第489話
クリサリス聖教王国の王都クリサリス
王城の庭園には、多くの兵士が集まっていた
彼等は非番の者も集められて、王太子でギルバートから巨人の進軍を知らされる
彼等は王都の悲劇を聞かされており、絶望に包まれていた
ギルバートは先ず、巨人が攻めて来る事を知らせる
兵士達はその報せに、絶望感から座り込む者も現れる
そうして悪い報せを伝えた上で、ギルバートは高らかに宣言する
巨人をここで、王都で討伐すると
「諸君らに悪い報せだ…
ここに巨人が向かって来ている!
その数は10体だ!」
「え!」
「巨人だって?」
「そんな…」
巨人と聞いて、多くの兵士が顔を蒼くする。
まだ王都の一部は、先年の襲撃で壊されたままだった。
ようやくほとんどの建物が、修復されたばかりだった。
その悪夢の様な巨人が、再び攻めて来るのだ
「我等はこれから、その巨人を迎え撃つ!
王都を…
民を守る為に
みなの者!
その手に武器を持て!」
ギルバートは大音声で、巨人と戦うと事を宣言する。
しかし兵士達は、その宣言を聞いても立ち上がろうとはしなかった。
敵が巨人と聞いて、絶望していたのだ。
「勝てないよ…」
「王都を破壊した巨人だぞ…」
「そんな奴等に…」
兵士達は半ば震えて、恐怖に怯えていた。
「やはり…」
「ああ
こうなるとは予想してたんだろう?」
ギルバートは頭を振ると、腰に下げた剣を引き抜く。
「聞け!
兵士諸君!」
ギルバートは気力を振り絞り、再び声高に宣言をする。
「今ここに向かうは、巨人がたかだか10体だ!」
「たかだかって…」
「10体も居るんだぜ?」
「殿下も負けただろうに…」
兵士達は俯いたまま、口々に不満を漏らす。
どうせ生き残れないからと、既に諦め切っていた。
「おい!
巨人は10体だけだったんだな?」
「は、はい…
そうですが?」
伝令の兵士は、言っている意味が分からなかった。
10体とは言っても、相手は巨人だ。
1体でも脅威であろう。
それが10体も迫って来ているのだ。
「殿下
あのう…
10体でも王都を襲った数には…」
「他には居なかったんだろう?」
「他?」
「ああ
魔王やその側近の魔物だ」
魔王と聞いて、兵士達は騒然とする。
そもそも王都を襲ったのは、その魔王だったのだ。
女神に命じられて、巨人を率いて攻めて来た。
兵士達はギルバートから、その魔王の事を聞いていた。
「魔王はその場には居たのか?」
「それは…
そのう…
聞いて確認して来ます」
伝令の兵士は、慌ててその場を離れる。
「今回の襲撃には、魔王や側近の魔物は居ない!
女神が直接指示を出したからだ」
「女神様が?」
「それじゃあオレ達は…」
「やっぱり滅ぼされる…」
「勘違いをするな!
魔王が居ないという事は、我々が勝てるという事だ!」
「どういう事ですか?」
「魔王が居ないからって…」
「私が…
王都が崩壊した一因は、その魔王にある…」
「え?」
「それって?」
「騎士達は…
何とか巨人を倒せていたんだ」
「ええ!」
「そんな話は聞いていませんよ?」
「そうだよな…
あの場に居た者のほとんどが、あの戦いで命を落とした…」
中には生き残りもいたが、その後のごたごたで命を落としていた。
アルウィン公爵が国王を僭称した際に、多くの生き残りの兵士が亡くなっていた。
反抗して殺されたり、その後の王都解放の戦いで、多くの血が流れたのだ。
そんな理由もあって、王都での戦いの詳細はほとんど知られていなかった。
「私がその後に、病に倒れていたりしたからな
諸君らが知らないのも無理はない」
ギルバートの言葉に、多くの兵士が聞き耳を立てる。
それはギルバートが、勝てると宣言したからだ。
「魔王と…
私が魔王と戦っていたばかっかりに、騎士団は巨人と戦っていた
それは絶望的な戦いだっただろう
なんせ私も、魔王に倒される寸前だったからな」
ギルバートの言葉に、騎士団が巨人と戦っていた事は納得した。
しかし騎士団と兵士では、力量に差があるだろう。
「殿下はそのう…
魔王に負けたんですか?」
「いや
痛み分けだ」
「痛み分け?」
兵士の質問に、ギルバートは苦々し気に吐き捨てた。
「元々が女神に操られていたんだ
アモンは…
魔王はその女神の魔法から解放されて、私との戦いをの止めたんだ」
「え?
それじゃあ…」
「私が病に倒れたのは、その女神の魔法が原因だ」
「何だって?」
「ほら
殿下が暫く行方不明だっただろ?
あれは病に侵されていたんだ」
「その原因が魔王だって事か?」
「いや
そもそも魔王とやらも操られていたんだろう?」
「それじゃあ全ての元凶は…」
兵士達も元凶が、女神だと気が付く。
「それじゃあオレ達…」
「しかしいくら女神様だからって…」
「そうだ!
