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聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
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第521話

王都の北東にある竜の顎山脈

その中に在る、竜の瞳という場所に魔王城がある

そこは古代竜の眼窩に当たり、その中に竜の瞳城という魔王の城があるのだ

その城の広間で、魔王とギルバートの戦いが始まっていた

魔王の剣が振るわれて、それをギルバートが受け止める

光の欠片(ティリィヌス・エスト)は、魔王に対して有効な光の力を秘めている

その輝く刀身が、魔王の剣を受けて火花を散らす


「つぇりゃああああ」

「ぬおおおお」

ガコーン!


およそ剣が立てるとは思えない音が、二人の剣が打ち合わさる度に起こる。

二つの剣は魔と聖の属性を秘め、打ち合う度に反発していた。

この属性の反発こそ、魔王に有効である証拠だ。

ここで聖属性の魔法を使えば、魔王に有効な打撃を与えられるだろう。

しかしそれは、二人の意思に反する事になる。


「アモン!」

「ぬはははは

 小僧!

 腕を上げたな」

「小僧じゃねえ

 私はギルバート…だ!」

ギン!


「お兄ちゃん

 頑張れ」

「ぐぬう…

 やるではないか」

「はははは」


ギルバートは剣を受けながら、アモンの腹を蹴り付ける。

しかしアモンも、それを受けながらも体制を立て直す。

二人の攻防は、ギルバートが素早い手数の多い攻撃をしていた。

それに対してアモンは、重い一撃を振るって来る。

二人は互いの隙を狙って、牽制的な攻撃をしていた。


「せりゃああああ」

「ふん

 甘い!」

ゴギン!


ギルバートが左右に身体を振り、右から左へ切り抜けようとする。

しかしアモンは、それを受けながら弾き飛ばす。

膂力があるからこそ、その様な芸当が出来るのだろう。

しかし弾かれながら、ギルバートは切っ先をアモンの腕に当てる。

傷こそ浅いが、初めて傷が与えられた。


「ぬう

 やるな

「はははは」


ギルバートは笑いながら、再びアモンに切り掛かる。

アモンもニヤリと笑いながら、剣を大きく振り被る。

そのままギルバートが向かって来る先に、思いっ切り振り下ろす。


「ふん!」

「危な!

 せいっ」

シュバッ!

ガキン!


そのまま数合、ギルバートが切り込んではアモンが振り下ろす事が繰り返される。

そこからギルバートは、踏み込みから急に方向を変えてみる。


「せりゃあああ…

 ふん!」

「ぬおっ!

 小癪な!」

「させるか!」

ズバッ!


角度を急に変えた事で、アモンは大きく空振りする。

そこへギルバートが向かって行くが、アモンは力任せに振り上げる。

それを躱しながら、ギルバートはすり抜け様に一撃を加える。

剣先が脇腹を掠り、軽い傷を負わせる。


「ぬう…」

「そんな大振りなら当たらないぜ」

「そうだな」


アモンも愚策と感じたのか、今度は剣を小さく構える。

ようやくギルバートを、手強い相手と認めたのだ。

これまでの力任せの大振りから、鋭く短い振りに切り替える。

威力こそ落ちるものの、ギルバートに攻撃の機会を与えなくさせる。


「せりゃああ…」

「ふん」

カイン!


「ぬうううん」

「はっ」

ギン!


再び打ち合いが始まり、周囲に火花が飛び散る。


「美しい…」

「ああ

 何て鋭い剣筋だ」


「しかし…」

「ああ

 魔王も負けていないな」

「あんな角度から返せるのか?」

「それも膂力ありきなのだろう」


ギルバートの鋭い攻撃を、アモンは器用に剣を振るって凌ぐ。

ギルバートの正当な型の剣術に対して、アモンは野生的な勘の剣術で返す。

そうした打ち合いが、数十合に渡って繰り返される。

今度は魔王も慎重で、ギルバートが攻撃パターンを変えても対応していた。


「どうしたどうした!

 お前の剣術は、こんな物か?」

「っるせえ!

 せりゃあああ」

「ふん」

ゴイン!


アモンが力任せに弾き、ギルバートは再び距離を取る。


「はあ、はあ…」

「息が…はあ

 上がって、おるな…」

「お前、こそ」


二人は激しく息を吸い、再び剣を打ち合わせる。


「つぇりゃああ」

「ふん」

ガコン!


