第504話
王都は俄かに活気付いていた
新たに帝国から、移民達が来たからであった
彼等は王都のギルドに入り、新たな職人や商人として働き始める
そうして住民が増えた事で、別の問題が起こっていた
人が増えた分、食料が不足し始めたのだ
ギルバートは、王都で忙しく動き回っていた
新たに移民が増えた事で、食料が不足し始めたのだ
ギルバートは訓練中の兵士を出して、近くの森で魔獣の討伐訓練を行う
そうする事で、兵士の訓練と食糧難を解消しようという判断だった
「そっちの部隊は北門に向かえ」
「はい」
「こっちは東の森を回ってくれ」
「はい」
「何かあったら、すぐに報せる様に」
「はい」
ギルバートは王都に残り、いつでも出れる様に待機する。
彼等だけでは、オーガなどの魔物には勝てないからだ。
狩りに向かう以外にも、周辺の見回りにも兵士達が出される。
そうした兵士達は、腕に自信があるベテラン兵士達だ。
彼等が見回る事で、慣れていない新兵達も安心して狩に専念出来る。
しかし問題は、魔獣や野生動物が居ない事だった。
「殿下
森には獣は居ません」
「そうか…」
「せめて魔獣でも居れば…」
「そう上手くは行かんか…」
「殿下
北の森にゴブリンです」
「そうか
魔獣は居ないのにな…」
「それが…
ワイルド・ボアが居まして」
「何だと!
でかしたぞ」
たった3体ではあったが、ワイルド・ボアを狩る事が出来た。
この事で、少しだが兵士達に明るい笑顔が戻って来る。
肉が少しでも手に入る事で、食料の不足が少なからず改善される。
「少しが見通しが明るくなったな」
「ええ
この調子でワイルド・ボアを見付けれたら…」
「そうだな
魔物が飼っているのを忘れていたよ」
ギルバートは兵士に命じて、周辺に他に魔物が居ないか探らせる。
オーガはさすがに無いが、オークやコボルトも魔獣を飼っている事がある。
それを考えると、魔物の集団を狙った方が確立は上がりそうだった。
「ここにオークの集落がある筈です」
「それとこっちの…
平原でゴブリンを見掛けたそうです」
「よし
すぐに魔獣も居ないか調べてくれ」
「はい」
兵士に命じて、その集落やゴブリンを調べさせる。
特にゴブリンは、魔獣を飼っている事が多かった。
そう考えれば、平原にも魔獣を連れている可能性が高かった。
その予感は的中して、ほどなくして魔獣の発見の報告が上がる。
「数こそ少ないのですが、ワイルド・ボアを発見しました」
「こちらはワイルド・ベアの群れと、フォレスト・ウルフの群れでした」
「ううむ…
ワイルド・ベアはまだ、食べられる部位があるが…」
普通の狼に比べて、フォレスト・ウルフの肉は筋張っていた。
食べれなくは無いのだが、とても積極的に狩たいとは思わない獲物である。
しかし今は、少しでも肉の量を増やしておきたかった。
漁獲量も減っているので、このままでは肉が先に枯渇しそうなのだ。
「どうする?」
「そうですな
兵士の訓練と考えれば…」
「しかしフォレスト・ウルフは、仮にも狼の魔物だ
油断すれば危険だぞ?」
結局ワイルド・ベアが近くに居る事もあって、ベテランの兵士達が向かう事になった。
彼等はギルバートの護衛として、各地を回った兵士達である。
ワイルド・ベアと戦った経験もあり、安心して任せられた。
「頼んだぞ」
「はい」
「倒したらすぐに、こちらに伝令を送ってくれ
運ぶ為の馬車は用意しておく」
「はい」
元護衛の兵士達は、騎兵として馬で出撃した。
彼等はここ半月ほどで、さらに騎馬での訓練を重ねていた。
近々正式に、王都の守護騎士を任せる試験を受けさせる予定だったのだ。
それで騎馬での戦闘の腕は、格段に上達していた。
「大丈夫でしょうか?」
「ああ
彼等なら安心して任せられる」
「そうですか」
「ああ
何せ騎士に任じようと思っている人材だ
そこらの魔物に負ける様な奴等じゃ無いさ」
「騎士にですか?」
「ああ」
しかし問題は、戦闘能力では無かった。
彼等が一般の兵士で、貴族としての教育を受けて居ない事だ。
それは貴族に対するマナーもだが、教養でも問題があるという事だ。
一応王都の平民なので、最低限の教養は持っている。
しかしそれは、字が書けるとか簡単な計算が出来る程度だ。
試験というのは、それが出来るかの見極めなのだ。
「腕はあるんだ
後は教養がな…」
「はあ…」
「私でも、ここ数年の出来事は学んでいる
しかし彼等は、それすら知らないんだ」
多くの一般兵は、帝国との戦争自体は知っている。
しかし何処で何という戦いがあったかまでは、さすがに知らない者が多いのだ。
