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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
483/800

第483話

ギルバート達は、竜の背骨山脈の中で魔物と対峙していた

女神の仕掛けた罠に掛かり、オーガの集団が襲い掛かる

何とか半数は倒したものの、奥にはまだ10体のオーガが控えていた

ギルバート達は、この困難を乗り越える事が出来るのだろうか?

鎧を着込んだオーガが、まだ10体も残っている

それは金属の鎧に身を包み、大きな金棒を手にしている

それがゆっくりと迫って来る

この魔物を半数倒すのに、既に兵士達は満身創痍になっている

そしてギルバートも、疲労と武器の損傷で苦戦していた


ギルバートはポーションを飲み干すと、剣を構えて気勢を上げる。


「さあ

 掛かって来い!」


ギルバートの気迫に、一番手前のオーガがニヤリと笑う。


くそっ!

こっちの疲労もバレているか…

当然だよな


ギルバートはチラリと、後方で座り込んでいる兵士達を見る。

彼等も頑張ったが、既に満足に立つ事も出来ないでいた。

ここは無理をしてでも、彼等を守り抜くしか無い。


まだまだ居そうなんだがな…


ギルバートはそう思いながら、オーガの奥の壁を見る。


先ほどまでの事を考えると、まだまだ魔物は出て来るだろう。

これで打ち止めとは到底思えない。

そう考えると、ここで全力を出すのは危険なのだろう。

しかし兵士が戦えない以上、そんな泣き言を言っている場合では無いのだ。


「やるしか…」

ガ…


「が?」


ゴガ…

グガアア…

「ん?」


突然オーガ達が苦しみ出す。

そして10体のオーガ達は、その場に倒れて動かなくなった。


「え?」


倒れたオーガ達は、もうピクリとも身動きをしなかった。

突然苦しみ出したと思うと、そのまま死んでしまった様だった。


「え?」


ギルバートは不審に思って、動かなくなったオーガに近付く。


「ギル!

 危険じゃ…」

「大丈夫だ!

 こいつら死んでるぞ!」


ギルバートはオーガに近付くと、試しに蹴ってみた。

それでも動かないので、今度はその身体に剣を突き立ててみる。

しかしそれでも、オーガは身動き一つしなかった。


「何でだ?」

「分からない」


エルリックも理解が追い着かず、その光景に呆然としていた。


「そもそも、あんな武装したオーガが居た事すら、私は知らなかったんだ」

「ああ、そうだな

 お前がそんなに器用だなんて思っていないよ」


アーネストはそう言いながら、ゆっくりと前に進んだ。


「良かった」

「オレ達生きて…」


兵士達は助かったと安堵していた。

しかし、それを嘲笑う様に再び警報が鳴り響く。


ビー!

ビー!


再び壁に亀裂が入り、ゆっくりと開き始める。


ゴウンゴウン!


「くっ!」

「またか…」


「そんな…」

「もう戦えないよ…」


兵士達は絶望して壁の亀裂を見ていた。

しかしそれだけでは無かった。


「ぬうっ

 これは?」

「どうした?」


ギルバートは声を上げると、素早くオーガの死体から離れる。


シュオオオ…!


オーガの身体は崩れ始めていて、そこから霧の様な靄が流れ出ていた。

その靄の様な物は、流れる様に壁の亀裂に吸い込まれて行く。


「何だこれは?」

「見覚えがあるぞ…」


ギルバートはその様子を見て、ダーナで見た光景を思い出していた。


「アーネスト!

 兵士達とそっちの端に逃げろ!」

「ギルは?

 お前は…」

「私は大丈夫だ!

 それよりもこれは…」


「ダーナで見た事ある光景だ!

 強敵が来るぞ!」

「強敵?

 そうか!

 魔力を吸収して…」

「魔力…

 そうか!

 オーガを糧にして…」


キュオオアアアア…


不意に大きな咆哮が響き渡る。


「ぐっ!」

「くああっ!」

「これはまさか?」


ギルバートは思わず、その場で耳を塞いでたじろいだ。


「うわああああ」

「ひいい…」


謎の咆哮を受けて、兵士達は恐慌状態に陥る。

兵士達はその場で蹲り、震えている。

今やワイルド・ベアの咆哮にも耐えられる筈なのに、兵士達は震えていたのだ。

そして咆哮を上げた物は、その姿をゆっくりと現せた。


「何だ?

