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聖王伝  作者: 竜人
第十六章 竜の牙
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第516話

王都からカザンに向けて、兵士達が出撃する

魔王アモンの居城が、カザンの北にあるからだ

カザンの北にある竜の顎山脈、その真ん中にある竜の瞳

そこに魔王の居城があるのだ

兵士達が整列して、出発の合図を待っている

東門から抜けて、公道を東に向かう事になる

既に準備は完了して、ギルバートが城門前に立つ

兵士達に出発の声を掛ける為だ


「兵士達諸君

 今日集まっていただいたのは、魔王を討伐する為だ」


ギルバートは声を上げて、討伐の宣言をする。


「魔王は元々、人間との争いは望んでいなかった

 しかし女神は、そんな魔王も巻き込んで人間を滅ぼそうとしている」

「え?」

「女神様が?」


これは公表されていなかったので、兵士達には少なからず動揺が走る。


「魔王が戦いの意思を示さなければ…

 討伐は行われる事は無い」


「しかし先年の巨人の襲撃を考えると、それは恐らく無理だろう」


ギルバートの言葉に、ひそひそ話していた兵士も黙る。

女神が魔王を狂暴化させている事で、改めて事の重要さを認識したのだ。

魔王を倒さなければ、被害が増大するのだ。


「魔王を倒さなければ、カザンを始めとして被害が出るだろう

 そして、魔王を倒せば女神の居場所が分かる」

「それって…」

「ああ

 女神はそれを、ゲームと言っていた

 魔王の事を含めて、遊戯のつもりらしい」

「そんな…」

「魔王と戦うのか?」

「そう言ってただろ?」

「しかし…

 勝てるのか?」


魔王と本気で戦うと聞いて、少なからぬ数の兵士が動揺していた。


「魔王は強力だ

 この中には、王都が襲われた日に居た者は少ないだろう

 しかし、勝てない訳では無い」


ギルバートは拳を握って、決意を表明する。


「あの時は…

 陛下が亡くなった時、私はその魔王に負けていた

 しかしそれは、魔王が二柱居たからだ」

「殿下が負けた?」

「あの殿下が?」

「しかし魔王2人とだろ?

 それなら1人なら…」

「そうだな」


ギルバートは敢えて、一度は魔王に負けた事を正直に言う。

しかしその事を示す事で、今度は勝てる筈だと示した。

あの時は2人だったが、今度は1人なのだ。

これで負ける筈が無いと、兵士達に示したのだ。


「殿下

 今度は負けないと?」

「ああ

 だから戦いに行くんだ

 それに負けられないからな」


ギルバートの言葉に、再び兵士達は口を噤む。


「暗い顔をするな

 お前達には何も、魔王と戦えとは言っていない

 魔王と戦うのは、私やアーネストだ」

「それでは我々は?」

「魔王の周りを守る、魔物達の相手をして欲しい」

「それなら…」

「ああ

 巨人で無いのなら…」


「しかし魔王の側近達だ

 侮る事は出来ないぞ」


「歩兵の諸君には、道中で魔物と戦って鍛えてもらうつもりだ」

「道中でですか?」

「ああ

 紅い月が出ていたんだ

 再び魔物が狂暴化しているだろう」


ゴブリンやコボルトが、狂暴化している恐れがある。

それと戦って、歩兵達には魔物と戦う訓練をしてもらう。

最終的には、オークと戦えるぐらいは鍛えるつもりだ。

それぐらいの腕が無ければ、竜の顎山脈には近づけないだろう。


「先ずはカザンに向かうまでの、ゴブリンやコボルトを任せようと思う

 それ以外の魔物は、私達で何とかする」

「それなら…」

「頑張ります」


歩兵達もそれを聞いて、やる気を見せていた。

このままでは、自分達が足を引っ張ると自覚しているのだ。


「それではこれより、竜の顎山脈に向かって出発する

 先ずはザクソン砦跡を抜けて、カザンの街を目指す」

「はい」

「出発の準備は良いか?」

「はい」

「それでは出発するぞ」

「おう!」


兵士達の声が上がり、広場が歓声に包まれる。

いつの間に集まったのか、多くの住民達が見送りに来ていた。


「頑張れよ!」

「頼む!

 魔王を倒してくれ」

「あいつらは親父の仇なんだ」


魔王を倒してくれと、住民達から声が上がる。


「女神め…

 オレの結婚式を台無しにしたんだ」

「このままじゃあ商売も出来ないよ

 早く何とかしてください」


中には結婚式を邪魔された者や、公道を塞がれて困っている商人達も居る。

ギルバートは片手を挙げると、そんな騒ぎを鎮める。


「出発するぞ!

 開門!」

「開門」


東の城門が開き、兵士達が先ず前に出る。

ギルバート達が出発する為に、城門前の魔物を片付ける為だ。

周囲を見回して、魔物が居ないか警戒する。


「殿下

 魔物は居ません」

「そうか、分かった」


「殿下

 向こうまではワシが」

「ああ

 頼む」


「おい!

