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聖王伝  作者: 竜人
第十五章 崩れゆく世界
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第488話

ギルバート達は、精霊の隧道を駆け抜ける

そして出て来た先は、王都の目の前だった

エルリックが残されたが、ギルバート達は何とか王都に辿り着けたのだ

そうして城門を見上げるが、まだ騒ぎが起こった様子は無かった

ギルバート達は、王都の西の城門を見上げる

今の時刻は、恐らく昼間を過ぎていると思われる

ソルスは城門の向こうにあって、ここからは見えていない

そして城門の前には、急に現れたギルバート達に驚く兵士達が集まる


「何者だ!」

「何処から現れたんだ?」

「それよりもあの旗を見ろ」


兵士達は馬車に着けられた、王家を現わす旗の紋章に注目していた。


「殿下ですか?」

「王太子、ギルバート様ですか?」

「ああ

 今戻ったぞ」


ギルバートは兵士に答えると、そのまま城門の中に入った。


「今日は何日だ?」

「へ?」

「あのう…

 それはどういう意味でしょうか?」


戸惑う兵士達に、ギルバートは口早に指示を出す。


「直ぐにバルトフェルド様に伝えるんだ

 ここに巨人が向かっている」

「え?」

「巨人ですって?」

「また…

 ご冗談を…」

「はははは…」


兵士達は最初は、笑って取り合おうとしなかった。

しかしすぐに、ハルムート子爵が走って来る。


「ギルバート殿

 よくぞご無事で」

「ハルムート子爵

 あれから何日が過ぎている?」

「はあ?

 ちょうど20日目ですが?」


「20日か…」

「あっちで13日が経っていたから…」

「1週間

 ギリギリだな」

「へ?

 何がギリギリなんですか?」


「ここに巨人が向かっている」

「巨人?

 また…

 本気ですか?」

「ええ

 ちょうど1週間ぐらい前になりますね

 女神がそう言っていましたから」

「何と!

 それでは女神様と…」

「ええ

 会う事は出来ました…」


ギルバートは苦々しく、そう呟いた。


「会う事は出来ましたが…」

「それでは?」

「残念ながら、女神は侵攻を止めてはくれません

 それどころか巨人を、ここに向けて送り込むと…」

「そんな!

 まだ我々では…」


ハルムート子爵は、頭を抱えて天を仰ぐ。


「分かっています

 しかし今は…」

「おお!

 そうですな

 早急にバルトフェルド殿に報告せねば」


ハルムート子爵はギルバートの馬を受け取ると、すぐに替えの馬を用意する。

本来なら、王都の中を馬で駆けるのは危険だ。

しかし今は、そんな事を言っている事態では無かった。


「姫様とアーネスト様は、私が後でお連れします」

「ああ

 頼んだぞ」

「ギル!

 私も一緒に行くぞ」

「しかし…」

「良いから後ろに乗せろ!」


アーネストはギルバートの後ろに、強引に飛び乗ろうとする。


「アーネスト様…」

「良いから

 今は急いでるんだ」

「はあ…」


ハルムート子爵が手伝い、アーネストを後ろに乗せる。

ギルバートはそのまま、馬を早掛けで進めた。


「わっ!

 ちょ!」

「黙ってろ!

 舌を噛むぞ」

「おひょいよ」


アーネストは舌を噛んで、顔を顰めて答える。

馬はそのまま早掛けで進むと、大通りを猛スピードで駆け抜ける。

住民達が抗議をしようとするが、それが王太子だと知って驚いていた。

普段のギルバートからは想像出来ない、険しい表情で駆け抜けて行ったからだ。


「何だ?」

「危ないな!