「止め!」


二人が再び剣を合わせたところで、アーネストから声が掛かった。


「何だ?」

「どうしたんだ?」

「止めだ、止め

 実力が近いんだ

 このままだとどちらかが倒れる」

「そりゃそうだろう?」

「そうじゃなあ

 お互い倒す為にここに居る」

「そうじゃ無い!」


アーネストは怒って、声を荒らげていた。


「アモン

 あんた操られていないな」

「え?」

「な、何の事かな?」

ピュ~ピ~♪


アモンは誤魔化す様に、口笛を吹いていた。

しかし動揺していて、口笛は音程が外れている。


「ギルの事を覚えているし

 何よりも理性が残っている」

「そういえば…」

「ううむ…」」


アモンは困った顔をして、周囲を見回す。


「アモン様」

「もうよろしいでしょう」

「そうじゃな」


アモンはそう言うと、肩を鳴らしてから剣を収める。


「ギル

 お前も仕舞え」

「あ、ああ…」


アーネストに言われて、ギルバートも剣を仕舞った。


「さて

 それではこちらへ」

「あ、ああ」


ハイランドオークに案内されて、ギルバート達は広間の奥に向かう。

アモンが先頭に立って、そのまま奥の謁見の間に入る。

アモンはそのまま、奥にある玉座に腰掛ける。


「もう少し戦いたかったな…」

「アモン様!」

「あ、いや…」

「言ってたでしょう

 ギルバート様とは和解するって」


「和解って…」

「ええ

 アモン様は今、女神様の力から解放されています」

「それじゃあ…」

「ええ

 そもそも、戦う必要は無いんです」


ハイランドオークの口から、驚きの事実が明かされた。

アモンは今、女神の狂暴化から解放されているのだ。

しかもギルバートに、和解を申し入れようとしていた。

それならば、戦う必要は無かったのだ。


「それじゃあ…」

「ええ

 戦う必要が無いのに」

「う…

 いや、ワシもそう思っていたぞ

 しかし彼等は、ワシを倒しに来ておった

 それならば戦わなければ、納得が出来んじゃろう?」

「それは…」

「そんな事は無い

 そもそもお前が戦いたいだけだろ」

「バレた?」


アモンは舌を出してウインクするが、周りの者はジト目で見ていた。

特にハイランドオークは、怒った様な顔をしている。


「そもそも、危険だから戦わないって約束で…」

「まあまあ

 少し手合わせしたら、止めるつもりで…」

「いえ、本気でしたでしょう?」

「そうですよ」

「本気じゃあ無いぞ」


アモンはそう言いながら、一瞬だが黒い靄を見せる。

それは王都で、ギルバートが戦った時に見せた物だ。

心なしか、アモンの腕や足も太くなっている。

そこから爪を出して、獣の様な攻撃を繰り出すのだ。


「アモン様」

「はははは

 冗談じゃ」

「はあ…」


ハイランドオーク達は、呆れた顔をしていた。


「本当にお前は、好戦的なんだな」

「そりゃあそうさ

 ワシは黒狼の獣人じゃからな」

「黒狼?」

「ああ

 既に絶滅しておるが、黒狼という魔獣が居る

 ワシはその黒狼と、獣人のハーフに当たる」

「魔獣と獣人のハーフ?」

「混血って事さ

 しかし獣人と魔獣の混血って…」

「ああ

 普通なら産まれんさ

 それも魔導王国の置き土産さ」

「魔導王国?」


しかしアモンの出自を聞いた限りでは、ミッドガルドより以前だと聞いていた。


「ああ

 ミッドガルドとは違うぞ

 その前にあった、お前等が古代魔導王国と呼んでいる方だ」

「なるほど

 古代魔導王国では、そんな非人道な実験が行われていたんですね」

「ああ」

「実験?」

「ああ

 人工的に獣人を造り出す、人体実験だ」


アーネストの言葉に、一同が困惑の表情を浮かべる。

アモンはよく気付いたと驚き、ハイランドオーク達も同様に驚いていた。

そしてギルバート達は、人体実験という言葉に衝撃を受けていた。


「人体実験ってまさか…」

「ああ

 人間の女性に無理矢理、魔獣の子供を産ませていたのさ」

「そんな非道な事を…」

「ああ

 確かにその様な記録は残っていたが…

 まさか本当だとはな」

「ほう…

 そんな記録がまだ、残っておったのか」


アモンはそれを聞いて、鋭く目を光らせる。


「それで

 それが事実と知った今、どうする?」

「どうするって?」

「事実だったのじゃ

 お前達もするのか?」

「いや

 そんな馬鹿な真似はしないさ

 それに…」


アーネストが視線を向けると、ギルバートは頷く。


「そんな真似は、ギルが許さないだろう」

「しかし兵力を補充するには…」

「ああ

 確かに、強力な獣人は兵力になるだろう

 しかしそんな物は、私は必要と思わない」

「そうか…」


「お前はまともなんだな」

「そうかな?」

「ああ

 普通の統治者なら、喜んで研究しそうだがな」

「ギルはその辺、頭が悪いからな」

「え?」

「そうだな

 賢い統治者なら、心を鬼にして欲するじゃろう」

「それが出来ないから、賢く無いんだよね」

「おい!

 酷くね?」


ギルバートは二人の言葉に、傷付いたと膨れる。


「はははは

 じゃからこそ、ベヘモットやエルリックも気に入ったんじゃろう」

「でしょうね」

「そんな褒め方されても…」


「はははは

 正直で良い」


アモンは笑ってから、真剣な表情になる。


「それで?

 女神と名乗る者は何と?」

「その前に

 あれは本当に女神様なのか?」

「あれと女神様を一緒にするな!

