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聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
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第524話

ギルバート達が魔王の城に来てから、10日が経っていた

兵士達は毎日山道を往復して、少しづつだが魔素に慣れて来た

騎兵も少しずつだが、ハイランドオーク達と打ち合える様になっていた

そしてギルバートは、アモンとの訓練で少なからず上達していた

アモンは城の前に立ち、眼下の光景を睥睨する

麓には人間の兵士が、夕食の支度をしていた

本来ならここは魔王の城で、人間は立ち入れない筈だ

しかし今は、ハイランドオークが手伝って夕食を作っている

それは魔王にとっては、何とも楽しい光景だった


「アモン様?」

「ふふふふ

 再びこの光景が見れるとはな」

「再びですか?」

「ああ

 カイザートが生きていた頃は、ワシも一緒に旅をしたものだ」

「アモン様がですか?」

「ああ

 魔王となって日も浅かったからな

 ワシ等はカイザート達と一緒に、各地を巡っていた」


アモンは当時の魔王達と、魔物を減らす為に戦っていた。

女神が増やさなくても、魔物は自然に交配して増えて行く。

その数が多いと、人間にとっては脅威となり得る。

それで間引きの為に、危険な魔物の数を減らしていたのだ。


「カイザート達でも…十分に倒せただろうな

 しかし女神様は心配されて、ワシ等も同行する様に命じた」

「そうなんですね」

「ああ

 楽しかったな…」

「ふふふふ

 アモン様、嬉しそうですね」

「そうだな

 生きている間に、再びこの光景が見られるとはな」

「そんな、不吉な…」


アモンは首を振って、配下のハイランドオークを見る。


「すまないな

 お前達には何も残してやれない」

「止してください

 我々はあなた様から、色々と教わりました

 そのお陰でこうして…」

「しかしワシが居なくなると…」

「そんな事、考えないでください

 アモン様が…

 私達もご一緒します」

「それはいかん!

 お前達は生きろ!」

「しかし…」

「生きて…

 人間との共存を目指せ

 幸いあいつ等なら、きっと…」


アモンはそう言って、眼下の光景を見詰める。

今はこうして、ギルバートの元に魔物と人間が共同生活をしている。

しかしそれも、強い指導者が居るからだ。

ギルバートが居なくなっても、或いはアーネストが代わりに立つかも知れない。

しかしそれも、淡い期待でしか無かった。


「死なせられねえな…」

「え?」

「ワシの命に替えても、あの小僧は生かさなければ」

「王太子ですか?

 それとも魔導士の方ですか?」

「出来れば両方じゃな

 どちらか欠けても、この様にはならなんじゃったろう」

「そうですね」


アモンやハイランドオークも、アーネストの事は過小評価をしていなかった。

確かに体力面の心配もあるが、ここ数日で身体強化も向上している。

何よりも彼にも、ガーディアンの血が流れている。

アモンはそう考えて、アーネストの成長も見守っていた。


「あいつ等が魔王や使徒になれれば…

 或いは…」

「それは無理と言う物でしょう

 それに魔王になられれば、人間側の王が居なくなりますよ」

「そうじゃな

 そうすれば魔術師の小僧を…」

「もう!

 そんな物欲しそうに見ないでください

 彼等がその気になったらでしょう?」

「それにアモン様、重要な事を忘れていません?」

「ん?」


「女神様がどうなさるかです」

「むう…

 それもそうじゃな」


女神が倒されれば、そもそも魔王が生まれる事も無くなる。

現存する魔王達も、その力を失う事になるだろう。

そう考えれば、魔物と人間の共存も難しくなる。

魔物の増える量も減るし、何よりも女神の加護も無くなってしまうだろう。


だからと言って、女神が勝利するのも問題がある。

ギルバートが死ねば人間を指揮する者が減るし、こうして魔物に理解のある者が死ぬのは辛い。

何よりも他の勇者たちは、魔物に好印象は抱いていなかった。

帝国の皇女を見れば、それはよく分かるだろう。


マリアーナはハイランドオーク達を、遠巻きに見ていた。

決して近付く事は無く、仲良くしようともしなかった。

それは彼女なりの、けじめの様な物だったのだろう。


そもそも彼女は、訓練にも参加していなかった。

麓の野営地に残って、兵士達の手伝いをしていた。

彼女がその気になれば、騎兵に混じって訓練も出来た筈だ。

しかし彼女は、魔物と仲良くなる事を嫌がっていた。


「あの勇者を見てみろ」

「帝国の皇女ですか?」

「ああ

 あれが普通の人間の反応だ」


「魔物であるお前達を憎み、決して仲良くしようとは思わない」

「それはそうでしょう

 帝国は度々魔獣や魔物の被害に遭っています

 特に直近では、彼女の伯父が魔王になって…」

「ムルムルか…

 思えば奴も、可哀想な奴だったな」

「ええ…」


アモンはギルバートから、ムルムルが死んだと聞かされていた。

女神が現れた時に、ムルムルの羽を持っていた。

それが皇女を、ますます女神や魔物を憎ませる要因になっていた。


「これではな…

 女神様を擁護出来ないでは無いか…

 はあ…」

「アモン様…」


女神様には、どうしても生きていて欲しい。

しかし彼女は、ギルバート達の話では滅びを求めている。

それならば、止めに向かったとしても無駄だろう。

彼女はあくまでも、倒される為に勇者達に向かって行くだろう。


「アモン様はどうされたいのですか?」

「ワシか?

