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聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
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第526話

魔王城の横にある訓練場で、騎兵達はハイランドオーク達と対峙していた

互いに武器は構えているものの、その目は互いの動きに集中していた

これは訓練であって、殺し合いでは無い

だから武器も、刃を潰した訓練用の物を使っていた

ハイランドオークは、基本はオークの上位種になる

だから動きに関しては、騎兵よりも遅くなる

しかしギルバートとアモンの戦いの様に、力で騎兵に勝っている

だから手数を増やしても、弾かれて距離を取られていた


「うおおおお」

「ふん」

ゴギャン!


「っく!」

「ふごおおお」

ゴスン!


「甘い」

「まだまだ」

ガキン!


騎兵の鋭い突進からの突きを、ハイランドオークは力任せに弾く。

そこから強烈な一撃を振り下ろすが、騎兵はそれを躱しながら横薙ぎに振るう。

ハイランドオークはそれを受け止めて、再び膂力で弾き飛ばした。


「ううむ」

「どうだ?

 少しはマシになったか?」

「ああ

 少しは、な

 しかし半数にも満たないぞ」

「そこなんだよな…」


騎兵達の動きは、ここ数日で格段に良くなっていた。

先日の皇女との衝突から、騎兵達の意識が変わった様に見られた。

実はその後にも、ギルバートとアモンの会話も聞かれていた。

その会話があったからこそ、兵士達もやる気を見せていた。


「奴等の意識が変わった事が重要じゃ

 このまま数日鍛えれば…」

「お前の眼鏡にも適いそうか?」

「ああ」

「そうすればいよいよ…」

「ああ

 神殿に向かう事になるな」


アモンはここ数日、ギルバートの提案を却下して来た。

焦って神殿に向かっても、返り討ちに遭うのが関の山だからだ。

ギルバートの焦る気持ちも分かるが、兵士達の練度が足りていないのだ。

いくらここでの訓練が有用と言っても、そんな数日では劇的には変わらない。

先ずは最低限の、地力を着ける必要があるのだ。


「歩兵に関してはどうだ?」

「そうじゃな

 やはり国境までじゃな」

「そうか…」


「そこまでに戦う技術が身に着けば…

 しかし難しいじゃろう」

「そうだろうな

 騎兵達に比べて、彼等は訓練の期間が浅い」

「うむ

 無理に連れて行っても、若い命を散らすだけじゃ」

「ああ

 彼等には残ってもらうか」

「うむ

 そこは任せてもらってもよい

 ワシが居なくなっても、あいつ等なら安心して任せられる」


アモンはギルバート達と、暫く同行すると言ってくれていた。

それは力を身に着けても、暫くはそれを慣らす必要があるからだ。

ギルバートも称号を授かった際に、暫く上手く扱えなくて苦労していた。

だからこそその申し出は、ありがたいと思っていた。


「しかし良いのか?

 そうなればここは…」

「なあに

 無人にする訳では無い

 幾人かの部下は残して行く

 そいつ等と訓練すれば、あいつ等も少しは戦える様になる」


もう一つの申し出は、ハイランドオークとの訓練だ。

歩兵やカザンの兵士達を、ここで鍛えてくれると言うのだ。

その事はカザンにも、伝令を送って報せている。

それでこの周辺の警備が強化されれば、魔獣に怯える心配が少なくなる。

しかしそれには、少なからぬ問題が残っていた。


「だが、他の魔物が…」

「構わん

 あ奴等は獣並みの知性しか与えられておらん

 可哀想じゃが、人間と生きて行く事は無理じゃろう…」


多くの魔物は、産まれた時に知性を授かっていない。

ハイランドオークの様な、上位種で無いとそれは無理なのだ。

そして知性が無い故に、他の生き物との共存は無理だった。

だから魔王達も、魔物に関しては諦めていた。


「もう少し…

 以前の様に知性を与えてくだされば…」

「知性って…

 ゴブリンやコボルトもか?」

「ああ

 ホブゴブリンやハイコボルドは、知性と文化を確立出来る

 しかし女神様は、今のゴブリンやコボルトには…」

「ホブゴブリンとハイコボルド?

 それが上位種って奴か?」

「ああ

 教育さえしっかり出来れば、獣人と変わらない種族になる筈だった」

「筈だった?」

「ああ

 それも古代魔導王国に滅ぼされた

 今のゴブリンやコボルトは、知性も文化も失った獣と変わらない存在だ」

「そう…なのか」


ここでも古代魔導王国の、原罪が示されていた。

人間はそうやって何度も、女神の差し出した手を振利払って来たのだ。

そう考えれば、人間の行って来た罪は重い。

滅ぼされても文句は言えないだろう。

だからと言って、このまま滅ぼされる訳にもいかない。

今の人間達にも、生きて行く権利はある筈だから。


「そうやって酷い事をして来た人間が…

 私達が生きたいというのは罪なのかな?」

「そんな事は無い!

