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聖王伝  作者: 竜人
第二章 魔物の侵攻
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第50話

遂に魔物が姿を現す

ダーナの街へ向かうその軍勢は、整然と規則正しく並んで異様であった

魔物はゆっくりと行軍し、正午を前に街へと到着するのであった

ダーナの街の東門は、魔物の侵攻に合わせて、慌ただしくなっていた

領主の話に出ていた、女神様の使徒が現れ、魔物の侵攻が真実味を帯びたのもある

また、その邂逅で起きた出来事が、混乱に拍車を掛けた


将軍は大声で指示を出し、兵士が慌ただしく動き回る。


「急げ!

 魔物は既にこちらに向かって来ているらしい

 体調の悪い物はすぐに申請して下がれ」


或る程度の力量の者が魔物と対峙した際、激しい憎しみの感情に支配されるらしい。

ギルバートも激しく感情を揺らされたが、他にも暴れ出しそうになっていた者がいた。


「暴れ出していなかったのは幸いでしたね」

「しかし、いつ発症するか分からないのは危険ですね」

「ああ

 お前達は大丈夫か?」


部隊長達は拘束されたり、支えられて退場する兵士を見ていた。

騎兵団にはほとんど居なかったが、歩兵に多く見られた。


「騎兵で数名、歩兵では20名以上居ますね」

「オレ達も気を付けないとな」

「エリックは特に注意しろよ

 お前はすぐに飛び出すから、発症してるか分からないだろ」

「何でオレだけ?」


「将軍は大丈夫なんですか?」

「オレは…

 血に酔っていたと思っていたが、今考えるとアレがそうなんだな」

『え?』


「大丈夫だ

 自分の感情ぐらいコントロール出来る

 お前らの方が心配だ」


そう言われて、アレンが答える。


「オレは大丈夫でしたね

 ロン隊長の事があって、一時期は怒りに任せる事もありましたが、今は部下の事を思うと抑えられています」

「そうか」


ダナンとハウエルも続ける。


「オレは…

 そこまでは感じていないな」

「ダナンは常に冷静だからな

 オレは突撃の時は逸るが、切り倒した後は何も感じていないな」

「うむ

 大丈夫そうで良かった」


ダナンは北門から合流した部下達を見て、ふと疑問に思った。


「将軍

 症状の出た者は、元々感情的な者か兵役に慣れていない者が多くないですか?」

「ん?」


再び歩兵が一人、大声を上げ始めて取り押さえられる。

その男は元農民で、開拓から引き揚げて兵役に加わっていた。

集落が襲われた事もあるだろうが、元々農民で兵役には慣れていなかった。

それが魔物討伐に熱心に参加して、スキルも2つまで身に付けていた。


「元々戦闘に慣れていない者が、急に技量を身に付けたからか?」

「ええ

 その可能性はあります」

「あの兵士は熱心に訓練もしていました

 しかし、魔物とはいえ、殺す事に慣れていないのでは?」

「そういう心のストレスが発症の原因になっているのか?」

「あくまで、可能性ですが…」


将軍は黙り込んで考え込んでしまった。


兵士の補充の為に、元農民や商家の息子等も多く入れている

もし本当にそれが原因なら、歩兵の運用は注意しなければならないな


将軍はどうせ歩兵は補助に回すと考えていたので、正面を騎兵で固めた。


「各部隊長に命ずる

 敵が攻めて来たら、先ずは弓や投石で応じる」


「しかる後、騎兵にて突撃し、中央から切り崩す

 抜けたら両翼から引き返す様に」

『はい』


「弓兵の責任は重大だ

 最初の攻撃もだが、騎兵が帰還する道を作る必要がある

 諸君らの腕を宛てにしているぞ」

『はい』


「エドワード隊長」

「はい」


「歩兵は例の症状が気になる

 なるべく出したくないが、騎兵の帰還の際には大丈夫そうな者で支えてくれ」

「畏まりました

 症状の心配が無さそうな者を選んで配置しておきます」

「ああ

 頼んだぞ」


隊長は兵士の中から、長く兵役に努めている者や、冒険者など戦闘に慣れた者を選別する。

将軍はそれを見て、流石は熟練の隊長だと感心した。

説明を受けずとも、事の経緯を把握して、危険そうな人物は外している。


門の前に騎兵部隊が揃えられる。

4部隊48名が部隊長に率いられ、出撃の時を待つ。