 ワシは…」


アモンも悩んでいた。

女神の神殿までは、彼は着いて行くつもりだった。

ギルバートだけでは、あの危険な場所に辿り着けないだろう。

それにギルバートが失敗しても、恐らくは他の勇者も向かっている筈だ。

いずれかの勇者が、女神を討伐する事になる。


「他の魔王の動向は?」

「へ?」

「ここからでは、ベヘモット様の情報しか…」

「サリエルの情報は?」

「エジンバラに居る事は…

 しかしそれ以上は」

「そうか…」


「エジンバラには竜騎士の勇者が居ます」

「そうじゃな

 ワシ等が向かわんでも、いずれ其奴等が向かうじゃろう

 それに神殿に近いとなれば、ベヘモットの方じゃろうな」

「東の中国(なかつこく)の勇者ですか?」

「ああ

 あ奴はあの勇者を、随分と気に入っておった

 恐らくはワシと同じ様に…」


帝国の東の果てに、広大な平原が広がっている。

そこの遊牧民の国家に、中原の覇者と呼ばれる勇者が居る。

彼は既に壮年で、その息子が新たな勇者として台頭しようとしていた。

ベヘモットは、以前からその勇者にご執心だった。


「わざわざ帝国の勇者を放っぽってまで、中国(なかつこく)まで戻ったのだ

 恐らくあ奴は、その勇者と一緒じゃろう」

「それでは既に…」

「ああ

 城を発っているのなら、神殿に向かっておるのじゃろう」


ハイランドオークの調べで、既にベヘモットは城に居ない事は判明している。

城に残った魔物達から、主は旅立ったと聞いていたのだ。


「どうされますか?」

「うむ

 しかしまだまだなんじゃよ」

「彼等の事ですか?」

「ああ

 人間だ魔物だと、差別する意識が無い

 それは好ましいんじゃが…」


アモンの目から見ても、騎兵達の訓練は後少し必要だった。

オーガぐらいなら何とかなりそうだが、巨人の様なⅮランクの魔物では敵わないだろう。

それでは連れて行ったとしても、足手纏いにしかならない。

歩兵に関しては論外だった。


「あと少し…

 あの騎兵が変われば、使い物になるのだが…」

「そうですね

 彼等は我々に、恐れを抱いています

 それをどうにか出来れば…」


そこへ麓から、騒ぎが起こるのが見えた。


「何だ?」

「さあ?

 ここからでは…」


麓で皇女は、兵士達の食事の準備を手伝っていた。

しかし連日の治療や手伝いで、彼女は疲れていた。

それで足元がふらつき、躓きそうになっていた。

それを見て、ハイランドオークが手を差し伸べたのだが…。


「放しなさい!

 汚らわしい」

「皇女様

 何もそんな事を…」

「そうですよ

 彼は皇女様を心配して…」

「何が心配です

 魔物が人間に歩み寄るなんて、何を企んでいるの!」

「そんな事は…」


ハイランドオークも、困惑して立ち尽くしていた。


「何の騒ぎだ?」

「殿下

 それが…」


側に居た兵士が、事の経緯を簡単に説明する。


「なるほど…

 それで、皇女様」

「何ですか?」


ギルバートは敢えて、普段の呼び方では無い皇女様と呼んだ。

皇女も警戒してか、言葉に棘がある。


「彼は心配して…」

「何が心配ですか

 魔物が人間を心配だなんて…」

「マリアーナ!」

ビリビリ!


ギルバートは威圧の咆哮を使って、マリアーナの言葉を止める。

さすがにそれ以上の暴言は、見過ごす訳にはいかなかった。

皇女はギルバートの威圧で、膝を屈していた。

周囲に居た兵士達も、その迫力に膝が震えていた。


「ぐうっ」

「すみませんが、さすがにそれは見過ごせませんよ

 彼等は私達を助けてくれているんですよ」

「助けなど…」

「マリアーナ

 分かりませんか?」

「何が…」

「あなたの今している事は、嘗ての帝国の過ちと同じ事だと」

「っ!」


「あなたが女神や魔物に対して、恨みを抱いている事は知っています

 しかし彼等は、あなたに何かしましたか?」

「それは…」

「それに、それを言うなら、あなたの伯父上は何をしました?」

「くっ…」


「恨みを忘れろとは言いません

 しかし関係無い者まで恨んでいては、何も解決しませんよ」

「だったらどうしろと!」

「何を恐れているんです?」

「うう…」


マリアーナは俯くと、涙を溢し始めた。


「殿下…」

「さすがに泣かすのは…」

「うるさい

 今は解決すべき事がある」


ギルバートは真剣な表情をして、マリアーナの前に跪く。


「何が怖いんですか?」

「うう…

 このままでは私、みんなの恨みまで忘れてしまう」

「みんなの?