このまま素直に、滅ぼされるつもりは無いぞ」
「ああ
ギルの…
王太子の言う通りだ
オレ達は生き残る為に、巨人に勝つつもりだ」
アーネストが言葉を継いで、杖を掲げて決意を示す。
「しかし…」
「いくら何でも巨人が相手じゃあ…」
兵士達はなおも、巨人に対して尻込みをしていた。
「それじゃあ、お前達はこのまま死ぬつもりか?」
ギルバートは兵士達を見回すと、残念そうに溜息を吐く。
「はあ…
我が国の兵士は、こんなに臆病だったのか」
「そうだな…
まさか大きいだけの魔物に恐れをなすとは…」
「ううむ
ワシの指導が甘かったかのう」
アーネストだけでなく、バルトフェルドまで残念そうに首を振る。
そこへ下から、突然声が上がった。
「情けないぞ!
それでもこの王国の兵士達か?」
その声を上げたのは、他でも無いハルムート子爵だった。
「何を言うんだ!」
「そうだぞ
お前等は帝国の兵士だろう?」
「巨人の怖さを知らないで…」
兵士達も声を荒らげて、子爵に反論する。
子爵は残念そうに首を振ると、わざと大きく溜息を吐いた。
「はあ…
情けねえ」
「何だと?」
「生意気だぞ!」
「確かにワシ等は、帝国から来た兵士達じゃ
巨人の脅威も、そこの王太子殿下に聞いた程度じゃな」
「だったら…」
「その生意気な…」
「しかしな!
ワシ等はここに骨を埋めるつもりで来た
遠い砂漠を越えてな」
子爵はそう言うと、クリサリスの鎌を振り上げてから地面に突き立てる。
「だから今のワシ等は、この王都の仲間じゃ
しかしワシ等は、そんな腰抜けの仲間じゃあ無い!
ここに居る、王太子の兵士達の仲間じゃ!」
子爵はそう言うと、護衛に就いていたいた兵士を指差す。
「彼等はあのオーガという大鬼にも、恐れず勇敢に戦ったぞ?」
「オーガと巨人を、一緒にするな」
「そうだそうだ」
「うるせえ!
オーガだだろうと巨人だろうと、オレ達は殿下と共に戦うぞ!」
今度は護衛の兵士達が、その剣を掲げて声を上げる。
「そんな剣で…」
「敵う訳ないだろう?」
「そうだぞ…」
しかし同じ王国の兵士の声に対して、先ほどの様な強気な反論は上がらない。
護衛の兵士達の宣言に、周りの兵士達も動揺をする。
「だって勝てないだろう?」
「そうだよ
巨人だぜ?」
「だったらお前達は逃げろよ
オレ達は戦うぞ!」
「そうだ!
例え敵わなくとも、一矢報いてやる」
「ワシ等も戦うぞ」
「巨人とやらに、オレ達帝国の力を見せてやる」
護衛の兵士達と子爵の声に、庭園の空気が少しずつ変わって行く。
「怖いのなら、そのまま街で震えて隠れていてもいいさ
私は戦ってやる
父の…
国王様が命懸けで守った、この王国を踏み荒らさせるものか!」
「そうだぞ
戦う気のある者だけ着いて来い」
ギルバートはそのまま、兵士達に指示を出す。
「戦う気がある者は、明日の午後に北の城門に集まれ!
巨人が到着するのは、恐らく明日の午後だろう」
「冒険者の諸君!
君達はどうする?」
アーネストは冒険者達の方を見ると、わざと聞こえる様に質問した。
「当然戦うさ!」
「そうさ
オレの弓の腕を見せてやる」
冒険者達も意気込み、武器を掲げて声を上げた。
「よし
明日は頼むぞ!」
「任せろ」
「殿下!
美味い酒を用意してくださいよ」
「そうだぜ
報酬も欲しいが、美味い酒が一番だ!
がははは」
冒険者達はそう言うと、ゆっくりと庭を出て行った。
彼等はこれから、各々で準備をする事となっている。
今回集まってもらったのも、兵士達に発破を掛ける為だ。
子爵が代わりをしてくれたので、彼等の役目は終わっていた。
「さて…
細かい話をするか」
「そうだな」
「殿下
兵士達はどうされます?」
バルトフェルドは恐る恐る、どうするかギルバートに尋ねる。
「ああ
やる気のある者だけ、城門の見張りに立ててくれ」
「そうだな
戦う気概の無い者は、居ても邪魔になるからな」
アーネストも頷くと、早々にバルコニーから下がった。
バルトフェルドはその様子を見て、肩を竦めて後に続く。
「おい!
