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聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
532/800

第532話

ギルバート達は、小川に後少しまでの距離に来ていた

しかしそこで、追撃に向かったグレイ・ウルフに襲われていた

騎兵が数人負傷して、後方に下がらされる

そうしてギルバートが前に出て、狼を鋭く睨んでいた

小川に向かう際に、ギルバートは追撃を警戒していた

向かって来た魔獣は倒したが、一部が逃げたと聞いたからだ

魔獣が狼の魔獣なら、仲間の仇に再び向かって来るだろう

それを警戒して、ギルバートは殿に近い位置に移動していた


「うわあああ

 魔獣だ!」

「来たか」


騎兵達の声を聞いて、ギルバートは全体に停まる様に合図を送る。

襲って来ているのが、後方だけとは限らないのだ。

このまま進んだ先で、待ち構えて居る恐れもある。

先ずは後方の魔獣を殲滅て、それから進むのが無難だろう。


「アーネスト

 周辺に魔物の反応は?」

「ギル

 自分で調べろよ」

「私も見てはいるが、お前の方が正確だろう?」

「それはそうだが…」


アーネストは呪文を唱え、周囲に魔力の薄い波を放つ。

それが反射して返って来て、周囲の魔力を感知出来るのだ。

ギルバートみたいに、本能的な感知能力とは違うのだ。


「はあ…

 魔法の練習もしろよ」

「そうは言ってもな、この状況じゃ難しいだろ」

「そうか?

 数は8体で、6体が後方に集まっている」

「残り2体は?」

「すぐそこだ!

 ライトニング・アロー」

ギャワン

キャイン


アーネストが素早く呪文を唱えて、詠唱破棄で攻撃する。

雷の矢が、飛び出した魔獣の鼻面に命中する。

それを素早く騎兵が囲み、一気に鎌で切り付ける。


「ここは任せたぞ」

「はい」


ギルバートは馬を駆ると、急いで後方の声がする方へと向かう。

そこでは3名の騎兵が倒れて、血を流して気を失っている。

仲間の騎兵が守る様に囲んでいるが、彼等も何名か血を流していた。


「大丈夫か?」

「殿下!」

「こっちに来てはいけません

 危険で…」

「せりゃあああ…」

ギャン

キャウウン


ギルバートはクリサリスの鎌を振り回すと、一気に2体の魔獣を切り飛ばす。

魔獣は片方は首を刎ねられて、もう片方は胴を深々と切り裂かれていた。

他の魔獣達は、その様子を見て警戒して後退る。


「な!」

「あの巨体を一撃で?」


騎兵達の膂力も上がっていたが、ギルバートの一撃は段違いだった。

振るった一撃で、大人の胴ほどの首を切断したのだ。

いくら身体強化を使っていると言っても、それは恐ろしい一撃だった。

そして馬の方も、身体強化の影響で素早くなっている。

1体が隙を見て飛び掛かるが、素早く回避していた。


「負傷者を後方へ下げろ!

 それから動きに注意して囲め」

「は、はい」


最初の3人は、警戒する方向から死角になる位置で攻撃された。

それで十分な防御も出来ず、腹や腕に裂傷を負っていた。

しかし残りの騎兵達は、その騒ぎで魔獣に気が付く事が出来た。

だから魔獣に襲われても、軽傷程度で済んでいた。


「気を付けてください

 思ったよりも素早いです」

「ああ

 さっき戦ったからな」


騎兵達は何とか目で追い着いていたが、攻撃を防ぐのがやっとだった。

攻撃するには、魔獣の隙を突くしかない。

ギルバートが駆け付けた事で、魔獣の意識はギルバートの方に向いていた。

魔獣がギルバートに向かう隙に、何とか騎兵も攻撃を試みる。


ガルルル

「せりゃあああ」

「うりゃあああ」

ギャン


「その調子だ

 私が押さえている内に、各個撃破しろ」

「はい」


ギルバートが2体の攻撃を躱し、その爪を鎌で受け流す。

その隙を突いて、騎兵達は背後や左右から切り込む。


「つぇりゃあああ」

「うりゃあ」

ギャン

ガフ


「後は1体だ」

「はい」

「任せてください」


騎兵達は周りを囲むと、鎌を構えて近付く。

魔獣は警戒するが、数が多くてはそれも無理がある。


グガアアア

「させるか!」

「こいつで…」

「止めだ!」

グギャン


一人に飛び掛かったところで、周りの騎兵がその攻撃を叩き落す。

その隙に残りの騎兵達が、鎌を振るって魔獣の首を刎ねた。


「はあ、はあ…」

「何とかなった…」

「死ぬかと思った」

「はははは

 お前をやらせるか」


「何とか片付いたな

 怪我人は治療をしてもらえ」

「はい」


負傷者は運ばれて、皇女の魔法を受ける。

その効果はまだ低いが、小さな裂傷程度なら治してもらえた。

深手を負った騎兵は、そのまま横になってポーションを掛けてもらう。

それで傷は塞がり、骨折の痛みも引いていた。


「大丈夫か?」

「え、ええ…」

「これな…痛ぅ」

「無理するな

 暫く休んでろ」

「はい」


ポーションで痛みは和らぐが、骨折が治るには時間が掛かる。

裂傷も塞がっていたが、失われた血までは回復しない。

彼等はそのまま、馬車に乗せられて運ばれる。

上等なポーションを使ったので、明日には回復はしているだろう。


「結構やられたな」

「ああ

 しかし油断したからだ

 そうで無い者は、軽傷で済んでいる」

「そうだな」


「ポーションの在庫はどうだ?

