第513話
ギルバートは王城の中で、部隊の編成をする
今回は魔王と戦うという事で、恐らく多くの者が亡くなるだろう
ギルバートは連れて行く兵士達に、生きて帰れない事を伝える
その上で着いて来るか、兵士達に問い質していた
王城の中の、騎士の間に兵士達が集められる
以前護衛に就いた兵士以外に、新たに騎兵や歩兵も集められる
その中で、魔王と戦う勇気がある者だけが連れて行かれる
兵士達はギルバートの説明を聞いて、どうするか自分で決める必要があった
「昨晩、私の結婚式が行われた」
「おお」
「遂にイーセリア様と…」
「喜んでくれるの嬉しいが…
そこで問題が起こった」
「え?」
「どうされたんですか?」
「まさかイーセリア様に…
フラれた?」
「おい!」
不謹慎な事を言う兵士に、思わずギルバートも突っ込む。
まだ女神の事が伝わっていないのか、兵士達は赤ら顔でふざけていた。
兵士の半数が、新年の祝いという事で休みになっていた。
それが急に呼び戻されたのに、兵士達はまだ酔いから覚めていない。
それは食糧事情にも問題があったからだろう。
兵士達は、呼び出されたのは魔獣狩りだと思っていたのだ。
「殿下
女神の事ですか?」
「ああ
君達は昨晩は…」
「ええ
殿下を祝おうと、会場に来ていました」
「オレは友人の式で…」
「ああ
その友人にはすまない事をした」
「いえ
悪いのは殿下ではございませんから」
兵士はそう言って、首を振っていた。
「おい
何があったんだ?」
「女神って…
女神様の事か?」
ざわざわと兵士達は、何事かと騒ぎ始める。
「静粛に!
静粛に!」
ギルバートの言葉に、兵士達は慌ててお喋りを止める。
事態の深刻さに気付いて、酔いが冷めた者も増えている。
「既に知っている者も居るが…
女神は人間を滅ぼすと宣言している
そして昨晩も、私の式を妨害しに現れた
セリアとの結婚を認めないとか言っていたな」
「え?」
「そんな横暴な!」
「なんだって女神様は…」
当然の事ながら、兵士達は再び騒然とする。
人間を滅ぼすという事も問題だが、何で結婚を邪魔するかが分からなかった。
それで結婚式を妨害する女神に、横暴だと声を上げる兵士も居た。
ギルバートは止む無く、暫く兵士達が落ち着くのを待っていた。
「殿下
それではイーセリア様との式は?」
「それは止む無く…」
「そんな!」
「イーセリア様はあんなに楽しみにしてらしたのに」
「許せねえ…」
兵士達の半数が、結婚式を妨害された事を怒っていた。
それはそれだけ、セリアの事を大事に思っていてくれていた証拠だ。
「それで…
殿下は?」
「ん?」
「昨晩は…
しょ、しょ…初夜だったんですよ…ね?」
「へ?」
「いや、夫婦の初めての夜でしょう?」
「初めての夜
初めての共同作業」
「いや、共同作業は結婚式だろ?」
「いや、そこはこう…」
「ん?」
兵士達は興奮して、何やら盛り上がっている。
ギルバートは状況を理解出来ず、困った顔をする。
「昨晩は頑張ったんですよね?」
「その割には目に隈は…」
「きっとあれだ、身体強化で…」
「おお!
それは激しい」
「何の話だ?」
「え!」
「殿下はイーセリア様を…」
「ん?
式が台無しになったからな
一晩慰めていたが?」
「その慰めるのが…」
「いや、慰めるだぞ?」
「だが、慰めるってそういう意味も…」
「しかし殿下だからな」
「はあ…」
兵士達が一斉に溜息を吐き、ギルバートを冷やかに見る。
「え?
何だ?」
「どうせ昨晩は、頭を撫でていたとかそう言うんでしょ?」
「駄目だな…」
「ヘタレめ」
「おい!
どういう意味だ!」
「どういうも、こういうも無いでしょう
初めての夫婦の夜ですよ?」
「いや、女神は認めないと…」
「真面目か!」
「そんなん聞いてどうするんです
殿下はイーセリア様と夫婦になったんですよ」
「いや、女神に認められていないから…」
「そんなの関係ねえ!
結婚式を挙げたんだろ?」
「そうだ!」
「ちゃんと責任取れよ!」
「え?
ええ?」
兵士達に責められて、ギルバートは困惑する。
「私は何で責められているんだ?」
「それは奥さんを…
イーセリア様を放って置いたからです」
「いや、ちゃんと慰めて…」
「頭を撫でたとかでしょ?」
「それじゃあ駄目でしょ」
「へ?」
「初めての夜だから…」
「こう、後ろから抱き締めて」
「ぎゅっと、それから服の隙間から手を入れて…」
「後は激しいキスや全身を隈なく愛撫して…」
「おい!
