなのは久しぶりなのだ。

それでセリアは、ニコニコと上機嫌だった。


「セリアね、お兄ちゃんと一緒だから嬉しいの」

「そうか

 すまなかったな」

「ううん

 良いの

 みんな忙しかったし」


セリアはそう言いうが、少し寂しそうな表情になる。

それだけ一人の時間で、寂しい思いをしていたのだ。

ギルバートは思わず、セリアをギュッと抱き締める。

そうして優しく、セリアの頭を撫でてあげた。


「にゅっ!

 うふふふ…」

「セリア…」


セリアはうっとりと目を閉じて、頭を撫でられて気持ち良さそうにする。

それで思わず、ギルバートはセリアの唇に…。


「うっほん」

「わあっ!」

「うにゅっ!」


側に立っていた騎兵が、わざとらしく咳払いをする。


「殿下

 そういうのは誰も見てないところでしてください

 オレ達には目の毒です」

「ぐぬう…」

「ふみゅう…

 折角良い雰囲気だったのに」

「するなとは言いません

 せめて周りの目を考えてください」

「は~い」

「うにゅう…」


それでギルバートは、セリアと夕食まで話をしていた。

さすがにキスはマズいので、抱っこして頭を撫でてやる。

それでセリアは上機嫌で、ここ数日の話をする。


「それでね、兵士達は姫様を怖がっていたの」

「ふうん

 それで一緒に乗るのを嫌がったのか」

「うん

 怖いんだって」

「怖いねえ…」


「こうしてね

 目をキュッと吊り上げてるの

 それでゴリゴリって葉っぱを潰してて…」

「はははは

 確かに怖いかもな」

「何の話?」

「い、いやあ

 何でも無いよ」


ギルバートが笑っていると、夕食を取りに皇女が焚火の側に来る。

そうして楽しそうに笑っている、二人の話に興味を示した。

しかし内容が内容なので、ギルバートは誤魔化そうとする。

だが、セリアは正直に内容を話してしまった。


「んとね

 お姉ちゃん姫様が怖いって話♪」

「私?」


皇女は怖いと言われて、キッとギルバートを睨む。


「おいおい

 私が言い始めた訳じゃあ…」

「でも、その言い方だとあなたも、怖いって思っているのよね?」

「そりゃあ…

 話を聞く限りでは…」

「どういう事かしら?」

「分かった

 分かったからそう睨むなって

 それこそ怖いって言われるぞ」

「それは…」


皇女はそう言われて、目元を押さえて何とか強張りを直そうとする。

皇女も女の子なので、怖いと言われるのは心外なのだ。

だから努めて、表情を和らげようとする。

しかし引き攣ったままなので、怖い笑い方になっていた。


「はあ…

 それが原因だな」

「え?

 どういう…」

「無理して笑ってみせようとして…

 却って怖い笑顔になってるぞ」

「え?」


皇女は慌てて、顔の強張りを直そうとする。

しかしどうやっても、怖い目付きのままだった。


「まあ、仕方が無いのかもな

 皇女は目付きが鋭いからな

 美人なんだが視線が強過ぎるんだな」

「それは…」


美人という言葉には、さすがに目元が緩んでいた。

しかし相変わらず、視線自体は鋭かった。


「その目付きで口元だけ笑って…

 薬草を煎じているんだ

 そりゃあ怖いだろう?」

「え?

 薬草を煎じるって…

 アーネスト様がそう言っているの?」

「いや、アーネストはそんな失礼な事は言わないよ」

「それじゃあ誰が…

 あ!」

「そういう事だ」


皇女は事態を察して、プルプルと肩を震わす。

考えてみれば、馬車の中でも騎兵達の様子はおかしかった。

いや、それ以前に、治療の際にも騎兵達の様子はおかしかった。

それが皇女の表情を見て、怖がっていたからだと悟ったのだ。

皇女は顔を真っ赤にして、肩を震わせていた。


「仕様が無いだろう?

 皇女は真剣に治そうとしてたんだ」

「でも!」


皇女は顔を覆うと、泣きそうな声で抗議する。


「顔が怖いって、どうすれば良いのよ!」

「いや、真剣な表情で怖く見えたんだ

 それは仕方が無いよ」

「お兄ちゃん

 それ、フォローになって無い」

「うぐっ」


「お姉ちゃん

 お姉ちゃんは真剣にやっているんでしょう?」

「ええ、そうよ

 だって一生懸命にやらないと、ポーションは出来ないでしょう?」

「だから仕方が無いと思うの

 それを怖いって言う、お兄ちゃん達が悪いよ」

「うぐっ

 返す言葉も無い…」


セリアは珍しく、饒舌になって皇女を慰める。

男所帯のこの部隊に於いて、皇女の苦しみを分かっていたからだ。

セリアも年頃の女なので、その気持ちがよく分かったのだろう。

それで皇女に、優しい言葉を掛ける。


「きっとね、一所懸命だからだよ

 だから楽しいって思えて無いんだよね?」

「そう…

 真剣に混ぜて、魔力を加えて…

 楽しいなんて思えないわ」

「だからだよ

 楽しいって思わないから」

「どうしろって言うの?」

「楽しんだら良いんじゃないの?

