第531話
ギルバート達は、森を抜けて平原に出ていた
ここは魔王の城のある山脈から、森を南東に抜けた先になる
北の大地の南西の端に当たる場所である
魔物はまだ、そこまでの強さの物は現れない
しかしそれでも、ランクEの魔獣が現れる危険な場所だ
ギルバート達の目の前には、危険なランクEの魔獣が現れている
グレイ・ウルフと言う狼の魔獣で、その体高は2m近くの大きさだ
馬に乗った騎兵でも、その大きさは十分な脅威だ
そんな魔獣が、目の前に6体も現れていた
「オレの拘束が効いている間に、さっさと倒すんだ」
「はい」
「うおおおお」
ギャン
アーネストが拘束の茨を使い、魔獣を拘束していた。
ここは自然の力が大きいので、茨の拘束力も増している。
しかしいくら強力な拘束力でも、4体を押さえるには相応の魔力が必要だ。
アーネストの拘束も、そんなに長時間は続かない。
「どうする?
ワシも手伝おうか?」
「そうだな
拘束出来ていない魔獣が2体居る
私とアモンでそいつを押さえよう」
「了解だ
お前となら造作も無いだろう」
「なら良いのだが…」
グレイ・ウルフは、初めて戦う魔獣だ。
その生態も能力も知らないのだ。
どんな力を持つか分からない以上、迂闊に攻めるのは危険だ。
「私があっちの左の魔獣を押さえる
アモンは右を頼む」
「ふっ
造作も無い」
「気を付けてくれ
騎兵達は今の内にそいつらを倒してくれ」
「はい」
拘束した4体を任せて、ギルバートは左の魔獣に向かう。
馬の機動力でも、大きな魔獣を追うのは難しい。
ギルバートは慎重に進んで、狼を近付けなくさせる。
「良いのか?
ワシ等なら簡単に倒せるぞ?」
「はあ?
ランクEの魔獣だろ?
そんな簡単に…」
「何を言う
不完全とはいえ、ランクDのドラゴンを狩ったのだろ?」
アモンが言うのも尤もだった。
ドラゴンに比べれば、こんなのはただの犬だろう。
ギルバートは苦笑いを浮かべると、目の前の魔獣に集中する。
「ドラゴンか…
確かに比べれば」
ガウ
グレイ・ウルフは確かに大きな魔獣だ。
しかしブレスの様な能力を持っていない。
危険なのは素早く動ける巨体という事だけだ。
ガルルル
「ふっ
甘い!」
ギャイン
アモンは素早く身を躱すと、下から鋭い爪で切り上げる。
アモンの戦闘スタイルは、小型の剣やダガーを素早く振り回す攻撃だ。
獣人化した時の爪の代わりに、両腕の剣を素早く振り回す。
しかし移動スピードはそこまででは無いので、魔獣を引き付ける必要があった。
わざと隙を見せて、近付いたところでカウンターを放つ。
それが彼の基本戦術である。
「食らえ
我が漆黒の双剣術を!
黒嵐双剣!」
グギャン
近付いた魔獣は双剣に跳ね上げられて、無防備に宙に舞った。
そこにアモンは踏み込むと、両手の剣を素早く振り回した。
魔獣は手足を切り飛ばされて、止めに首を刎ねられる。
「凄い!
あれはアモンのスキルか?」
ギルバートは視界の隅で、アモンの剣術を見る。
その圧倒的な一撃から、何かのスキルだと感じたのだ。
「ぐはははは
どうじゃ!
ワシの力は」
「もう
アモン様」
「こんなに切り裂いたら、素材として使えませんよ」
「あ…」
「大体スキルも使えないのに、何が黒嵐双剣ですか」
「ただ剣を振り回しているだけでしょう」
「へ?」
何かのスキルに見えたが、実は単純な双剣の連撃だ。
それを技名を叫んで、スキルの様に見せていただけなのだ。
「何だよ
スキルだと思ったのに」
ギャイン
「そもそも、魔王はスキルを使えません」
「というか、身に着かないんですよ」
「強力な力にスキルまで付いたら、危険ですからね」
「そうなんだ」
グギャン
「どうせ格好付けたくて、叫んだのでしょう?」
「アモン様はスキルに憧れていましたからね」
「ぐ、ぬぬぬ…」
アモンは顔を赤らめて、双剣を握ったまま唸っていた。
どうやらハイランドオーク達の指摘が正しくて、恥ずかしくて苦悶している様だ。
その間にギルバートは、無意識に襲い掛かる魔獣の攻撃を躱す。
視線は横を向いているが、殺気に反応してカウンターまで放っていた。
「はははは…」
ギャウン
魔獣の首が宙を舞い、気が付くとギルバートは倒していた。
「さすがにそれは…
恥ずかしいかな」
「何を言う!
技名を叫んで、必殺の一撃を放つ
格好いいじゃないか」
「いや、そりゃ分かるが…
あ!」
気が付けば魔獣が倒れていて、ギルバートは困った顔をする。
「こんな物なのか?」
「ん?
