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聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
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第517話

ギルバート達は、王都の東の森の近くに居た

もうすぐザクソン砦なのだが、既に周囲は薄暗くなっていた

それで野営をする為に、森の近くに陣を構える事にしたのだ

馬車を囲む様にして、焚火や篝火が用意される

そして天幕も張られて、野営の準備が進められる

薄暗くなった森から、兵士達は薪を集めて来る

魔石を使っても良いのだが、薪が見付かるなら焚火の方が良かった

魔石を使うという事は、それだけ魔力を使う事になるのだ

それで兵士達は、一生懸命に薪を集めていた


「疲れたな…」

「ああ

 殿下も人使いが荒いよ…」

「文句を言うな

 殿下がお前達を、意味なく森に入れてると思っているのか?」

「え?」


兵士達の周りには、数名の騎兵も同行している。

魔物に襲われた時の事を考えているのだ。


「お前達は、自分達ばっかり戦っていると思っているだろ」

「え?」

「い、いやあ…」

「良いんだ

 気持ちは分かるから

 うんうん」


騎兵は先輩らしく、分かっているぞと頷く。


「お前達はオレ達が、単に魔物の周りを囲んだだけだと思っているだろ?」

「え?

 違うんですか?」

「ああ

 それだから、まだまだ訓練が必要なんだ」

「それは…」

「どうせ今も、ただの薪拾いだと思ってるだろ」

「え?」


これには兵士達は、驚いた顔をしていた。

戦闘中の事は、確かに必死で何も見ていなかった。

しかし今は、魔物を警戒しながら薪を集めてる。

そもそも薪集めに、意味など無いと思っていたのだ。


「この薪集めはな、魔物を警戒する訓練なんだ」

「それはそのまんまじゃあ…」

「いや

 今のお前達は、ただただ不満を言いながら薪を集めていただろう?」

「う…」


騎兵の言う事は本当であった。

兵士達は不満を言うばかりで、周囲の警戒を怠っていた。

それを騎兵達は、見張っているから気付いていた。


「オレ達が居るから、安心してただろ?」

「それは…」

「良いんだ

 まだ戦闘にも慣れていない

 いきなりそこまで出来ろとは言わない

 だがな、殿下の考えも分かってくれ」

「殿下のお考えって

 でも雑用を私達に押しつけて…」

「はあ…」


騎兵は呆れた様に、大きな溜息を吐いた。


「違うだろ

 お前達はまだ、雑用ぐらいしか出来ない」

「そんな事は無いですよ」

「そうですよ

 今日も魔物を…」

「あの程度では、魔物を狩ったとは言えないな

 それにお前達、怖がって逃げ回っていただろ?

