第510話
王都の広場で、結婚式が行われていた
新年の祝賀行事の一環として、結婚式が行われる事になった
ギルバートとセリアの式もあるが、それは最後に行われる事になる
先ずは最初の一組として、アーネストとフィオーナの式が行われる
アーネストとフィオーナは、司教の前で誓いの言葉を述べる
そうして二人は、晴れて夫婦として認められた
二人は拍手で住民達に迎えられ、司教の前から一旦下がる
続いて二組目の、新たな夫婦になる二人が前に出る
そうして順番に進み、いよいよギルバート達の番になる。
「殿下
次ですよ」
「ああ」
ギルバートが立ち上がったところで、ちょうど12時の鐘が鳴り響く。
「お?
ちょうど良いタイミングだな」
「はははは
そこは司教と相談して、時間を調整していますから」
文官はそう言って、司教に合図を送る。
「女神様よ
今宵ここに、我等はあなたへの祝福を求めます」
司教はそう声を上げると、女神像の前で祈る。
「今宵ここに、新たなる道を進む者達が居ります
どうぞあなた様の祝福を、この者達にお与えください」
司教は振り返ると、ギルバートに合図を送る。
「さあ、殿下」
「ああ
セリア、行くぞ」
「うん♪」
ギルバートは立ち上がると、セリアの手を取る。
そうして二人は、手を取り合って司教の前へと進む。
二人の婚姻には、立会人は居ない。
代わりに王都の住民達が、二人の幸せに祈りを捧げる。
「汝、ギルバートよ
女神様の前に、この者を生涯の妻とする事を誓うか?」
「はい
誓います」
「汝、イーセリアよ
女神様の前に、この者を生涯の夫とする事を誓うか?」
「はい♪
誓います」
「うむ
女神様の祝福を受け、この二人の婚姻を認める
女神様に感謝しなさい」
「はい」
「女神様、感謝いたします」
二人は女神に感謝して、立ち上がって下がろうとした。
その瞬間、集まる住民達全てに聞こえる様に、女の声が響き渡った。
「はん
認めんな」
「な!」
「誰だ!
そんな不遜な事を…」
「だから認めんと、私が言っておる」
その声は、広場の上の方から聞こえてきた。
みなが見上げるが、空は月明り以外に灯りは無い。
それで暗い夜空を見上げても、その声の主の姿は見えなかった。
いや、そもそも何も無い空から、声が聞こえる事の方がおかしいのだ。
「何だ?」
「何で空から声が?」
「いや、きっとどこか高い場所に、姿を隠して…」
しかし警備兵も周囲を見回すが、そんな声が来こそうな場所は近くには無い。
まさに広場の上空から、その声は聞こえていたのだ。
「ふん
貴様等下賎の者共は、私の姿も見えんか」
「誰だ!
何処に居る!」
「そんな馬鹿な?」
「何も無い所から声がする?」
住民達は騒ぎになり、空を見上げて声を上げていた。
「いや!
そこに姿が見える
女神…だな」
「ふん
そうじゃ
私こそが女神じゃ」
そう告げると、その女は空からゆっくりと降りて来た。
「女神…様?」
「そんな!」
「馬鹿な!
女神様ですと?」
住民達だけでなく、司教も驚いてその女を見る。
見た目は妖艶な女性で、その身に纏うローブは美しい脚を出している。
胸元は大きく開かれて、美しさを強調する様な恰好をしていた。
そうして女性は、妖艶な笑みを浮かべる。
「ギルバート
私は認めんと言ったよな」
「くっ!
何故だ?」
「それは簡単さ
貴様は死すべき定めにある
そして精霊女王よ
貴様等の子を成す事は認めん」
「何でさ!」
セリアは頬を膨らませ、女神を正面から睨む。
しかし女神はそれに目もくれず、厭らしい笑みを浮かべる。
「巨人を退けた事
正直侮っていたよ
さすがにガーディアンだねえ」
「だから?」
「アモンを召喚する
これで貴様等は終わりさ」
「そう上手く行くかな?」
「行かなくても良いさ
邪魔な魔王が一人、減るだけさ」
「邪魔って…」
ギルバートは歯軋りをすると、女神を睨み付ける。
「アモンはお前を慕って…」
「関係無いね
人間との事を考え直すだと?