まあ、グレイ・ウルフじゃからな」
騎兵達の方を見ると、そちらも粗方片付いていた。
騎兵隊は鎌を振るって、先ずは手足を切断する。
これで動き回れなくなるので、後は牙が危険なだけだ。
それから背後から心臓を狙うか、首を刎ねる事になる。
騎兵達はそうやって、何とか4体の魔獣を倒した。
「ぐはははは
やるではないか」
「え、ええ…」
「まあ、拘束されていましたし」
「それにこいつ等に比べたら…」
ハイランドオーク達も、ランクからすればEランクに当たる。
本来は上位種は一つ上のランクになるのだが、彼等は魔王に鍛えられている。
だからオーガ等のランクFを越えて、ランクE相当に当たるのだ。
そんなハイランドオーク達に比べると、ギリギリランクEのグレイ・ウルフは大して強く無いのだ。
それに加えて、アーネストの拘束魔法の効果もある。
近付いて噛まれれば危険だが、手足も動かせないのだ。
鋭く大きい爪に襲われる心配も無い。
それで勝てない訳は無いだろう。
「そうじゃな
所詮はランクE程度の魔獣じゃ
こいつ等なら倒せるじゃろう」
「アモン様」
「それは無茶ですよ」
「いくら私達でも、この魔獣には負傷しますよ」
「がはははは
負傷で済めば良いがな」
「アーネストが拘束していてくれたからだ
油断はするなよ」
「いや、殿下がそれを言いますか?」
「そうですよ
余所見しながら倒すなんて…」
確かにギルバートは、アモンの方を見ながら戦っていた。
しかしそれは、殺気に反応出来ると判断していたからだ。
結果として倒せたのは、半分偶然と言えよう。
油断してると判断した魔獣が、正面から突っ込んで行ったのだ。
そこにカウンターが入ったので、魔獣はあっさり切り殺されていた。
あれが動きに翻弄されていたら、もう少し手間取っていただろう。
「ギルバートが苦戦?
それは無いじゃろう」
「どうしてそう言い切れるんです?」
「そもそも、こいつ等は図体が大きくなっただけじゃ
フォレスト・ウルフとそう大差無いわ」
「いや、それが言えるのは殿下や魔王だけでしょう?」
「そうですよ
我々にとっては、フォレスト・ウルフも十分に脅威ですよ」
「そうか?」
アモンは首を捻りながら、騎兵達を見る。
「お前達は、実はランクEの魔獣と戦えるまでの実力を身に着けておる
こいつ等と戦えるのが何よりの証拠」
「それは1対1の話でしょう?」
「複数に囲まれれば…」
「グレイ・ウルフがランクEなのは、群れを作るからじゃ
実際のランクは、ランクFに当たる
意味は分かるな?」
「え?」
アモンは振り返ると、戦闘に参加していなかった騎兵達を見る。
「お前達の目から見て、これの動きは追えなかったか?」
「それは…」
「動きは早かったけど、見失うほどでは…」
「そういう事じゃ
見失わなければ、何とか対処出来る
その程度という事じゃ」
確かに身体は大きいし、動きはその分素早かった。
しかし身体が大きい分、見失う事は無かった。
眼で追う事が出来れば、後は攻撃に対処出来れば問題は無い。
そして鋭い爪も、防具のプレート部分なら防げる程度だった。
さすがに衝撃は受けるし、牙は防げないだろう。
しかし冷静に対処出来れば、倒せない魔獣でも無いのだ。
「その防具の装甲は、爪程度では破壊出来ないじゃろう
それならば、まともに受けなければ何とかなる」
「確かに…」
騎兵達は、改めて魔獣の姿を観察する。
見た目の大きさに恐れていたが、爪に関してはワイルド・ベアの方が危険だろう。
ワイルド・ベアの一撃は、大木をへし折っていた。
それに比べれば、グレイ・ウルフの爪はそこまで脅威を感じさせない。
「さあ、魔石と皮を回収しよう
牙や爪も使えるかな?」
「ああ
磨けば武器にも使える
序でに回収しておけ」
騎兵達に回収は任せて、ギルバートは馬車の方に戻った。
「アーネスト
付近に他の魔獣は?」
「何体か居たが、戦闘の後には何処かに行ったよ
大方こいつ等の仲間だろう」
「そうなると、早目に離れた方が良いな」
「そうだな
血の臭いに惹かれて、他の魔獣も来るだろう」
素材を回収すると、ギルバート達は早々と移動を再開した。
魔獣がmぽどって来る恐れもあるし、何よりも他の魔物が近寄って来るからだ。
ここに残っていては、連戦になる恐れもある。
それならば早目に移動して、水場を探した方が良いだろう。
ギルバートは一旦移動を中断して、馬車の窓に近付いた。
「近くに川は無いか?」
「そうだな
オレの魔力感知では、それは無理だからな」
「アモンは…
知らないか」
ギルバートは質問仕掛けて、アモンが嫌そうな顔をするのを見た。
馬を降りて周囲を見回すが、近くに水の流れる音は聞こえない。
「ワシが知る訳無かろう
この辺には来た事が無いと言っただろう」
「え?