それって…」
「ええ
初夜ってそんなもんでしょ?」
「当たり前でしょ?」
「え?」
兵士達が演技するのを見て、ギルバートは何の事か理解する。
しかし昨晩は、泣きそうな顔をするセリアを抱き締めていた。
そして優しくキスしたり、頭を撫でてあげていた。
それでセリアは、満足したのか泣きながら眠っていた。
ギルバートはそれで、セリアが満足したと思っていたのだ。
「どうせ殿下は、今までも最後までしていないんでしょう?」
「そうですよ」
「激しく求めて、ぐちゃぐちゃにするとか…」
「初めてでそりゃマズいだろ」
「うわあ…
そりゃあ引かれるわ…」
「うるせえ」
「兎に角、殿下は何もしていないんでしょう?」
「いや、何もじゃあ…」
「する事してないんです
何もしてないと同じでしょ?」
「そうだそうだ!」
「ぐう…」
今さらながら、ギルバートは昨夜の事を思い出す。
ギルバートが撫でている時も、セリアは何度もギルバートを見詰めていた。
それがそういう事を求めていたのなら、察して何もしなかったギルバートが悪いのだろう。
セリアは何度も、その先を求めていたのだから。
「ま、まさかあれが…」
「殿下…」
「あ~あ
こりゃあ呆れられたな」
「いや、イーセリア様もいい加減気付いているだろ」
「今頃溜息吐いて、フィオーナ様の所でも行っているさ」
「そうだな
いつもの事だもんな」
「いつもの?」
「ええ」
「あれ?
殿下は気付いていない?」
兵士達は呆れた視線から、今度は同情の眼差しに変わる。
「おい?」
「はあ…」
「こりゃあ…」
「まあ、仕様が無いさ」
「おい!
何だ?
その変な眼差しは?」
「まあまあ」
「いつもの?
事だからな」
「ぐぬぬぬ…」
「まあ良い
話を戻すぞ」
「へ?」
「あれ?
この話じゃ無いの?」
「そうだぜ
殿下の失敗談かと…」
「失敗談じゃ無い!
そもそも…」
「失敗談だろ?」
「なあ」
「ああ」
「ぐぬぬぬ…」
ギルバートはとうとう、怒って威圧のスキルを使う。
「お前等!」
「ぐう!」
「ぎへ?」
「ひああ…」
軽く声を上げただけだが、半数の兵士が動けなくなっていた。
「よし
黙ったな」
「よしじゃ無いでしょ…」
「まったく」
「何か言ったか?」
「い、いえ
何も」
「良いから話を続けるぞ」
ギルバートは会場で、女神が告げた事を知らせる。
女神が魔王を使って、人間を滅ぼそうとしている事。
それからゲームと称して、女神の居場所を魔王に教えてある事。
そういった事を、兵士達に話して聞かせる。
「ゲーム?」
「遊戯って話ですよね」
「ああ
お前等はあそこに居たんだったな」
「はい」
「女神はアモンに神殿の場所を教えていると言っていた
それが本当か分からないが…
恐らく厳しい戦いになるだろう」
「魔王と…」
「王都を襲った奴ですよね?」
「ああ
あの黒い獣の様なのが魔王だ」
「あんな化け物と…」
「魔王と戦うのは私だ
それとアーネストとマリアーナ皇女も同行する」
「皇女様が?」
「ああ
彼女は神聖魔法を使える
少しの怪我なら、癒してもらえる」
「殿下の病を癒したのも皇女様だ」
「それなら…」
「あー…
正確には違うんだが…」
しかし兵士達は、傷を癒せる魔法があると聞いて、少し安心していた。
ギルバートは、あまり過剰な期待はしないようにと一応警告はする。
しかし場合によっては、アーネストも使える可能性はある。
光の精霊の手助けは必要だが、アーネストも神聖魔法を使えていた。
あれから修練しているので、少しは使える様になっているだろう。
「どうだ?
魔王を取り巻く、魔物との戦いになると思う
この戦いに、参加しようと思う者は居るか?」
「我々は行きますよ」
「当然ですよ」
「イーセリア様も一緒ですよね?」
「ああ
セリアも同行する」
「よっしゃ!」
「お前なあ…」
「はははは」
護衛だった兵士達は、ほとんどが参加を表明している。
「オレは…」
「そうだな
彼女が出来たからな」
「イーセリア様を守るのはオレ達だ
安心しろ」
「いや
オレは元々、もう少し年上が…」
数人が同行しない事を表明するが、代わりに騎兵達が。同行する事になる
そして歩兵からも。50名まで同行が決まる。
「騎兵が50名に護衛兵が24名…」
「オレ達は騎兵として同行します」
「うむ」
「後は歩兵が50名か…」
「よろしくお願いします」
「お前達は主に、馬車の運搬と周辺の警戒を頼む事になる
直接の戦闘は、騎兵達が行うからな」
「はい」
ある程度の方針が決まると、今度は装備や資材の問題だった。
「天幕や食料は馬車で運ぶ
素材の回収は、後でカザンのノーランド侯爵にお願いする」
「武装はどうします?
