第535話
野営地では、魚を焼いて夕食が取られていた
ダイヤ・フィッシュの肉は、塩で焼くと甘みがあって美味かった
騎兵達も焼き魚の肉を、美味そうに頬張って食っていた
しかしそこに、思わぬ闖入者が近付いていた
ギルバート達は、周囲に魔物が居ない事を確認していた
しかし視認範囲外から、魔獣が来る事は良そうしていなかった
魚の焼ける匂いで、魔獣が迫って来ていた
そして魔獣の接近に、アーネストが気が付いた
「ギル!」
「ん?
どうした?
お代わりならあるぞ?」
「違う!
馬鹿、魔獣だ!」
「魔獣?
何処にだ?」
「すぐ近くだ
急げ!」
アーネストは魔獣の魔力を感じる方を、指差して指示をする。
「何が来てるか分からない
武器を構えて備えろ」
「は、はい」
「ギルは天幕の周りを守ってくれ」
「分かった」
アーネストは念の為に、拘束の呪文を唱え始めた。
現れる魔獣次第では、迂闊な攻撃は危険だからだ。
そしてその予想は、最悪の形で現れた。
「ぐわっ
や、焼ける…」
「く、苦し…
ごはっ」
「ポイズン・サーヴァント…」
闇の中から現れたのは、一番現れて欲しくない魔獣だった。
猛毒を持つ魔獣の、ポイズン・サーヴァントが現れたのだ。
「アーネスト!」
「ポイズン・サーヴァントだ!
迂闊に切り付けるな」
「しかし…」
「毒を食らった奴は下がらせろ!
ソーン・バインド」
アーネストの魔法が放たれ、魔獣を蔦が絡めとる。
しかし拘束した蔦も、魔獣の体表から滲み出る毒に侵される。
みるみる紫に染まり、蔦は少しずつ崩れて行く。
「くっ
長持ちはしないな」
「ならば!」
「止せ!」
「てりゃあああ…」
シュバッ!
ギルバートは走り抜けながら、素早く鎌を振り抜いた。
念の為に返り血を浴びない様に、その場に留まら無かったのだ。
しかし鎌には、有毒な血がべったりとこびり付いていた。
そしてその血は、煙を上げながら鎌の刃を腐食させる。
「な!」
「言っただろう
そいつの血も危険なんだ」
「だったらどうやって…」
「それを今、考えている」
「くそっ!」
ギルバートも間合いを取り、同時に怪我人を引っ掴んで来る。
毒をまともに浴びた者は、真っ蒼な顔をして震えていた。
「早くポーションを!」
「無駄だ!
普通の毒消しでは効果が無い」
「だったらどうすれば…」
「皇女の元へ連れて行け
少しは抑えれる筈だ」
「分かった
おい!
急げ!」
「はい」
騎兵達に毒に触れさせない様に気を付けて、負傷者を運ばせる。
その間にも、拘束の蔦は腐食して崩れて行く。
拘束が弱まった事で、蛇は再び動き始める。
「危険だぞ!
下がれ!」
「はい」
騎兵に下がらせて、ギルバートは正面から蛇を睨む。
蛇も先ほどの一撃から、ギルバートには警戒をしていた。
「皇女に解毒のポーションを作らせるんだ」
「どうやって?」
「さっきの騎兵が浴びた毒があるだろ
あれに解毒のポーションを混ぜるんだ」
「混ぜれば良いんですか?」
「ああ
配合方法は教えてある」
「分かりました」
アーネストはポーション作りを指示すると、魔獣の方に視線を向ける。
「さあて…
どうやって倒すか」
「どうするんだ?」
アーネストは魔獣を、正面から観察する。
魔獣も思わぬ反撃から、迂闊に手を出せないで様子を見ていた。
そこでアーネストは、先ずは相手の目を奪う事にした。
「ギル!
今からオレが目を狙う」
「え?
しかし…」
「良いから
お前は隙を見て舌を切り飛ばせ」
「舌を?」
「ああ
奴の目はその舌だ!」
「分かった」
アーネストは呪文を唱えると、両手に炎を纏った。
そしてその炎を、両手を合わせる様にして弓矢に変えてみせる。
「上手く…
行ってくれよ」
「アーネスト?」
アーネストはお世辞にも、戦闘は苦手である。
当然膂力も低かったので、弓の訓練も受けていない。
しかし今は、炎の矢で魔獣の目を狙っている。
とてもじゃ無いが、上手く行くとは思えなかった。
「食らえ!
フレーム・アロー」
シュバッ
矢が撃ち出されるのを見て、蛇は素早く身を躱す。
そうして当然の様に、躱した後にアーネストを狙っていた。
大きく口を開けると、そのままアーネストを飲み込もうとする。
「くっ!」
ズシャッ!