 殿下が無事に出発出来る様に、ワシ等でお見送りするぞ」

「はい」


子爵の号令で、兵士達が公道の周囲を警戒する。

こうして王都が見える範囲まで、子爵が魔物を討伐する任を負ってくれた。

これで安心して、軍を進める事が出来る。


「それでは出発だ」

「おおおお」


「頑張れ!」

「頼んだぞ」


住民達の声援を受けながら、先ずは騎兵が進み、続いて歩兵を乗せた馬車が進む。

皇女やセリアも馬車に乗り、兵士に守られながら進む。


「シルフ

 ノーム

 お願い」

「はい」

「お任せを」


セリアはギルバートと結ばれた夜から、精霊力が高まっていた。

呼べる精霊の力も高まり、流暢に話せる様になっていた。

そして同時に、狂暴化していないオークまでは寄せ付けなくなっていた。

勿論王都にも、精霊は何体か召喚している。

そのまま一月ぐらいは、王都を魔物から守ってくれるそうだ。


「お兄ちゃん

 普通の魔物なら近寄って来ないよ」

「ありがとう

 助かるよ」

「にゅふふふ♪」


セリアは嬉しそうに微笑んで、馬車の中でシルフとノームを抱いていた。


「あれは何ですの?」

「ああ

 セリアが呼んだ精霊だ

 確か…」

「シルフとノームだ」


アーネストが後ろから、馬に乗って着いて来る。

「皇女はセリアの隣の馬車に乗り、興味深気にそれを見ていた。


「良いな…

 私も…」

「マリアーナにはオレが居るだろ」

「あら?

 セロも可愛いけど、あの子達も可愛いわ」

「可愛い?

 でへへへ」


マリアーナに撫でられて、セロは一瞬相好を崩して照れる。

しかし不満そうに、ノームを指差した。


「でもね、シルフは確かに女の子だけど

 ノームは本当は毛むくじゃらなおっさんだよ」

「おっさ…」

「女王の前で、子供のふりして」


セロは気に食わないと、不満そうな顔をする。

しかしノームは、興味が無いと顔を背ける。


「あ!

 こいつ…」

「止しなさいよ」

「そうだぞ

 ノームを虐めないの

 めっ!」

「めって…」


セリアにまで言われて、セロはしょんぼりとしてマリアーナの膝の上に戻る。


「はははは

 この分なら、暫くは魔物は来ないかな?」

「うにゅう

 そうでもないの」

「え?」

「殿下

 さっそく魔物が」

「む!」


「殿下

 ここはワシ等が」


子爵が兵士を率いて、魔物が向かって来る方向に備える。

森から声がして、数体のゴブリンが飛び出した。


「お前等!

 殿下の出発を邪魔する奴等だ

 容赦するな!」

「はい!」


兵士は武器を構えると、ゴブリンの群れに向かって行った。


「さあ

 殿下はそのままお進みください」

「え?

 でも…」

「後はお任せください」

「そうだぞ

 今は一刻の猶予も無い

 この場は子爵に任せよう」

「ああ」


アーネストに促されて、ギルバートは指示を出す。


「我々はこのまま進むぞ」

「はい」


ギルバートが進んだ後に、後詰めの騎兵達が進む。

それを守る様に、子爵達が魔物を倒して行く。

ゴブリンは50体近く現れていたが、今の子爵達の敵では無かった。

子爵が剣を振るう事も無く、部下の兵士達が全て倒していた。


「子爵様

 これで全部です」

「うむ

 殿下も無事に出発された」

「魔物の遺骸は?」

「一応魔石だけ確認しておけ

 魔石は各自の報酬にして構わん」

「やった!」

「今夜は飲みに行けるぞ」


兵士達は喜んで、ゴブリンの魔石を確認する。

勿論その際に、四肢を切断するのは忘れない。

放って置けば、死霊になる恐れもあるからだ。


「まあ…

 魔石は無さそうだがな」


ゴブリンの強さを見れば、それがただのゴブリンだとすぐに分かった。

狂暴化していても、ゴブリン程度では魔石は持っていない事が多い。

せめて上位種なら、魔石を持っていたかも知れない。

しかしこのゴブリンは、どう見ても上位種には見えなかった。


兵士達は嬉々として魔石を探すが、結局は4個しか見付からなかった。

拾った兵士達の仲間は、酒が飲めると喜んでいた。


「しょうがないな…

 ほら!

 これで喧嘩なんてするなよ」

「え?

 良いんですか?」

「ああ

 景気づけだ

 ただし飲み過ぎるなよ」

「はい」


子爵は金貨を渡すと、兵士達に騒がない様に指示した。

さすがに倒したばかりだから、魔物も周囲には居ないだろう。

しかし油断していると、他の魔物が寄って来る可能性もある。


「さあ

 王都に戻るぞ」

「はい」


今日から暫くは、子爵がギルバートの代わりに兵士の指揮をする。

王都を守る為に、仕方なく引き受けていた。

少なくとも本人は、そう思っていた。

子爵が将軍になる為の、根回しだとは知らずに。


「殿下

 また魔物です」

「くそっ

 やっぱり狂暴化してるか」

「愚痴るな

 それよりも指揮をしろ」

「ああ

 魔物の内訳は?」

「ゴブリンが12体の、コボルトも32体居ます」

「魔物同士で戦っているのか…」

「いえ!