 どこの…」

「王太子だ!」

「殿下が?」

「何でまた、あんな危険な…」


住民達は首を傾げるが、その理由は分からなかった。

そもそも王太子は、所用で暫く城を空けると聞かされていた。

しかしその理由に関しては、バルトフェルドからは公表されていなかった。

姫様であるイーセリアも一緒なので、婚前の旅行だとも囁かれていた。

しかし今の彼は、アーネストを後ろに乗せて暴走していた。


「一体何があったんだ?」

「さあ?」

「しかし姫様が居ないねえ」

「姫様に何か、悪い事が起こって無ければ良いが…」


住民達はイーセリアの事を心配して、王都に向かう二人を見送った。


「殿下?」

「どうされたんですか?」


ギルバートが王城に辿り着くと、そこでも兵士達が集まって来た。


「大至急、バルトフェルド様に取り次いでくれ」

「バルトフェルド様ですか?」

「ああ

 大至急だ!」

「はい」


兵士が駆けて行く姿を見て、他の兵士達は心配そうに顔を見合わせる。


「他の者は後から来る

 馬の手配と、食事の準備をしてやってくれ」

「はい」

「それから…

 どうするか…」

「ここまで来たら、黙っていてもな」

「しかし…」


ギルバートが言い淀んでいるのを見て、兵士が心配そうに尋ねる。


「また何か良くない事が?」

「ああ

 そうだ」


「取り急ぎ、北の城門から見張りを出してくれ

 斥候には2日ぐらいの範囲まで、偵察に向かう様に」

「北にですか?」

「ああ

 なるべく早くしてくれ」

「はい」


「北だって?」

「まさかな…」


兵士達の何人かは、北と聞いて巨人を連想していた。

確かにそうなのだが、ギルバートはまだ黙っている事にする。

どこまで来てるか分からない以上、下手に騒いで混乱させる訳にも行かないだろう。

先ずはバルトフェルドと話して、どう対処するか決める事にした。


「報告は直接、私かバルトフェルド様の所へ」

「はい」

「それから…

 訓練の進行具合は?」

「さすがに2週間程度では…」

「そうだよな…」


「訓練の状況を聞くなんて…」


ギルバートの質問に、兵士達はいよいよ何かあったと考えていた。


「急げ!

 時間が惜しい!」


ギルバートはアーネストと共に、回廊を早足で進む。

執務室に入ると、ちょうどバルトフェルドも入って来た。


「殿下

 どうされました?」

「その前に、人払いを」

「は、はい」


バルトフェルドが合図を送ると、メイドが何か持って入って来た。

そこには熱々のスープや、パンが用意されていた。


「すまないが緊急の会議をする」

「はい」


メイド達は食事を置くと、ギルバートの前に果実水を置いて立ち去る。


「殿下

 せめて何か召し上がりながら…」

「ああ

 すまない」


ギルバートは果実水を一気に飲み干す。

バルトフェルドに言われるまで、喉の渇きに気が付いていなかった。

それほど気が動転していたのだろう。

果実水を飲んだ事で、少しだけ気持ちが落ち着く。


「少し香草も加えております

 落ち着かれましたかな?」

「ああ

 すまない」


ギルバートはアーネストに合図を送り、周辺の地図を出させる。

そこに執務室から、さらに大まかな地図も引っ張り出す。


「ここが王都で…

 ここがさっきの場所だな」

「ああ

 こうして見ると…」


改めて地図で見ると、その距離がかなりあると分る。

これを一気に渡って来れたのは、こちらにとっては大きなアドバンテージになるだろう。

なんせ7日程度では、本当にギリギリ踏破出来るか微妙な距離なのだ。


「さっきの?」

「ああ

 妖精の隧道(フェアリー・ロード)を通って、一気にここまで来たんだ」

「はあ?」


アーネストは説明するのももどかしく、地図の北側を指差す。


「それよりも、今はこっちが重要だ」

「ああ

 バルトフェルド様

 巨人が向かって来ています」

「そうですか…

 巨人!」


バルトフェルドは驚いて、慌てて椅子から立ち上がった。


「そんな!

