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聖王伝  作者: 竜人
第十五章 崩れゆく世界
502/800

第502話

ギルバートは王城の食堂に来ていた

執務室にそのまま向かうと、再び書類の山が待っているからだ

バルトフェルドには悪いが、いい加減書類の整理にはうんざりしていたのだ

そこで食堂で食事をしながら、先ほどの書類を纏めていた

ギルバートは食堂で、先ほどメモした書類を見ていた

そこには王都以外で、存命と思われる元貴族の婦人の名前が書かれている

彼女達を王都に呼び寄せて、教師として働いてもらう事になる

その為の書類を、これから作成しないといけない


「うーん

 部屋の大きさは職人と相談して、後は休憩や食事のスペースか…」


ただ学問を教えるだけにしても、休息や食事を摂る施設も重要だ。

生徒になる者達は、宿泊する必要もあるだろう。

そうなってくると、寝泊りする施設も必要になる。

そうした施設も、新たにリストにしてメモを取る。


「大体の人数は、大人子供を合わせて100名ほどか」


フィオーナやマリアンヌに聞いて、普通の学校という施設の規模を確認する。

不幸な事に、以前の学校だった施設は巨人の襲撃で破壊されていた。

残った建物の一部も、今では他の用途に使われている。

そこでその場所を調べて、同じぐらいの規模の建物を作る必要もある。

思ったよりも学校の再開は、時間が掛かりそうだった。


「お兄ちゃん」

「殿下

 イーセリア様がいらっしゃいました」


メイドに連れられて、セリアが食堂に来た。

どうやら仕事が一段落したのを見て、メイド達が気を利かせたのだろう。

セリアはパタパタと走って来て、ギルバートの隣の席に座る。


「ねえねえ

 何してるの?」


ギルバートがメモしている書類を見て、セリアが覗き込んで来る。


「学校を作るんだ」

「学校?」

「ああ

 お勉強をする所だよ」

「お勉強?」


セリアがよく分かっていないみたいなので、ギルバートは簡単に説明をする。


「セリアも分からない事があると、本を読んだり聞いたりするよね?」

「うん」

「それをいっぱい集まって、みんなでする場所だよ」

「ふうん…」

「ふうんって…」


「セリアは勉強は好きかい?」

「勉強?

 知らない事を本で読んだりするって事でしょ?

 別に好きじゃないけど…」


しかしそう言いながらも、セリアは本を読むのが好きだった。

最初こそは幼児向けの、簡単な本を読んでいた。

しかし文字を覚えて行くと、新たな難しい本を読んでいた。

その辺りから、アルベルトもセリアに興味を示していた。


アルベルトはセリアに、ダーナの書庫の鍵を渡していた。

そこでセリアは、暇な時に本を引っ張り出して読んでいた。

今ではアーネスト程では無いにしても、結構な知識を持っていた。

それはあくまでも、書物から得た知識だけなのだ。


「そうか

 セリアは本が好きだもんな」

「うん」


セリアはニコニコしながら、ギルバートの隣に座っていた。


「それじゃあここの書庫も?」

「ここの?

 うーん…」


セリアは首を捻ってから、小さな鍵を取り出す。


「表の書庫はね、王様の許可をもらったよ」

「へえ…」

「お兄ちゃん達が魔物退治してる時にね、お姉ちゃん達と本を読んでたの」

「お姉ちゃん達?」

「うん」


お姉ちゃん達と言うからには、フィオーナだけでは無いのだろう。

そこでギルバートは、彼女達の意外な交流を知る事になる。


「マリアンヌお姉ちゃんがね、時々遊びに来てくれてたの」

「へえ…

 それは知らなかった」

「うん

 お兄ちゃん達は居なかったもん」

「う…

 すまない」


「それとね、エリザベートお姉ちゃんも来てくれた事があるよ」

「え?」

「えっとね…

 お兄ちゃんを独占するなって」

「はははは…

 あいつらしいな」


ギルバートとエリザベートの最初の遭遇は、あまりよい物では無かった。

彼女はギルバートを、田舎から出て来たと侮っていた。

しかし魔物との戦いを見て、彼女の態度は次第に変わっていった。

舐めた口調は少なくなり、たまに甘えた口調になる事もあった。

少なくとも、最後に見掛ける前には仲良くはなっていた。


「独占か…」

「うん

 お兄ちゃんはいずれ、私の物にするんだ!って

 セリアの前に来てそう言うの」


セリアは椅子から降りると、彼女の真似をして腰に手を当てて、指を前に突き出す。

ギルバートはその仕種を見て、エリザベートの姿を想像する。


「ぷっ

 似てるな」

「うん

 何回も言われたから」

「ははは…

 何回もか」


セリアの前に来ては、ギルバートを独占させないと宣言する。

そんな彼女の姿を想像すると、なんだか可笑しくて思わず笑みをこぼす。

表では馬鹿にした態度を取っていたのに、裏ではそんな事を言っていたのだ。

そんな事を知ると、ギルバートの胸は少し痛んでいた。


彼女との交流は、そんなに無かった。

しかし妹として会う機会があれば、目一杯気に掛けているつもりだった。

あんな事が無ければ、今頃はセリアとの事を祝福してくれていただろうか?