「それはまた…」
「ああ
中には簡単な計算も出来ない者も居る」
「計算ですか?」
「ああ
魔物の数とかは大丈夫だが…
矢の数とか備品の数になると…」
「ああ
なるほど、そういう事ですね」
子爵は理解して頷いた。
簡単な計算が出来ても、倉庫の備蓄などを計算出来なければ問題になるのだ。
その為に騎士には、最低限の知識も要求されている。
特にここは王都なので、そのハードルは自然と高くなる。
王都の騎士が、教養も無い者では示しが付かないからだ。
「はははは
大変ですな」
「笑い事ではありませんよ」
「へ?」
「子爵も他人事では無いんですから」
「それは?」
ギルバートは、子爵に帝国兵の為の資料を見せる。
それは読みやすい様に、大きな文字でなるべく簡単に書かれている。
本来ならば1枚で済む事が、複数枚に分けて指示書として出されているのだ。
「え?」
「これは北の森に、コボルトを探しに向かう為の指示書です」
同じ物を、王都の兵士用に書かれた物を出す。
そちらは1枚の紙に、細かく注意事項まで書かれていた。
「はははは…」
「これだけ差が出ています」
「面目ない」
「この調子ですと、騎士への推薦は当分先になりますよ」
「え?」
「騎士ですよ」
「いや、ワシ等がですか?」
「ええ
他に誰が居るんです?」
ギルバートの言葉に、子爵は驚いて聞き返した。
しかしギルバートは、当然の事だと頷く。
「しかしワシ等は、帝国の兵士で…」
「ですが子爵も、この国に骨を埋めるんでしょう?」
「それはそうですが…」
「ワシ等を騎士にだなんて…」
「有能な兵士であるなら、一人でも多く騎士にするべきです
それが王国の基盤を強くして、魔物と戦う力になるんですよ」
「それは…
アーネスト殿の真似ですか?」
「ええ
あいつがバルトフェルド様を説得しましてね
素養があるのなら、騎士にするという事も確約しました」
「やっ…」
「申し訳ございませんが…」
子爵の周りに居た兵士達は、思わず喜びで声を上げそうになっていた。
しかし子爵は、その声を止めて断りの言葉を述べた。
「どうしてです?」
「そうですよ
騎士だなんて栄誉ですよ」
「じゃからじゃ」
子爵はそう言って、兵士達に向けて渋い顔をした。
「殿下
こいつ等は…まあ
頑張り次第で認めてやってください」
「ん?」
「ワシは残念ですが、騎士にはなれません」
子爵が言いたいのは、自身は騎士になれないという事だった。
「何故です?」
「ワシにはその資格が無い」
「しかしあなたは…」
「子爵の叙爵でも十分に身に余る光栄です
しかしワシには、騎士になるほどの技量も力もございません」
「ですが私は、あなたを将軍に…」
「やはりそうでしたか
そうなれば尚の事、ワシでは無理です」
子爵はギルバートが、要職に就かせる為に言っていると感じていた。
だから騎士の話も、丁重に断っていたのだ。
「何故です?」
「殿下
ワシは一度、大きな過ちを犯しております」
「子爵様
それは違いますよ」
「そうですよ
あれはカラガンの奴等が…」
「そうだとしてもじゃ
ワシにはあの過ちがある」
子爵はそう言って、頑なに首を振っていた。
「一体何が…」
「申し訳無いが、これは身内の恥ですので」
子爵はそう言って、話そうとはしなかった。
兵士達もそれを見て、それ以上は何も言えなくなっていた。
「申し訳ないが、ワシはそんなに立派な者ではありません」
子爵はそう言って、兵士達を連れて下がった。
「なあ
あれはどういう事だと思う?」
「そうですね
恐らくは過去に、何某かの失敗があるんでしょう」
「だろうな
しかし…」
兵士達が言う様に、子爵は何かの失敗を引き摺っている様子だった。
その為に騎士や、将軍といった要職に就けないとまで言っていた。
それだけ大きな失敗を、彼は過去にしているのだろう。
しかしギルバートとしては、子爵を将軍という案は魅力的なのだ。
現在王都には、騎士団もだが将軍も不在なのだ。
兵士達を纏めて、訓練や指揮を執る人物が早急に必要だった。
だからギルバートとしては、子爵にその座に就いて欲しかったのだ。
「何か聞いていないか?」
「さすがに…」
「彼等にとっては話し難い事でしょうし」
「そうだろうな…」
ギルバートは兵士達に、何か聞いていないか確認した。
しかしいくら仲良くなったとはいえ、元は帝国の兵士達である。
そんな身内の恥になる様な話ならば、軽々しくは口にしないだろう。
「弱ったな…」
「それとなく聞いてみます」
「まあ、素直には聞けんでしょうが」
「ああ
頼むよ」
兵士達は、機会があれば聞いてみると言ってくれた。
