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聖王伝  作者: 竜人
第十五章 崩れゆく世界
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第493話

ギルバート達は、王都の北の城門で戦っていた

巨人が迫る中、投石器や弩弓を使って攻撃する

そうして弱ったところに、騎兵が止めを刺す

しかし仲間の死に対して、怒った巨人が攻めて来ていた

数に押され、ギルバート達は窮地に立たされていた

3体の巨人が、ギルバート達に襲い掛かろうと迫る

4体の巨人の内、2体はギルバートが倒していた

しかし2体は虫の息だが、まだ生き残っている

騎兵達はその巨人を倒すべく、懸命に剣を振るっていた

しかし破滅の足音は、確実に近付いている


「させるかあああ!」


アーネストは杖を掲げると、朗々と呪文を唱える。


「大気の精霊よ!

 炎の精霊よ!

 …ちっ!」


呪文の詠唱を続けるには、時間が足りていなかった。

詠唱破棄、それは多大な魔力を必要とし、魔法の精度を著しく損なう。

しかし今は考えている余裕は無かった。

アーネストは呪文を途中で破棄して、一気に集中して結句を唱える。


「サンダー・レイン!」

バシュッ!

ズドドン!


雷鳴が轟き、3体の巨人の先頭を走る1体を打ち据える。


「よし!

 サンダー・レイン!

 サンダー・レイン!」


アーネストは続け様に、一気に3体の巨人に雷を打ち落とす。

多量の魔力を消耗して、一瞬だが意識が飛びそうになる。

しかしアーネストの周りには、魔力が渦巻きその手にした杖に集まって行く。

魔力を杖で補う事で、アーネストは連続で魔法を唱える事が出来た。


「よし!

 精霊の力を感じるぞ

 これなら…」


アーネストは戦場を見回して、巨人の動向を窺う。

迫る巨人を優先して、何とか足止めに雷を叩き落そうとしていた。


「アーネスト…

 いつの間にあんな…」

「ギル!

 後続も迫っている

 急いでそいつ等を倒せ!」

「分かった!」


アーネストは魔力を、ただ周囲から集めるという事を止めていた。

周囲の精霊に呼び掛けて、その力を借りる術を学んだのだ。

それで自身の魔力を使う事を抑えて、強力な魔法を連続で繰り出す事が出来る様になっていた。

アーネストが新たに身に着けたというのは、この力だった。


エルリックの住処に居る間に、ギルバートの言葉にヒントを得ていた。

それで予備の杖を弄り、周りの精霊力に働き掛ける様に細工をしたのだ。

自然現象に働き掛けて、少ない魔力でも大きな魔法を行使出来る。

加えて精霊に干渉する事で、精霊力も魔力にして回収出来た。

それで消費した魔力の、一部も回復していた。


「サンダー・レイン!

 ふう、ふう…

 ポーション無しでも、まだまだ撃てるぞ…」

「私も負けてられんな…

 掛かって来い!」


ギルバートは咆哮を上げると、一気に巨人の足元に迫る。


「うおおおおお!」

グ…ガ…


巨人は雷の魔法で、まだ身体が痺れていた。

何とか立ち上がろうとするが、それより早くギルバートが迫る。


「せりゃあああ」

ザン!


巨人が痺れて動けない事を良い事に、ギルバートは一気にその場から跳躍する。

そうして巨人の肩に飛び乗りながら、次々と首を切り裂いた。


「ふん!」

ズバッ!


「せりゃああ」

ザシュッ!


3体の巨人の首を切り裂くと、ギルバートはそのまま着地する。

後ろでは首から出血した巨人が、ゆっくりと崩れ落ちる。

それを振り返る事無く、ギルバートは騎兵達に命じた。


「一旦下がるぞ!

