第511話
王都の広場は、騒然としていた
王太子であるギルバートの結婚式に、突如女神が乱入して来たのだ
ギルバートとセリアの、結婚式を認めないという事なのだ
彼女はギルバート達に対して、改めて人間を滅ぼすと宣言する
そして手始めとして、帝国の帝都を砂の底に沈めるのだった
女神来訪によって、王都の広場は混乱していた
神である女神より、人間を滅ぼすと宣言が下ったのだ
その上で女神は、砂の底に沈む帝都の光景を見せる
それを見せられたギルバート達は、絶望のどん底に叩き落されていた
そこに光の精霊である、セロが現れたのだが…
「マリアーナ
公爵は無事だ」
「え?
本当なの?」
「ああ
ちょうど数日前に、一部の民を連れて移動している」
異変を感じたセロが、公爵に避難を促したのだ。
それが功を奏して、公爵と一部の民の命は救われた。
「公爵は無事なのか?」
「無事は無事なんだが…
肝心の帝都が消え失せたんだ
これからどうやって暮らして行くか…」
「そうだな…」
帝都が消え失せた為に、生活する場所が失われたのだ。
その上で一部の民は、何も起きないからと帝都に戻っていた。
その為に犠牲者が、少なからず出ていた。
そしてセロは、もう一つ重要な証言をする。
それは女神が、今は眠っているという事だった。
「え?
女神だって?」
「ああ
人間を滅ぼすと、ここで改めて宣言したんだ」
「それで見せしめとして、帝都を…」
「何を言っているんだ
女神なら今も、眠っている筈だぞ?」
「え?」
「いや、だってさっき…」
ギルバートとアーネストは、それでもさっき見た光景を説明する。
帝都を砂漠に沈めるほどだ、そんな事は女神にぐらいしか出来ないだろう。
「見間違いじゃ無いか?」
「いや、確かに女神と名乗っていた…」
「それに帝都を目の前で、沈めて見せたんだぞ」
「うーん…
確かにあんな事が出来るのは、女神だけなんだが…
しかし眠っていたんだがな…」
「詳しく聞かせてくれ」
「近い、近いって
教えるから、取り敢えず落ち着け」
セロは掴み掛かるギルバートから、何とか距離を取って宙に舞う。
その姿は夜の暗がりの中に、美しい光の煌めきを見せていた。
住民達はその光景に目を奪われて、先ほどの絶望を忘れていた。
「いいか
女神は神殿に居たんだ」
「それはいつの話だ?」
「え?」
「いやな
そもそも精霊の住む世界って、ここと時間の流れが違うんだろ?」
「そりゃそうだが…」
セロは困った様子でうろうろと宙を舞う。
「確か…
馬鹿王子が皇女に会いに来た後だから…」
「それは確かか?」
「ああ
間違いない」
そう言いながら、セロは皇女の方を見る。
「そういえば…
確かに数日、セロを見掛けなかったわよ」
皇女は思い出す様に呟く。
「その間に神殿に向かって、女神の様子を見て来たんだ」
「そんな重要な情報を…」
「しかしそれって、女神の本体なのか?」
「本体?」
ここでアーネストは、思っている疑問をぶつける。
「女神って、身体を入れ替えれるんだろ?」
「え?」
「どういう事ですの?」
「ああ
実は…」
アーネストは竜の背骨山脈であった出来事を、みなに分かる様に説明する。
「オレ達が竜の背骨山脈に向かった時に、女神に襲われたんだ
その時に女神は、自由に身体を入れ替えれると言っていた」
「そういえば、そんな事をいっていたな」
「そんな事が…」
「それって誰にでも出来るの?」
「ん?」
アーネストの言葉に、横からフィオーナが質問する。
「どういう意味だい?」
「いえ
自由に入れ替えれるって、私達も含まれるの?」
「いや
それは無理じゃ無いか?
予備の身体を用意してたみたいだし」
「ていう事は、その身体にしか入れないのよね?」
「多分な」
フィオーナは顎に手を当てて、少し考える。
「それが本当なら、寝ている女神様の側に起きている女神様が居た事になるんでしょうね?」
「ん?
どうしてそうなるんんだ?」
「だって入れ替わる身体が必要なんでしょう?」
「あ!
そういう事か」
「ええ
近くに無いのなら、入れ替えれないでしょう?」
「それはどうかな…」
しかしその考えを、アーネストは否定する。
「確かにその寝ている様に見えたのが、身体を移した物だとしよう
しかしそれは、近くでないと出来ないかは分からないぞ」
「そうなの?」
「ああ
入れ替える身体は必要みたいだけど、それが近くにある必要があるかは…」
「そうなのね…」
ギルバート達が集まって話していると、住民の一人がおずおずと近付いて来る。
「すいません
殿下…」
「あ!