 女神様なら、あんな事は言わない!」


アーネストの言葉に、アモンは激しい怒りを見せる。


「しかし、女神と名乗っていたぞ?」

「それならば、貴様等は女神と名乗ればみな…」

「それに、世界の声を使っていたぞ?」

「うぬ…

 世界の声か…」


これにはさすがに、アモンも困った様な顔をする。

世界の声は、女神にしか使えない筈なのだ。

そこさえ崩せれば、あれが女神でないと言えるのだが、肝心の答えが無かった。


「世界の声か…」

「あれは確かに、女神様にしか使えん」

「そうなんだよな」

「しかし、あれは本当に世界の声か?」

「何?」

「どういう事だ?」


「女神が…

 あれが女神か確証は無いが、世界の声を使う時に違和感があった」

「違和感?」

「ああ

 世界の声の筈なのに、我々しか聞こえていなかった」

「そういえば…」

「ううむ

 確かに変だな

 しかし聞こえる者を限定にするなど、出来るのでは無いか?」

「そこなんだよな

 それが確証でないから、オレも判断に困っている」


アーネストは肩を竦めて、これ以上は無いと示す。


「それじゃあ…

 我々だけに聞こえる様にしたと?」

「そうなんだよな

 そう出来るか分からないから、女神でないと否定しきれないんだ」

「そうじゃな

 世界の声で無いなら、女神様だとは言えん

 しかし確証が無いか…」

「ああ

 それから、他にも違和感はあるな」

「他にもか?」

「ああ」


「あれが本物で無いなら、魔王を狂暴化させているのも納得が行く」

「ん?

 逆じゃ無いか?

 女神様だからこそ、ワシ等を狂暴化させて…」

「あんた等の女神様への思いは、その程度なのか?」

「何!」


アモンが一瞬、殺気の籠った視線を向ける。

しかしアーネストは、何とかそれを堪えて答える。


「あれが本物の女神様なら、アモンも素直に従ったんじゃ無いか?」

「しかし人間を滅ぼせだぞ?」

「だからだ

 本物の女神様なら、そんな指示を出すか?

 もっと別の言い方があっただろう?」

「ん?

 そう言われれば…」


確かに人間を滅ぼすにしても、言い方があるだろう。

何で女神は、ああして人間を滅ぼす等と言ったのだろう?

それでは魔王も、反発して従わないのは知っている筈だ。

それで従わせる為に狂暴化をさせたら、さらに反発されるだろう。

彼女の行動は、まるで反発させる為にしている様に見えるのだ。


「まさか、ワシ等に逆らわせる為に?」

「ああ

 そう考えるのが妥当だろう」

「しかし何故じゃ?」

「さあ?

 さすがにそこまでは…」

「ううむ…」


アーネストの言葉に納得したのか、アモンは考え込んでいた。

確かに女神の行動には、違和感を感じる物が多い。

魔王に人間を攻めさせる事もだが、人間の前に出た事もだ。

そんな事をすれば、人間からも反発が起きるだろう。

彼女の行動は、敢えて魔王や人間に反攻させようとしている様に見える。


「あれは敢えて、女神のふりをして反発を招いていると?」

「それか本物の女神様で、反発去れる様に行動しているか…」

「何の為に?」

「さあ?

 それは本人にしか分かりませんが…

 倒される事を望んでいる?

 とか?」

「まさか?

 馬鹿な!」


しかしアーネストの言う事は、確かに整合性が取れている。

女神が討伐される事を望んでいるのなら、確かに反発される様に行動するのは正しいだろう。

滅ぼすと言えば、人間は当然戦おうとするだろう。

そして魔王も、このままではマズいと行動する。

そうして女神と戦おうと、魔王と人間が手を組む。

ここまでは女神の、計画通りの可能性が高い。


「まさか…

 自らを滅ぼす為に?」

「そう考えると、今までの行動も腑に落ちます」

「しかし何故?」

「分かりません

 分かりませんが…

 今までの行動に兆候はありませんでしたか?」

「ううむ…」


アモンは暫く考えた後に、ある名前を呟く。


「まさか…

 カイザート?」

「初代皇帝?」

「うむ

 女神様は、あの事を今も悔やんでいる

 彼を皇帝に推した為に、彼が亡くなったと思っているからな」

「しかしそれだけで?」

「いや

 その前もあるからな」


アモンは逡巡してから、溜息を吐く。


「お前達になら、あの事を話しても良いのだろうな」

「あの事?」

「ああ

 古代魔導王国

 それを作り上げた勇者の事だ」

「勇者?」

「ああ

 カイザートと同じで、古代魔導王国作った者が居たのだ

 彼もカイザートと同様に、早くに早世した」


アモンはそう言うと、立ち上がって腰のポーチをまさぐる。

そうして一巻の羊皮紙を取り出すと、それをアーネストに放って寄越した。


「今こそ語ろう、若き英雄の物語を

 それは彼の半生を、記した物語になる」

「これが?」

「ああ

 思えば女神様が、眠りに着く様になったのはそれからだ

 彼の死が、未だに女神様を苦しめているのだろう…」


アーネストは巻物を手にして、その表を見る。

そこにはイチロ・スズキと書かれていた。

まだまだ続きます。

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