 さらに追撃が向かって来ている」

「え?」

「まだ居るんですか?」


「ああ

 まだ来るぞ

 急げ!」


ギルバートは城門に向けて駆け出すが、後方から地鳴りの様な足音が聞こえる。

このままでは、城門を閉める前に追い付かれてしまうだろう。

ギルバートは城壁を見上げると、アーネストに向けて叫んだ。


「アーネスト

 どれぐらい来てる?」」

「ああ

 さらに20体が追加だ」


アーネストは手にした羊皮紙を、ギルバートに見える様にひらひらと持ち上げた。

そこには新たに、20体の巨人が動き出したと書かれている。

ギルバートは城門の前で頷くと、地響きがする方向を睨む。


「どのぐらいで来る?」

「そんなに余裕は無いな」


アーネストの視線の先に、巨人が迫る影が見えて来ている。


「やれやれ…」

「安心しろ

 打ち止めになるまで放ってやる」

「無茶は…」

「やるしか無いだろう?」


アーネストはやる気満々で、杖を頭上に掲げる。

集めた魔力が、杖に纏わり着く様に漂う。

それを操りながら、城門の前に黒い雷雲を集める。

雷雲は大きくは無いが、その周りに雷の煌めきを放っている。


「大丈夫なのか?」

「ああ

 言っただろ?

 新しい力を得たんだ」


アーネストはそう言って、杖に集めた魔力に集中する。

魔導王国の魔導士ほどでは無いが、今なら魔導士と名乗っても差し支えは無いだろう。

強大な魔力を操作して、真剣な表情をして目の前を睨む。


「ここはオレが足止めをする…

 その間に…攻撃を加えろ!」

「はい」


アーネストはそう呟くと、後方の兵士達の方を見る。

アーネストの指示に従い、兵士達は投石器(カタパルト)弩弓(バリスタ)に弾を込め始めた。

弾を込めたところで、狙いを新たな巨人に向けて調整する。


「行くぞ…

 サンダー・レイン!

 サンダー・レイン!

 サンダー・レイン!」


アーネストは立て続けに、一気に3発の雷を落とした。

手前の巨人がよろめき、後続を巻き込んで転倒する。

一気に5体の巨人が倒れ、こちらを睨んで吠える。


グゴアア…

「今だ!

 撃て!」

「はい」

ブオン!

バシュッ!


次々と投石器(カタパルト)から石が撃ち出され、弩弓(バリスタ)も矢を放つ。

それは倒れた巨人の頭を収集して狙い、少しずつだが体力を削って行った。

その後続に向けて、アーネストはさらに魔法を放つ。


「サンダー・レイン!

 サンダー・レイン!」

「おい…

 そんなに連発して…」

「はあ、はあ

 大丈夫だ…」


アーネストはポーションを口に含み、渇きを潤しながら魔力を補う。

それから杖を掲げて、再び魔力を集めて雷を叩き落とす。


「サンダー・レイン!」

ズドドン!


以前と比べると、アーネストの魔法は安定していた。

魔力は杖から雷雲に集まり、次々と雷を振り落とす。

既に前列の巨人は倒れ、後ろの巨人に雷が打ち落とされていた。

それは地面を伝わり、周りの巨人をも巻き込んでいる。

しかし巨人は狂暴化しているのか、それに必死に抵抗していた。


「ぜい、ぜい…

 くそっ!

 耐えられるのか?」」

「おい?」

「まだまだ!

 サンダー・レイン!」

バチバチ…!


