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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
482/800

第482話

竜の背骨山脈の中で、魔物との戦いが始まろうとしていた

女神と会話する為の端末は、この部屋の先にある

しかし魔物達を倒さねば、その先には向かえそうに無かった

兵士達は剣を引き抜くと、目の前で待ち構える魔物を睨んだ

ハイオーク達は腰から、戦闘用の両刃の斧を引き抜く

そうして油断なく身構えると、挑発する様に吠える

その見た目の姿は、先日に見掛けたハイオークにそっくりだった

しかしその視線は違っていて、まるで人間を嘲笑うかのように侮蔑していた


「あれって…」

「似ているな

 しかし…」


「お待ちしておりましたよ、愚かな人間達よ」

「そしてサヨナラです」


ハイオークは両刃の斧を構えると、ニヤリと笑っている。


「やはり…」

「ああ

 先日のハイオークに似ている」

「しかし先回りなど…」

「どうなんだ?

 出来るのか?」」


「そんな事を気にしている場合ですか?

 ここを抜けないと端末にはアクセス出来ませんよ」

「それって?」

「つまり?」

「女神様とは話せないって事です」


エルリックの言葉を聞いて、ギルバートも背中の大剣を引き抜く。


「聞いたか?」

「はい」


「女神様とお話するには、こいつ等をどうにかしないといけない」

「そうみたいですね」

「しかし…」

「どうやら会話では済みそうに無いですよ」


先日のハイオークと違って、この魔物は通してくれそうに無かった。

というより、今もこちらを殺そうと殺気を漲らせている。


「友達とか言いそうに無いな」

「仲良くしようって感じじゃ無いな」


「これはもう…」

「ああ

 殺すしか無さそうだ」


さっきの赤い光が原因なのか、魔物は次第に興奮し始めた。


グヘヘヘ…

グルルル…


「紅い月の狂気か?」

「だろうな」


「油断するなよ!」

「はい」

「うおおおお」


口火を切ったのは人間側だった。

兵士達は剣を構えると、一気にハイオークに向かって進んで行く。


しかしハイオークも馬鹿では無い。

背中に背負った盾を引き出すと、正面から兵士達の突進を受け止める。

そのまま勢いを殺したところで、持っている斧を振り翳す。


「させるか!」

ガキン!


後続の兵士達が、ハイオークの斧をしっかりと受け止める。


「うがあああ」

「ぬりゃああ」

ザシュ!

ズバッ!


その隙に前の兵士達が、ハイオークの横や背後に回り込む。

そして連携しながら、兵士達はオークの守りを突き崩そうとする。


グガアアア

ゴアアアア


「こいつ等違うな」

「ああ

 闘争本能だけで隙だらけだぞ」


確かに強くはあるのだが、やはり狂気に縛られているのだろう。

攻撃が雑になり、その隙に兵士が切り込んで行く。

そうした中で、切られたハイオークの1体が、驚いた様な顔をする。


「ト…モ…ダチ…」

「な!」

「こいつ等?」


「ナ…ゼ…」


「殿下!」

「こいつ等…」


「まさか、そんな?」

「何て事を…」


そのハイオーク達は、やはり先日のハイオークで間違いが無かった。

それを何らかの方法で操り、こうして差し向けて来たのだ。

その様子に僅かだが、兵士達の士気が落ちて行く。


「駄目だ!

 意識を逸らすな」

「しかし…」

「やらなければこちらが殺されるぞ!」

「くそっ!」

「なんて酷い事を…」


兵士達は懸命になって、ハイオーク達の攻撃を防ぐ。

中には腕を切って、武器を落とさせようとする者も居た。

しかし武器を失っても、ハイオーク達は牙や盾で応戦しようとする。

理性を取り戻させようとすると、彼等に止めを刺すしか無かった。


「駄目です」

「殺さないと意識が戻らない?」

「こうなれば…」

「くそお!

 殺すしか無いのか!」


兵士達は懸命に、ハイオークに止めを刺す。

そうすれば絶命する瞬間に、彼等は狂気から解放される。

そうする事でしか、彼等は狂気から解放されなかった。


「ぐ…

 おえっ…」

「こんな…」


中には堪えられず、その場で吐く者もいた。


無理も無いだろう。

兵士達の多くが、彼等と仲良くなっていたのだ。

それが狂気に駆られて、こちらを殺そうと向かって来るのだ。

そして彼等を救うには、彼等に止めを刺さないといけないのだ。


「これで…」

「終わりだ!」

「はあ、はあ…」


「重傷者は?」

「5名です」

「しかし…」


途中で戦意を失った者は、ハイオークに囲まれて嬲り殺しにされていた。

そして4人が虫の息で、1人は肩から深手を負っている。

その他の軽傷者は、ポーションと薬草で手当てを受けていた。


「でん…が…」

「喋るな!

