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聖王伝  作者: 竜人
第十五章 崩れゆく世界
492/800

第492話

その日は朝早くから、気温が上がる事は無かった

冬にはまだ早いとは思うが、朝から冷え込んでいる

兵士達は震えながら、焚火で暖を取っている

既に石は運び込まれていて、いつでも打ち出せる様に準備がされていた

後は巨人の姿が、射程に入るのを待つだけだった

クリサリス聖教王国の王都、クリサリスの街

その北の城門には、多くの兵士が詰めていた

結局兵士のほとんどが、巨人と戦う事を決意していた

大事な人を守る為に

今の暮らしを守る為に


「子爵様は東の城門に居ます」

「そのまま彼等には、他の魔物に備えてもらってくれ」

「はい

 そう伝えて来ます」


投石器(カタパルト)弩弓(バリスタ)の準備は?」

「はい

 いつでも打ち出せる様に準備しています」

「よし

 巨人の姿が見えたら、その頭をぶち抜いてやれ」

「はい」


「ようし…

 来るなら来い!」


「殿下

 いつもより気合が入っているな」

「そうですね」

「朝から何かあったか?」

「そりゃあナニかしたのかもな?」

「それって…」


数人の兵士が、ニヤニヤしながらギルバートの方を見る。


「それなら却って…

 足腰立たないんじゃ…」

「馬鹿!」

「そんな露骨な…」


「お前等!

 何を無駄話をしてる」

「は、はい」


ギルバートの一喝に、兵士達は慌てて持ち場に戻る。

時刻はまだ10時頃だが、ギルバートは警戒していた。

あの女神が、そんなに素直に動くとは思えないからだ。


「巨人は来ますかね?」

「ああ

 必ず来る」


「しかしその後は…」

「動きはある

 斥候の報告もあっただろう?」

「ええ

 しかし…」

「問題は…」


斥候の報告から、巨人は確実に王都に向かって来ていた。

しかし予想される到着時刻は、正午を過ぎる予定だった。


「魔王は…」

「え?」

「他に…

 魔物とか魔王の姿とか見ていないか?」


ギルバートは、このまま素直に巨人だけ仕向けるとは思っていなかった。

どこかに魔王を伏せて、隙を窺っている可能性が高いのだ。


「今のところはその様な者は…」

「近くに魔物も居ません」

「巨人が向かって来るのに気付いたのか、昨日から王都周辺には魔物は…」

「そうか

 油断なく見張ってくれ」

「はい」


ギルバートは輝く刃(ブライト・ブレード)を引き抜くと、それを光に掲げる。


「エルリック

 お前の仇は必ず取るからな」

「おいおい

 勝手に殺すなよ」


横から声がして、ギルバートは慌てて振り返る。


「エルリックならそう言うだろうな」

「なんだ…

 おどかすなよ」

「はははは

 エルリックならきっと生きている」

「そうだな…」


「奴に笑われない為にも、必ず生きて明日の朝日を拝もう」

「ああ

 この剣に…

 輝く刃(ブライト・ブレード)に誓って」


ギルバートはそう呟くと、剣を鞘に収める。


「兎も角今は…」

「ああ

 巨人が来るまでの辛抱だ

 くくくく…」


アーネストはそう言うと、新しい杖を引き出す。


「それは?」

「ああ

 今までのオレなら…

 使いこなせなかっただろうな」


杖の先には複数の魔石が填め込まれていて、柄も魔鉱石で作られた特別製だ。

先日のドラゴンとの戦いで、自慢の杖は使い物にならなくなっていた。

魔導士用の杖もあるのだが、こちらは使用魔力が極端に上がる分、燃費が著しく悪かった。

強力な魔法を連発すれば、すぐに魔力が枯渇してしまうだろう。


「それは?」

「ふふふふ

 こいつはな、魔石に込めた魔力を増幅させてな、周囲の魔力をより効率的に…」

「ああ…

 もう少し分かり易く言ってくれ」

「ぬう…」


アーネストは口をへの字に曲げると、不満そうに呟く。


「これでも分かり易く言っているんだぞ

 杖の素材もだが、使っている魔石も特別製なんだぞ

 その魔石を決められた配置にする事で、使用される魔力エネルギーのエントロピーを…」

「だ・か・ら!