 これでみんなの怪我が治せるって

 そう思って出来ないかしら?」

「え?」


セリアのその言葉は、皇女にとっても予想外だったのだろう。

皇女は驚いた表情で、セリアの事を見ていた。


「楽しむ?」

「うん♪

 苦しくて面倒臭い仕事と思わないで

 みんなの為になる、楽しい仕事って思うの

 そうすれば苦しそうな顔じゃ無くなるんじゃないの?」

「それは…」


皇女は暫く考えて、頷いてセリアの方を見る。


「そうね

 私っていつの間にか、これをやらないといけないって思っていた

 でも、違うのね」

「うん」

「ありがとう

 私のやる事が分かった気がする」


皇女はそう言うと、今度は和かな笑顔に戻っていた。


「うん

 その表情の方が良いな」

「え?

 そ、そうかしら?」

「もう!

 お兄ちゃんがそういうの言うのは、セリアだけで良いの!

 ぷんぷん!」

「はははは

 私が大事なのはセリアだけだよ」

「あのう…

 お熱いのは他でやってよね

 また顔が強張りそうだわ」

「あ…」

「うふふふふ」


皇女はそう言って、呆れた表情でギルバートを見る。

しかしセリアの笑顔を見て、再び表情が和らぐ。


「それにしても意外ね

 セリアの方が年上に感じるわ

 私ってまだまだなのね…」

「そりゃあそうだろう

 なんたってセリアは、私よりも年上なんだ」

「え?」

「もう!

 お兄ちゃん」


「でも、どう見ても…」

「それはセリアが、ハイエルフだからな

 確かもう20歳を…」

「女の子の歳は言わないの!」

「はははは

 すまない」

「信じられない…

 それなのにこんなに可愛いままなの?」

「だろ?

 可愛くてな…」

「もう!

 馬鹿!」


セリアは恥ずかしそうに、顔を赤らめて頬を膨らませる。

その仕種がまた可愛くて、それが狙ってなら相当な策士だと言える。

とても20歳を越えている様には見えなかった。


「羨ましいわ」

「そう?

 セリアとしては、これで大変なのよ?

 年相応にしてるつもりなのに、子供扱いされるし」

「それは…」

「そうね…」


二人は意見が揃って、セリアの事を見る。

どこからどう見ても、この姿では子供にしか見えない。

とても20代の女性には見えないのだ。

アースシーの20代の人間の女性は、大体が母親になっている。

それで子育てに苦労して、相応に年を取っている様に見えるのだ。


「むう!」

「セリアは可愛いからな」

「それはそれで失礼よ

 セリアだって大人に見られたい時もあるわよ

 ねえ?」

「うみゅっ

 そうにゃの

 それなのにお兄ちゃん達ったら…」

「いや、そんな舌足らずに喋るから…」


ギルバートはほっこりしながら、セリアの頭を優しく撫でる。

それでセリアは、一旦は嬉しそうに目を細める。

しかしまた、子供扱いされてると気付いて頬を膨らませる。


「むう…」

「あ、いや…

 可愛いからつい…」

「もう…

 お兄ちゃんだから良いけど

 どうして子供あつかいするかな?

 年頃のレデエなのに」

「そりゃあ…」

「ぷっ

 あはははは」


その様子を見ていて、皇女は堪らず笑い始めた。


「もう、駄目

 私も大人ぶって、淑女を演じようとしてたわ

 でも、それって無理なのね?」

「ん?」

「そうだよ

 お姉ちゃんはお姉ちゃん

 無理してるから怖いって言われるんだよ」

「そうね

 私も肩肘張らないで、気を抜いて頑張ってみるわ」


皇女は何かを悟ったのか、それで表情が和らいでいた。

年相応な女の子の顔に戻り、ニッコリと笑っていた。

それでギルバートも、彼女が同じぐらいの年だと思い出していた。

彼女は知らぬ間に、大人の中で無理をしていたのだ。


「そうだな

 無理をしなくても良い

 ポーションだって、いざとなればアーネストが作れば良いんだ」

「それはさすがに…」

「アーネストなら喜んですると思うよ」

「ああ

 魔力を増やす訓練になる

 なんていってそうだからな」

「あ、似てる」


ギルバートの真似を見て、皇女もクスクスと笑う。

ここに来て、ようやく肩の荷が下りた気がしたのだろう。

彼女は無理して皇族らしく振舞わず、年頃の女の子らしい笑い方をしていた。


「もう…

 大丈夫そうだな?」

「ええ

 ごめんなさいね

 二人の邪魔をして」

「え?」

「うみゅっ

 気にしなくて良いのにゃ

 お兄ちゃんとはこの後も、イチャイチャするから」

「おい!」

「ふふふふ

 ほどほどにね」


皇女はそう言ってから、食事の準備がされている場所に向かう。

今夜は魚の肉を煮込んだ、スープが作られている。

ギルバートはその匂いを嗅いで、自分達も夕食に向かおうと思った。

今夜は魔獣も出そうに無いので、安心して休めると思いながら。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