第530話
ギルバート達は、竜の顎山脈の近くに居た
竜の瞳城の麓から、女神の神殿のある北の大地に向かっていた
先ずは森を抜けて、東に向かう事になる
そのまま森に沿って進み、平原に出る予定になっていた
ギルバートはアモンから、カイザートの話を聞いていた
この辺りは魔物も少なく、そのまま進むのも暇だったのだ
カイザートの最期を聞いて、ギルバートは憤っていた
前にも聞いた事があったが、それはあまりにも酷い話だったからだ
「酷い事を…
遺体は無数に刻まれて、肉塊と化していたそうじゃ」
「酷いな…」
「そしてアルサードも狙って、奴等は悲しむ彼女に手を掛けようとした」
「くっ!
聞くに堪えられん内容だな」
ギルバートは不快そうな表情をして、歯軋りをしていた。
それを見て、アモンは申し訳無さそうに謝る。
「すまん…」
「いや、悪いのは当時の帝国の奴等だ
それはとても許される事では無い」
「ああ
アルサードが怒るのも当然じゃな」
「そのアルサードも…」
「ああ
自害するのに、炎の魔法を使った
それで帝都は炎に包まれて、ほとんどが消失しておった
ワシが辿り着いた時には、ほとんどが灰になっておった」
アモンはそう言って、悲しそうに首を振った。
それで帝都は消失して、新たな帝都がその近くに造られた。
しかし帝国の民は事実を伏せられて、皇帝が毒殺されたとだけ知らされた。
帝国の貴族の醜聞を、広める訳にはいかなかったのだ。
「しかし、いくら問題があるからって…
皇帝を暗殺した事を伏せたのか?」
「ああ
毒殺されたとだけ発表して、アルサードの死も誤魔化されていた」
「どういう風に?」
「本当はアルサードを手籠めにしようとしてたクセに、彼女の死を自害にしおった」
「自害は自害じゃあ…」
「いや
皇帝の死を哀しみ、自刃して後宮に火を放った事にしおった
それで帝都の焼失も、彼女のせいにされておった」
「何だって?
それは貴族達が原因じゃあ…」
「ああ
自分達の失態を誤魔化す為じゃ」
「くそっ!
最悪だな」
ギルバートは話しを聞いて、不快そうに顔を顰める。
しかし気になったのか、アモンに再び質問した。
「なあ
ところで手籠めって…」
「おい!」
アモンは呆れた顔をして、ギルバートを見ていた。
「はあ…
本当に知らんのじゃな」
「すまん」
「手籠めとは…
あれじゃ」
「あれ?」
「ほら、人間の男女は無理矢理…そのう」
アモンはもじもじしながら、どう答えた物か思案していた。
「ええっと?
つまりどういう事なんだ?」
「ワシ等獣人は、力づくで男女の事をするのが当たり前でのう
しかし人間はそれが、犯罪としておるじゃろう?」
「え?
それって…」
「ああ
そういう事じゃ」
アモンは恥ずかしそうに頷いた。
「そんな
皇帝を殺しておいて、その奥様を?」
「ああ
それで子供が出来れば、その子が次期皇帝じゃからな
それを狙っての事じゃろう」
「はあ?
馬鹿じゃ無いのか?
そんな事しても、その子は皇帝であるカイザートの子じゃあ無いだろ?」
「それでも屁理屈着けて、どうにかしようという考えじゃろう」
「はあ…」
ギルバートは呆れて、思わず溜息を吐いていた。
「そんなの屁理屈着けても…」
「それが通ると思っておるから、行動を起こしたのじゃろう」
「何だか…
聞いてて頭が痛くなるな」
「そう思うのは、お前がまだまともじゃから…
宮廷の汚れ仕事を知らんからじゃろう」
「宮廷の汚れ仕事?」
「ああ
そういうのは、小僧の仕事じゃろう」
「アーネストのか…」
「ああ
あ奴は目端が利く」
「そうか…」
ギルバートは汚れ仕事とは何か、今まで聞いた事も無かった。
アーネストがしているとなると、恐らくギルバートに隠しているのだろう。
汚れ仕事と言うぐらいだ、人前で話せる事では無いのだろう。
「小僧には感謝すべきじゃぞ
お前が傷付かない様に動いていた筈じゃ」
「そうだな
あいつにはいつも感謝してばかりだ
こんな私に文句も言わずに、黙って着いて来てくれている」
「ふふふふ
まるでカイザートとアランじゃな」
「え?」
「アランもカイザートの親友で、遊牧民の村からの付き合いじゃ」
「へえ…」
「遊牧民の村に住んで居た頃から、あの二人は仲が良かった」
「その人もアーネストみたいに、魔法が得意とか?」
「いや
魔法はからっきしじゃったが、剣術が得意でのう
カイザートの護衛として戦っておった」
「へえ…」
「生きておれば…
いや、それは無いかのう」
「え?
さすがにそれは無いだろう?」
「いや、分からんぞ?