 そんなんで大丈夫か?」

「うぐ…」


何とかコボルトも倒していたが、歩兵のほとんどが逃げ回っていた。

それを心配して、ギルバートは薪集めを兵士達だけにさせた。

兵士達に魔物が居るかも知れない森に入らせて、警戒する訓練をさせようとしたのだ。

騎兵達も騎兵達もその意図に気付き、それでここで説明していたのだ。


「殿下はな、お前達に魔物に対する警戒心を持たせようとしている」

「それで薪拾いですか?」

「そんな事しなくても、魔物には十分警戒していて…」

「いや、してないだろ

 それなら何で、殿下の不満を言いながら薪拾いしてた?」

「…」


騎兵に図星を突かれて、兵士達は黙ってしまった。

兵士達は気付かない内に、油断していたのだ。

いつの間にか魔物を警戒しないで、普通に街中に居る感覚で歩いていた。


「オレ達がこうして居るのは、お前等が魔物に襲われないか心配したからだ

 殿下は一度襲われて、怖い目に遭うべきだと言っておられた

 しかしオレ達が、説得してこうして来たんだ」

「何だ

 結局殿下は…」

「そうだよな

 私達を見捨てて…」

「それは無いぞ」


兵士達はギルバートが、自分達を見捨てたと思っている。

しかしそれなら、訓練をしよう等とは思わないだろう。


「はあ…

 本当勘違いしてるな」

「へ?」

「殿下は見てるぞ

 ずっとああやってな」


騎兵はそう言って、野営地の端を指差す。

そこにはギルバートが、騎兵を数名連れて歩いている。

時々何処かを指差しては、何かを指示する。

それを聞いてから、騎兵達は急いで移動する。


「あれはな、周囲を見回して魔物を探しているんだ

 お前達が襲われない様にな」

「え?」

「殿下は魔物と戦い慣れておられる

 それで魔物が近付いたかどうか、ああして見張っておられる」

「でも、斥候が…」

「ああ

 あの二人が斥候だ

 殿下に言われて…ほら」


そう言っている内に、また騎兵が走って行く。

そうして他の騎兵に指示を出して、魔物の討伐に向かって行った。


「それじゃあここには…」

「ああ

 魔物は近付いていないな」


それを聞いて、兵士達は安心した顔をする。


「まあ、ゴブリンやコボルト程度なら、オレ達でも十分に倒せるがな」

「おお…」


騎兵はそう言って、兵士達の前で胸を張る。


「まあ、そういう訳で

 お前等は安心して薪を拾って良いんだが…」

「あのう…」

「バラして良かったんですか?」

「良かねえよ

 しかしこうでもしないと、お前等は納得しないだろ」

「はあ…」

「それはそうですが…」


「だからぶつくさ文句言ってないで、さっさと薪を集めるぞ」

「はい」


騎兵の指示に従って、兵士達は薪を集める。

ギルバートが魔物を感知していたので、野営地では問題無く薪が集まった。

兵士達は休憩を与えられて、天幕に入って休息を取る。

代わりに騎兵達が、周囲を警戒して見張っていた。


「なあ

 そもそも精霊の加護が…」

「ああ

 しかしそれでも、魔物は近付いて…」

「殿下」

「今度は何が出た?」

「またオークです

 数は12体です」

「よし

 騎兵で倒して来い」

「はい」


騎兵達は馬に乗ると、そのままオークが現れた場所に向かった。

これで野営地に着いてから、6度目の戦闘が起こっていた。

主にオークの集団が現れるので、近くにオークの集落があるのかも知れない。

しかし今回は、魔物の討伐に来た訳では無い。


「オークの集落があるのか?」

「多分な

 だけどそれが目的じゃあ無いからな」

「お?

 ギルにしては珍しいな」

「おい!」


ギルバートも今回は、魔王と戦う為だと承知している。

だからこそ、ここで魔物の集落を潰そうとは思わない。


「へえ…

 大人になったな…」

「それに、オークじゃ大した素材にならないからな」

「ん?」

「どうしてもというなら、討伐は…」

「いや、全然成長してねえな」


アーネストはギルバートの発言に、頭を抱える。


「兎に角、魔物狩りは駄目だぞ」

「分かってるって」


その後も何度か、オークが野営地の近くに現れた。

魔物が多いので、その後も進行が遅くなる。

3日掛けてやっと、カザンの街の近くに来る事が出来た。

しかしここでも、2体のオーガが森から現れた。


グガアアア

「オ、オーガ!」

「くそっ!」


ギルバートは前に出ると、一気に魔物に向かって駆ける。


「おい!

 ギル!」

「つえりゃあああ」

ザン!


ギルバートは一気に駆け込むと、剣を引き抜き様に足を切り落とす。


グガ…

「うりゃああああ」

ザシュッ!


返す刀でもう一体の足を切り裂き、2体とも転倒させる。


「今だ!

 一気に倒せ!」

「はい」


騎兵が慌てて後を追い、オーガの周りに集まる。

そして腕や足を切り裂き、オーガを倒した。


「ふう、はあ…」

「焦ったな」

「そうだな」

「だけど殿下が…」


ギルバートが一気に切り込んだので、騎兵達も安心して魔物と戦えた。

しかし歩兵達は、その様子を震えながら見ていた。


「あんな化け物…」

「まだあれでも、巨人と比べればな」

「巨人はもっと恐ろしいんですか?」

「ああ

 あの倍の大きさだ」

「え?」


歩兵達はそれを聞いて、巨人の大きさを想像する。

オーガの大きさで3m近いので、巨人は5mぐらいの大きさになる。

それは王都の城壁より高く、まともに対峙するのは危険だ。

それに比べると、オーガはまだ小さく感じる。

それでも城壁を打ち壊すぐらいだから、巨人がどれほど危険か容易に想像出来る。


「さて、カザンからお迎えが来たな」

「ええ

 カザンの警備兵達ですね」

「よし

 オーガは彼等に任せよう」


オーガの素材なら、今では王都では余るほどある。

素材を回収させる為にも、ギルバートはオーガを警備兵達に任せる。


「回収は任せるよ」

「良いんですか?」

「ああ

 オーガはもう、我々には必要無いから」

「そうなんですか?

 それでは喜んで」


カザンの警備兵達は、喜んでオーガの遺骸を運ぼうとする。

しかし重いので、動かす事も出来なかった。


「どれ」

「え?」

ドスン!


ギルバートはオーガの胴を掴むと、そのまま馬車の荷台に放り投げる。

警備兵達は驚いて、ギルバートの方を見ていた。


「ん?」

「あんな大きな物を…」

「え?」

「殿下

 彼等はまだ、身体強化を使えないんでは?」

「そうなのか?」


カザンの街でも、身体強化の重要性は解いていた。

しかしそれでも、彼等は身体強化を身に着けていなかったのだ。


「大丈夫か?

 オーガぐらいになると、身体強化が無いと厳しいぞ」

「ええ

 我々では、オーガを1体倒すだけでも苦戦します」

「そうだろう?