 これは…」

「ドラゴン…」

「そんな…馬鹿な!

 何て物を!」


エルリックは絶叫に近い声を上げて、出て来た存在を凝視していた。


「ドラゴン?

 そういえば…」


その姿は、アーネストが作った土人形に似た姿をしていた。

違う点は、最初から翼を広げている事だった。

しかしその翼は、飛ぶ為に使うにしては小さ過ぎる様に見えた。


「似ている?

 しかしこいつは…」

「ああ

 思ったよりも小さいな

 しかし油断はするな…」


クゥオオオオ…


ドラゴンが鎌首を擡げると、口元に魔法陣が現れる。


「マズい!

 大いなる風の精霊よ…」


アーネストは兵士達の元へ向かいながら、早口で呪文を詠唱し始めていた。


「これは?

 ブレス?」


エルリックも驚愕した顔をすると、慌てて兵士達の元へ向かった。


「何だ?

 何が…」

「お兄ちゃん!」

「セリア?

 危ない!」


ギルバートは何かを感じて、その場で大剣を前に翳していた。

そのまま大剣の腹を盾代わりにしようと身構えていると、その前にセリアが飛び出す。


「させません

 シルフ!」

「はい」


セリアはその身体を輝かせながら、大人の姿に変わっていた。

そして左手を翳すと、そこに水色に輝く小さな人影が現れる。

その人影は少女の姿になると、目の前に見えない風の障壁を張り巡らせる。


「精霊風防壁」

クォアアアアア

ゴウッ!


次の瞬間、ドラゴンの口から一筋の炎が吐き出される。

それは精霊の放った防壁に流されると、左右に別れて燃え上がった。


「うわああ!」

「ひいっ」

「下がれ

 オレの後ろに早く!

 マジックシールド」


アーネストが呪文を唱え終えて、魔法の障壁を張り巡らした。

しかし不完全なのか、それは炎を防ぎきれないでいる。


「うわああ」

「熱い!」

「ぐわああ」

「くっ…」

「精霊風防壁」


そこへエルリックが前に出て、精霊と同じ様な風の防壁を作った。

それが炎を防ぎ、何とか兵士達を守った。


「エルリック」

「これは魔法ですが、物理の炎でもあります」

「なるほど

 マジックシールドでは…」

「ええ

 防ぎ切れません」


エルリックはそう言いながら、前方のギルバート達を見る。


「しかし、イーセリア…

 何て無茶を」


「お兄ちゃんには手を出させない」

「セリア…

 なのか?」

「うん」


セリアは精霊女王の姿になって、魔物の炎を防いでいた。

しかしその力を行使するのは、セリアの力を大きく消耗させる。


「大丈夫なのか?」

「うん

 と言っても…

 長続きはしないんだけどね」


セリアはウインクをすると、シルフに合図を送る。


「シルフ

 お兄ちゃんを守って」

「はい

 女王様」


それは少女の姿をしているが、立派な精霊である。

小型のドラゴンの炎ぐらいなら、防壁で防ぐ事が出来るのだ。


「お兄ちゃん

 私は防御しか出来ないの」

「ああ

 十分だ」


ギルバートはそう言うと、大剣を構えてドラゴンを睨む。


「でも…」


セリアはギルバートの剣を見て、心配そうな顔をする。

ギルバートの剣は、先ほどまでの戦いでボロボロになっていた。

刃はあちこち欠けて、切れ味もほとんど落ちていた。


「大丈夫だ

 セリアが守ってくれるんだろ?」

「うん」

「えっと…

 守るのはわたしなんですが…」


シルフは小声でボソリと呟く。


「アーネスト!」

「ああ

 こっちは任せろ」

「私達で何とかします

 イーセリアを頼みますよ」

「ああ」


「さあ!

 仕切り直しだ!」


キュオオアアアア


ドラゴンは再び咆哮を上げる。


「シルフ!」

「はい」


シルフが防壁を張り、咆哮を風で掻き消す。


「くっ!」

「これはなかなか…」

「うわああ…」

「ひい」


兵士達の方も、アーネストとエルリックが障壁を張っている。

それを確認してから、ギルバートは剣を構える。

そして咆哮が途切れたところで、大きく踏み込んで前に出る。


「いくぞおおお」

キュアアア


ギルバートは剣を振り翳すと、上段から叩き付ける。


ガイン!