何せあいつもガーディアンじゃった」
「え?
ガーディアンって…」
「ああ
ワシと同じ様な、使徒や魔王になれる者じゃ
小僧にもその才能がある
もしかしたら…」
「そうか
アーネストも長生き出来るのか」
「ああ
しかし不死身では無いからな
カイザートの様に殺されたらお終いじゃ」
「ああ…」
いくら寿命が長くても、殺されれば簡単に死んでしまう。
それはギルバートやセリアも同じ事だ。
二人で長く生きて行く為にも、先ずは女神の行動を止めなければならない。
その為には、この北の大地を先ずは無事に抜けなければならない。
「さて
そろそろ森を抜けるぞ」
「ああ
どんな場所なんだ?」
「ふふふふ
見てのお楽しみだ」
森を抜けて獣道が続く、開けた場所に出る。
そのまま道を進むと、そこは開けた場所になっていた。
「ここが平原か」
「ああ
広いからな、向こうは見えないだろう」
「そうだな…」
そこは本当に何も無い、開けた平原になっていた。
見渡す限りになだらかな草原が広がり、足元には草がまばらに生えている。
「季節が良ければ、ここには花が咲き誇る」
「なるほど、確かに草が多いからな
花が咲いたら美しいだろうな」
幸い近くには魔物は居ないので、一行はゆっくりと平原を進む。
この辺りに多く潜むのは、狼型の魔獣のグレイ・ウルフになる。
狼と同じ様に群れを組み、小型の野生動物や人間を襲う。
しかし何故か、この平原の外には見掛けられなかった。
「なあ
ここには狼の魔獣が居るんだろう?」
「ああ
グレイ・ウルフは群れを作るからな
注意しろよ」
「それなんだが…
何でここだけなんだ?」
「ん?」
「いや、そんな魔獣が居るのなら、周辺に居てもおかしく無いだろう?」
「そういえばそうじゃな…」
アモンもそう言われて、確かにそうだと気が付く。
「確かにこの辺り以外では、グレイ・ウルフは見掛けんのう」
「不思議だな」
「ああ
恐らくは群れを作る魔獣じゃから、他の場所には向かわないんじゃないのか?」
「そういう物か?」
「さあな」
二人が話しながら進む間に、馬車の中ではアーネスト達がポーションを作っていた。
皇女とアーネストが、薬草を煎じてポーションを作っていた。
二人は話しながら、薬草を煎じていた。
しかしギルバート達が近いので、外の話も聞こえてきた。
「うう…
皇家のせいで…」
「気に病む必要は無いでしょう
それは過去に起きた事だし
何なら今の皇家は、その事件の関係者では無いでしょう」
「いいえ
それでも私達の先祖がした事は、重罪に当たります」
「はあ…
気にする事も無いと思うがな」
マリアーナ皇女は、ギルバート達の話し声を聞いていた。
そしてカイザートの話を聞いて、心を痛めていた。
アルマート公爵からは、それと無く概要は聞かされていた。
しかし今聞いた内容は、それよりも酷い内容だった。
「カイザート様を殺した事もですが…
アルサード様まで…」
「そうだな
確かにあれは酷い
いくら皇家の権威に目が眩んだとはいえ…
夫を殺しておいて、その奥さんを狙うとはな…」
「うう
恥ずかしい限りです」
皇女はすっかり落ち込んで、暗い顔で項垂れていた。
「まあ、皇女が気に病む必要は無いぜ
過去の事だ
大事なのは、今後どうするかだ」
「それはそうなんですが…」
「それに皇家に関しても、帝都が滅んだ今は関係無いだろう?
なんせ治めていた領地も無くなったんだ」
「そうですが…
それで良いんでしょうか?」
「言っただろ?
過去がどうとか、そんな事言ったらキリが無い
大事なのは過去を知り、それを繰り返さない事だ」
アーネストはそう言って、作った薬液を瓶に流し込む。
これに水を加えて、患部に振り掛けるポーションにするのだ。
飲んでも良いのだが、患部に掛けた時よりも効果が落ちる。
それに薬草の臭みが強烈で、あまり飲むにはお勧め出来ないだろう。
「例えばさ
オレが今、皇女を無理矢理襲ったとする」
「え?
良いんですか?」
「ん?」
「いえ
何でもありません」
「オレが無理矢理襲ったら、オレは犯罪者だ
しかしオレの娘には…
ジャーネには責任が無い」
「それはそうですわ
あの子はまだ小さいですし、父親の罪を追求するなんて…」
「だろう?
だからこそ、皇女にも罪は無い」
「しかし…」
「まあ、難しく考えなさんな
責任とか感じても、今さらどうにも出来ないだろう?」
「それはそうなんですが…」
皇女はそう言って、同じ様に煎じた薬液を瓶に入れる。
薬草を煎じているので、馬車の中は青臭い臭いが充満している。
その匂いが嫌だったのか、セリアは別の馬車に乗っていた。
今はこの馬車には、アーネストと皇女しか乗っていない。
「ジャーネちゃん
可愛かったな…」
「だろ?