 何とかしなければ

 しかし何処へ?」

「落ち着けって」

「逃げるにしても…

 今さら何処へ逃げれるんだ?」

「あ…

 ああ…」


バルトフェルドは気が付くと、顔を覆って椅子に崩れ落ちる。


「ああ…

 やっと街並みが直りかけていると言うのに…」

「まあ…

 そうだな」


バルトフェルドの様子を見て、予想通りだと二人は頷く。


「だからここで…

 北の城門で迎え撃つ」

「そうですね

 それしか…はい?」

「何処にも逃げれないんだ」

「それならここで、何とかするしか無いだろう?」


二人は笑顔を見せて、何とかバルトフェルドを落ち着かせようとする。


「迎え撃つ?

 え?」

「だから、ここで何とかするんだよ」

「勿論、絶望的な状況ではあるんだがな」

「それは…」


「住民達には、出来るだけ逃げる様に伝えようと思う」

「何とか退けるにしても、被害は出るだろうな」

「それはそうでしょうが…

 しかし巨人なんでしょう?」


「ああ

 巨人だ」

「ここを破壊した…」

「うーん…

 同じ巨人かどうかは…」

「そこは重要じゃ無いだろ?

 まあ十中八九、同じ様な奴等が来るだろう」

「そんな…」


「殿下はお逃げください!」

「それは出来ない相談だな」

「ああ

 ギルだけが勝てる要素だからな」

「ん?

 アーネストは?」

「何を暢気な!

 本気で戦うつもりなんですか?」

「ああ」

「そうだけど?」


バルトフェルドは、放心した様に天を仰ぐ。


「ああ…」

「先ずは投石器(カタパルト)だな」

「いや

 ギルが前に出るなら…」

「それまでに、少しでも打撃を与えたい」

「それまで我慢出来るか?」

「そりゃあ…

 国の命運が掛かっているんだ

 私の気持ちだけではどうにもならんさ」


放心したバルトフェルドを放って置いて、二人は北の城門の強化について話し始める。

先に投石器(カタパルト)で攻撃して、新たに備え付けた弩弓(バリスタ)も投入させる。

それからギルバートを先頭に、巨人の足元から攻撃する。

多くの戦死者が出るだろうが、これしか戦える手段が無かった。


「先の戦いでな、オレも新たな力を授かった」

「へえ…

 実は私もなんだ」

「ふふふふ

 早く試してみたいな」

「ああ

 この戦いに於いては、大いに役立ちそうな力だ」


「本気…なんでしょうな」

「ん?」


バルトフェルドは肩を震わせながら、二人をじっと見詰める。


「ああ」

「ここで逃げ出す訳にはいかんからな」

「はあ…」


「フィオーナやジャーネを守るんだ」

「そうだな

 私もセリアを…」

「お?

 言う様になったねえ」

「茶化すなよ

 エルリックに誓ったんだ

 決してセリアを一人にして、悲しませないって」

「エルリック…」


二人がしんみりとしていると、バルトフェルドが尋ねる。


「そういえば…

 エルリック殿のお姿が…」

「ああ

 我々を送り出す為に…」

「無事だろう?

 あいつの事だ、そのうちひょっこりと…」


しかしそう言いながら、二人はそれが無理だろうと悟っていた。

あの様子から、向こうでは只ならぬ状況だったに違いない。

いくらエルリックでも、無事では済まなかっただろう。

もしかしたら…という考えを、何とか口にしない様にしていた。


「勝つ…おつもりで?」

「勝つんだ!」

「そうだ

 ここで負けられない

 いつまでも女神の思惑通りにはさせないぞ」


二人は力強く宣言すると、すぐに兵士を呼び付ける。


「誰か!」

「はい」

「至急、北の城門の兵器の準備をしろ!」

 投石器(カタパルト)弩弓(バリスタ)の点検をして、すぐに使える様にしろ」

「は、はい」


兵士はすぐさま、伝令の為に走って退出する。

そしてギルバートは振り返ると、もう一人の兵士に指示を出す。


「王都内に居る、全ての兵士に伝達だ」

「はい」

「王都に危険が迫っている

 各隊長はすぐに、ここに来る様に伝えろ」

「はい」

「それから非番の者にも、戦の支度をして王城に登城する様に伝えろ」

「はい」


「あのう…」

「時間が惜しい!

