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聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
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第519話

カザンの街に夕暮れが訪れる

ギルバートはセリアを連れて、カザンの街を回っていた

アーネストの計らいで、二人でゆっくりして来いと送り出されたのだ

それで夜になるまで、宿に戻れなかった

ギルバートが宿に戻った時、兵士達が騒ぎながら宿から出て行った

それは歩兵の新兵と、護衛をしていた騎兵達だった

彼等は興奮した様子で、暗くなった街に出て行った

彼等を見送った後で、ギルバートは宿の中に戻る


「アーネスト

 彼等はどうしたんだ?」

「おう

 戻ったか」


アーネストは食堂に座って、すっかり上機嫌に出来上がっていた。


「おい

 酒を飲むだなんて…」

「ああ

 1本だけだ

 これぐらいは目を瞑れよ」

「しょうがないな…」


ギルバートはそう言いながら、アーネストの向かい側の席に向かう。

そうしてセリアを隣に座らせて、自分も席に着いた。


「何にされます?」

「そうだな…

 この辺りの名物は、確かボア料理だったな」

「はい

 今日はボアの煮込みがございます」

「それならそれを2皿と、サラダとパンを頼む」

「パンは黒パンと白パンとございますが?」

「それなら白パンを頼む」

「はい」


白パンの方が柔らかいので、わざわざ黒パンを頼む必要は無いだろう。

黒パンは柔らかいパンが嫌いな者が、スープと食べる為に注文するのだ。


「それで?

 何で飲んでんだ?」

「いやあ…

 侯爵との交渉が難航してな

 疲れたんだよ」


アーネストは疲れたと言って、葡萄酒をグラスに注ぐ。

しかしこれで終わったのか、瓶からは酒は半分しか出なかった。


「むう…」


アーネストは追加を頼もうと、片手を挙げようとする。

その手をギルバートが掴み、ニヤリと笑う。


「1杯だけなんだよな」

「むう

 これじゃあ酔えないよ」

「良いじゃ無いか

 明日も行軍だ

 二日酔いじゃあマズいだろ?」

「二日酔いぐらい、ポーションで治せるさ」

「ん?」

「ふふふふ

 二日酔いのポーションも開発したんだ」

「何て無駄な物を…」


ギルバートは呆れながら、アーネストの手にするポーションを見る。

確かに二日酔いが無いのは安心だが、だからと言って何杯も飲ませる訳にはいかない。


「だからと言って、飲ませる訳にはいかん」

「そんな!

 これが唯一の楽しみなのに…」


ギルバートに睨まれて、アーネストはガックリと項垂れる。


「フィオーナも居ないんだぞ

 何の癒しも無いんだぞ」

「諦めろ」

「そんな…

 お前はセリアとイチャイチャ出来るけど、オレには居ないんだぞ」

「するつもりは無いがな」

「むう…」


ギルバートの言葉に、セリアが頬を膨らませて睨む。


「いや

 ここはそう言う流れだろ」

「もう!

 嫌い!」


セリアは膨れて、さっさと部屋に向かって2階に上がる。


「あ!

 おい!

 セリア」


ギルバートは慌てて、セリアを追い掛ける。

その間に、アーネストは酒の追加を注文する。


「良いんですか?」

「ああ

 大丈夫、大丈夫

 言っただろ?

 二日酔いのポーションを作ったって」

「そっちじゃ無くて

 兵士達の事ですよ」

「殿下達も見てたんでしょう?」

「ああ

 その事か…」


アーネストは苦笑いを浮かべて、兵士達を見る。


「仕方が無いだろう?

 明日から決死の戦いだ

 今の内に、楽しい思いをさせてやらないと」

「それはそうですが…」

「それに、お前達も楽しんで来たんだろ」

「それは…」

「はははは

 隠さなくても良いさ」


アーネストは笑って、兵士達の肩を叩いた。


「イーセリア様には内緒で」

「嫌われたく無いです」

「そうかそうか

 それならお前達も、ギルにバレない様にな」


アーネストはそう言うと、上機嫌で葡萄酒の栓を開ける。

そしてそのまま、本日3本目の葡萄酒を飲み始めた。

実はギルバートに見付かる前に、既に1本開けていたのだ。


ギルバートはセリアを追って、寝室へと向かった。

そこではセリアが、頬を膨らませて待っていた。


「むう!」

「悪かったって

 アーネストを黙らせるには、ああ言うしか無くって…」

「アーネストとセリアと、どっちが大事なの?」

「それはセリアが…」

「むう…」


セリアは暫く膨れていたが、そのまま風呂を借りに出て行った。

ギルバートも軽くお湯に浸かって来ると、そのまま部屋で大人しく待っていた。

階下からは、アーネストの上機嫌な声が聞こえる。


「あいつ…

 あのまま注文したな」


叱りに行こうかとも思ったが、セリアの機嫌を直す方が先だった。

ギルバートはそのまま、セリアが戻って来るのを待つ。

するとセリアが、良い匂いをさせながら戻って来た。


「ギル…」

「セリア…」


セリアは何処に隠していたのか、身体が透けて見えるローブを纏っていた。

そのままギルバートの隣に座ると、潤んだ瞳で見上げる。


「今夜は…

 いっぱいしてね」

「ああ…」

「大好き」


二人は唇を重ねると、そのまま寝台に折り重なった。


「アーネスト様

 さすがにこれは…」

「言うな

 だからオレは、こうして飲んでるんだ」


一応防音はしているが、それでも微かに声が聞こえる。

そのセリアの切ない声を聞いて、兵士達は顔を赤くしていた。


「とは言え、さすがにこれはな…」


アーネストが困った顔をしていると、階段を駆け下りる音がする。


「あー!

