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聖王伝  作者: 竜人
第十五章 崩れゆく世界
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第498話

ギルバートは、王宮に兵士を集めた

そこで巨人討伐を労うと同時に、褒賞の話をする

アーネストとバルトフェルドから、提案をされたからだ

それで兵士達に、新しい武具の話をする

ギルバートとしては、兵士達に王国を守る意思を持って欲しかったのだ

バルコニーから戻るギルバートを、アーネストは慌てて追っていた

兵士達に挑発する様な、言葉を掛けていたからだ

あんな言葉を掛ければ、一歩間違えれば兵士達は暴動を起こしていただろう

それを注意する為に、執務室に戻る前にその肩を掴んでいた


「あんな事を言って、どういうつもりなんだ?」

「ん?」

「そうですぞ

 ワシも冷や冷やしましたぞ」


アーネストの後ろに、バルトフェルドも続く。

二人はギルバートの言葉に、不満を漏らしていた。


「だって二人共、王太子らしく振舞えと言ったじゃ無いか」

「そうは言ったが…」

「何も挑発する様な言い方をされなくても…」


「だって二人共、王たる力を示せと言っただろ?」

「それはそうだが…」

「ううむ

 何か違う様な…」


「それに何か起こっても、二人が兵士達を説得出来るだろ?

 それなら私は、兵士達に強く出るべきだろ?

 現に一部の兵士達は、私を侮っていたみたいだし」

「それは…」

「殿下はそこも考えておられたんですか?」


バルトフェルドの発言に、ギルバートは頷いて答える。


「ああ

 どうせ私を馬鹿にして、自分達の要求を通したかったんだろう

 そう思ったからこそ、私も強気で発言したんだ

 あいつ等をどうにかしなければ…ならなかったからね」


ギルバートは不満を漏らす兵士達を、何とか押さえこもうと考えていた。

そこで威圧を使ってでも、彼等の意思を砕きたかったのだ。

ギルバートは狙い通りに、彼等の意思を打ち砕く事に成功した。

それで周りの兵士達も、彼等に同調する事は無かった。


「どうせ口先だけだ

 それなら威圧すれば、すぐにボロが出るだろ」

「そりゃそうだが…」

「王太子の横暴だと言われれば、危険でしたよ?」

「それを潰すのが、お二人の役目でしょ?」

「あ…」

「いや…

 そうなんですが…」


二人は呆れた顔をして、ギルバートを見ていた。


「もしかして…」

「殿下

 全部計算されて?」

「計算って言うか…

 勘かな?」

「はあ…

 お前はそういう奴だったな」


アーネストは頭を振って、諦めた様に肩を竦めた。


「アーネスト様」

「無駄ですよ

 そもそも、勘であの騒動を収めたんです

 それも王としての力量でしょう?」

「はあ…

 まあ、確かにそうなんでしょうな」

「え?

 違うのか?」


ギルバートは驚いた顔をして、二人の方を見る。


「そういう意味じゃ無かったんだがな」

「ええ」

「ええっと…」

「そこも含めて、今後の為の反省だな」

「え?」

「そうですな

 言いたい事は山ほどございます」


二人に肩を掴まれて、ギルバートは強引に引っ張られて行く。


「あ!

 おい!」

「説教だ!」

「そうですぞ

 大体殿下は、考えも無しに行動し過ぎです」

「ちょ!

 戦勝の宴が…」

「夜は長い

 説教の後でな」

「ああ!」


振り払おうと思えば、強引に引き離せるだろう。

しかしギルバートの力では、怪我をさせる恐れがある。

ギルバートは二人に捕まれたまま、執務室に引っ張られて行った。


それから1時間以上、説教が続けられた。

食事が冷えるとメイドに嘆かれて、漸く解放されたが、二人は宴席でも愚痴を溢していた。

宴席は食堂で開かれ、子爵もそこに呼ばれて来ていた。

あまり愚痴ばかりでは食事が不味くなると、子爵に注意されるまで二人の愚痴は続いた。


「しかしですな、精霊の森や帝都に関しても」

「まあまあ

 その辺にしましょう

 折角の宴なんですから」


子爵が懸命に宥めて、バルトフェルドも愚痴を言うのを止める事にする。


「殿下

 明日からは暫く、王都で大人しくしていただきますぞ」

「そうだな

 オレも暫くは、工房に籠るからな」

「え?」

「当たり前だ!