騎兵部隊には新しい装備が配備されましたが…」
「ああ
お前等も支給されたな?」
「はい」
護衛兵達も、新たな騎兵用の装備が支給されていた。
新たなプレートで補強された、最新の革鎧だ。
それにクリサリスの鎌と、ショートソードが支給されている。
「歩兵にも皮鎧と、ショートソードを支給させよう」
「慣らしはどうします?」
「1週間の訓練を行う
そこで安全に戦う為の、基本の訓練を行おう」
「そうですね
最低限コボルトかオークぐらいは狩れないと…」
「ああ
馬車の警護や斥候も出来ないだろう」
そこまで手配すると、ギルバートは必要な書類を纏める。
兵士達の装備の申請と、資材の手配を記した書類だ。
それを文官に手配させると、改めて兵士達の方を向いた。
「今日は休みのところを、急遽呼び出して申し訳ない」
「いえ」
「良いんですよ」
「そうです
王国の…
いや、世界の危機です」
「世界か…」
確かに人間を滅ぼそうとしているのだ、世界の危機と言うべきだろう。
しかしギルバートは、それに疑念を抱いていた。
確かに西方諸国にも、魔物が現れて被害は出ている。
しかし向こうには、魔王が出たという報告は無かった。
もしかしたら、王国や帝国が一番被害を被っているかも知れない。
「殿下?」
「いや
本当に世界の危機なのかな?」
「え?」
「いや、何でも無い」
ギルバートは頭を振ると、改めて兵士達に頭を下げる。
「明日から大変だ
非番の者はこのまま帰って、ゆっくりと休んでくれ」
「止してください」
「そうですよ
殿下は王太子なんですよ?」
「頭なんて下げないでください」
兵士達はそのまま、解散して下がって行く。
しかし護衛の兵士だけは、その場に集まって残っていた。
「ん?
お前達…」
「殿下
このまま旅に出ると、イーセリア様とする機会なんてありませんよ」
「な!」
「そうですよ
するなら今の内ですよ」
「今夜…
いや、今からでも向かうべきです」
「何を言って…」
「駄目ですよ」
「イーセリア様が泣いているかも」
「へ?」
「そうですよ
やっと殿下にしてもらえると思ったのに、今度は魔王でしょう?」
「さすがにここまでしないと、嫌われますよ」
「嫌われ?」
「ええ」
「さすがにヘタレですからね」
「お前等…」
「さあ
後の手配は我々が」
「そうですよ
アーネスト様とバルトフェルド様に話せば良いんでしょう?」
「ちょ!おま!」
「良いから」
「早くイーセリア様の元へ向かってください」
半ば強引に、ギルバートは兵士に追い出される。
それから兵士達は、手分けして作業に向かって行った。
「良いですか
今度こそイーセリア様を満足させてあげてください」
「そうですよ
姫様はずっと待っているんです」
「でないとオレ達
一生殿下を恨みますからね」
兵士はそう言って、それぞれの作業に向かって行った。
「まったく…
私にどうしろと?」
ギルバートは途方に暮れて、トボトボと回廊を歩いて行った。
その先を進むと、王城の裏手の離宮に出られる。
恐らくセリアは、そこでフィオーナに会っているだろう。
ギルバートは離宮の前に出ると、正面から入る。
「お兄ちゃん♪」
「あら?
お兄様
お仕事はよろしいのかしら?」
「ああ…」
フィオーナの言葉には、若干の棘が含まれていた。
「大事な奥様を放っっぽって、何を考えているの?」
「いや、私は…」
「言い訳は良いの
ほら!
セリアも何とか言いなさいよ」
「うみゅう…」
「もう!
さっきまで泣いてたのに」
「え?」
ギルバートがセリアを見ると、目が泣き腫らして赤くなっていた。
「セリア…」
「ううん
お兄ちゃんは悪くない
悪いのはあいつだ」
「もう!
さっさと行きなさい」
フィオーナは二人の背中を押すと、強引に離宮から追い出そうとする。
「あ!
おい!」
「いい加減にしなさい
あんた達が来ると、私がアーネストに甘えられ無いでしょう」
フィオーナは腰に手を当てると、頬を膨らませて二人を睨む。
「良い事!
今日は…
いえ、明日の朝まで、しっかりとセリアの相手をする事」
「おい…」
「セリアも
いつまでも甘えて無いで、何がして欲しいか…
分かるわよね?」
「うみゅう…」
セリアは恥ずかしそうにはにかむと、上目遣いでギルバートを見上げる。
ギルバートはそれが可愛いくて、堪らず抱き締めていた。
「お兄ち…うむ」
「セリア…」
「あふっ♪」
「こら!
ここで盛るな!
さっさと部屋へ行け!」
ギルバートはセリアを抱き上げると、慌てて二人の部屋に向かった。
まだまだ続きます。
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