 早目に身に着けた方が良いぞ」

「はい」

「って言うか…

 みんな使えるんですか?」

「ああ」


ギルバートは歩兵に合図して、もう1体のオーガを運ばせる。

3人掛かりだが、歩兵達もオーガを抱えて運んで来る。


「え!」

「そんな…」


「まあ…

 そういう事だ」


兵士達が運ぶ姿を見て、警備兵達はまた驚く。


「さあ

 侯爵の元に向かうか」

「そうだな」


ギルバート達はそのまま、カザンの城門に向かった。

予定ではこのまま、侯爵から援軍を借りる予定である。

その為に、先ずはカザンの領主のノーランド侯爵に会う必要があった。


「侯爵様は今、こちらに向かっております」

「そうか

 すまないな」

「いえ

 殿下は人間を守る為に、魔王と戦われるんですよね」

「ああ…

 まあ、そうだな」

「でしたら領主様が反対されても、我々は着いて行きます」

「お、おい!」


城門に居た警備兵達は、一斉に頭を下げる。


「オレ達はこれまで、殿下に教わった訓練を実施して来ました」

「中には馬鹿にして、やらない者も多く居ました」

「それはそうだろうな

 ここにはゴブリンやコボルトぐらいしか出ない

 偶に現れるオークも、腕利きの騎兵に任せれば良い」

「そうなんですよ

 それでやりたがらない兵士が多くて…」


ギルバートは先程の遣り取りを思い出して、兵士達が訓練をしてないのを見抜いていた。

しかしそれと、ギルバートに着いて行くという事が繋がらない。


「どうして侯爵が反対すると?」

「それは…」

「兵士が足りていないんです」

「魔物がゴブリンやコボルトだと言っても、怪我人も多いんです」

「それは練度とスキルの問題だな」

「ええ

 殿下に教わった訓練を、真面目にやっている者は無事です」


ギルバートが話していると、侯爵が城門に到着した。


「殿下

 いらっしゃたんですね」

「ああ

 魔王をどうにかしなければ、ここも危ないからな」

「それはそうなんですが…」


侯爵は言い難そうに、警備兵をチラチラと見ながら口籠る。


「公爵

 王都からの伝令ですが…」

「それなんですが

 我が領の兵士は…」

「侯爵!

 協力するべきですよ」

「そうです

 殿下はわざわざ、ここを守る為に魔王を討伐にいらしてます」

「そうですよ

 オレ達の事は気にしないで」

「馬鹿な事は言うな!

 お前達をみすみす危険に晒す訳には…」

「その事なんですが」


ギルバートは話しを一旦切って、侯爵に状況を説明する。


「そもそも、こちらの兵士を借りるのは後方の雑用にです」

「へ?」

「え?

 魔物と戦うのでは?」


「勿論、ゴブリンやコボルトが来たら戦う必要があるかも知れません

 しかし基本は、彼等には後方い支援を求めています

 薪を集めたり水を汲んだり

 後は魔物の遺骸を街に運んだり…」

「それだけですか?」

「ええ

 戦闘はこっちの兵士の担当ですよ」

「それなら…」

「何だ

 そういう事ですか」


侯爵は自領の兵士を、危険な目に遭わせたくないのだ。

それで兵士の貸し出しを渋っていたのだ。


「それならば、ワシも兵士の貸し出しに異論はございません」

「ああ

 頼んだよ」

「良かった」


「それとは別になるが…」

「ええ

 兵士の練度の問題ですな」

「ああ

 これは侯爵の責任になる」

「待ってください

 兵士が訓練に不真面目なのは領主様の…」

「いや

 これは領主の責任になる」


兵士が訓練しない事は、引いては領主の責任になる。

自領を守る事も、領主の重要な責務になるからだ。


「今は王都もゴタゴタしているので、税は治めなくしています

 しかしいくら王都から口出さないと言っても、自領を守るのは領主の役目

 それを出来ないのは…」

「お恥ずかしい限りです」

「しかし領主様は…」

「優しい領主も良いのだが、優柔不断では駄目なんだ

 侯爵は私から、兵士を鍛える機会を与えられた

 それなのにその機会を行使しなかったんだ」

「しかしそれは…」


警備兵はなおも、何か言いたそうにしていた。

しかし侯爵が、首を振ってそれを止める。


「処分は追って告げるが…

 当面は無償での後方支援だな」

「は?」

「それだけですか?」

「ん?

 不満か?」

「いえ

 滅相も無い

 しかしそれだけでは…」

「ああ

 勿論、事が収まってから指示はある

 しかし重要なのは、ここを守れる兵士を育てる事だ」

「それはそうですが…」


「実際な

 下手に侯爵を処分しても、代わりの領主は居ないだろ?」

「それは…

 まあ…」


侯爵には息子が生まれなかったので、娘を他領の領主に嫁がせている。

それで次期領主は、その領主の子供から選ばれる予定になっている。

しかしまだ未成年なので、領主として就かせるには不安が残るのだ。


「確かまだ…」

「ええ

 孫は4歳です」

「うん

 だから後継者が育つまでは、侯爵が責任を持って統治する必要がある」

「しかし…

 良いのですか?」

「ああ

 兵士の問題は重要だが、他はしっかりと統治している

 それならば、任せられる人材を探すべきだろう?」

「はい」


ギルバートは侯爵の責任を、すぐに求める事はしなかった。

これ以上ここで、ゴタゴタを増やしている暇は無いのだ。

今は急いで、魔王と戦う必要があった。


「さあ

 それよりも今は、連れて行く兵士を選ぶ必要があるだろう」

「ええ

 こちらへ…」


侯爵の案内で、ギルバートは領主の館に向かった。

まだまだ続きます。

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