 上等なポーションを使ったんだろう?」

「いや、まだまだ大丈夫だぞ」

「え?」

「これは作ったばかりのポーションだ

 それも皇女が作った方だ」

「それって…」

「ああ

 オレが作った方は、もう少し深い傷でも治るぞ」


アーネストが作ったポーションは、切れた腕でも繋げられる効果があった。

あまり大きな傷では無理だが、切れた程度なら何とかなる。

最も食われたり、ずだ襤褸ではさすがに治せない。

そこまでの効果のポーションは、アーネストには作れなかった。


「凄いな…」

「いや

 凄いのは皇女の魔法さ

 今はまだ、軽傷程度しか癒せない

 しかし研鑽すれば、複数人の怪我も治せるらしい」

「え?

 複数人を一度にか?」

「ああ

 その代わり魔力と集中力が必要だ

 聖女というのも伊達じゃ無いみたいだな」

「ああ

 それは凄いな」


皇女は確かに、3名の傷を同時に癒していた。

皇女が呪文を唱えながら祈ると、周囲に魔法陣が現れていた。

その中で光に包まれた者は、軽傷程度なら数分で治っていた。


「さあ

 小川に向かおう」

「ああ

 そうだな」


怪我人の応急処置が終わり、軽傷者はすっかり傷が塞がっていた。

そのまま馬に乗り込むと、嬉しそうに仲間と小川に向かって行った。


「向こうは大丈夫なのか?」

「ああ

 追って来ていた魔獣は倒したし

 向こうには魔獣も魔物も居ない」

「そうか」

「尤も、魔力の感じられ無い野生動物は分からないがな」

「おい!

 それを先に言え」


ギルバートは慌てて、騎兵達が向かった先に駆け出す。


「はあ…

 魔力も無い獣なんて、あいつ等にとっては脅威じゃ無いだろうに」


アーネストは溜息を吐きながら、馬車に乗り込んだ。

皇女も治療を終えて、馬車に乗り込もうとする。


「あ…」

「っと

 大丈夫か?」

「ええ

 少しふらついただけです」


皇女は魔力を急激に消耗して、軽い眩暈を起こしていた。

しかし魔力切れでは無いので、何とか馬車に乗り込んだ。


「すいません」

「まあ、仕方ないさ

 魔力を急に失ったんだ」

「アーネスト様は…

 そのう、大丈夫みたいなんですが?」

「ああ

 オレは慣れているからね」

「そうですか…」


「そのう…

 アーネスト様ってのは止めないか?

 何かむず痒い」

「え?

 でも、アーネスト様はアーネスト様ですし…」

「オレはそんなに偉く無いぞ?」

「ですが貴族でしょ?」

「そうだけど…」


「それに強力な魔法を使えて…

 それなのに才能を鼻に掛けないで謙虚ですし」

「そうか?