 巨人の素材を活かす為にも、研究が必要だ」

「そうですぞ

 その間に王太子として…

 いえ、王としての教育を…」

「まあまあ

 そのぐらいにして」


子爵が葡萄酒を、バルトフェルドのグラスに注ぐ。

それでバルトフェルドも、黙ってグラスの酒を飲み干す。


「ワシとしては、殿下に訓練も見ていただきたい」

「そうだな

 当面は兵士を鍛えなければ…

 魔物の脅威は増すばかりだからな」


ギルバートは顔を顰めながら、ムルムルの言葉を思い出す。


「ムルムルも言っていたからな…」

「え?」

「ムルムルに会ったのか?」

「ああ

 あの後も戦場に残っていたみたいでな

 女神の一手を潰してくれていた」

「はあ?」

「なんですと?」


周りの反応を見て、ギルバートはしまったと顔を顰める。


「どういう事だ?」

「巨人との戦いの後ですか?」

「あ、ああ…」


ギルバートは三人に睨まれて、渋々話を始める。


「どうやら女神は、あの後も魔物を呼び出そうとしてたらしい」

「そういえば、確かに魔力が収束していた

 あれはそれだったのか」


アーネストは巨人の遺骸から、魔力が流れ出るのを感じていた。

それで何体かの遺骸から、魔力が抜き取れれてしまった。

素材の価値も、魔力が抜ければ下がってしまう。

アーネストは不満そうに、その話を聞いていた。


「あいつは何か言っていたか?」

「そうだな

 ムルムルは女神を発見してな

 どうやら上空に居たらしい」

「上空?

 空に居たって事か?」

「ああ

 ムルムルもそこで戦って、落とされたって言ってた」

「あの時にか…

 空ではさすがに、オレも気付かなかった」


「それで?

 他には何か無いか?」

「そういえば…

 神殿がどうとか…」

「神殿?」

「ああ

 ミッドガルド以前の…古代魔導王国の廃墟にあるとか?

 それとそこは危で、人間が踏み込める場所では無いとか」

「そんな場所があるのか?」

「ミッドガルドと言えば、帝国の昔の呼び名ですから

 可能性としては、それ以前の魔導王国という事ですかな?」

「それ以前となると、オレ達では正確な場所は分からないな」


「しかし女神め…」


アーネストは女神の行動に気付けなかった事を、悔しそうにしていた。

しかし女神は、遥か上空に居たのだ。

あれでは気付けと言われても無理であろう。

ムルムルが居なければ、さらに魔物が呼び出されて、戦場は混乱していただろう。


「まあ

 私が見た限りでもかなりの高さに居たから

 気付けなくても仕方が無いさ」

「しかし、魔力の流れには気付いていたんだ

 くそっ!

 次は油断しないぞ」


アーネストは悔しそうにすると、葡萄酒を一気に呷った。


「あ!

 おい!」

「さすがに飲み過ぎですぞ」

「うるさい!」

「やれやれ

 フィオーナを呼びに向かわせるか」

「よ、止せ!」

「はははは

 アーネスト殿も、奥方には弱い様ですな」

「うるさい」


子爵はニヤニヤと笑って、アーネストの方を見る。

アーネストは悔しいのか、仕返しをしようと考えた。


「そういえば子爵殿

 結婚はどうなさるおつもりで?」

「ぬ、ゲホゲホ」

「はははは」

「止せよ

 酒癖が悪いな」


ギルバートはアーネストを、窘める様に注意する。


「結婚とは?」

「ああ

 巨人を討伐した後に、一人の女性が現れたんですよ」

「子爵殿の裾に縋り付き、安堵して泣いていたな」

「おい!

 全く…」


ギルバートは肩を竦めると、近くのメイドに声を掛けた。

そうしてアーネストに聞かれない様に、フィオーナとジェニファーを呼ぶ様に命じた。


「子爵殿にそんなお方が?」

「いえ!

 決してそんな…」

「子爵がよく行く酒場の主人ですよね

 確か麦の丘亭でしたっけ?」

「え?

 何故それを?」

「いや…

 兵士達が言ってましたよ?」


ギルバートに場所まで知られていたと気付き、子爵は顔を赤くして俯く。


「酒場…

 宿の主人ですか?」

「ええ

 どうやら未亡人らしいですね

 小さな子もいるみたいで…」

「ええ

 それで心配して様子を見に行っていたんですが…」


子爵はもごもごと、言い訳する様に呟く。

それを見て、ギルバートは首を捻って質問する。


「あれ?

 毎日の様に通ってるって…」

「殿下!

 毎日ではございません

 確かに飯が美味くて、ちょくちょく行きますが…」

「なるほど

 それでいつしか…」


バルトフェルドも、納得した様に頷く。


「違います!

 決してその様な…」

「子爵」

「は、はい」

「子爵は今や、王都の民として子爵の爵位を授かれます」

「え?」


子爵は意味が分からず、首を傾げていた。

今までは帝国の、子爵の爵位で呼ばれていた。

あくまで移民の代表として、王国の民という扱いでは無かったのだ。


「つまり、この王国の民として、子爵の叙爵を得られるんです」

「それは…

 何か意味があるんですか?」

「王都に住む貴族は、副業を営む事が出来ます

 つまり子爵さえ良ければ、その御婦人と暮らす事も…」

「な!」


「待て!待て!待て!」


子爵は顔を真っ赤にして、慌てて手を振る。

その様子を見て、アーネストがニヤニヤしながら絡む。


「子爵殿

 あの女性の事をどう思っているんですか?」

「アーネスト様!」

「あの人は本気でしたよ?」

「うぐっ!」


「あんな美しい女性を…」

「アーネスト!