ギルバートはそれを防ぐ為に、横から蛇の口元に切り付ける。
その一撃は死角から振られたので、何とか牙と舌を切り落とした。
「マジック・シールド」
アーネストは咄嗟に、魔力で作った盾を突き出す。
防御力こそ無いが、それで蛇の毒血を防ぐ事は出来た。
そしてその間に、飛んで行った火矢が戻って来る。
実は魔法の矢には、狙った場所に向かう誘導の魔法の効果もあるのだ。
アーネストはそれも込みで、わざと外れる様に放ったのだ。
「よし
これで奴はこっちを視認出来ないぞ」
アーネストはその隙に、再び呪文を唱える。
「ソーン・バインド」
「よし!」
「おい!
無茶は…」
「食らえー!」
シュバッ!
ドシュッ!
ギルバートは跳躍すると、拘束された蛇の頭上に飛ぶ。
そうして鎌を構えると、力任せに投げ付けた。
鎌の石突から、蛇の頭部にそれは突き刺さる。
そうして鎌の柄まで、深々と蛇の頭に突き刺さった。
「はははは
これでどうだ」
「なんて無茶を…」
しかし頭に突き刺さっては、さすがに大蛇も死んでしまった。
暫くのたうつが、やがて拘束されたまま動かなくなった。
「倒せたな」
「ああ
しかし…」
アーネストは拘束を解くと、慌てて皇女達の元に向かった。
まだ毒を受けた、騎兵達がどうなったか分からないのだ。
「アーネスト様」
「アーネスト
どうしよう?
どうすれば良いの?」
「慌てるな
毒消しは?」
「毒は浄化したけど、どうすれば良いの?」
「ああ、くそっ」
アーネストは慌てて、ポーチの中からポーションを取り出す。
何本か放り出して、漸くお目当ての毒消しのポーションを見付ける。
それに騎兵の身体に着いた、毒を何とか垂らして加える。
そうして振り混ぜると、それを騎兵に飲ませた。
「1滴で良いから、これに毒液を加えろ」
「はい」
「早く!
それから毒も落としてやれ」
「はい」
手で触れるのは危険なので、木の枝や布で拭いてやる。
その気の枝や布も、危険なので焚火にくべて燃やす。
燃やした液も危険なので、周りには近づかない様に注意する。
そうして何とか、騎兵達の解毒も完了した。
「はあ…
浄化が効いて良かった」
「ええ
浄化も効かなかったらと思うと、ぞっとしますわ」
「後は休ませて、ポーションを飲ませるんだ
内臓も損傷しているからな」
「はい」
アーネスト達がちりょうしていると、そこにアモンが現れた。
「ど、どうやら…
上手ぐ行っだな…」
「あ、アモン?」
「ぢがづぐな!」
アモンは全身に毒液を浴びて、顔面も蒼白になっていた。
何とか立っていられるのも、獣人の生命力があるからだ。
魔王といえども、この魔獣の毒は有毒なのだ。
「じょうがだ…」
「え?」
「じょうがをづがえ
おまえぼづがえる…だろ」
「えっと…」
「浄化の光
駄目
私のでは威力が低くて…」
「あ!
ホーリー・ライト」
アーネストは呪文を唱え、最大出力の浄化を試みる。
強烈な光は、アモンの毛皮も焼いてしまう。
ジューッ!
「ぐ、あ…」
「アモン!」
「黙れ
良いから、続けろ」
ジュワ―!
暫く浄化を続けると、紫色の毒液も気化して行く。
そうして全ての毒液が消えた頃には、アモンの顔色も戻っていた。
「ふう…」
「さすが魔王だな」
「ああ
ワシで無ければ…
死んでおるな」
「しかし何で?」
ポイズン・サーヴァントと戦っている間、アモンの姿は見当たらなかった。
しかし彼は、全身に毒液を浴びていたのだ。
「アモン様は、蛇を押さえていたんです」
「何?」
「アーネスト様の魔法では、押さえ切れないと」
「まさか…」
「余計な事を言うな
お前等を守る為じゃ」
アモンはハイランドオーク達を守る為に、身体を張って魔獣を押さえていたのだ。
それで全身に毒液を浴びて、危うく死に掛けていた。
獣人がベースの魔王で無ければ、たちまち絶命していただろう。
耐性と体力のある、獣人だからこその強引なやり方だった。
「また、何て無茶を…」
「無茶はお前等もだろう?
それならワシも、多少の無茶をせんとな」
「はあ…」
「それよりも
毒の回収は良いのか?」
「あ!
そうだった」
蛇の死体はそのままになっている。
周りに毒が出ているので、早目に処置をしなければならない。
「しかし…
どうやって回収すれば?」
「それなら考えがある」
「あの
これをどうぞ
体内の毒は残っているのでしょう?」
「む?
すまんな」
アモンは皇女の差し出した、毒消しのポーションを受け取る。
実際は魔王なので、そのままでも毒の効果は治まるだろう。
しかし今は、内臓も侵されて苦しい状態なのだ。
ポーションを飲み干すと、少しずつだが腹の痛みが治まって行く。
「気遣いありがとう」
「いえ
苦しむ人を見るのは、辛いので…」
「む?