 眠れない」

「皇女?」

「ああ…」


マリアーナ皇女は、顔を真っ赤にして下りて来た。

彼女も王族なので、上の階の良い部屋が宛がわれていた。

しかしその部屋では、ギルバート達の部屋での声が響くらしい。

彼女も知識ぐらいはあったらしく、それで辟易して下りてきたのだ。


「何とかなりませんか

 さすがにあれでは…」

「まあ、仕方ないか」


アーネストはそう言って、杖を引っ張り出す。

そしてそのまま、階段を登り始める。


「ちょ!

 さすがに文句を言いに行くのは…」

「ああ

 オレもさすがに、そこまで無粋では無いですよ」


アーネストは肩を竦めて、皇女の方を振り返る。


「ん?

 それではどうされるのですか?」

「こうするんですよ

 風よ

 原初からなる風の精霊よ…」


アーネストは呪文を唱えて、杖を廊下に突き立てる。


「汝が力を持って、この場に静寂を訪れさせよ

 サイレンス・フィールド」

コツン!


呪文が完成すると、あれだけ聴こえていた声が聞こえなくなる。


「え?

 どうやって?」

「これは元々、相手の咆哮や呪文を掻き消す魔法です

 それに改良を加えて、掛けた周囲の音を聴こえなくさせます」

「おお…」


「敵に見付からなくする為や、隠れて遣り過ごす為の魔法ですね」

「便利な魔法だ

 これで寝られそうだ」

「しかし皇女

 昼間も寝てませんでした?」

「いや…

 はははは…」


皇女は誤魔化す様に、2階の寝室に戻って行った。

しかし暫くすると、再び不満そうな顔をして下りて来た。


「あれ?

 もう寝たんじゃあ…」

「部屋が揺れてな

 これじゃあ落ち着いて寝れない」

「はははは…」

「どうにかならないか?」

「さすがに、それはどうにも…」


マリアーナはその後も、何度も階下に下りて来た。

部屋の揺れる振動が気になって、眠りに着けないのだ。

暫く揺れない時間もあるのだが、再びギシギシと軋み始める。


「あの二人、一体何回するんだ」

「皇女様

 若い女性がはしたないですよ」

「そうは言ってもな

 こう何度も起こされては…」

「まあ、若い夫婦ですから

 一晩中でもするでしょう」

「そんなに?

 アーネスト様もですか?」

「いや…

 さすがに答えれませんよ」

「それも…そうか」


それからマリアーナは、夜明け近くまで起きていた。

夜明け近くになると、さすがにギルバート達も眠った様だ。

皇女は欠伸を噛み殺しながら、部屋に戻って行った。


「アーネスト様

 アーネスト様も眠った方が…」

「ああ

 そうだな…」


アーネストはすっかり出来上がって、カウンターで眠っていた。

兵士に起こされて、眠そうに部屋に引き上げる。

兵士も眠そうにして、各自で交代で就寝する。


それから数時間して、カザンの街に朝日が差し込む。

ギルバート達はさすがに、朝を少し回ってから起き出した。

それから支度をして、10時前には兵士達は城門前に集まった。


「侯爵から応援の兵士も預かった

 我々はこれから、魔王の住む居城に向かう」

「おおおお」


兵士達は武器を掲げ、戦う決意を示す。

兵士の中には、昨晩の経験で男の顔になっている者も居た。


「さあ!