 分からんと言っているだろ」

「つまんねえな…」


アーネストは肩を竦めると、厭味ったらしく呟く。


「馬鹿でも分かる様に言うと

 少ない魔力で強力な魔法も使える」

「凄いじゃ無いか

 しかし、何で今さら?」

「それはな、使い方が分からなかったんだ」

「はあ?」


アーネストは杖をクルクルと回すと、上機嫌に答える。


「今まではな、効率的な魔力の使い方に問題があったんだ」

「問題があったって…

 それじゃあ効率的では…」

「それがな、予想外な使い方が分かったんだ

 それも圧倒的に有効的な使い方がな!」

「ううむ…

 言ってる事が、さっぱり分からん」


周りに居た兵士達も、思わずうんうんと頷く。

有効的に使えていなかったのなら、それは効率的では無いだろう。

そもそもの例え方が、適切では無いのだ。


「まあ、見てれば分かるさ」

「そうか?」

「ああ

 魔力切れの心配も無いしさ」


アーネストはローブの下の、沢山ぶら下げたポーションを見せる。


「おい!

 そんなに沢山のポーションなんか…」

「大丈夫だ

 いっぺんに飲まないし、中毒にならない様に気を付ける」

「しかしそれは…」

「お前も、魔力回復のポーションは用意しておけ」


アーネストはそう言うと、腰のポーチから複数本の小瓶を取り出す。


「おいおい…

 これはお前の分じゃあ…」

「余分に作ってもらったんだ

 新しい薬草を使ってな」


アーネストは自慢気に、ニヤリと笑ってみせる。

それは今までのポーションに比べると、回復量が高くなった物だった。

まだまだ生産量が少なく、アーネストが独占していた。


「セリアに頼んであった、新しい薬草が出来たんだ」

「それじゃあこれは…」

「ああ

 しかし安心しろ

 オレの分は十分にある」

「そうか…」


「序でにこれも」

「こっちは?」

「傷を塞ぐポーションと、体力の回復を高めるポーションだ」

「へえ…」


「と言っても、効果は『体力の回復力を高める』だ

 何も食っていないと、その効力はほとんど無いから注意しろ

 一緒に干し肉か何か食べる様にしろ」

「戦闘中にか?」

「ああ

 その場で食うなよ?」

「食べるか!」


アーネストはギルバートに、一旦下がってから服用する様に勧める。

何も食べずに服用すれば、効果はあまり期待出来ないのだ。

その上体内の栄養素を使うので、急激な空腹感を感じる事になる。

戦闘中の服用には、向いていないポーションだった。


「傷を塞ぐ方も、戦いながらでは…」

「そうだな

 傷を負ったら、一旦下がる方が良いか」

「ああ

 無茶は…

 と言っても無駄か」


アーネストも諦めた様に、頭を振って溜息を吐く。

これから行われるであろう戦いは、巨人を相手にする事になる。

少しばかりの無茶は、する必要もあるだろう。

かく言うアーネストも、無茶をするつもりなのだから。


「殿下!

 狼煙が!」

「いよいよ来たか…」


王城のすぐ近くで、巨人の姿を確認したと狼煙が上がる。

よく目を凝らすと、森の先に薄っすらと影が見え始める。

そろそろソルスも、頂点を過ぎようとしていた。


「あれだな…」

「ああ

 大きな魔力を感じる

 恐らく狂暴化しているな」

「そうだろうな…」


歩みこそ遅いが、その姿は確実に近付いている。


「まだだぞ!

 よく引き付けるんだ」

「はい」


兵士達は持ち場に着くと、投石器(カタパルト)弩弓(バリスタ)の狙いを合わせる。

それと同時に、すぐに次弾を装填出来る様に次の弾の用意もされる。


ズシンズシン!