どいつもこいつも、私の命に逆らいやがって」
女神はギルバートを睨むと、苛立ちを増して叫ぶ。
「貴様等は皆殺しだ
先ずは魔王を嗾け、それからゆっくりと魔物を使って攻め滅ぼす」
「何故だ…」
「あん?」
「何故、そこまでして人間を滅ぼそうとする」
「そんなの決まってるだろ
お前等が言う事を聞かないからだ」
女神はそう言って、片手を振って鬱陶しそうにする。
「貴様等は女神たる私の、言う事を聞かなかった
だから貴様等を、全て片付ける事にした」
女神の言葉に、住民達はショックを受けて座り込む。
「そ、そんな…」
「私達が何をしたと…」
「どうかご慈悲を…」
「はん
散らかった玩具を片付ける
それに慈悲が必要か?」
「玩具?」
「我々が玩具だと?」
女神の言葉に、司教も力無く座り込む。
「騙されるな!
そいつは本物の女神様では無い」
「ほう…」
その言葉に待ったを掛ける様に、アーネストが大声を上げて前に出る。
「惑わされんぞ
この偽者め!」
「私が偽者だと?」
「ああ、そうだ
本物の女神と言うなら、何故今さら人間を滅ぼす」
「言っただろ?
散らかった玩具を片付けるんだ
私が出した玩具だからね」
「まだあるぞ
何で魔王を殺す必要がある?」
「それは私の言う事を聞かないからねえ」
「何でだ?
お前が本当の女神様だと言うのなら、魔王は従う筈だろう?」
「素直に言う事を聞けばねえ…
最近は逆らう者ばかりだから
ムルムルの様にね」
「ムルムル!」
女神はそう言うと、掌から何かを放り出す。
それは灰色の羽で、ゆっくりと地面に舞い落ちる。
「それは!」
「伯父様の!」
少し離れた席に座っていた、皇女二人が悲鳴のような声を上げる。
そこに舞い落ちたのは、ムルムルの背に生えていた羽の一部だった。
それを示す事で、彼女はムルムルを始末した事を示す。
二人の皇女は、それを呆然と見詰める。
「貴様…
ムルムルまで!」
「ほほほほ
言う事を聞かない人形は、始末するしか無いからね」
女神は勝ち誇った様に笑い、ギルバート達をゆっくりと見回す。
「くそっ!」
「ほほほほ」
「ではここで、我々を滅ぼすと?」
「そうだねえ…
それも面白いが…」
女神は考える様な仕種をする。
しかし既に、その考えは纏まっていたのだろう。
彼女はニヤリと笑うと、ギルバートに提案をする。
「以前にも言ったが、私は退屈している
だからお前達を使って、ゲームをしようと思う」
「ゲーム…
何を考えている」
「そうだねえ
先ずはアモンと戦ってもらおうか」
女神が手を振ると、宙に風景が浮かび上がる。
「アモンとだと?」
「そうじゃ
竜の牙に住む、魔王アモンじゃ」
その風景は、確かに竜の顎山脈の景色だった。
その真ん中に近い場所にある、牙の様に尖った山脈。
そこにアモンが住む、魔王城が建っている。
彼女はそこを指差し、ギルバート達を見る。
「ここにアモンが住んでおる」
「しかしアモンは今…」
「ちゃんと戻しておる
そこでお前達は、この魔王を討伐するのじゃ」
「何でアモンを討伐しなければならない」
「それは私が、人間を滅ぼす様に命じたからじゃ」
「しかし言う事を聞かないと…」
ギルバートがなおも反論しようとするが、女神は無視して話を進める。
「アモンには私の、住んでいる神殿の場所を教えてある