 昔の帝国や魔導王国では、それこそざらじゃあ…」

「いえ

 確かに強力な魔法は使えたでしょうが、それも何時でも何回でも無いでしょうし

 それに性格に問題が…」

「ああ

 それはそうだな…」


魔導王国に関しては、魔術師は不当な扱いだったが、魔導士に関しては貴族並みの扱いだった。

少なくとも記録を見る限りでは、複数の奴隷を従えて好き勝手していたらしい。

それに帝国の魔術師も、性格に問題があった者が多いとされている。

それが結果として、魔力災害のきっかけにもなっている。

それに比べれば、アーネストの性格もマシな部類に入るのだろう。


「しかし、伝承では強力な魔法を使っていたって…」

「それは皇族の一部です

 それにカイザート様達の様な、お強い方はもう…」

「そうだな…」


帝国は魔術を否定して、魔導王国の書物を焼き払った。

それで後年の魔術は、大きく後退する事になった。

アーネストが知る記録も、帝国の前期の記録である。

今は魔術師は居なくなり、帝都も滅びてしまった。

この周辺国では、アーネストは強力な魔導士と呼んでも差し支えは無いのだ。


「だからって様付けは…」

「そうですか?」

「せめてさんぐらいにしてくれ」

「そうですか

 それでは…

 アーネストさん」

「う…

 それでも少し恥ずかしいな」

「ふふふふ」


馬車が再び動き出し、1時間ほどで小川のほとりに着く。

そこで荷物を下ろして、天幕が張られた。

既に日が傾き、太陽(ソルス)も平原の向こうに沈もうとしていた。

騎兵達は大急ぎで天幕を張ると、焚火に火を着け始めた。


「水も汲んでおけよ

 真っ暗な川は危険だからな」

「はい」


「食料の備蓄はある

 今夜は野菜のスープでも作ろう」

「はい」

「魔獣の肉が食えればな…」


勿体無いが、魔獣の肉は捨てられていた。

肉は見るからに筋張っていて、とても食べられそうに見えなかった。

それに持ち歩くにしても、嵩張って邪魔になるだろう。

食用に使えないなら、運ぶ必要性も見いだせなかった。


「腱は使えそうでしたが?」

「それにしてもだ

 職人は居ないし、ここで弓の弦には加工出来ないだろう?」

「そうですね」

「勿体ないですが、荷物が増えますからね」

「ああ

 放って置けば、他の魔獣や獣が食べるだろう」


ギルバートはそう言って、戦利品の皮や魔石を見る。

魔石はすぐにでも使えそうだったが、火付けに使うには勿体無い。

それに加工するには、やはり職人が必要だった。

皮や爪なども、それは同じである。

結局このまま、街に戻るまでは荷物にしかならなかった。


「馬車の荷にはまだ余裕があります」

「そうだな」


歩兵達を乗せていた馬車を、そのまま荷運び用に使っている。

だから少々の素材なら、今のところは問題無かった。


「肉が獲れればな…」

「ふん

 この辺りではグレイ・ベアぐらいしか食えん

 そこは我慢しろ」

「ああ」


アモンの調査でも、食用に向いた魔獣は少なかった。

アーマード・ライノという蜥蜴なら、それなりに美味い肉になるらしい。

しかし肝心のアーマード・ライノは、この先の山岳地帯まで現れないらしい。

それまでは、干し肉が貴重な肉となっている。


「アーマード・ボアやワイルド・ボアが居ればな…」

「仕方がないじゃろう

 ワシの領地でも滅多に見ないんじゃ」


アモンの城には、鹿や熊の肉が蓄えられていた。

この周辺では、ボアの類はあまり住み着かないらしい。

他の魔獣や魔物の気配で、危険を察知してすみつかないのだろう。

だからこの周辺では、ボア肉は希少だった。


「焚火は絶やさぬ様にな

 グレイ・ウルフも火を嫌う」

「しかしあれだけ大きいんじゃ、効果無いんじゃないか?」

「ううむ

 しかし狼は火や水を嫌うからのう

 ここは安全じゃと思うぞ」

「そうか?」


しかしギルバートは安心していなかった。


「なあ

 この辺りの魔獣はあれだけか?」

「そうですね

 ロック・センピートはここらでは珍しいですし…」

「後はウオーター・サーペントぐらいですかね」


ハイランドオークに確認すると、予想通り他にも居る事が分かる。


「ウオーター・サーペント?」

「ええ

 水を好む大型の蛇の魔獣です」

「大体5mぐらいの大きさですかな」

「そんな!

 そんな大きさなら、人間なんて一飲みじゃあ…」


ギルバートはキッと、アモンの方を睨む。

アモンは慌てて、素知らぬふりをする。


「おい!」

「ですが今は、周囲には居ませんよ」

「そうか…」


「ですが蛇の魔物です

 暗闇には…

 特に暗い時間に、川のほとりは気を付けてください」

「分かった」


蛇の魔物なので、目が見えなくても体温で感じられる。

暗い時間に川から襲われたら、非常に危険だろう。


「居らんのなら危険じゃ無いじゃろう?」

「アモン様…」

「油断は禁物ですよ」

「まあ、アモン様なら食われても、中から切り裂くでしょうが」

「食われたくは無いわ

 血で汚れるし」

「そんな問題か?」


確かにアモンやギルバートなら、丸飲みにされても大丈夫そうだろう。

中から剣で引き裂けば、容易に倒せそうな気もする。

しかし騎兵や馬では、そうはいかないだろう。


「全く…

 だから安心出来ないんだよ」

「何じゃと?」

「どこか抜けてるから」

「すいません」

「我が主が御迷惑を」

「いや、謝るのはアモンの方だから」

「何じゃと!」

「何だよ!」


二人は睨み合うと、さっそく剣を抜いて切り合いを始める。


「ああ

 また始まった」

「夕食までには終わってくださいよ」

「やれやれ」


ハイランドオーク達も、慣れた感じで二人の周りから離れる。

それから暫く、二人は実戦訓練を行うのであった。


「ウオーター・サーペント

 美味しいのに」


ハイランドオーク達は、そう言って溜息を吐くのであった。

まだまだ続きます。

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