第496話
ギルバート達は、王城の執務室に集まっていた
巨人との戦いの勝利を、祝う為に集まっていたのだ
ハルムート子爵にも伝えて、王城のホールに料理を用意させる
その間に集まって、今後の話をしていた
ギルバートは執務室で、巨人との戦いの戦果を確認していた
負傷者は思ったより少なく、主に子爵の兵が多かった
しかし死者に関しては、巨人との戦いでのみ出ていた
それを確認して、ギルバートは渋い顔をしていた
「やはり亡くなっているのはこっちだけか…」
「それは仕方が無いよ
巨人の一撃は強力だ…」
「くそっ!」
亡くなった者は、巨人に殴られたり踏み潰された者だ。
国王の時と同じで、一撃で致命傷を負っていた。
そしてその一撃に耐えた者も、重傷で運ばれていた。
あちこち骨折して、ポーションと薬草で手当てされている。
そんな彼等も、高熱で生命の危機に陥っていた。
「私の神聖魔法でも…」
「今は無理だろう…
そもそも魔法が自由に使えないだろう?」
「ううむ…」
ギルバートは城門の前の広場で、神聖魔法を使おうと試した。
しかしギルバートには、回復の魔法は使えなかった。
どの様に使うかが、そもそも分からないのだ。
「そっちは追々…
学んで行くしか無いだろう?」
「くそっ!
何で使えないんだ?」
「そもそもお前は、少し前まで魔法の魔の字も理解出来ていなかった
死霊を払う魔法を身に着けれただけでも、十分に奇跡だと思うぞ?」
「奇跡…ねえ…」
ギルバートは首を振って、考えを振り払う。
「被害状況はこれで良いとして…」
「報酬か?」
「ああ」
ギルバートは羊皮紙を手に、唸っていた。
「うーん
しかしこれは…」
「いい結果じゃ無いか?
結果として良い素材が大量に手に入った
と言っても…」
女神の介入で、巨人の遺骸の一部は魔力を大きく失っていた。
全てでは無いが、多少は価値の下がった物もある。
残る素材を全て使っても、兵士に賄うにはギリギリの数だった。
「これで…
何が出来る?」
「そうだなあ…」
アーネストは首を捻りながら、羊皮紙に計算された数を示す。
「そのまま革鎧には使えない
巨人の皮膚は、そこまで丈夫じゃ無さそうだ」
「そうなのか?」
「ああ
多少は何某かの耐性はありそうだが…
丈夫じゃ無いな」
「そうか…」
「しかし、骨や灰は違うぞ
魔力の込められた灰は、より強力な魔鉱石の素材になるだろう
そうなれば今よりも、丈夫な武具の素材になる」
「しかし…」
灰を使って皮を鞣す作業も行われている。
しかし肝心の、良質な防具の開発は遅れている。
いくら武器が丈夫になっても、防具が弱くては生存者は少なくなる。
今の問題は、そこだった。
「プレートを使った防具…
それが問題だな」
「ああ
重い防具では駄目だ
魔物の攻撃を受け流せないだろう」
「そうなってくると、帝国風の軽いプレート装備か」
アーネストは思案しながら、羊皮紙にメモを取って行く。
「子爵に相談して、何か案を求めるか」
「何かあるのか?」
「ああ
侯爵が着ていた鎧があるだろ?」
「アルマート公爵のか?」
アルマート公爵は、昔の帝国式の鎧を着ていた。
皮鎧よりは重たいが、急所を覆うプレート式の鎧だった。
しかし肝心の、魔法金属が不足している。
それさえあれば、帝国はもっと強力な騎士を召し抱えていただろう。
「あれは重たい…」
「それを改善する方法
それが見付かればあるいは…」
「出来るのか?
そんな事が?」
「さあ?」
アーネストは肩を竦めて、ギルバートは渋面を作っていた。
「帝国が作っていたのなら…
今なら出来るのでは?」
バルトフェルドはそう言って、巨人の素材のリストを指で叩く。
「試してみる価値はありますね」
「頼む
それがあれば、これからの戦いに大いに役立つ筈だ」
ギルバートは巨人の攻撃に、耐えられる防具を求めていた。
そんな便利な防具が、作れる筈も無いだろう。
しかし少しでも丈夫な防具が出来れば、それだけ兵士達の生存率は上がる筈だ。
完全に防げなくとも、今よりは生存率を上げたい。
ギルバートはそれを願っていた。
「出来るか分からないが、色々試してみるよ」
「ああ
頼んだぞ」
「それで兵士達への報酬は?」
「ああ
報奨金と見舞金…」
「遺族への支払いも御座います」
「そうだな…」
被害は少なかったものの、これで得られた金品は無いのだ。
国庫に大きな穴が空くと、バルトフェルドは顔を顰めていた。
しかし戦ってくれた者達に、何も支払わない訳には行かない。
多少は無理してでも、ここは報酬を支払うべきだった。
「兵士への支払いは、一部は現物にしましょう」
「現物?」
「ああ
魔鉱石の武具
これを報酬に加える」
「しかしまだ…」
「ああ
だから出来上がってからだと説明が必要だな」
アーネストの提案に、バルトフェルドは頷く。
しかしギルバートは、首を振って否定する。
「駄目だ
納得出来ないだろう?」
「それを納得させるのが、王や王太子の仕事だぞ」
「え?」
「私は早急に開発を急がせる
お前はそれまで、兵士達を納得させるんだ」
「おい…」
「駄目だ!