 帝国での事ですか?」

「そうよ!

 爺やも、帝国の民達も!

 みんなみんな、魔物に殺されたのよ!」

「それはそうですが…」

「あなたも多くの民を殺されたんでしょう?

 それなのに何で?

 何でそんなに笑って許せるのよ!」

「そうですね

 私は実の父も…」

「あ…」


ギルバートの言葉に、マリアーナは思い出していた。

国王も巨人の襲撃で、命を落としていたのだ。


「わ、私…」

「確かに許せないですね」

「え?」

「でも、それで恨み続けてどうするんです?」

「それは!」

「殺しますか?

 魔物という魔物を、全て滅ぼしますか?」

「それは…」


「お気持ちは…

 分かると言いたいけど、正直分からないな」

「え?」

「だってそうでしょう?

 私は父上を殺したのは、女神だと思っています」

「でも、魔物が…」

「彼等は命令に従って…

 いや、正確には操られていました」

「それはそうでしょうが…」

「ムルムルもですよ?」

「ですが!」

「落ち着いて」


ギルバートは優しく、皇女の肩に手を置いて宥める。


「確かに殺したのは、魔物かも知れません

 しかし彼等も、操られた被害者です」

「被害者?」

「ええ

 彼等をみてください

 私達を襲おうと思っていますか?」

「いえ

 ですが…」

「操られて、したくも無い戦争をする

 こんな悲しい事は無いでしょう?」

「ですが…」

「確かに魔物の中には、人間を無分別に襲う者も居ます

 しかし彼等は、そんな事は無いと分かっているでしょう?」

「ですが…」


皇女は気持ちの整理が付かないのか、同じ言葉を繰り返していた。

そこでギルバートは、気持ちを切り替えさせる事にする。


「それじゃあ、こう考えましょう」

「え?」

「彼等は皇女の知らない、遥か西方の国の人間です

 そんな彼等に、あなたは敵意を向けますか?」

「そんな!

 幾らなんでも…」

「同じ事です

 人間同士でも、常に争っているんですよ?」

「え?」


「帝国だってそうでしょう?

 初代皇帝を暗殺したり…

 貴族が他の貴族に攻め入ったり」

「それは違います!」

「違いませんよ?

 人間だけが違う?

 それは人間が優秀だと考える驕りでしょう?」

「あ…」

「それは選民思想と同じですよ?」

「ああ…」


ギルバートは兵士達に振り返ると、皇女を運ぶ様に命令する。


「彼女を…

 皇女を休ませてやれ」

「はい」


「すまないな」

「いえ

 私も不用意でした」

「いや、これは我々人間の問題だ

 巻き込んですまない」

「はい…」


ハイランドオークもは何か言い掛けたが、これ以上は無意味だと引き下がった。

皇女が抱える思いは、彼女自身が解決するしか無い。

彼等がいくら説明しようとも、彼女が納得しなければ解決出来ないのだ。


「さあ

 夕食の準備を急いでくれよ

 腹が減って死にそうだ」

「はははは

 殿下はそのぐらいでは死なんでしょう」

「そうですよ

 巨人が踏んでも大丈夫そうですよ?」

「さすがにそれは死ぬだろ?」

「はははは」


野営地に張り詰めていた空気が、ギルバートの一言で解けていた。


「お兄ちゃん…」

「ん?」

「あのね、セリア…」

「そうだな

 慰めてやってくれ」

「うん♪」


セリアはパタパタと、皇女の下がった天幕に向かった。


「何とかしないとな

 あのままじゃあ…」

「そうですね」

「気持ちは分かるが、そればっかりに執心していてはな」


ギルバートにも、アモンや巨人に対する怒りはある。

いや、むしろ皇女よりも強い憤りも感じていた。

しかしアモンを恨んでも、意味が無いと悟ってもいた。

それはギルバートが、早い時期にアモンと会っていた事もある。

アモンの人柄を知っているからこそ、あの時の魔王が同一人物とは思えないのだ。

だからこそ、操られていたという事を、素直に認められていた。


「女神を

 これ以上の愚行を止めなければ…」

「え?」

「何か言いましたか?」

「いや、腹が減ったと言ったんだ」

「どんだけ腹が減ってるんですか?」

「全く…」

「はははは」


ギルバートは笑って、決意を悟られない様に誤魔化していた。

まだまだ続きます。

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