 いざ出陣だ

 開門!」

「開門」


城門が開かれて、先ずは騎兵が先頭に進む。

それから歩兵の乗った馬車が続き、殿の騎兵達が進む。

その後ろに少し距離を開けて、カザンの兵士が馬車に乗って進む。


「頑張れよ!」

「魔王を倒してくれ」


住民達の声援を受けて、騎兵達は手を振って応える。

その後に続く馬車からも、兵士達が手を振って応えていた。


「このまま進めば、明日中には竜の顎山脈に着けるな」

「そうですね」

「しかし油断は出来ないぞ

 道中も魔物は多かったからな」

「そうだな」


アーネストの指摘通り、さっそく魔物が森から現れる。

この辺は元々は、コボルトが多く生息していた。

しかし今は、オークが集団で見回っていた。


「おい」

「魔物が武装しているぞ」


オークは金属の板金鎧を身に着けて、隊列を組んで進んでいる。

見回りを回避するのは困難で、その都度倒す必要があった。

そうしなければ、他の部隊に見付かった時に挟撃されてしまう。


「慎重に進め…」

「はい」


騎兵に風下から回らせて、気付かれる前に挟撃する。

それを繰り返して、少しずつ北へと進む。

しかし魔物の数が多いので、なかなか北に進めない。


「殿下

 そろそろ日が陰って来ました」

「ああ

 ここらで野営するしか無いか」


魔物が周辺を見回っているので、野営も危険な状況だった。

しかしギルバートは、逆に魔物が警戒して近付かないと判断して、野営をする事に決めた。


「本当に大丈夫ですか?」

「ああ

 逆に魔物の方が、灯りを警戒するだろう」

「そうなら良いんですが」


ギルバートの読みが当たり、魔物は夜には襲って来なかった。

しかし朝日が見え始めたところで、魔物が近付き始めていた。

魔物は予想通り、警戒しながら近づいて来る。


「殿下

 魔物が…」

「よし

 歩兵はそのまま片付けを

 騎兵は予定通り、魔物を挟撃する準備をしろ」

「はい」


騎兵は二手に別れて、片方は野営地に残る。

もう一方が野営地から周り込み、魔物を背後から襲い掛かる。


「うおおおお」

フゴ!


魔物は前方を警戒してたので、背後の騎兵に驚く。

その間に騎兵は切り込み、クリサリスの鎌で切り裂いて行く。

魔物は鎧で身を固めていたが、魔鉱石の鎌は切れ味が鋭い。

そのまま剣ごと切り裂き、魔物を次々と倒して行く。


「うりゃあああ」

フガッ

ブギイイイ


「甘いぜ!

 こっちもだ」

ブゴオオオ


野営地から騎兵が突撃して、崩れかけた魔物の隊列を打ち崩す。

一気に囲んで、魔物は討伐された。


「凄いですね」

「ああ

 30体近く居たのに…」


「さあ

 こっちの魔物はカザンの兵士に任せるぞ」

「はい」

「このまま片付けて、少しでも前に進むぞ」

「はい」


魔物の遺骸の回収は、そのままカザンから来た部隊に任せる。

そしてギルバート達は、少しずつ森の中を進む。

森を回り込んだ方が、迂回して進んだ方より早い。

それに魔物達は、森の外を主に警戒していた。


「また居ますね

 どうしますか?」

「ううむ

 このまま進みたいが…」


後続のカザンの兵士達の事を考えれば、魔物は討伐しておいた方が良い。

オークは武装しているので、カザンの兵士には荷が重いだろう。

この期に少しでも、数を減らしておいた方が良いだろう。


「アーネスト」

「ああ

 仕方が無いだろう」


この案には、アーネストも渋々賛成する。

状況を考えれば、ここで少しでも倒していた方が安全だ。


「幸い今のところ、兵士に負傷者は居ない」

「ああ

 先の戦闘の負傷者も、皇女の魔法で回復している」

「それならこのまま、倒しておいた方が良いだろう」


「どうする?

 歩兵に戦わせてみるか?」

「それは止めておけ

 無駄に負傷者が増えるだけだ」

「そうだな…」


結局騎兵を前に出して、森に引き付けてから左右から挟撃する。

この戦いを最後にして、魔物は近場に見られなくなった。


「魔物が居ませんね」

「ああ

 アモンが出した兵士を、全て倒したという事か?」

「その可能性もあるが…」

「あるが?」


「アモンも兵を無駄にしたく無くて、城に戻した可能性もあるな」

「守りを固めたという事か?」

「ああ

 そんなに魔物が少ないとは思えないからな

 それなら、魔王の城に集まっていると考える方が普通だろう?」

「そうだな」


これで魔王城に、魔物が集まっている可能性が高くなった。

魔王城に到着した時に、激しい戦いが始まるだろう。


「魔物の遺骸は任せるとして…

 資材の量は足りているか?」

「はい」

「食料も十分残っています」

「ポーションもほとんど使ってませんので」


「そうか…

 それなら…」


ギルバートは前方に見える、竜の顎山脈を睨む。

ここは竜の下顎に当たり、竜の瞳はここから北西の山の中になる。

そこまでの道のりが分からないので、慎重に進む事にする。


「ここから…

 あの山に登る事になるな」

「ええ

 しかしどうやって登るのか…」

「先ずは近付いてみよう

 山道があるのなら、近付いたら分かるだろう」

「そうですね」


一行は森を抜けて、一気に上顎の下まで進む。

そこから山道になる訳だが、何故か山には歩き易い様に石段が作られている。

馬車で上がれる様に、石段はなだらかな造りになっている。


「どう思う?」

「まあ、魔王が軍を送り出し易い様に、予め作っておいたのかな?」

「それじゃあ罠の可能性は?」

「低いと思うぞ

 ここで罠を用意する意味が無いだろう?」

「そうだな」


ギルバートは王城まで続く、山道を見上げる。

遥か上方に霞む様に、城の様な影が見えている。

あれがアモンが住む、竜の瞳城だろう。


「待ってろよ…」


ギルバートは拳を握り締めて、その城を見上げていた。

まだまだ続きます。

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