ワシを人と?」
「ええ
最初は戸惑いましたが…
今は理解しております
あなたも彼等も、等しく人間と同じなのだと」
「ふっ
皇女も変わられたのだな」
「ええ」
アモンはニヤリと笑うと、気分良く豪快に笑った。
「ふはははは
それでは解体に向かうぞ」
「ああ」
アモン達が来ると、ギルバート達は途方に暮れて魔獣を囲んでいた。
危険な毒液に包まれているので、迂闊に手が出せないでいたのだ。
「どうするんだ?
これ…」
「そうですね
食べられそうに無いですし…」
「食えんだろう?
死ぬぞ?」
「はははは
食いしん坊の殿下がそう仰るのなら、食べられそうにないですね」
「おい!」
「ギル!
食って無いよな?」
「お前まで…
食うか!」
「はははは」
「それで?
どうするんだ?」
「ああ
アモンの話では、毒を回収出来るらしい」
「どうやって?
この通り…」
ギルバートが頭部の鎌を引き抜こうとすると、それは崩れて抜ける。
ほとんど腐食して、ボロボロになっているのが見て取れる。
魔鉱石の武器がこうなるのなら、保存する容器など無いだろう。
「案ずるな
方法はある」
「どうやって?」
「先ずは魔力を集中して、魔物を探す要領でこの辺りを見てみろ」
「ん?」
アーネストは呪文を唱え、魔力を集中する。
「何か…
塊が見えるな」
「それが毒液の詰まった毒腺と毒袋じゃ」
「なるほど…」
「それが何故無事か…」
「そうか!
ギル、この辺りを慎重に切ってくれ」
「え?
切るってどうやって?」
「あ…」
魔鉱石の武器でも、毒液で腐食してしまう。
結局予備の剣を持って来て、慎重に切り開いて行く。
返り血を浴びても、毒を含むので危険なのだ。
毒腺を見付ける頃には、剣が3本も駄目になってしまっていた。
「これが毒袋…」
「ああ
強力な毒だからな、気化させぬ様に注意しろ」
「気化?」
「ああ
放って置けば空気に混じって拡散する」
「そうか
それを吸うのも危険なんだな」
「ああ
少量なら強壮効果があるが…」
「なるほど
悪影響があるか」
「そういう事じゃ」
アーネストは毒腺の部分を使って、慎重に毒袋の口を縛る。
それを樽に詰めると、周りに念の為に浄化の魔法を掛ける。
作業の間も使っていたので、この短時間で浄化の魔法を扱えれる様になっていた。
「本来ならな、浄化でも効果を押さえる事しか出来ん」
「え?
それじゃあ…」
「それはな、お前の…
アーネストの魔力が強いからじゃ」
「へえ…」
「そうなんだ
って、今…」
「ワシは疲れた
先に休むぞ」
「アモン
お前、今…」
「うるさい!」
アモンは照れながら、ハイランドオークを連れて天幕に戻る。
「はははは
認めたって事だろう」
「そうだな…」
今まで小僧としか、アーネストの事を呼ばなかった。
しかし今の事で、アモンもアーネストの事を認めたのだろう。
初めてアーネストと、名前で呼んだのだから。
「それより、毒消しのポーションは大丈夫か?」
「ああ
何本か作って置いた
毒が勿体無いからな」
「おいおい
毒で苦しんでる奴から回収してないよな」
「さすがにそれは…
ちゃんと浄化して、ポーションを飲ませてからだ」
「それなら良いが…」
「代わりに…
何人か防具が駄目になったな
腐食もだが色まで変わっている」
「皮に沁み込んだのか?」
「ああ
そこらに捨てて置いたら、魔獣が食って死ぬだろうな」
「なら良いんじゃないか?
危険な魔獣が減るだけだ」
「分かった
それなら焼かずに捨てておくな」
「ああ」
騎兵達の鎧は、魔獣の皮鎧をベースにしている。
それに魔鉱石の板金を取り付けて、防御力を上げている。
しかし皮鎧が元なので、こうした毒には弱かったのだ。
最近では板金の技術も上がっているが、板金鎧ではどうしても重くなってしまう。
だから馬に乗る騎兵には、こうした革鎧が支給されていた。
「もう少し丈夫な皮が…
いや、革にしても毒なら染み込むか…
何とかならないものか…」
折角毒が沁みても、それで毒に耐性が出来る訳では無い。
そのまま使えば、毒が身体に沁みて危険なだけだ。
この毒が有効に使えるのは、武器に塗るぐらいだろう。
しかしそれも、この毒に耐えうる素材で無いと危険なのだ。
「何とか使い道を考えないとな」
ギルバートは毒が詰まった樽を見て、そう呟くのだった。
まだまだ続きます。
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