 いくら女神様の決定とはいえ、ワシは反対じゃ

 他の魔王達も、恐らく同じ気持ちじゃろう」

「良いのかな?」

「ああ

 この世に産まれて来たんじゃ

 生きる権利は平等にある」

「しかしそれなら…

 ゴブリンやコボルトも生きる権利が…」

「じゃから戦って殺す

 強い者が生き残るのもまた、自然の摂理じゃ」

「そうか?

 何だか矛盾している様な…」


ギルバートは自分達が、女神や使徒に優遇されている事に疑問を感じていた。

女神の事情を知れば知るほど、その思いは大きくなっていた。


「難しく考えるな」

「しかし…」

「生き残れる選択肢が残されている

 それならそれに縋るのは、決して罪では無い」

「だけど…

 人間ばっかり優遇されている様な…」

「そうじゃな

 女神様が何を思って、そされておるのか?

 しかし優遇されておるからこそ、それに胡坐を掻いてはいかん

 お前はそれを理解しておるじゃろう?」

「ああ…」


それを当たり前と勘違いしたからこそ、過去の人間達は過ちを犯して来た。

他の種族を冷遇したり、世界の主の様に振舞って来た。

その結果は、悲劇的な破滅によって終わっている。

そう考えるのなら、自分達も道を誤ればそうなるのだろう。


「お前達はそうなるな

 まあ、お前は心配なそうじゃが…」

「そんな事は無い

 私だって、こんなに優しくされれば勘違いしそうだ

 人間だけは生きてて良いんだって思ってしまう」

「そうじゃな

 しかしお前は、他の者も生きて欲しいと願っておる

 その気持ちを忘れるな」

「ああ…」


ガキン!

「はあ、はあ…」

「それまで!」


「やった

 初めて引き分けれた」

「やったな」


「ぐう…

 油断した」

「しかし凄かったぞ」

「ああ

 あいつも強くなっていた」

「人間

 少しずつ強くなっている…」


引き分けたハイランドオークも、悔しそうだが騎兵を称賛していた。


「オレはテリーって言うんだ

 お前は?」

「オレ?」

「ああ

 名前ぐらいあるんだろう?」

「アモン様?」


ハイランドオークは困った顔をして、アモンに何か求めていた。


「良いじゃろう

 お前の名を教えてやれ」

「良いのですか?」

「ああ

 お前とそいつ…テリーは、今日から戦友じゃ」

「はい」


「テリー

 オレの名はガブル

 ハイランドオークの牙、ガブルだ」

「よろしくな、ガブル」


二人は固く握手を交わして、次の騎兵とハイランドオークが前に出る。


「良かったのか?」

「ふん

 小僧か」

「小僧じゃねえ

 オレはアーネストって名前が…」

「ここに来るだけでへばっている様じゃあ、小僧じゃ」

「くうっ…」


アーネストはアモンに、身体強化を使わずに登る様に言われていた。

ゆっくりでも登り切れれば、それだけ体力も着く。

何よりもアーネストの魔力量では、身体強化での上り下りは訓練にはならないのだ。

それを指摘されてからは、アーネストは這いながらも身体強化を使わず登っていた。


アーネストの後方では、マリアーナ皇女も膝を着いていた。

彼女もここ数日は、兵士の真似をして山道を上り下りしていた。

自分の行動を恥じて、少しずつだが打ち解けようとしていた。

しかし真面目な性格が災いして、まだ打ち解けれずに離れた場所に座っていた。


「それよりも、真名を明かしても良かったのか?」

「ああ

 問題無い」

「真名?」

「ああ

 魔物や魔獣で名を与えられた者は、その名を与えた者から力の繋がりを得る」

「え?

 どういう意味だ?」

「はあ…」


アーネストは溜息を吐きながら、地面にガリガリと図を描く。


「アモンが王様で…

 さっきのガブル?

 あいつが子供だ」

「子供?

 しかし…」

「ああ

 意味としてだ

 本当の子供って意味じゃ無いぞ」

「あ…」

「当然じゃ

 種族も違うじゃろ」

「はははは…」


二人に冷やかに見られて、ギルバートは笑って誤魔化そうとする。


「子に名前を与えると、親子の様な魂の繋がりを得られる」

「え?」

「ああ

 人間には無いぞ

 これは魔物や魔獣に関してだ」

「だけどアモンは獣人じゃあ…」

「魔王としての能力…

 だよな?」

「ああ

 そういう事じゃ」

「なるほど」


「その名前が真名と言ってな、名を授かるのは魔物や魔獣にとっても名誉な事なんだ」

「へえ…」

「それだけじゃあ無いぞ

 距離に限界はあるが、意思の疎通や魔力の譲渡等も出来る」

「え?」

「そうなのか?

 それは知らなかった」

「ふふふふ

 さすがに魔王から授かる真名までは、調べる事も出来んじゃろう」

「え?