キュアアア


ドラゴンは翼を畳むと、それを盾にして攻撃を防ぐ。


「なるほど

 その為の翼か」

キュアアア

ブン!


「くっ!」


それだけでは無かった。

翼には小さな爪があり、それを振るって攻撃もしてくる。

小さいと言ってもドラゴンなのだ。

その身体の大きさは建物と同じぐらいの大きさがある。

爪の大きさも、短剣ぐらいの大きさを持っていた。


「厄介な」

キュアアア

ギン!

ガギン!


ドラゴンには発達した大きな後ろ足と、少し小さいが鋭い鉤爪を持つ前足がある。

その鋭い鉤爪は、十分に脅威であった。

翼の小さな鉤爪だけは無いのだ。


それに加えて鋭い牙による噛み付きや、咆哮、炎のブレスも持っている。

そして頭の大きさも、大人でも十分に呑み込めそうな大きさを持っている。

全身凶器の様な魔物は、ギルバートの攻撃を簡単に防いでいた。


クォアアアアア…

「くっ!

 またブレスか」

「任せてください…」


シルフは小声で呟くと、障壁で炎を散らす。


「助かる

 つぇりゃあああ」

キュアアア

ガキン!


しかし魔物の翼は頑丈で、ギルバートの剣は容易に防がれる。


「か、硬い…」

「あれはドラゴンの…

 竜の子供です」

「へ?

 何か言ったか?」

「ええっと…」


ギルバートの傍らで飛びながら、シルフはボソボソと呟く。


「お兄ちゃん

 シルフは恥ずかしがり屋なの

 だから上手く話せなくって…」

「何言ってるか分かる…

 くっ!」

「うん」


ギルバートは剣で防ぎながら、懸命に隙を窺う。


「お兄ちゃん

 そのドラゴンは子供だって

 不完全だから、魔物の命を使って無理矢理目覚めさせているって」

「そうか

 不完全なんだな」


「子供のドラゴン?」

「ああ

 本物ならランクC以上…

 魔王でもどうにか出来るか…」


シルフの説明を、エルリックが細かく解説する。


「そんな物を?」

「ええ

 しかし不完全

 ならばランクⅮ相当か…

 それでも…」

「十分な脅威だな」


ギルバートがこれまで倒した魔物は、精々がランクEまでだ。

巨人がランクD相当なのだが、この前の巨人は嫌々戦っていた。

だから脅威度として推し量るなら、ランクE相当だったと考えらえる。

そしてドラゴンが、実質初めてのランクDの魔物になるだろう。


「そんな物をどうやって倒せと?」

「倒すしかありませんよ

 そうしないと全員」

「それもそうなんだがな…」


エルリックはドラゴンを睨み、どうにかならないか懸命に考える。


「魔法は?」

「ドラゴンなら魔法は効かないんだう?」

「それはそうですが…

 不完全なら効くのでは?」

「どうかな?

 風の精霊よ

 水の精霊よ

 汝が力を貸し与え給え…」


アーネストは呪文を唱え始める。


「そうですね…

 炎なら対極の…」

「ああ

 アイス・ジャベリン!」


ヒュオオオオ!

シュバババ!


アーネスト呪文を唱えると、頭上に水色の魔法陣が現れた。

そこから現れた氷の槍が、一斉にドラゴンに向けて放たれる。


「っと!」

ズドドド!

キュオオオ


「よし!」

「しかし…」

「ああ

 あまり効いていないな」


「危ねえだろ!」


ギルバートが躱した事で、死角から氷の槍が突き刺さった。

しかし咄嗟にドラゴンは、翼を畳んでそれを防ごうとした。

翼に穴が空いていたが、本体には届いていなかった。


「くっ!

 しかし」

ズバッ!