しかしさすがに、アーネストも足元がふらついていた。

雷も狙いを外れて、空中で霧散する。

そして巨人の方も、それだけ雷を浴びれば警戒をしていた。

我武者羅に前に進むのを止めて、城壁の上のアーネスト達を睨んでいた。


「近寄って来ないですね…」

「ああ

 あれだけ離れていれば…

 雷の効果も落ちるしな…」


両者は睨み合い、緊張が走る。

残る巨人はまだ13体も居て、こちらを警戒しながら唸っている。

両者が拮抗して睨み合う中に、不意に大きな動きがあった。

それは巨人でもギルバート達でも無く、その東側からだった。


グガアアア


不意に複数体のオーガが姿を現わし、巨人に襲い掛かったのだ。

そのままオーガは巨人の足元に組み付き、足や腹に噛み付いていた。


「な!」

「どういう事だ?」


驚くギルバート達の前に、オーガの肩に乗った人物が歓声を上げる。


「ひゃっはー♪

 行け行け!」

「ムルムル?」

「何でここに?」


それはまるで、前回の王都での出来事の繰り返しであった。

違う点を挙げるなら、今回はムルムルが巨人を襲っている事だ。


「借りっ放しは嫌だからな

 借りは返すぜ!」


ムルムルはそう言いながら、オーガの群れを巨人に突撃させる。


「行けー♪」

「無茶だ!」

「オーガと巨人では…」


ギルバートとアーネストがそう叫んだ時、怒った巨人がオーガに襲い掛かった。

それは大人と子供ぐらいの差があり、ムルムルには圧倒的に不利に見える。

巨人が拳を振り抜くと、数体のオーガが吹き飛ぶ。


ドガッ!

バキバキ!


森の一部が、吹き飛んだオーガで大きく崩される。

巨人とオーガが戦った後には、大きな空き地が出来ていた。


グガアアア

グシャッ!


「あ!」

「ムルムル

 無茶は…」

「そう思うだろう?」


しかしムルムルは、余裕そうに振り返ると笑っていた。

その姿は前回会った時に比べると、幾分か薄汚れた姿に見えていた。

しかし灰色の翼を広げると、ムルムルは宙を舞いながらオーガに指示を出す。


「そこだ!

 先ずは右の巨人を先にやれ」


「おい…

 あれ」

「ん?」


アーネストは戦場の異変に、いち早く気が付いていた。

巨人に殴られたオーガが、そのまま立ち上がって攻撃していたのだ。

その首は横に曲がり、明らかに致命傷に見えている。


「あ…」

「どうやら要らぬ心配らしい」


ムルムルはオーガの群れを、死霊にして使役していたのだ。

だからオーガは攻撃されても、その身が砕け散るまで戦えるのだ。

巨人もその異常さに気が付き、腕や足を引き千切りに掛かる。

しかしオーガの数が多いので、なかなか梃子摺っていた。


「これは…」

「加勢するなら今だな」


「行けるか?」

「はい」


ギルバートの言葉に、騎兵達は力強く頷く。


「ムルムル

 後は任せてくれ」

「良いのか?

 私が最後までやっても…」

「それには及ばんよ」


ムルムルは頷くと、オーガに指示を出す。

オーガは攻勢から転じて、巨人を引き付ける事に集中する。

その間に騎兵達は、一気に城壁の近くから駆け出す


グガ?

ゴガア


騎兵の動きを見て、巨人も警戒する。

しかしオーガが近くに居るので、騎兵に集中出来ていない。


「行くぞ!

 最後の仕上げだ!」

「おう!」


城門の前から再び騎兵達が駆け出したの見て、2体の巨人がそちらに踏み出そうとする。

しかしそれを見て、アーネストは雷を落とす。


「ふっ

 させるかよ!

 サンダー・レイン!

 サンダー・レイン!」


前に出た巨人に対して、容赦なく雷が落とされる。

それでよろめいたところに、騎兵が一気に詰め寄る。


グガアアア

「ひいっ!」

「させないぞ!」

ズシャッ!


1体を切り付けたところに、もう一体が前に出る。

雷を落とされても、巨人は何とか両手を振り翳した。

そのまま騎兵を捕まえようと、巨人は大きな手を広げる。

しかしギルバートが踏み込んで、その腕を切り付けた。


「お前達は、オーガと協力して向こうの巨人を狙え!」

「はい」


「ここは…

 私があいてだああああ」

ビリビリ!