 それじゃあ…」

「普通の親子で授ける場合は、精々簡単な意思の疎通ぐらいじゃ

 それで言語が明確では無くとも、意思の疎通が出来ておる」

「ああ、なるほど

 言葉を話す代わりか」

「そういう事じゃ」


アモンはそう言いながら、アーネストの反応を楽しんでいた。

アーネストは知識欲も高く、アモンから教わる事を楽しんでいた。

何よりも他の者達と違って、その知識の吸収力も高い。

教えた事を、一早く吸収して身に着けていた。


「まあ、そんな訳だから

 軽々しく真名を教えては駄目なんだ」

「へえ…」

「他にもあるが…

 小僧は知っておる様じゃな」

「だから小僧じゃ無いって!

 ああ、知っているから…」

「その先は言うな」

「しかし…」

「良いから良いんじゃ」

「そうか?

 それなら…」


アーネストがさらに何か言い掛けたが、アモンがそれを制した。


「ん?

 何の話だ?」

「お前は良い」

「そうだ

 ギルは知る必要が無い」

「何でだ?」

「お前はな…」

「ああ

 はあ…」

「おい!

 どういう意味だ!」


「お前じゃマズいからな」

「そうだぞ

 ギルは腹芸が出来ないだろう」

「腹芸?

 そりゃあ確かに、そんな恥ずかしい事は…」

「それじゃ無い!」

「はあ…

 だから駄目なんじゃ」

「おい!」


「腹芸ってお腹で芸をする事じゃあ無いぞ」

「え?

 てっきり宴会芸の事だと…」

「はあ…」


「何か重要な事を知っても、黙って誤魔化す事だ」

「え?」

「お前は…

 それが出来るか?」

「いや…」

「出来ないだろう?

 すぐに顔に出るし」

「うぐっ…」

「はははは

 その正直さが、お前の美徳でもあるがな」

「びとく?」

「おい!」

「大丈夫か?

 こいつが王太子で?」

「はあ…

 その分、オレが何とかします」

「そうじゃな」


真名の秘密は明かされる事は無く、ギルバートは二人に扱き下ろされた。

怒りに顔を赤くするが、素直な性格なのでこれは仕方が無い。


「お前等なあ…」

「仕方が無いだろう?」

「そうじゃぞ

 お前は書く仕事が苦手じゃ

 それなら最初から、知らない事も重要じゃ」


「それってそれだけ重要な…」

「勘が鋭いのも考え物じゃな」

「そうだな

 これは教えられないな」

「ぐうっ…」


真名には繋がり以外に、支配権という物がある。

真名を知って魔法で命令すれば、操る事も出来る。

だから魔物達は、簡単に名を明かす事は無い。

本来ならば、先ほどの様に名を教えるのはマズいのだ。

しかしアモンは、友好の証として教える事を選んだ。

それが意味する事は、実は信頼の証でもあるのだ。


こいつ等なら教えても、悪用はしないだろう


アモンはそう考えて、騎兵達に教える事を許した。

そしてハイランドオークのガブルも、テリーという騎兵を信頼して教えた。

それはこの二人が、信頼で繋がった証でもあった。


願わくば、この信頼が彼等を助ける事に繋がれば…


アモンはそう密かに、願っていた。


「うわあああ」

「今度は勝ったぞ」


次の騎兵は、何とかハイランドオークの武器を弾き飛ばした。

素早い連撃を与えて、ハイランドオークの腕を痺れさせたのだ。


「オレは騎兵のベイルって言うんだ

 あんたの名前は?」


ハイランドオークは、チラリとアモンの方を見る。

アモンは微笑んで、彼に向かって頷いた。

それでハイランドオークは、ニヤリと笑ってから名を告げる。


「おれはハイランドオークの力強き腕、シデルだ」

「シデルか

 よろしくな」

「ああ

 強かったぞ、ベイル」


二人は固く握手を交わし、ベイルは膝を着いたシデルを立たせてやる。

それを見た両陣営は、歓声を上げて二人を迎えた。


「うむ

 良い友好が築かれておる」

「そうだな

 こんな名の明かし方もあるんだな」

「ああ

 カイザートと旅をした時には、ワシも真名をあ奴に教えた」

「え?

 アモンが真名じゃ無いのか?」

「馬鹿か!

 先ほどの話を聞いておらんかったのか?」

「そうだぞ

 軽々しく告げられないから真名なんだぞ」

「そ、そうなのか?

 それじゃあアモンの真名は?」


「はあ…」

「教えてもらえる訳が無いだろう」

「そうじゃな

 こんなに軽々しく口にされてはな」

「あ…」


ギルバートは自分の軽率な行動に気が付き、顔を赤くしていた。


「もっと慎重にならんとな」

「そうだな

 腹芸を覚えろとは言わないが…

 もう少し考えて行動しろよ」

「分かった、分かったよ!」


ギルバートは思わず、大声で反省したと言う。

その様子を見て、騎兵やハイランドオーク達が首を捻る。


「がはははは

 これだから…」

「はあ…」

「勘弁してくれ

 反省したから…」

「ふっ

 本当に面白い奴じゃ」


アモンは旧友を思い出しながら、目を細めてギルバートを見る。


こいつは本当に、若い頃のあいつに似ている

誤魔化す事も出来ない、正直な心根も…な


アモンはそう思いながら、再び豪快に笑っていた。

まだまだ続きます。

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