キュオオオ


ドラゴンの翼に穴が空いた事で、翼の耐久力が下がっていた。

それでドラゴンは、ギルバートの剣を翼で防げなくなっていた。

ギルバートはその隙を突いて、素早く切り掛かる。

上手く3合までは叩き込めるが、さすがにドラゴンも警戒を強めた。


キュオオアアアア

「ぐうっ」


咆哮を間近で食らい、ギルバートは衝撃で後方に飛ばされる。


「さすがに咆哮は完全には防げません…」

「そうね

 シルフちゃんと同じ風の属性だもんね」

「はい…」


しかし咆哮ならと、ギルバートも何とか踏ん張る。

そして態勢を立て直すと、再びドラゴンに向かって突っ込んで行った。


「ぬおおおお」

クゥオオオオ


「させません」


ドラゴンはギルバートが向かって来るのを見て、再びブレスを吐こうとする。

それを見て、シルフはギルバートの前に出た。

しかしドラゴンは、思わぬ行動に出た。

そのまま首を捻ると、セリアの方を向いたのだ。


「な!」

「マズい!」


アーネストが咄嗟に、呪文を唱え始めるが間に合わない。


ゴウッ!

「きゃあああ」

「セリアー!」

「女王様!」


「させるか!」

ゴウッ!

ジュワアア…!


セリアの前にエルリックが立ち、その炎を身体で受け止めた。


「な…」

「エルリック!」

「あ…

 ああ…」


シュウウウ…!


焦げた臭いがして、エルリックはその場に倒れる。


「ああ!

 そんな!

 そんなあ!」

「泣くな…

 無事か?」


あちこち焼け焦げた姿で、エルリックはセリアに優しく微笑む。


「お、おにいさ…」

「そうか

 無事ならよ…ぐうっ」


さすがに全身に火傷を負っているので、エルリックは苦しそうな声を上げる。


「エルリッ…」

「来るな!」

「え?」


「ゲホゲホ

 目の前の、敵に…

 集中…」

「お兄様」

「何て無茶を…」


エルリックは懸命に声を上げると、ギルバート達を鼓舞した。

そんなエルリックを見て、セリアは膝の上に頭を乗せた。


「はは…

 やっと兄と呼んでくれたな」

「馬鹿

 無茶な事して…」

「はははは

 妹の為なら…っつ」


「くそう!

 エルリックの仇だ!」

「そうだ!

 もう構わねえ!

 全力でぶっ放す!」


アーネストはポーションを飲みながら、ポーチから杖を取り出す。

それは高位の魔法を使う時の、取って置きの魔導士用の杖だった。

制御に不安があるが、この際そんな事は言ってられない。


「大いなる精霊の加護を持って

 我は二柱の精霊に助力を乞う!」

「うわあ…

 あの子あんな高等な魔法を…」


アーネストは周囲の魔力を集めて、巨大な冷気の渦を作り始めた。


「わたしも手助けするね」


シルフは両手を突き出すと、アーネストに向けて魔力を送る。


キュアアア


「お前はこっちだ!

 余所見すんな!」

ガギン!

キュオオオ


ドラゴンが魔法に気付いて、アーネストの方を睨んだ。

しかしギルバートが剣で殴り付けて、その場に押さえつけていた。


「今だ!

 アーネスト!」

「おう!

 エルリックの仇!

 アイス・ストーム」

ゴウッ!

キュォォアアア…


ギルバートが飛び退いたところで、強烈な吹雪が襲い掛かる。

ドラゴンの足元が凍り、下から徐々に凍り始める。

ドラゴンは逃げようと藻掻くが、既に両足は凍り付いている。

徐々に氷は広がり、翼も覆い始める。


「はあ、はあ

 どうだ…」


アーネストはほとんどの魔力を出し切り、その場に膝を着いていた。


「ほとんど凍らせたな」

キュゥォォ…


か細い声でドラゴンは鳴く。

翼や前足は氷で覆われて、頭も半分凍り付いていた。

そして動く力を失っていて、身動きを取る事も出来なかった。


「これで!

 止めだ!」

ガギャン!

ピシピシ…ガシャン!


ドラゴンの身体は氷ごと打ち砕かれ、そのまま砕けて崩れ落ちる。


「やった!

 エルリックの仇を取ったぞ!」

「はあ、はあ

 エルリック

 安らかに眠れよ…」


「あのう…

 私、まだ生きているんですけど」


セリアに膝枕をされたまま、エルリックは弱々しく呟いていた。

まだまだ続きます。

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