「うひい!」

「凄い気迫だ」

「こっちまで飲まれそうだ」


ギルバートの上げる咆哮に、巨人達は怯み始めている。

その隙を逃さず、ギルバートは一気に切り込んで行った。


「うりゃああああ…」


戦場の大勢が決したのを見て、ムルムルはオーガを少しずつ下がらせる。

そうして死霊化を解くと、オーガを解放していった。

オーガはそのまま地面に突っ伏すと、溶ける様に地面の中に消えて行った。

オーガが消えたのを見て、ムルムルはそのまま戦場を離れて行く。


「これで借りは返したぞ」

「すまないな」

「なんの

 あの子は私の甥っ子でもあるからな」


ムルムルはゆくりと地面に降りると、その翼を折り畳んだ。

彼の前には、真っ赤な出で立ちの男が立っていた。

男は寂しそうな顔をして、ムルムルに話し掛ける。


「なあ…

 魔王には…」

「止してくれ

 私はもう、未練は無いんだ」

「しかし…」


「お前こそ女神に気を付けろ

 あれは偽物だと思う」

「お前もそう思うか?」

「ああ

 そういうお前も…

 怪しいと睨んでるんだろ?」

「ああ」


男はもう一度ムルムルに感謝すると、深々と頭を下げた。


「兎も角、今回は助かった

 感謝するよ」

「はん

 そういうのはむず痒いんだ、止めてくれ

 私は魔王に堕ちた身だぞ?」

「いや、今は天使になっただろ?

 それにこうして…」

「お前が急に現れて、助けてくれって頭を下げたからだ…

 これっきりだからな」

「ああ」


ムルムルは片手を挙げると、ゆっくりと男の前から消え去って行く。


「達者でな

 エルリック」

「ああ

 ムルムルもな」


エルリックはそう言うと、静まり返った戦場を見回していた。

さすがに大勢は決していたのか、戦場は静まり返っていた。

それを見て安心したのか、エルリックもその場をゆっくりと離れた。


「イーセリアの事

 今暫く頼みますよ」


そう言い残して、紅い服は夕闇に掻き消えて行った。


「やった…」

「生きてる?

 オレ…生きているよな?」

「はははは

 何とか勝てたんだ…」


兵士達は激戦の勝利を喜び、涙を流しながら抱き合っていた。

戦いが始まる前は、もう生きて帰れないだろうと覚悟していた。

それがこうして、再び仲間の顔を見て喜び合う事が出来たのだ。

感動して抱き合い、互いが生きている事に感謝して泣いていた。


「うおおお」

「いぎでる

 いぎでるよお~」


しかし中には、運悪く亡くなった者達も居た。

暴れ回る巨人に踏み潰されたり、振り回す腕に打ち払われたり。

中には不幸にも、倒れた巨人に潰された者も居た。

そうして重傷を負ったり、そのまま亡くなったのだ。


「おい…

 嘘だろ?」

「さっきまで一緒に…」

「悲しむな

 こいつ等が行けないだろ?」

「しかし…」


悲しむ騎兵達の肩を叩くと、ギルバートは周囲の惨状を確認する。


「状況は?」

「はい

 負傷者は総勢28名

 内重傷者は12名になります」

「巨人の攻撃を、避け損ねたか…」

「はい」


「後は亡くなった者は8名になります」

「ああ

 さっき確認した」


ギルバートは頭を振って、悲しみを振り払おうとする。

それから兵士達に、死傷者の詳細を纏める様に命じた。


「遺族には…

 いや、私が出向くか…」

「何も殿下が…」

「いや

 今回の犠牲者もだが、向こうでの死者の事もある

 まだ遺族には報告されていないからな」

「それは…」


王都に戻ってから、翌日には巨人との戦闘となった。

その為に、まだ遺族の元へは報告に伺えていないのだ。


「私達は…

 何とか無事に生き延びれた

 しかしそれも、こいつ等の犠牲の上にだ」

「ですが彼等も…」

「そうですよ

 こいつ等も殿下の為になら…」

「分かってる

 分かってるつもりだ

 彼等もきっと、そう言うだろう…

 しかしけじめはけじめだ」


ギルバートはそう言って、城門の方を振り返った。


「大変だと思うが…

 こいつは運んどいてくれ」

「はい」

「初めての巨人の遺骸だ…

 職工達が狂喜するだろうな」


ギルバートはそう言うと、重い足取りで城門を目指した。

まだまだ続きます。

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