下に居る奴で、戦う気のある者だけ集めろ
北の城門の見張りをするんだ」
「はい」
「いいか
無理矢理や確認してでは無いぞ
自分から戦う気のある奴だけだ」
「分かっています」
「護衛の兵士達は?」
「彼等は休ませてやれ
長旅で疲れているだろうからな」
「はい」
バルトフェルドの指示で、兵士達は急いで駆け出す。
こうしている間にも、巨人は王都に向かっている。
城門から攻撃する為にも、城門に補充の兵が必要だった。
「街の方はどうされますか?」
「うーむ…」
バルトフェルドは唸ると、ギルバートに質問していた。
「殿下
どう致しますか?」
「そうだな
出来れば巨人の事は伏せたいが…」
ギルバートは少し迷った後に、バルトフェルドに告げる。
「巨人の事は伏せて置こう
どうせ倒せないなら、ここは廃墟になるだけだ
それよりも必ず、戦って勝つ事が重要だ」
「それはそうですが…」
「それに…
下手に告げればパニックになるだろう?
それなら住民達には告げずに、全力で戦おう」
「良いんですか?」
「ああ
ギルが決めた事だし…
それに兵士を余計な事で取られたくない」
アーネストも賛成して、巨人の事は告げない事にする。
バルトフェルドは兵士に、緘口令を敷く様に指示する。
「良いな
巨人は殿下が倒される
住民達には、余計な不安を与えるな」
「それは…」
「緘口令を敷く
全兵士に伝達しろ!」
「はい」
「従わない者は、取り敢えずぶち込んでおけ」
「分かりました」
全ての準備を指示すると、三人は執務室に向かった。
そこには数名の兵士が居て、ギルバートを待ち構えていた。
「殿下
本気で戦うおつもりですか?」
「何だ?
反対しに来たのか?」
「ええ」
「オレ達は死にたくありません」
「そうですよ
こんな年で死ぬなんて…」
「どうにかなりませんか?」
「はあ…
そもそもが、女神様が人間を滅ぼそうとしているんだ」
「お前達もこんな所に居ないで…」
アーネストが溜息を吐きながら、兵士を説得しようとする。
しかし兵士達は、剣を抜いて身構える。
「おいおい…」
「何を考えている?」
「殿下
あなたには死んでもらいます」
「そうすればオレ達は、女神様に降伏して…」
「武器を収めろ」
「女神を説得って…
それが出来ないから巨人が来てるんだぞ?」
「黙れ!」
「貴様が居るから…」
「そうだぞ!
貴様を殺せば、少なくとも巨人に狙われる事は無い」
兵士達は剣を構えて、ギルバート達を囲む様に移動する。
「はあ…
すいません、殿下」
「なあに
不穏分子が炙り出せた
そう考えれば手間が減るというものさ」
ギルバートはそう言うと、剣も抜かずに兵士達の前に出る。
「な!」
「馬鹿にしやがって…」
「こ、殺してやる…」
「殿下」
「ギル…」
「二人共手を出すな
私一人で十分だ」
ギルバートは手をブラブラとして、兵士達の方を見る。
「良いのか?
反逆罪は重いぞ?」
「貴様はここで死ぬんだ!」
「そうだ!」
「オレ達がこれから…
この国を支配するんだ!」
「はあ…」
ギルバートは大袈裟に溜息を吐きながら、兵士達の方を見た。
「控えろ!
この無礼者が!」
ビリビリ!
「ぎ…」
「が…」
兵士達は白目を剥いて、その場に倒れ伏した。
「ぐうっ…」
「これは…」
ギルバートが発する気迫に、後ろに居たアーネストやバルトフェルドも膝を着く。
ガランガラン!
「きゃあ!」
部屋の周りでも、悲鳴が上がって騒がしくなる。
「あ…
いっけね」
「ギル…
今のは?」
「いやあ…
新しいスキルなんだが…
これ程とはな、はははは…」
「はははじゃ無いよ」
「気絶した者を見て来ます」
バルトフェルドは慌てて、部屋の周りの惨状を確認しに行く。
その間にアーネストは、兵士達を呼んで反逆者を捕らえさせた。
そして資材庫や宝物庫にも、兵士に確認に向かわせた。
「こいつ等だけとは思えんからな」
「そうだな
しかしこんな形で…」
縛られた兵士達を見て、ギルバートは失望を隠せなかった。
急に兵士を増やした事が、この様な者を王城内に招き入れる結果に繋がっていた。
今後は徴兵に関しても、もう少し審査する必要があるだろう。
「しかし今は…」
「え?」
「いや、何でも無い
先ずは巨人を何とかしないとな」
「ああ」
「負けられ無いぞ、この戦いは」
ギルバートは兵士達に反逆者を運ばせて、改めて執務室の椅子に座る。
「さて、時間が惜しいな」
「ああ
思わぬ事に時間を取られた」
「しかし…
どうされますか?」
ギルバートは王都の地図の上に、兵士を示す駒を置く。
「先ずは城壁からだ
投石器と弩弓で、なるべく巨人に打撃を与える」
「そうだな」
「それから私を先頭に、兵士達を巨人に向ける」
ギルバートは駒を動かし、巨人に見立てた駒を囲む。
「いくら巨人でも、多数の兵士に囲まれては…
勝てないだろう」
パタン!
ギルバートは駒を倒して、巨人を倒せると示す。
「そう上手く行くでしょうか?」
「やるしか無いんだ
やるしか…」
ギルバートはそう言いながら、地図の上の駒を睨む。
まるでそれが、本物の巨人であるかの様に、鋭く睨んでいた。
まだまだ続きます。
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