少しずつ音が大きくなり、地面に振動が伝わって来る。

兵士達は固唾を飲み込むと、正面に見える複数の大きな影を見ていた。

それは森の上に上半身を現わし、その異常な大きさを誇示していた。

その異様な姿に圧倒されながらも、兵士達は覚悟を決めて巨人を睨む。


来るなら…来い!

王都は必ず守ってみせる!


兵士達の決意を見て、ギルバートも剣を引き抜いて身構える。

輝く刃(ブライト・ブレード)、その光の欠片を集めた姿が、ソルスの光を受けて輝く。


「撃ち方…

 始め!」

「うおおおお」

「喰らええええ」

ブオン!

バシュッ!


兵士達は気合を込めて、投石器(カタパルト)弩弓(バリスタ)を操作する。

放たれた石は虚空を舞って次々と巨人の頭に当たる。

しかし大人の頭ほどの大きさの石でも、巨人にとっては小石が当たった程度でしか無い。

多少は痛がるが、それほどの効果は見られなかった。


「駄目か?」

「いや、しかし」


しかし弩弓(バリスタ)は違っていた。

大きさこそ投石には負けるが、鋭く削った木は確実に巨人に突き刺さった。

それが目や首筋なら、十分な脅威になり得るだろう。

迫る3体の巨人の内、2体の眼や首筋に矢が突き刺さる。


グゴアアア

ガアアア


巨人は唸り声を上げて、目や首筋に刺さった矢を引き抜く。


「効いているぞ!」

「致命傷では無いが、確かにダメージを与えている」


手応えを感じて、兵士達の声にも力が籠る。


「撃て!

 どんどんと撃ってやれ!」

「はい」


次弾が手渡されて、兵士は巻き取り器でロープを巻き取る。

そうして次の石や矢が、再び巨人に目掛けて放たれた。


ゴアアア


「やった!

 1体がよろめいているぞ!」


大きさこそ小さいものの、石弓の矢は確実に急所に当たっている。

それに加えて石も飛んで来るので、1体がふらふらと膝を着いた。


「左の巨人が健在だ!

 よく狙って撃て!」

「はい」

ブオン!

バシュッ!


三射目が放たれて、左の巨人も膝を着いて苦しみ出す。


「巨人は弱っている

 一気に討伐するぞ!」

「おう!」


ギルバートの掛け声に、城門が開かれて騎兵が飛び出した。

そのまま一気に駆け出すと、跪いた巨人の手首や足首に強烈な一撃を加えて行く。


「無理はするな!

 一撃一撃、確実に削って行け」

「はい」

「うおおおお」

「おりゃああ」


兵士達はクリサリスの鎌や、ポール・アックスを振り回して戦う。

そうして巨人に反撃される前に、馬を操ってその場を離れる。

騎兵達はそうして、怪我をする事も無く巨人に攻撃を加える。

巨人は無数の傷を負うと、そのまま力尽きて倒れた。


「おお!」

「倒したぞ!」


先ずは先陣を切る、3体の巨人が倒れされた。

しかし再び、不気味な地鳴りが聞こえ始める。


ズシンズシン!

「一旦下がれ!

 次が来るぞ!」

「はい」

「引き上げるぞ」


騎兵達はそのまま、馬を駆って城門の中へと戻る。

そして再び城門は閉じられて、次の巨人の攻撃に備えられた。


「石や弩弓の矢は足りているか?」

「はい」

「次が近付いている

 装填しておけ」

「はい」


兵士達は指示に従って、次の弾を込める。

再び森の向こうに影が見えて、巨人がその姿を現す。

ギルバートは十分に引き付けて、兵士達に攻撃の指示を出す。


「よし、撃てい!」

「はい」

ブオン!

バシュッ!


再び投石器(カタパルト)から唸りを上げて石が飛び、弩弓(バリスタ)の太い矢が撃ち出される。

手前の巨人2体は、不意を突かれて目や首筋に傷を負った。


グガア

ゴガオオオ


「やったぞ!」

「油断するな!