すまないな」
「いえ、こんな状況ですから」
しかし祝いの宴は、今さら再開出来る様な状況では無かった。
ギルバートは一先ず、結婚式は終了した事にする。
中途半端な式になったが、これ以上続けるのも無理があるだろう。
ギルバートは住民達に、今夜は解散する事を伝える。
そして今後の事は、追って報せる事にした。
「すまないが、今夜の宴は…」
「そうですね
これで終わりという事で…」
「ああ
みんなにもそう伝えてくれ」
「はい」
「それからみんなには、指示があるまでは普段通りにして欲しいと思う
女神がどうするにしても、戦うのは私達だから」
「え?
戦うって…」
「ん?」
「神と戦うんですか?」
「ああ
そのつもりだ」
ギルバートの言葉に、住民は驚いて声を上げる。
それで会話の内容に気付いて、住民達は騒然となる。
「女神様と戦うだなんて…」
「しかしあんな事を言われては…」
「だが…
勝てるのか?」
「勝てるかなんか関係無いだろ?
私達を守っていただかないと」
「そうだ!
その為の王族だろ?」
騒ぐ住民達を見て、ギルバートは仕方なく声を掛ける。
「今はどうするか決まっていない
みんなは一旦家に戻ってくれ」
「しかし…」
「どうなさるおつもりですか?」
「いや、今それを考えているんだ
だから今すぐには…」
ギルバートの言葉に、住民達も不承不承ながら立ち上がる。
それから住民達は、食事を受け取ってから帰路に着いた。
新たに夫婦になった者達は、悲しみに暮れて帰って行く。
折角の結婚式が、思わぬ形で壊されてしまったからだ。
「何だか悪い事をしたな」
「不可抗力でしょ?
女神が悪いんだから」
「そうなんだが…」
「それに
生き残れたら、良い思い出になるんじゃない?
王太子と一緒に式を挙げれて…
その上でこんな場面に遭遇したんだから」
「はははは
いい思い出ねえ…」
ギルバートは苦笑いを浮かべて、傍らのセリアの頭を撫でる。
「ふみゃん!」
「すまないな
折角の式が…」
「良いの!
セリアはもう、お兄ちゃんの物になったんだから」
「あー…」
「いっぱい子供作ろうね」
「ちょ!」
セリアは照れながら、ギルバートの胸元に顔を埋める。
それを引き攣った顔で、皇女二人が見ていた。
「こんな時に…」
「だから馬鹿王子なのよ」
「おい!
聞こえてるぞ」
「取り敢えずは…
城に戻るか」
「ええ」
「そうだな」
ギルバートは、一旦城に戻る事を提案する。
ここであれこれ考えても、上手く纏まらないだろう。
一旦城に戻って、状況を整理しようと思った。
「ヘイゼル老師」
「ん?
ああ…」
アーネストが老師に近付き、肩を揺すって起こす。
腰を悪くしているので、老師は一人では歩けないのだ。
それで騒ぎになっても、そのまま席に座っていた。
老師はまだ眠いのか、ぼうっとした顔をしていた。
「もう飯かのう?
腹が減ったわい」
「老師…」
「お爺ちゃん
さっき食べたばっかりでしょう?」
「そうじゃったかのう?」
「アーネスト
老師はどうされたんだ?」
「ああ
それが腰を痛めてからは、ほとんど寝たきりでな
最近では少し惚け始めて…」
「ああ…
それじゃあ女神の事は…」
「ああ
期待するな」
二人のひそひそ声が聞こえたのか、ヘイゼルはギルバートの方を見る。
そして突然、詩の様な意味不明の言葉を語り始める。
「女神の座すはプトラナの台地
天を突く曙光に照らされし、麗しの神殿にあり
そを守るは、古の6人の守護者
彼の者の封印を解き、その身を光の欠片に翳せ」
「老師?」
老師が呟く言葉は、意味の分からない詩の様に聞こえた。
しかし当の本人は、自分が呟いた事にさえ気付いていない様子だった。
「老師
それは何ですか?」
「はあ…
腹が減ったのう…」
「お爺ちゃん
ご飯は食べたでしょう?
それよりもさっきのは?」
「んあ?」
「はあ…
駄目だ」
結局老師は、謎の文言を覚えている様子は無かった。
尋ねてみても、首を捻るばかりだ。
「老師
プトラナって何ですか?」
「はあ?
何じゃそれは?」
「駄目か…」
「ああ
そもそも意味があるのかすら…」
「アーネスト
お前はその…」
「プトラナとか守護者か?
6人と聞けば、初代皇帝絡みかと思うが…」
しかし皇女の方を向いても、二人共首を振っていた。
「聞いた事もありません」
「公爵ならあるいは…
しかしそんな地名は…」
「だよな
それに六大神はそれほど昔じゃあ無い
その古の守護者というのも気になるな」
アーネストは老師を背負うと、身体強化を掛けて運び始めた。
「おい
大丈夫か?」
「ああ
老師は私達にとっても、大事な恩人だ」
「そうよ
お爺ちゃんには何度も助けられたわ」
「そのお爺ちゃんは止めてあげろよ…」
「あら?