そこでアモンを倒せれば、私の元へも来れる事になる」
「ぐう…」
女神は挑発的な視線を、ギルバート達に向ける。
「私を倒せるつもりなら…
先ずは魔王を倒さねばな」
女神はニヤリと笑うと、片手を宙に挙げる。
それに合わせて、地面が激しく揺れ動く。
ゴゴゴゴ…
「うわあああ」
「ひいい」
住民達は悲鳴を上げて、必死に近くの椅子や柱にしがみ付く。
そうして暫く、広場は激しく揺れ続けた。
「な、何をした?」
「ほほほほ
お前達が逃げても構わないが…
どの道人間は滅びる
これはその為の布石じゃ」
女神が手を振ると、映し出された風景が切り変わる。
それは砂漠の真ん中に、大きな窪みが出来た光景だった。
砂がゆっくりと渦巻き、静かに穴は埋まって行く。
それに巻き込まれる様に、小さく映った人間や建物が飲み込まれて行く。
「な!」
「これは…」
「お前達が帝都と呼んでいた場所じゃ」
「え?」
「帝都?」
「ああああああ…」
大きな絶叫を上げて、マリアーナはそのまま意識を失う。
それを懸命に支えるが、アンネリーゼも顔面を蒼白にしていた。
「な…」
「帝都…だと?」
それは既に、何も無い砂漠の風景に変わっていた。
もし本当に帝都のあった場所なら、砂漠の中に砂岩の建物が建っている筈だ。
しかしその風景には、建物の一つも映っていない。
「嘘…だろ?」
「ほほほほ
どう思おうが勝手だが、この国もああなる運命じゃ」
「ど、どういう事だ!」
アーネストが必死に叫ぶが、その声は既に震えていた。
本当にあんな事が出来るのなら、確かに王国の破壊など簡単だろう。
それを想像して、アーネストは脚が震えるのを感じていた。
何とか虚勢を張ろうとするが、恐怖が胸を締め付けている。
「ほほほほ
早くしなければ、東からゆっくりと滅ぼすのみじゃ」
「東からって…」
「くっ
させないぞ…」
ギルバートも必死になって女神を睨むが、その声は微かに震えていた。
「私は神殿で、ゆっくりと片付けを行う
私に会いたいと思うなら、好きにするがよい
ほほほほ」
女神は満足気に笑うと、急に空を見上げる。
「でゅわっ!」
女神は掛け声と共に、空へと飛び去った。
気が付くと、空に浮かぶ月は紅く輝いていた。
「最悪だ…」
「もうお終いだ…」
「ああ…」
住民達は深く打ちひしがれて、その場に崩れ落ちていた。
ギルバートも力無く崩れると、悔しそうに地面を殴っていた。
「くそっ!
くそうっ!
ふざけるな!
ふざけるなよ!」
「お兄ちゃん…」
セリアがそっと呟き、後ろからぎゅっと抱き締めた。
「はあ…
あんな事まで出来るだなんて…
最早疑う余地も無いな…」
アーネストも放心した様に呟き、その場に腰を下ろす。
最早服が汚れる事など気にせず、その場で空を見上げる。
「悔しいな…ははは
ここで心を折りに来るなんて」
「アーネスト」
フィオーナも隣に腰を下ろすと、そっとアーネストを抱き締める。
最早どうにもならないと、住民達の中には泣き出す者も居た。
そうして子供達の鳴き声が上がり、その場は暗く沈み込んだ空気に包まれる。
「う…?」
「マリアーナ」
マリアーナが騒ぎに、意識を取り戻す。
周囲を見回すと、彼女は義姉であるアンネリーゼに抱き着いた。
「お義姉様
城が!