これはお前の仕事だ」
「そうですな」
この意見に関しては、バルトフェルドも頷いていた。
そろそろ王太子として、責任を持った行動を取って欲しい。
先ずはこの件を納得させて、兵士達からの信頼を勝ち取る必要があった。
「昨日の襲撃の件
何も魔物だけが原因ではございません」
「襲撃?」
バルトフェルドは頷くと、兵士達が襲撃した事を話す。
「おい!
オレはそんな報告は…」
「報せませんでした
緊急の案件が多過ぎましたから」
「はあ…」
アーネストは溜息を吐くが、バルトフェルドの言い分も尤もだろう。
その時点で報告されても、アーネストは対処する余裕は無かっただろう。
無事に巨人に勝ったからこそ、こうして話していられるのだ。
「分かった
それは良いのだが…」
「ええ
彼等が暴挙に出たのも、殿下への信頼が薄かった事でしょう」
「だろうな
今のギルには、そこまでの力は無い」
今までは、国王の影響力が大きかった。
国王ハルバートは、その善政で国を興して守って来た。
しかし国王亡き今、その息子であるギルバートの力量が大きく問われる時期に差し掛かっていた。
兵士のほとんどが、バルトフェルドの連れて来た兵士か、新たに徴用された兵士である。
そんな彼等に、無条件で従えという事が無理なのだ。
そしてそれが、今回の襲撃で表に出た事になる。
まだ兵士達には、ギルバートはそこまで認められていなかったのだ。
「確かに…
ギルの力は強いだろう」
「そうですな
単独で巨人と渡り合ったそうですね」
「ええ
しかし強いだけでは…」
「じゃあ…
どうすれば良いんだ?」
ギルバートは真剣な表情で、二人に意見を求める。
しかし二人共、黙って首を振るだけだった。
「それを考えるのも王たる者の務め」
「そうだな
オレ達には出来ない事なんだ」
「え?
しかし私は…
現に兵士に反攻されて…」
「それは兵士に力を見せないからだろう?」
「え?
力って…」
ギルバートは困惑して、アーネストの方を見る。
「私はオーガやワイルド・ベアを…」
「そうじゃ無い!」
「ええ
その力ではありませんぞ」
二人共ギルバートの発言を、バッサリと切り捨てる。
「え?」
「人を従える…
いや」
「そうですな
人を引き付ける魅力の様な…
陛下はそんなお力を持っておられた」
「そんな力…」
ギルバートは困った顔をして、頭を抱える。
「そうですな
実際に陛下とアルベルトを比べると、純粋な力ではアルベルトの方が上でした」
「全盛期のアルベルト様なら、オーガとも戦えたでしょうね」
「え?
そうなのか?」
二人の意見を聞いて、ギルバートは驚いていた。
偉大な父として背中を追っていた。
しかしそのアルベルトですら、オーガを討伐出来るレベルなのだ。
いつの間にか、力では上回っていた様だ。
「いや、オーガなら討伐出来るだろうだから…
ひょっとしたら…」
「そうですな
巨人と戦っていたかも?」
「そうだろうな
父上…
いや、アルベルトは強かった」
ギルバートはうんうんと頷くが、二人は首を振っている。
「しかし重要なのは…」
「そうですな
そのアルベルトも、陛下には敵わなかった」
「え?
父上は戦って…」
「いや、その力じゃ無いんだ」
「ええ
実際にアルベルトも、陛下には従っていたでしょう?」
ギルバートは意味が分からず、首を捻っていた。
「そもそも、何でお前はそんな身体になったんだ?」
「へ?」
「そうですぞ
アルベルトは己が子を犠牲にしてまで、殿下を守られた
それは何故ですか?」
二人の問い掛けに、しかしギルバートは理解が出来ない。
「オレなら…
我が子を犠牲にするなんて…」
「ワシもです
フランツを殺せと言われれば、躊躇ったでしょう」
「いや…
それはそうだろう?」
「それじゃあ、何でアルベルト様はそうしたんだ?