その後ろには、選抜された歩兵が120名集まり、残りは城壁からの投石や資材の準備に回った。

そして弓兵が60名城壁に上がり、残りの60名が交代要員として控える。


すっかり準備が整い、領主が城壁の上からノルドの森の方を見守った。

傍らには将軍が控え、ギルバートもその側に待機していた。


「準備は整いました

 後は魔物の侵攻を待つのみです」

「そうか

 頼んだぞ」


将軍の言葉に、領主は頷いて答える。

ギルバートも森を望み、魔物の陰を探してみる。


「本当に来るんでしょうか?」


「来るだろうな」

「ええ」


「今回のは、大発生スタンピードではないんですよね?」

「そうだ

 自然発生ではなく、使徒が集めた精鋭が来る筈だ

 今までの魔物の様にはいかないぞ」

「そうですね

 装備や練度も上がり、魔物には対抗出来る様になりましたが、それも雑魚に対してです

 精鋭となれば、先の第2砦に居た様な魔物が襲い掛かって来るでしょう

 殿下は前に出ないで、ここから見ているだけにしてください」

「え?」


「当たり前だ!」

「そうですよ

 前に出て、何かあったらどうするんです」

「そんなあ…」


「よいな

 ここで大人しくしておれ」

「絶対出ないでくださいよ」

「うう…

 分かりました」


ギルバートは二人に念を押されて、頷くしかなかった。

将軍は再び森へ目をやり、魔物の様子を探る。


時刻は正午前であった。

数匹のコボルトが、森の中から飛び出して来る。

釣られて数名の弓兵が矢を放つ。

矢は命中し、4匹のコボルトがその場に倒れた。


「あれは違うな…」

「恐らく、野良の魔物でしょう

 昨日も少し狩りましたが、まだ森に残って居た様ですね」


「何で出て来たんでしょう?」

「恐らく…

 ほら、見えてきました!」


ザッザッザッ


規則正しい押し音を響かせ、皮鎧と小剣に身を固めたゴブリンの一団が姿を現す。

その数はおよそ1000に及ぶであろう。


「凄い数だな…」

「そして、しっかり身を固めている」

「あ!

 その後ろも来ますよ」


ゴブリンが100匹ずつ規則正しく動き、左右に広がる。

その真ん中に、同じ様に皮鎧と長剣に身を固めたコボルトが姿を現せる。


「コボルトまで…

 約800ってところでしょうか?」

「そうだな

 ゴブリン程ではないが、こちらもかなりの数だな」


「うーむ

 こうなると、弓だけでは削れそうにありませんね」


将軍が弓兵の方を見ると、弓兵の一人が弓を掲げて応える。


「なあに

 要は鎧を避ければ良いんです」


弓兵は器用に弓で頭を叩いてみせる。


「しかし、盾を装備している様だが?

 イケるのか?」


みると、全てでは無いが、前衛の魔物は小型の円形盾を腕に填めている。


「あれは恐らく、弓兵対策でしょう」

「うむ

 厄介だな」


ギルバートは不安になり、弓兵達の方を見やる。

しかし弓兵は臆した様子も無く、矢の状態を確認し始めた。


「なあに

 いざとなれば、狙う場所は幾らでもありますよ

 任せてください」


そう言って、弓兵は弓の弦を張って確認する。

状態を確認して、いつでもイケると矢を番える態勢を取る。


「うむ

 流石は狩に鳴らしたハンター達だな

 任せたぞ」

『はい』


歩兵も空いた場所に出て来て、投石の準備をする。


「石以外に有効な手段は無いですかね?」


ギルバートは素朴な疑問を投げ掛けた。


「石以外?」

「それは何だ?」


「…例えば

 皮鎧だし、油や燃えた石炭とか投げれれば…って無理ですよね」

「うーん

 流石に燃えてる物は…なあ」

「油ですか?

 どやって投げます?

 まさか鍋に入れて投げる訳には…」

「ですよね…」


ギルバートはそう言ったが、どうにか出来ないものかと考え始めた。

こういう悪知恵は、アーネストの方が優秀だろう。

改めて友の姿を求めて、ギルバートは陣の中を見回す。


少し離れた場所に、天幕を張って魔術師達が控えている。

魔術師は、基本頭でっかちな者が多く、身体が弱いので天幕の中で休んでいた。

その中に、入り口近くで状況を確認するアーネストの姿が見えた。


「居た!」

「ん?」


「父上

 ちょっと行って来ます」

「おい!

 戦場には出るなと…」

「大丈夫です

 向こうで相談して来ます」


ギルバートは器用に小走りで抜け、城壁から降りて天幕に向けて走った。


「あ!