帝都が…」
「そうね…
あれではアルマート様も…」
「うう…
ぐすっ…」
マリアーナは涙ぐみ、義姉に抱き着いていた。
しかしそこに、何者かの声が聞こえる。
「諦めるのは早いよ」
「え?」
マリアーナは周囲を見回し、傍らの宙を見詰める。
「セロ?」
「あー!」
セリアが大声を上げると、慌ててマリアーナの側に駆け寄る。
ギルバートはセリアに突き飛ばされて、その場に倒れ込む。
「ぶわっ」
「セロ!
今までどこに…」
「女王様
今はそれよりも…」
その聖霊は、ほとんどの者には光にしか見えなかった。
小さな光が宙に浮いて、キラキラと輝いている。
その神秘的な光景に、泣いていた子供達もいつの間にか泣き止んで見入っていた。
「マリアーナ
公爵は無事だ」
「え?
本当なの?」
「ああ
ちょうど数日前に、一部の民を連れて移動している」
「それじゃあ…」
「ああ
しかし無事は無事なんだが…」
光の精霊は、言い難そうに口籠る。
「どういう事だ?」
ギルバートは鼻を押さえながら、皇女達の方に近寄る。
その後ろには、フィオーナとアーネストも続く。
「おい、馬鹿王子
公爵達を迎える事は…
難しいか?」
「ん?
そうだな…」
確かに今は、これ以上移民を受け入れる事は厳しいだろう。
食料に関しては、今の状況でギリギリなのだ。
これ以上増えるとなると、何某かの対策が必要だろう。
兎に角今は、それよりも重要な問題があるからだ。
「そうか…」
「公爵は無事なのか?」
「無事は無事なんだが…
肝心の帝都が消え失せたんだぞ?
これからどうやって暮らして行くか…」
「そうだな…」
「数日前にな、急に精霊力の高まりを感じたんだ」
「精霊力の?」
セロは単身、帝都に残って精霊力の維持に努めていた。
それでもじりじりと、精霊力は枯渇し続けていた。
だからもっても、維持は後1年ぐらいだろうと判断していた。
しかし急に、精霊力が増大するのを感じたのだ。
何かの異変と判断して、セロは侯爵に逃げる様に報せた。
しかし公爵には、微かに声は聞こえても姿は見えない。
半信半疑で公爵は、帝都の民の半数ほどを連れて帝都を出た。
先ほどの騒ぎの時、公爵は何も起きないので戻ろうとしていた。
セロも判断が出来ないので、それを止める事が出来なかった。
「一旦はな、ほとんどの者が従ったんだけど…
ちょうど何も起こらないって、戻り始めた所だったんだ、だから…」
「ううん
セロは悪くは無いわ」
マリアーナはそう言いながら、悔しそうに唇を噛んでいた。
自分が残っていたとしても、恐らくは帝都に戻っていただろう。
年の変わるタイミングだったので、帝都でも例年なら住民達が集まっていた筈だ。
それを止めるには、何か明確な理由が必要だっただろう。
「公爵の事は…
何とかするしかないだろう
しかし問題は…」
「ん?
そういえば、何が起こったんだ?」
セロは驚いた様子で、改めて広場の様子を見回す。
「女神が現れた」
「え?
女神だって?」
「ああ
人間を滅ぼすと、ここで改めて宣言したんだ」
「それで見せしめとして、帝都を…」
そんな事を言うギルバート達を見て、セロは馬鹿にした様に肩を竦める。
「何を言っているんだ
女神なら今も、眠っている筈だぞ?」
「え?」
「いや、だってさっき…」
セロの言葉に、今度はギルバート達が驚く。
「見間違いじゃ無いか?」
「いや、確かに女神と名乗っていた…」
「それに帝都を目の前で、沈めて見せたんだぞ」
「ううん…
確かにあんな事が出来るのは、女神だけなんだが…
しかし眠っていたんだがな…」
「詳しく聞かせてくれ」
ギルバートはセロを掴むと、食い入る様に顔を近づける。
「近い、近いって
教えるから、取り敢えず落ち着け」
セロはそう言って、自分の見て来た事を語り始めた。
まだまだ続きます。
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