ギルバートはそんな事を考えながら、セリアの方を見ていた。


セリアはその後も、エカテリーナやマリアンヌと話した事を話していた。

ギルバートはそんな話を聞きながら、書類を整理する。

大体の概案を纏めると、それをメイドに手渡した。

文官に回して、不備が無いか確認させる為だ。


それが終わってから、暫くセリアとお茶を飲みながら話していた。

そこへ血相を変えて、兵士が駆け込んで来た。


「大変です

 殿下、大変です」

「どうした?」


兵士は慌てて駆け込むと、息を切らして跪く。

ギルバートは水を用意させると、兵士に一息付かせる。


「どうしたんだ?」

「それが…

 移民の一団が到着しました」

「移民?」

「はい

 帝国の移民です」

「何だって?」


ギルバートは兵士に連れられて、急いで東の城門に向かった。

そこには兵士達と、移民と思しき一団が集まっていた。

人数はおおよそ300名ほどで、近くには馬車が留めてある。

そこの近くに、声を上げる女性が二人立っていた。


「だから王太子に話せば…」

「しかし移民という話は…」

「良いから呼んでください

 詳しくはそれからです」

「マリアーナ皇女?」


ギルバートは相手の姿を見て、驚いて声を上げる。

そこには帝国の皇女、マリアーナが立っていたからだ。


「ああ、殿下」

「ようやく話が出来そうですね」

「何でここに?」


ギルバートの質問に、二人は矢継ぎ早に話し始める。


「帝国に伯父様が現れたんです」

「ここに来る様にと」

「来るべき戦いに備え、王都で支度を整えろと」

「ちょ!

 ちょっと待って

 戦い?」


ギルバートは訳が分からず、先ずは二人に落ち着く様に促す。

そこでギルバートは、先ずは移民の収容先を相談する。

幸い新たな建物は増えており、仮の宿舎にする建物は余分に空いていた。

先ずは移民達を、そこに案内する様に手配する。

付き従うのは、先に王都に入っていた帝国の兵士達だ。

子爵の兵士達は、彼等を宿舎へと案内して行く。


「先ずは移民は、これで一先ずは良いでしょう

 しかし何だって急に?」

「伯父様が…

 アルスサード様が帝都に現れまして」

「俄かに信じられませんが、伯父様は天の御使いになられておられまして」

「天の御使い?

 何者なんだ?」

「あら?」

「殿下はご存知の筈ですですが?」

「え?」


「女神様の使徒なんでしょ?」

「殿下とも話したと…」

「はあ?」


ギルバートは思い当たる者が、すぐには浮かばなかった。

女神の使徒であるなら、知っているのはエルリックしか居ない。

しかし彼は、ハイエルフであって帝国の皇家の者では無い。

ギルバートが首を捻っていると、二人はさらにヒントになりそうな言葉を告げた。


「伯父様は翼を生やしてましたわ」

「そういえば、それで私達は天の御使いだと…」

「待て…

 翼を生やした?」


ここでギルバートは、思いがけない人物を思い出す。

そういえば彼も、皇家の一員の可能性があるのだ。


「まさか…

 ムルムル?」

「え?

 あれが?」

「あの憎き魔王なんですか?」


ギルバートの言葉に、今度は姉妹が驚いていた。


「魔王は帝国の民を殺した…」

「そう、憎き相手

 しかしそれが伯父様だなんて」


二人はショックを受けて、顔色を悪くする。


「ここで話すのも…

 先ずはこちらで休まれてください」


ギルバートは二人を気遣って、貴族用の客室に案内させた。

その間に、二人が来た事をバルトフェルドに伝えさせる。

アーネストにも伝える様に、兵士達に連絡に向かわせた。


「さて…

 どうしたものか」


二人が来た事は、ムルムルが原因だと判明はした。

しかし何で今になって、彼は彼女達の前に現れたのか?

それなりの理由がある筈だ。

そう考えると、彼女達の話していた来るべき戦いが原因だろう。


来るべき戦い…

そう考えると、女神との戦いに備える為だろう

しかし何故?