 すぐに向かえ!」

「はい」


兵士は何が起こるのか、確認をしたかった。

しかしギルバートの鬼気迫る様子を見て、先ずは命令に従うべきだと悟る。

ギルバートはいつもの様な和やかな雰囲気では無く、剣吞ならない雰囲気を纏っていたからだ。


「急げ!」

「確実に各部署に伝達しろ!」

「殿下からの緊急の命令だ」


王城の中は、一気に緊張感が高まった。

兵士達は慌ただしく走り回り、各自の準備を始める。

中には何事かと、訝しむ者も居た。

しかし王城の中の慌ただしい様子に、容易ならざる事態だと気付かされる。


「何だ?

 何が起こったんだ?」

「分からない

 分からないが…」

「あの殿下が至急だと仰っているんだ」

「戦争でも始まったのか?」


兵士達は武装をすると、続々と王城に集まる。

城下町には最低限の警備だけを残して、他の兵士は直ちに登城していた。

そうして王城の庭に、集められるだけの兵士達が集められた。

護衛に同行していた兵士達も、軽く食事をするとそこに集まっていた。


その数は、ざっと数えて騎兵が4部隊100名。

歩兵は警備兵も加わり、6部隊で300名が集まっている。

現在の王都には、騎士は僅か2部隊の30名しか常駐していない。

それもバルトフェルドの私兵で、王都の正規の騎士では無かった。

そこに冒険者も加わり、総勢で500名近くが集まっていた。


集まった者達は、それぞれ憶測を話し合っている。

先ず考えられるのが、魔物が攻めて来た事だろう。

しかしそれなら、こんなに集まる必要も無い筈だ。

しかし戦争と考えても、こんな時期に攻めて来る国に思い当たる物が無かった。

帝国とは和解して、この庭に居る歩兵部隊に加わっているからだ。


「何なんだろう?」

「さあな?」

「しかし魔物とは思えない」

「だけど戦も有り得ないだろう?」

「ああ

 何処が攻めて来るって言うんだ?」


兵士達が騒めいている中、ギルバートが正面のバルコニーに現れた。

その両隣には、アーネストとバルトフェルドが控えている。

三人の顔を見て、兵士達はいよいよ何かあったと緊張していた。


「諸君

 先ずはよくぞ集まってくれた

 感謝する」


ギルバートの言葉に、私語をしていた兵士達も黙ってバルコニーを見上げる。

こんな畏まった王太子を見るのは、恐らく初めてだったからだ。


ギルバートが発言を続けようとしたところへ、庭に駆け込んで来る姿が見える。

伝令の兵士が、息を切らせながら駆けこんだのだ。


「殿下

 はあ、はあ…」

「よい

 総数だけ言ってくれ」

「はい

 全部で10体です」


「10体か…」

「何とかなりそうだな」

「ああ

 魔王さえ居なければな」


ギルバートの声が聞こえた兵士は、魔王と聞いてやはりと思っていた。


ギルバートは意を決すると、庭園全体に聞こえる様に大きな声を出す。


「諸君らに悪い報せだ…

 ここに巨人が向かって来ている!

 その数は10体だ!」


「え!」

「巨人だって?」

「そんな…」


兵士達の間に、一気に絶望感が漂う。

再びあの悪夢の様な、巨人が攻めて来たのだ。

そんな兵士達の騒ぎを収める様に、ギルバートは大音声で宣言する。


「我等はこれから、その巨人を迎え撃つ!

 王都を…

 民を守る為に

 みなの者!

 その手に武器を持て!」


ギルバートの宣言に、庭園は一気に静寂に包まれる。

それは絶望的な戦いに向かう事に、兵士達が諦めを感じていたからだ。

今日ここをもって、この王国も、終わりだと彼等は思っていた。

まだまだ続きます。

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