 後ろの2体は健在だぞ」

「はい」


兵士達も慣れて来たのか、2体に大きなダメージを与える事が出来た。

しかし後方の2体は、上手く手を上げて目や首への攻撃は防いでいる。

2射目3射目と続けて放つが、それも大した打撃にはなっていない。


「こうなれば…」

「殿下?」

「何を…

 あ!」

「うおおおお…」


ギルバートはその場を駆けだすと、一気に城壁を飛び降りる。


「殿下!」

「お前等は手前の2体に集中しろ!

 後ろの2体は…

 私がやる!」

ドサッ!


ギルバートは着地すると、その場で輝く刃(ブライト・ブレード)を引き抜き、腹の底から声を上げる。


「うおおおおお!」

ビリビリ!


ギルバートの上げる咆哮に、手前の巨人は屈して力を失う。

後ろの2体も戦意を失い、狼狽えているのが目に見えて分かった。


「殿下だけを危険な目に遭わせるか!」

「オレ達も行くぞ!」

「城門を開けろ!」

「は、はい」


騎兵達も声を上げて、城門を開ける様に指示を出す。

城門が開き切るのももどかしく、騎兵達は一気に駆け出した。


「行くぞ!」

「おう!」


「ふっ

 頼もしい奴等だ…

 行くぞ!

 巨人共!」


ギルバートは大地を蹴ると、そのまま一気に駆け出す。


「すぇりゃあああ」

ザン!

グガアア


ギルバートは一気に間合いを詰めると、先ずは左の巨人の足元に近付く。

そのまま小さく跳躍すると、先ずは右足を大きく切り裂く。

よろめく巨人の足を蹴り、今度は右の巨人の胸元に飛び上がる。


「せい!」

ダン!

グガアアア


「馬鹿!

 無茶だ!」


巨人はギルバートが跳躍するのを見て、右手に握り拳を作る。

そしてそれを、そのままギルバートに向けて振り抜く。


「危ない!」

「ふん

 甘いわ!」

ズガッ!

グウッ


ギルバートは巨人の拳に打ち掛かると、その勢いで腕の上に飛び乗る。

そのまま腕を駆け上がると、一気に巨人の顔の前まで走り込んだ。


ズダダダ!

グウッガアア…


巨人は慌てて、左手を顔の前に突き出す。

しかしギルバートは予測していたのか、それを躱して宙に舞う。

そのまま宙に舞うと見えたが、次の瞬間にギルバートは、そのまま吸い寄せられる様に突き進む。


「すらあああしゅっ!」

ズガッ!

ブシュウウウ!

ガア…アアア


宙に舞いながら、ギルバートはスキルの力を使う。

そしてそのまま突き進み、巨人の頸動脈を切り裂いた。

そのまま落下しながら、ギルバートは巨人の腰布に手を伸ばす。


「ふっ

 はあっ!」


掴んだ腰布で体制を整えると、そのままそこから再び跳躍する。


「いりゃあああ」

グゴアア…


ギルバートは膝を着いた右側の巨人の、左肩に向かって飛び掛かる。


「す、凄い!」

「呆けてる場合か!

 こっちもやるぞ」

「お、おう!」


「うわあああ」

「てりゃあああ」

ズバッ!

ザシュッ!

グゴアア…


騎兵達も懸命になって向かい、巨人の足を切り裂いて行く。

振り回した手を躱すと、そのまま腕にも切り掛かる。

その隙を突いて、城壁からも弩弓(バリスタ)の矢が放たれる。


ゴガアア…ガア

「畳みかけろ!」

「うおおおお」


ギルバートが巨人の腕を切り裂き、首に止めの一撃を放つ。

その間に騎兵達も、2体の巨人を瀕死に追い込んでいた。

しかしここで、事態は大きく動く事になる。


ズシンズシン!

「な!」

「そんな…」


グガアアア

ゴアアアア


残る3体の巨人が、怒りに咆哮を上げながら、ギルバート達に向かって来ていた。

仲間を殺されるのを見て、怒りに我を忘れて突っ込んで来たのだ。


「さ、させるかあああ」


アーネストはそう叫ぶと、頭上に杖を掲げて呪文を唱えていた。

まだまだ続きます。

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