 一緒に襲って来ます」

「何!」


これまでコボルトは、ゴブリンを格下と侮っていた。

そしてゴブリンも、コボルトを敵と認識していた。

だから同時に現れても、魔物同士で戦っていた。

しかし今回は、その2組が同時に襲って来たのだ。


「魔物同士が手を組むなんて…」

「そうだな

 今までは魔王でも居なければ、魔物が手を組む事は無かったな」

「どうしますか?」

「どうするもこうするも

 取り敢えず倒すぞ」

「はい」


「コボルトは騎兵で取り囲め

 その間に、歩兵部隊はゴブリンを討伐してくれ」

「はい」

「良いか

 くれぐれも無茶するな」

「はい」


先ずは騎兵にコボルトを取り囲ませて、動きを封じる。

それから歩兵部隊に、ゴブリンを討伐させる。


「殿下

 ゴブリンを倒しました」

「被害は?」

「軽傷が2名居ますが、問題ありません」

「よし

 それでは次に、歩兵部隊でコボルトも倒すぞ」

「え?」

「大丈夫ですか?」

「お前達が守ってやれ」

「は、はい」


騎兵達に援護をさせて、歩兵でコボルトを狩る。

これは歩兵達の訓練の為で、無理に歩兵で戦う必要が無い。

しかし折角なので、訓練をさせたいという考えだったのだ。


「殿下」

「ああ

 無理に援護をする必要は無いが…

 良く魔物の動きを見ておけ」

「はい」


騎兵達が牽制をしながら、歩兵達が懸命にコボルトを切り付ける。

武器の性能も上がっているので、コボルトを一撃で倒せる事が出来る。

後は油断して、魔物に急所を狙われなければ良い。

革鎧もプレートが着けられて、コボルト程度では傷付かないのだ。


「慎重に戦え

 打撃は痛いが、爪や牙ではその鎧は切り裂けない

 安心して戦え」

「はい」

「うおおおお」

「うりゃあああ」


歩兵は懸命に剣を振るって、コボルトの腕や足を切り裂く。

まだまだ腕が未熟なので、魔物の急所を狙えるほどでは無いのだ。

それで腕や足を狙い、動けなくなったところに止めを刺していた。


「よし、良いぞ

 慎重に戦え

 すぐに倒せなくても良い

 怪我をしない様に、魔物との戦い方を覚えろ」

「はい」

「うわああああ」

「てりゃあああ」


歩兵達は懸命になって、魔物を1体1体倒して行く。

そうして時間は掛かったが、無事に魔物を倒す事が出来た。


「はあ、はあ…」

「勝てた?」


「よくやったぞ

 被害状況は?」

「軽傷が5名ですが、掠り傷や打撲です」

「よし、それならポーションで…」

「いいえ

 ここは私に任せてください」

「皇女?」


マリアーナが前に出て、順番に怪我人の手当てをする。


「ヒール・ライト」

「おお!」

「ああ…

 暖かい…」


柔らかな光が、皇女の掌から放たれる。

それを傷口に当てると、ゆっくりと傷口が塞がる。


「打撲でも、これで痛みが無くなります」

「でも、皇女の魔力が…」

「この程度なら、全然問題ありませんわ

 それに私の、魔法の訓練にもなります」

「訓練に?」

「ええ

 実際に傷を癒さなければ、魔法の修練になりませんの」

「そうなのか?」

「ええ」


皇女はそう言って、怪我人を集めて治療を始める。


「なあ、アーネスト」

「ん?」

「もしかしてお前も…」

「ああ

 同じことを考えていた」


アーネストが魔法の技量が上がった時は、大体魔物と戦った後だった。

それ以外の時は、技量の向上はあまりなかった。

確かに呪文を覚えたり、魔力の上限は上がっている気はしていた。

しかし魔物と戦った時の方が、魔法の威力や効果は上がっていた。


「それじゃあ一人で練習していた時は…」

「言うな!

 惨めな気分になる」


アーネストは不満そうな表情をして、ギルバートの前から離れた。


「確かにお前達の考えてる通りだ

 魔法は効果を発揮した時の方が、訓練の効果が出る」

「セロ…」

「しかし、一人の訓練でも無駄では無いぞ

 呪文を覚えたり、魔力の向上を計れる」

「そうだよな

 そうじゃないと…」

「そこで同情してやるな

 あれが可哀想だろ」


アーネストは気にしてない様子を装っていたが、かなり落ち込んでいた。

特に修練に無駄が多かった事より、それを同情された事の方が傷付いていた。


「今はそっとしておいてやれ」

「ああ」


セロはアーネストの気持ちが分かるのか、ギルバートにそうアドバイスをした。

光の精霊は、人間の精神状態に敏感なのだ。

だから今も、マリアーナが遣り甲斐を感じているのを感じていた。


「これは確かに

 皇女も伸びそうだ」

「え?」

「何でも無い」


セロはそう言って、マリアーナの下へ向かって行った。

まだまだ続きます。

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