そんな話は…」
「アモン様
この先に泉があります」
「本当か?」
「何で知っている?」
「え?
私達は探索で回っていますから」
「え?」
「アモン?」
アモンは誤魔化す様に、そっぽを向いた。
「アモン様
私達に命じましたよね?」
「城の周囲を見回れと」
「鍛錬になるから、序でに魔獣との戦闘も経験しておけと」
「え、ええっと…」
「覚えていないんですか?」
「そんな!
泉や丘の件も報告しましたでしょう」
アモンはどうやら、ハイランドオーク達に探索をさせていた。
周辺の確認と、戦闘経験をさせる為だろう。
そこまでは良かったが、問題は本人がその指示を忘れていた事だ。
報告も受けていたのに、すっかり忘れていたのだ。
「ええっと…」
「なあ
どこまで見回ったんだ?」
「はい
こちらが見回った範囲の地図です」
ハイランドオークは、ギルバートに羊皮紙の地図を差し出す。
そこには竜の顎山脈の周辺と、この平原の一部が描かれている。
中には丘や森も記されており、泉や小川の位置も記載されている。
飲み水に適さない物は、その事も記載されていた。
「これは詳細な地図だな」
「はい
ここ数年の見回りの成果です」
「え?
ここ数年?」
「はい
何度か交代で巡回しましたから」
「おい!」
ギルバートが振り返ると、アモンは慌てて視線を逸らす。
「おい!
そんなに何度も向かわせておいて、忘れるってのは酷く無いか?」
「だってしょうがないじゃろう
ワシだって他の仕事があって…」
「だからって…」
「アモン様を責めないでください」
「そうですよ
私らは慣れっこなんで」
「そうですよ
この間だって、訓練だって放り出されて3日も忘れ去られて…」
「あの時は死を覚悟した」
「何とか戻れて良かった…」
「おい!」
アモンはそっぽを向いて、何とか誤魔化そうとする。
仕方が無いので、アーネストが二人の間に割って入る。
「ギルも他人の事を言えないだろう?
訓練を命じて、暫く放置した事があるだろう」
「そうですね」
いつまでも帰って来ないので見に行ったら、アーネスト様と話し込んでいましたもんね」
「あれは忘れた訳じゃあ…」
「忘れてましたよね?」
「い、いや…」
「何じゃ
ワシの事を言えんじゃないか
ぷぷぷぷ」
「このっ!」
アモンに笑われて、ギルバートは鋭く睨み付ける。
「何じゃ?」
「何か腹立ってきた」
「なんじゃと!」
「何だよ!」
「いい加減にしなさい!」
二人が睨み合っていると、馬車から皇女が降りて来た。
「いつまでじゃれ合っているのよ!」
「いや、これは…」
「じゃれ合っている訳では…」
「いい加減になさい!
ここに留まってどうするの?
まだそんなに離れていないのよ」
「それは…」
「さっさと水辺に移動しましょう
水で洗い流さないと、魔獣が寄って来るわよ」
「はい」
「すいません」
「良いから!
さっさと行く!」
「は、はい」
皇女の雷が落ちて、二人はすっかり大人しくなった。
その様子を見て、アーネストはニヤニヤと笑っていた。
「アーネスト!」
「ん?」
「あんたもさっさと乗りなさい
置いて行くわよ」
「あ、ああ…」
「やーい
怒られてやんの」
「おい
止めておけ
ワシ等もまた怒られるぞ」
「なに?」
「い、いえ
何でもありません」
「ただちに移動します」
二人は慌てて馬に乗ると、再び移動の列に加わる。
アーネストも皇女に睨まれて、慌てて馬車に飛び乗った。
再び移動が再開されたが、それか程なく、小さな泉が森の脇に見付かった。
「これが泉か」
「さすがに複数人が浸かれるほどではありませんね」
「ああ
しかし返り血を洗い流せるだろう」
「はい」
一行は泉の側で小休憩を取り、昼食に取り掛かる。
昼食と言っても、黒パンと干し肉、それに水を飲むぐらいだ。
それでも休憩出来ると、騎兵達は馬を降りる。
そして馬に水をやりながら、自分達も返り血を洗い流した。
「地図を見ると、この先に小川があるな」
「はい
しかし平原ですので、周囲の警戒は必要ですよ」
「そうだな
しかし距離から考えても、今夜はそこで野営だな」
「はい」
ギルバートは野営の事も考えて、手の空いた者に薪を集めさせる。
小川の周辺は平原なので、薪になる木があるとは限らないのだ。
こうして一行は、小休憩の後に移動を再開する。
野営をする為に、小川のほとりまで向かうのだ。
時刻は既に昼を回り、太陽は頂点を越えていた。
まだまだ続きます。
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