彼等にしても、子爵の事は信用していた。
帝国とか抜きにして、信頼出来る指揮官としての腕を持っているのだ。
それが分かるので、彼等も勿体ないと感じていたのだ。
「子爵様
良かったんですか?」
「良いのじゃ」
「しかし折角殿下が…」
「言うな!」
子爵はそう言って兵士を叱ると、胸元の首飾りを強く握りしめた。
「それよりも、ワシ等も北側の魔物を討伐に向かうぞ」
「はあ」
子爵はそう言うと、北の城門に向かって進んだ。
兵士達は肩を竦めると、厩に馬を取りに向かった。
ここから指示された森に向かうには、馬が無ければ無理がある。
子爵はよほど気にしていたのか、馬に乗る事も忘れているのだ。
「どうする?」
「そうだな
後でこっそり、相談しておくか」
兵士達は子爵に聞かれない様に、ギルバートに相談する事にした。
そうして相談する内容を決めると、急いで厩に向かった。
急がないと子爵は、そのまま歩いて城門から出てしまうだろう。
苦笑いを浮かべながら、彼等は馬を取りに向かうのであった。
子爵達はその後、北の城門から北東に向かった。
そこにはコボルトの群れが居て、他の部隊の行軍の邪魔になる恐れがある。
子爵はその為に、このコボルトの群れの討伐を頼まれていた。
それで北東に向かうと、慎重に森の中に分け入った。
「もう少しで、発見の報告があった場所です」
「うむ
周辺に注意して、警戒しながら進むぞ」
「はい」
子爵も馬に乗って移動する間に、すっかり冷静さを取り戻していた。
先ほどは馬を忘れていた事を思い出し、兵士達は苦笑いを浮かべる。
「ん?」
「いえ、何でもありません」
「広い場所なら良いのだが…」
「そうですね
こう木が多いと、馬も生かせませんね」
「だからと言って、集落があると面倒ですよ」
「ううむ…」
「報告では、12体ほどで4体ずつ移動してたそうです」
「数はこっちが多い筈じゃが、問題はそれだけでは無いじゃろう」
12体だけならば、こちらの方が数が多かった。
騎兵は24名連れているので、いざとなれば囲んで殲滅出来るだろう。
しかしどう考えても、それだけとは思えないのだ。
コボルトは群れを作り、集団で移動する魔物だ。
12体だけとは思えないのだ。
「居ました
4体がこちらに向かっています」
「どうしますか?」
「そうじゃな
訓練の成果も見たいしな」
子爵は兵士に指示を出し、弓の用意をさせる。
剣や鎌の訓練を行いながら、何人かには弓の訓練もさせていた。
そうして弓が得意そうな者には、弓での先制攻撃もさせれる様にしていたのだ。
「よく引き付けるんだぞ」
「はい」
「叫ばれては面倒だ
喉元を狙え」
「はい」
仲間を呼ばれない様に、慎重に首元を狙わせる。
喉に当てれれば、叫び声を上げれないだろう。
それに頭に当てても、一撃で殺せる可能性が高くなる。
兵士達は慎重に、魔物の頭に狙いを定める。
将軍が合図を送り、次々と矢が放たれる。
その数は12本で、兵士の半数が弓を放っていた。
ガウ!
ギャヒュ
矢が命中して、魔物はほとんど声を上げずに倒れる。
その様子を見て、子爵は上手く行ったと胸を撫で下ろす。
これで報告にあった、12体の内の4体を倒した事になる。
兵士はそのまま、魔物の四肢や首を切り裂く。
死霊として生き返らない様に、処理が必要だからだ。
「良し
このまま進むぞ」
「はい」
それから子爵は、もう一組の魔物も見付ける。
同じ様に弓で片付けると、死体を処理させた。
これで後4体を見付ければ、取り敢えずは安心だろう。
子爵はそう思って、内心安堵していた。
「子爵様!」
「どうした?」
兵士は小声で、器用に驚いた声を上げる。
その指先の向こうには、薄っすらと煙が上がっていた。
その数からして、少なくとも村規模の集落があるのだろう。
子爵はここに来て、集落の発見に唸っていた。
「ぬう…
これはマズいな…」
「ええ
結構な数が居る筈です」
「どうされますか?」
「ううむ…」
子爵は小さく唸ると、指先を舐めて湿らせた。
そうして風向きを確認すると、静かに移動を開始した。
魔物に見付からない様に、風下に向かう為だ。
そうして見付かり難くして、集落の様子を探ろうとしたのだ。
「見えますか?」
「ああ
40体以上居るな」
それは小さな集落だが、魔物の数は多かった。
さすがにこの数では、迂闊に攻撃は出来ない。
子爵は迷いながら、魔物の様子を観察するのであった。
まだまだ続きます。
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