 おい!

 まったく…」

「ははは

 まあ、良いじゃないですか

 どうやらアーネストの所へ向かった様ですし」

「うーむ」


二人がそんな事を話している間にも、コボルトが前へ出て、突撃の準備に入る。

コボルトの後ろには、いつの間にかオークが姿を現している。

こちらも皮鎧をしているが、よく見ると梯子やハンマーを抱えている。


「おい…

 アレはマズいんじゃないか?」

「え?

 ああ…

 確かにマズいですね」


工兵に城壁に取り付かれるのはマズい。

しかし、敵もその辺は考えている様で、頑丈なオークに工兵をさせるつもりだ。

ただ、オークはコボルトやゴブリンに比べて動きは鈍重だ。

城壁に来るまでに射殺せれば、まだ何とかなるだろう。


「どうだ?

 やれそうか?」

「厳しいですねえ…

 的はデカいんですが、奴らはタフですからねえ」

「頭に2、3本刺さっても死なないんじゃないですか?」

「それに、他の奴らが守るでしょうね…」

「そうだよな…」


将軍は溜息を吐いた。

恐らくコボルトが護衛に着くだろう。

最悪、コボルトが梯子を掛けても良いんだから、そこは油断が出来ない。


「先にコボルトだろうな

 ゴブリンは厳しいが、歩兵に任せるか」

「騎兵でオークは無理なのか?」

「正直、下手にぶつけると、後で騎兵の数が足りなくなりますよ」

「うーむ」


領主が悩んでいる間も、続々と魔物が出て来る。

工兵として用意されたオークは300ぐらいだろうが、そのタフさがネックになりそうだ。

そして、オークが抱えた神輿が出て来る。

その上には玉座が据えて有り、そこに人影が見えた。

女神の使徒、ベヘモットがそこに座っていた。


「さあ、準備はよろしいですか?」


ベヘモットは魔法でも使っているのだろう、よく通る声が響き渡る。


「なんで貴様がそこに居る!」

「あは

 大丈夫ですよ、わたくしは約束通り参加しません」

「だから!

 何でそこに居るんだ」


「へ?」

「うぬぬぬ」

「そりゃあ…

 特等席で見学する為ですよ?

 当たり前でしょう?」

「ぐぬぬぬ」


ベヘモットのふざけた態度に、領主は顔を真っ赤にして切れ散らかす。


「ふざけるな!」

「いえ

 いたって真面目ですよ

 貴方達の苦悶を浮かべた最期を見る為に、わざわざこうして来ているんですから

 うふふふ」


「ぬがー!」

「領主様

 アルベルト様

 抑えてください

 怒れば奴の思う壺ですよ」

「はあ、はあ

 しかし…」

「ここは堪えてください

 冷静に、冷静に…」


「それでは、行きますね」


ベヘモットが片手を挙げて、ゴブリンとコボルトが身構える。

城壁では弓兵が矢を番え、兵士が石を掲げる。


「とつげき~!」

グギャアアア

ギャギャア

グホオオ

ウガアア


様々な魔物の怒号が入り混じり、大地を揺らす地鳴りの様な足音が響く。

折しも、時刻は正午になり、時を告げる鐘が鳴り響く。


「者共!

 撃て―!」


将軍の号令に、次々と矢が放たれ、魔物の頭上に降り注ぐ。

それに合わせて投石も始まり、先頭を駆ける魔物の頭を目掛けて投げられる。

矢の大半は、盾に防がれたり鎧に当たったりしたが、数匹の魔物が頭に受けて倒れる。

それを踏みつけながら、後続の魔物が走り出す。

投石は上手く避けないと、腕や脚に受けて動きが鈍る。

中には頭部に直撃した魔物もいて、頭蓋を砕かれて脳漿をまき散らした。


「ほおう

 やりますねえ」


ベヘモットは艶然と微笑み、戦場を眺めた。


「戦場に満ちる狂気が、更なる狂気を引き寄せる

 さあ、貴方はどうします?

 小さな覇王様」


クックックックと狂気を帯びた笑いを浮かべ、ベヘモットは戦場を見渡した。


戦場は少しずつ動き出し、やがてオークが前方に進み出て来る。

将軍は決断を下すべきか悩んでいた。

昨日は投稿できなくてすいません

肩はまだ少し痛いんですが、微熱ですのでなんとかなりそうです

いよいよ戦闘が始まりました

拙い文章で表現に誤りがあるかも知れません

宜しかったら指摘してください

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