うちの娘は可愛いんだ
だけど将来が心配だな…」
「え?」
「変な男が寄って来たら
オレは魔法で殺す自信がある」
「殺しちゃ駄目!」
「そうか?
うちのジャーネに言い寄る男は、全て殺して良いと…」
「駄目ですって
そもそも今からそれでは、娘さんに恋人が出来たらどうするんです?」
「それは魔法で追い払うか…
あるいは一思いに殺して…」
「だから駄目ですって!」
「そうか?」
アーネストは物騒な冗談を言いながら、薬草をゴリゴリと煎じる。
既に慣れて来たのか、次々と煎じては瓶に詰めていた。
「大体、娘の恋人を殺すなんて…」
「そうかな?
娘が居る父親なら、誰だってそう考えるだろ」
「いえ、そんな事は…」
皇女は慣れていないので、ゆっくりと次の薬草を擂り潰していた。
薬草を擂り潰すのもだが、魔力を込めることにも慣れていない。
だからどうしても、アーネストのペースよりは遅かった。
「アーネスト様は家庭的でお優しいのに、どうしてそんなに娘さんの事になると…」
「そうかな?
世間的には、娘が居る父親ってこんなもんじゃないか?」
「そうですか?」
皇女はそう言いながら、ぽそりと呟く。
「アーネスト様となら私…」
「え?」
「い、いえ
な、何でも無いです」
皇女は慌てて、乳鉢をひっくり返しそうになる。
「おっと」
「す、すみません」
「大丈夫か?
疲れてるんじゃ…」
「いいえ、大丈夫です
本当に大丈夫ですから」
皇女はそう言いながら、乳鉢に魔力を放出する。
「うん
大分安定して来たな」
「そうでしょうか?」
「ああ
この調子なら、良いポーションが出来るぞ」
「はい
頑張ります」
皇女はそう言って、薬液を瓶に詰める。
そうして次の薬草を手にすると、再び擂り潰し始める。
「そういえば…
ポーチのサイズはどうなった?」
「それが…」
皇女はそう言って、ポーチを取り出すと中身を見せる。
「少しは入る様になりましたが、まだまだです」
「そうだな
やっぱり使う者の魔力が、マジック・バッグのサイズに影響するってのは本当だな
魔力が増えてくれば、容量も増えると思うよ」
「本当ですか?」
皇女は嬉しそうに微笑むと、中身をポーチの中に戻す。
すると外から、緊張した騎兵達の声が聞こえた。
「ま、魔獣が出たぞ」
「どこだ!」
「狼の群れが向かって来ます」
「よし、すぐに間合いを開けて迎え撃て」
「はい」
「魔獣ですか?」
「ああ
狼の魔獣らしい
オレも出るよ」
「気を付けてください」
「ああ
大丈夫だ、問題無い」
アーネストは停まった馬車から降りると、ポーチから杖を取り出す。
「お?
アーネストも戦うのか?」
「いや、オレは騎兵達のサポートだ
狼なら素早いだろう?」
「そうだな
拘束してくれるか?」
「任せておけ」
アーネストが呪文を唱え始めたところで、前の方が騒がしくなる。
「来たぞ!」
「うわっ!
大きな狼だぞ」
「危険だから3人一組で迎え撃て」
「はい」
「見えるか?」
「ああ
大きいから十分に狙える」
グレイ・ウルフは素早かったが、大きさが大きいので的としては狙い易かった。
騎兵達も取り囲むと、鎌を構えて狼達と対峙する。
「大きいな
2mは越えそうだぞ」
「ああ
グレイ・ウルフは中型の魔獣だからな」
「え?
中型?
あれで?」
「ああ
お前らが戦ったドラゴンもな、本来ならもっと大きいサイズの筈だ
確か5mぐらいに育つ筈だ」
「5mって、まるで城壁だな」
「ああ
だからあのぐらいでは、まだまだ中型のサイズだ」
アモンに言われて、ギルバートは改めて魔獣の大きさを見る。
確かに大きいが、騎兵の高さに比べると何とかなりそうだった。
しかし数は多いので、油断の出来る相手では無い。
騎兵は警戒しながら、ゆっくりと魔獣の周りを回る。
「アーネスト
頼むぞ」
「任せろ
ソーン・バインド」
アーネストが呪文を唱えて、茨の拘束を用いる。
ここは平原なので、自然の魔力が多く存在する。
茨は大人の腕程の太さで、魔獣を足元から絡めとる。
近くに現れた魔獣は6体で、そのうちの4体が茨に絡めとられた。
「行くぞ!」
「おう!」
騎兵達はそんな魔獣の姿を見て、一気に倒そうと考えた。
気合の入った声を上げると、彼等は身動きの取れない魔獣に向かって行った。
まだまだ続きます。
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