それも陛下が、止めたのにも関わらず」
「え?」
「それこそが、アルベルトが陛下に従っていた証拠です
自分の子を犠牲にしてでも、殿下のお命を守ろうとした」
「そんな事は、普通はしようとも思わないだろう」
二人の言葉を聞いて、ギルバートは頷くしか無かった。
「それが陛下の…
父上のお力?」
「ええ」
「そして今、お前に求められている力だ」
改めて言われて、ギルバートは怖じ気付いていた。
「無理だよ、そんな…」
「ですが、それが王たる者の資質」
「ああ
お前にも確かに、受け継がれている」
「そんな力なんて…」
ギルバートは弱気になって、首を振っていた。
「分かって無いな…
オレが何でここに居るんだ?」
「へ?」
「はははは
そうですな
ワシもですな」
「ええ?」
二人の言葉に、ギルバートは益々混乱する。
「それじゃあ…
護衛の兵士や、親衛隊の話にしようか」
「そうですな
彼等なら分かり易いでしょう」
「え?
意味が分からないよ」
「親衛隊は…
ジョナサンは何で、お前を命懸けで守ったんだ?」
「え?」
「お前が意識を失った時も…
いや、そもそも巨人と魔王が目の前に居る時も、彼等は命懸けでお前を守っていただろう?」
「彼等が何を思って、殿下を守られていたのか…
お分かりですか?」
「それは…
私が王太子だから…」
「違うだろう!」
「そうですぞ!」
「え?」
「彼等はお前に、王国の未来を託したんだ」
「陛下にしてもそうです
陛下が亡くなる時、巨人共の前に立ちはだかったそうです
それは何故ですか?」
「父上が?」
「ああ
オレは見ていないが、王国とお前を頼むと叫んでいたそうだ」
ギルバートは父親の最期の言葉を、この時初めて聞いた。
国王であるハルバートは、敵う筈も無い巨人の前に、一人立ちはだかっていたのだ。
それも自分の事では無く、ギルバートや国民の事を思っての行動だった。
自分がそうなった時に、果たしてそんな事が出来るだろうか?
「父上が…」
「ああ
お前はそんな、陛下の意思を継いでいる」
「ええ
そしてその力も…」
「私が?」
ギルバートは改めて、自分の心の内に問いかける。
私は国民の為に、そんな勇敢な事が出来るのだろうか?
そう思った時に、自然と答えが返って来た気がした。
「そうか…
そういう事か」
「ん?」
「どうやら…
腹が決まった様ですな」
ギルバートは頷くと、執務室から外に出る。
そして見張りの兵士に、直ちに兵士を集める様に命じた。
「今すぐ、集めれるだけの兵士を集めろ」
「はあ?」
「非番の者も、居場所が分かるならすぐにだ」
「しかし…」
「急げ!
時間は無いぞ」
「は、はい」
兵士は反論を許さぬ様子に、慌ててその場から駆け出した。
「おい…
それは極端な…」
「お前が焚き付けたんだろう?
それに、今すぐでないと効果が無いからな」
ギルバートの決心を見て、バルトフェルドは静かに頷いていた。
王城のバルコニーから、ギルバートは下を眺める。
集められるだけの者を集めろと命じたので、警備の兵士以外は全て集まっていた。
その兵士達は、何事かとざわついて集まっていた。
「静粛にしろ!」
ギルバートの一喝が響き渡り、バルコニーの下の広場は静寂に包まれる。
その言葉の力強さに、抗える兵士は居なかった。
「本日はみな、よくぞ戦ってくれた」
先ずは巨人との戦を、労う言葉が掛けられる。
それで安堵してか、兵士達はまた少しざわついていた。
「静粛にと、言っただろう!」
ビリビリ!
ギルバートの一喝に、再び広場は静まり返った。
「少し弛んでおるな
それでは再び巨人が現れた時に、勝てぬのでは無いか?」
ギルバートの言葉に、兵士達は姿勢を正して上を向いた。
それを確認してから、ギルバートは再び口を開いた。
「諸君らの活躍により、無事に巨人は討伐する事が出来た」
一旦言葉を切ると、ギルバートは広場を見回す。
その様子に、少なからぬ兵士が震えていた。
彼等はギルバートを甘く見て、今日の戦いは自分達の手柄だと吹聴していた。
完全にギルバートを、舐めていたのだ。
しかし今は、バルコニーに立つギルバートに恐れを感じていた。
それは今までにない、威圧感と風格を見せていたからだった。
そんな人物に、勝てるなどと思い込んでいたのだ。
彼等は自身の認識の甘さを、今さらながら感じていた。
他の兵士達に話していた事が、バレていないか恐れていた。
それで彼等は、恐れから身体を震わしていた。
そんな彼等に気が付き、ギルバートは内心で溜息を吐いていた。
本当に自分は、こんなに舐められていたのだと。
そしてそれが、先の襲撃の様な事に繋がるのだと理解した。
そうならない為にも、ここで変えて行く必要があるのだ。
ギルバートは心を鬼にして、兵士達を睥睨していた。
まだまだ続きます。
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