 誰が美しいって?」

「娘が出来たって言うのに、さっそく浮気ですか?」


そこにフィオーナと、ジェニファーが入って来た。

フィオーナはアーネストの前に来ると、その耳を掴んで引っ張る。


「あ、痛てて」

「もう!

 そんなに飲んで」

「これは説教ですね」

「そんな!」


「子爵に絡むからだぞ」

「ギルだって…」

「お兄様も

 セリアが寂しがっていたわよ」

「う…」

「ほどほどで戻ってくださいね」

「全く

 男共は…」


アーネストは耳を引っ張られながら、そのまま食堂から出て行く。

メイド達はその様子を見て、笑いを堪えていた。


「ワシも…

 この辺で」

「子爵

 一度ゆっくり話し合ってください」

「そうですな

 叙爵はしますが、どうするかはお二人で決めてください」

「ワシは!

 そうじゃな…」


子爵は何か言い掛けたが、そのまま食堂を後にした。

子爵にしても、まだ気持ちの整理が出来ていないのだろう。

二人がどうするかは、二人が決めるべき話だ。

しかしあの様子では、子爵も満更でも無いのだろう。


「子爵には…

 幸せになってもらいたいな」

「そうですな」


「子爵にはこれまでも、随分と世話になている

 今までも苦労している分、幸せになるべきだ」

「しかしそれは、ワシ等がそう思っておるだけですぞ

 その御夫人のお気持ちも、考えてあげねば」

「そうなんだが…

 子爵の無事を泣いて喜んでいたからな」

「それはまた…」


二人は無言で頷くと、子爵が上手く行く様にとグラスを打ち鳴らした。


「それでは私も」

「姫様の元にですか?」

「バルトフェルド様…」

「はははは

 そろそろワシの事も、バルトフェルドでよろしいですぞ

 殿下は王になられます」

「むう…」


「その代わりに、しっかりと責務を果たしていただきます」

「当分は王太子で良いよ」

「そういう訳には…

 早くお子を成していただきたいですし」


バルトフェルドは、顔を顰めながら窘める。

しかしギルバートは、首を振ってその言葉を否定する。


「ムルムルが向かっているが…

 女神がこのまま大人しくしているとは思えない」

「殿下?」

「近い内に…

 何か起こる、そんな気がするんだ」


それは確証は無いが、確かにギルバートは何かを感じていた。

何か大きな異変が、この王国で起ころうとしている。

そんな気がしていたのだ。


「何が起こると?」

「分からん

 しかし嫌な予感がするんだ」


ギルバートは拳を握って、バルトフェルドの方を振り返る。

そうして困った様な顔をして、バルトフェルドを見詰めた。


「バルトフェルド様には申し訳ないが…

 また城を出る事になると思う」

「殿下!」

「仕方が無いんだ

 これは私にしか出来ない事なんだ」

「しかし…」


「精霊様は…

 私をガーディアンと呼んでいた

 それが何を意味するのかは分からない

 しかし、そんな私だからこそ、女神は警戒して色々仕掛けている気がするんだ」

「それは…

 殿下の仰る勘ですか?」

「ああ

 しかし、確実だと思うぞ?

 現に私は、生まれた時から女神に命を狙われていた」


ギルバートの言う様に、女神はギルバートが生まれた時から命を狙っていた。

それも執拗に、まるで恐れている様に狙っていた。

それがギルバートが、女神に対抗する力が有るからなのか?

それとも女神が忌み嫌う、何らかの力を有するからなのか?

それはまだ分からなかった。


しかし女神が警戒しているのなら、牽制にはなるだろう。

ムルムルの行動がどの様な結果を齎すか、その結果次第では再び旅立つ必要がある。

ギルバートは漠然とだが、そう感じていた。


「どうにか…

 なりませんか?」

「さあな?

 ムルムルが何とかしてくれれば良いが…」

「例の魔王ですか?」

「ああ

 女神の元に行くと言っていた」

「しかしその魔王も…」

「ああ

 以前に操られていたな

 だからこそ、このまま終わるとは思えないんだ」


ギルバートは首を振りながら、そう短く答えた。


「まあ

 当面は何事も起こらないだろう

 さすがに女神も、そこまで動かないだろうし」


ギルバートはそう言うと、食堂のドアを開けて出て行った。

バルトフェルドはその背中を見送ると、静かにグラスの酒を流し込む。


「陛下…

 どうか我らをお守りください」


バルトフェルドは祈る様に呟くと、そっとグラスを置いた。

まだまだ続きます。

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