お爺ちゃんがそう呼んでくれって」
「そうなのか?」
「ああ
肩っ苦しく、老師なんて呼び方は止めてくれって
王宮魔術師も止めたしね」
「そういうもんか?」
ギルバート達はそのまま、王城に戻って行った。
先ほどの地響きで、王城の中はまだ混乱していた。
しかも祝賀行事の為に、王城の兵士も人数が少なくなっていた。
その為に王城には、女神が現れた話はまだ伝わっていなかった。
「おお
ご無事でしたか」
「バルトフェルド様
この騒ぎは?」
「ええ
城内もひどく揺れましてな」
「そうか…」
ギルバートはバルトフェルドに、城内の被害状況を確認する。
「被害は?」
「城内は何とも…
食器や物が落ちて壊れたぐらいで…」
「ふむ」
「殿下の方は如何でしたか?」
「ああ
被害は無いが女神が来てな」
「そうですか
女神が来て…」
「ああ
また人間を…」
「なんですと!」
バルトフェルドは大声を上げて、驚いた顔をする。
「どうした?」
「女神様がですか?
それで何と…」
「ああ
だからまたな、人間を滅ぼすと言って来て…」
「ああ…」
バルトフェルドは一瞬気が遠くなったのか、ふらふらと膝を着いた。
「あ、おい!
大丈夫か?」
「え、ええ…
少し眩暈が…」
「無理するなよ
少し横になって…」
「はははは
無理させてるのは殿下ですぞ」
「そうか?」
ギルバートは自覚が無い様子で、心配そうにバルトフェルドを見る。
バルトフェルドは手を振って、大丈夫だと示した。
「それで?
女神様はそれだけを告げる為にわざわざ?」
「ああ
それと私の結婚を認めないと」
「それはまた…」
「ああ
ガーディアンである私と、精霊女王との婚姻は認めないとさ」
「何でわざわざそんな事を?」
「ん?
そうだな
そういえばそうだ…」
ギルバートはここで、女神の行動の違和感に気が付いた。
確かに結婚を認めない程度の事なら、わざわざ来る必要も無いだろう。
ここに来たという事は、結婚式自体を潰す為に来たとしか思えない。
しかしそれも、わざわざ来て潰すほどの事には思えないのだ。
「何で女神は、そこまでして結婚式を潰そうとしたんだ?」
「え?
ああ、そうですな…」
バルトフェルドも気が付き、首を捻る。
「確かに女神様が、わざわざそんな事をするとは…」
「そうだよな
そもそも気に食わないとしても、結局は人間を滅ぼすと言っているんだ
わざわざ私達の結婚式を潰す意味なんて…」
「おい
どうでも良いけど」
「ああ
すまない」
ギルバートは城門の前から離れて、アーネスト達が通り易くなる様に道を譲る。
ヘイゼルを背負っているので、ギルバート達が立っていると通れなかったのだ。
「これは…
老師はどうされたのだ?」
「いつも通りの腰が悪くてさ」
「そうか」
「さあ
お爺ちゃん、行きますよ」
「ふが?」
ヘイゼルは半分寝ていたのか、涎を垂らしながら返事をする。
アーネストはそんな老師を背負って、奥の客間へと向かった。
「そうだ!
バルトフェルド様はプトラナという名称に心当たりは?」
「いえ?
プトラナですか?
聞いた事もありませんが…」
「そうか…」
「それじゃあ
古の…守護者というのは?」
「いえ
やはり聞き覚えがございません
それが何か?」
「ああ
ちょっと気になってな」
「それでしたら老師に…」
「その言った本人が、あんな様子なんだ」
「ああ…」
バルトフェルドは意図を理解して、頭を抱えた。
当の言葉を言った老師本人が、それの意味を思い出せないのだ。
嘗てはクリサリスの知恵袋とまで言われたのに、今では惚けた老人となっている。
ここ1年程で、すっかり老け込んでしまった様だった。
「老師がその言葉を?」
「ああ
女神が帰った後に、突然言い出したんだ
しかし誰も知らないんじゃあ…」
「帝国では?
皇女様では何か知りませんか?」
「ええ」
「残念ですが、聞いた事もございません」
「そうですか…」
「そうだ!
帝国だが、帝都が滅ぼされたんだ」
「はあ?」
「女神が…
さっきの地響きがあっただろ?
あれが帝都が消え去った音で…
おい!」
帝都が消え去ったと聞いて、遂にバルトフェルドは倒れた。
白目を剥いて、口からは泡を吐き出している。
さすがにその報告は、老いたバルトフェルドには堪えられなかったのだ。
「うーん
参ったな」
「ショックが強過ぎて、意識が飛んだみたいですわね」
「参ったな
まさか倒れるとは…
公爵の事とか相談したかったのだが…」
「あんな事を急に聞かせれば、そりゃあ倒れますわ」
「そうですよ」
皇女二人に責められて、ギルバートは頭を掻いて誤魔化していた。
まだまだ続きます。
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