皇女であるマリアーナをここに来させる理由が思い付かない


ギルバートが考えていると、セリアが走って来るのが見えた。


「お兄ちゃん」

「どうしたんだ?」

「どうしたんだ?じゃないよ

 はあはあ」


セリアは良きを切らせて、食堂から駆けて来た様だった。

しかしギルバートや兵士に比べると、身体強化や走る訓練をしていない。


「酷いよ

 セリアを置いてくなんて

 ぷんぷん!」

「はははは

 すまないすまない

 緊急の要件だったからな」


ギルバートはセリアの頭を撫でながら、素直に謝った。

それでセリアは機嫌を直して、ギルバートの腕に絡み付いていた。


「うふふ…」

「悪かったな」

「ううん

 それより、大丈夫なの?」

「ああ

 先ずは客人にも、休んでもらう必要がある」

「客人?」

「ああ

 帝国の皇女様達だ」

「っ!」


皇女と聞いて、セリアはギルバートの腕を掴む。


「ん?」

「行っちゃダメ!」

「え?」

「だってあのお姉ちゃん達、お兄ちゃんを狙っているもの」


セリアは頬を膨らませて、嫌そうな顔をしていた。


「お兄ちゃんはセリアのお兄ちゃんなの」

「はははは

 大丈夫だよ」

「むう!」


セリアは嫉妬で頬を膨らませるが、それが却って可愛かった。

ギルバートは思わず、その頬をぷにぷにと突っ突く。


「むう!」

「はははは」


セリアは怒って、今度はポコポコパンチを振り回す。

しかし威力が無いので、それは却って心地良かった。


「そうだな

 セリアが心配だって言うのなら、今度は一緒に来るかい?」

「うん

 見張っとく」

「はははは」


ギルバートはセリアと手を繋いで、そのまま会談用の談話室へと向かった。

そこにお茶や菓子を用意させて、会談の準備を進めさせる。


「殿下

 帝国の皇女が来られたと?」

「ああ

 驚いたよ」


バルトフェルドも現れて、文官に書類の記録の準備をさせる。

皇女が現れたとなれば、公式な会談として準備をする必要があった。


「それで?

 相手が皇女だとどれぐらいの者が知っておりますか?」

「少なく見ても、城門の兵士には…

 それに帝国出身の者ならば、気付く可能性はあるだろう」

「そうですな

 そうすれば相当数の者が、皇女が王都に来たと知っておる訳ですな」

「そうなるな」


彼女達が来た事は、多くの者が知っている事になる。

バルトフェルドは、兵士達に箝口令を敷く事にした。

住民達が知れば騒ぎになるし、警備も厳重にする必要がある。

相手は皇女という事もあり、皇族に当たるからだ。


「皇女という事もあります

 対応は慎重にする必要があります」

「そうなのか?」

「そうなのかって…

 はあ…」


バルトフェルドは溜息を吐いて、首を振っていた。


「殿下が帝国に居られる間も、向こうは警戒を厳重にしていた筈です

 何せ相手は、長く戦った敵国だった者ですぞ」

「しかしそれは誤解もあったし、何よりも休戦が…」

「甘いですな」

「そうだぞ

 住民の中には、家族が帝国に殺された者だっている筈だ

 戦争は過去の物であっても、その思いは複雑な筈だ」

「そうなのか?」


アーネストも談話室に現れて、地図や色々な資料を用意させる。


「家族を殺されたって…

 でもそれは、お互い様だろ?」

「そうやって割り切れる物では無い

 そもそもギルは、アルベルト様や陛下の事を許せるのか?」

「え?」


「女神が魔王を使って、この国を攻めさせた

 それをお前は、許せるのか?」

「それは…」

「そういう事だ

 王国の者達の中にも、未だに帝国との戦いの傷が癒えない者達は多く居る

 そういった者達が、皇女に危害を加えんとは言えんだろ?」

「それは確かに…」


子爵達が来た時にも、住民達との間に些細な諍いが起こった事はある。

彼等が王都の復興の為に来たとあって、我慢する者が多かった。

しかし中には、兵士達に掴み掛かる者だって居たのだ。

過去の事とはいえ、なかなか割り切れる事では無いのだ。


「皇女様達の安全もあります

 事は慎重に運ばなければ…」

「そうだぞ

 何せこれから、我々は協力して女神と戦わなければならない」

「分かった

 私では詳しい事は分からない

 その辺は二人に任せるよ」


ギルバートは両手を挙げて、二人に任せる事にする。

分からない者が下手に口出しすると、余計にややこしくなると経験しているからだ。

そこでギルバートは、談話室の端にセリアと移動する。

そこには何故か、フィオーナがジャーネを抱いて座っていた。


「あれ?

 何でフィオーナまで?」

「アーネストの見張りです?」

「見張り?」

「ええ

 向こうの皇女達は、私のアーネストを狙っているんでしょう?」

「ああ

 そういえば、そういう事もあったな…」


皇女とアーネストに関しては、行き違いと勘違いで婚約騒動があった。

フィオーナはその事があって、警戒をしているのだ。

そうこうする内に、皇女達の準備も整った様だった。

彼女達は湯浴みや簡単な食事を済ませて、談話室に向かっている。


間も無く到着すると、会談が始まるだろう。

気たるべき女神との戦いに備えて、帝国と王国が協力する為の会談だ

ギルバートは席に着くと、皇女が来るのを待っていた。

まだまだ続きます。

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