 すぐに手当てを…」


しかし彼は、それを拒む様に弱々しく首を振る。


「しかし…」

「殿下」

「楽にしてあげましょう」

「ここから帰るまで、とてももちそうにありません」

「くそっ!」


仲間が止めを刺し、5人の遺体を運ぶ。

そして死霊にならない様に、手や足の腱を切り裂いた。


「すまんな」

「ここでは埋められそうにない」


硬い金属の地面では、死体を埋めてやる事も叶わなかった。

かと言って燃やすにしても、こんな場所では燃やせそうな物も無い。

今はせめて、死霊にならない様にするしか無かった。


「せめて十分な薪があれば…」

「言うな

 仕方が無いんだ」


兵士達は仲間の死体を隅に置くと、反対側にハイオーク達の死体を集める。

敵として向かって来たとは言え、先日は仲良く宴会までした仲だ。

ここで彼等を野晒しにするのは、あまりにも忍びなかった。


「すまないな

 満足に弔ってやれなくて」

「あんた等の酒は美味かったぜ」


兵士達はハイオークにも別れを告げて、その死を悼んだ。


「こんな事…」

「ああ」

「女神様がここまでするとは…」

「そうだな

 私も信じられんよ」


エルリックも信じられないと、頭を振っていた。

とてもあの立札を立てた女神と、同一人物とは思えなかった。

しかし、それだからこそ止めないといけない。

こんな悲しい事を、これ以上起こさせない為にも。


「急ごう!」

「ああ」


エルリックは頷くと、広間の先の壁に向かった。

そこで壁を叩くと、何かの文字が現れる。


「あれ?」

「どうした?」


「承認されないんだ?」

「商人?」

「ああ

 私が来た事を、この扉が認識しないんだ」

「え?

 どういう事だ?」


「分からない

 分からないけど…」

「開かないって事か?」

「ああ」


エルリックの言葉を、アーネストが引き継ぐ。

どうやらエルリックを認識していないので、閉ざされたまま開かない様だ。


「そんな!

 ここまで来て…」


ブー!

ブー!


再び警告音が鳴り響き、今度は別の壁が開かれる。


「今度は何だ?」

「何だって良い!

 どの道歓迎されていないって事だろ」


ギルバートは剣を構えて、壁を睨み付けた。

兵士達も周りに集まり、何が出て来ても良い様に身構える。


「どうする?」

「やるしか無いだろう?

 さっきみたいに何が仕込まれているか…

 そう来たか!」


扉の向こうには、大きな鎧を着た兵士が並んでいた。

しかしそれは、兵士達が見上げる様な大きさだった。


「はははは…」

「オーガに鎧着せるとか…」

「こんなんありですか?」

「作戦としてはありなんだろう?

 現に着てるじゃ無いか」


頑丈そうな金属鎧を着たオーガが、ずらりと20体も集まっている。

普通のオーガでも10体も居れば十分に脅威になる。

それが重装備をして身構えて待っているのだ。


「正直…」

「絶望的ですね」

「何が絶望的なもんか」


ギルバートは剣をくるくると振り回すと、前に出て身構える。


「殿下?」

「お前達は抜けたオーガだけに集中しろ!

 いいな!」

「しかし!」


ゴガアアア


「来るぞ!

 構えろ!」

「はい!」


兵士達を後方に回して、ギルバートは剣を構えてオーガを睨む。

このオーガ達がどれほどの強さなのか、見た目では判断出来ないからだ。


「ギル!

 無茶は…」

「しないさ!

 まだまだこれからかも知れん

 後方を頼んだぞ!」

「分かった

 無理するなよ…」


アーネストは呪文を唱えて、ギルバートが討ち損じたオーガに備える。

さすがにギルバート一人では、全てのオーガに対処は出来ないだろう。

だから兵士達の損傷を抑えつつ、ギルバートも同時に守る。

その為には後方に抜けたオーガを、手早く倒すしか無かった。


「うおおお…」

ゴガアア…

ガギン!


オーガの振るった金棒を、ギルバートは大剣で弾きながらぶった切る。

普通に考えれば、無茶な行為に見えるだろう。

しかし武器が壊れれば、それだけオーガの攻撃は隙だらけになる。


「せりゃあああ」

ズギャン!

グゴオオオ


ギルバートは足元で、脛を鎧ごとぶった切る。

しかし無茶をしているので、少しずつだが剣の刃先が欠けて行く。


「くっ!

 せりゃああああ」

ガギン!


3体のオーガの金棒を叩き切り、足を切り裂く。

その場を兵士達に任せると、ギルバートはさらに前に出た。


「頼んだぞ!

 せりゃあああ」

「殿下!」

「こっちに集中しろ!」

「しかし!」

「来るぞ!」


片足を切られても、そのオーガ達はそのまま向かおうと立ち上がってくる。


「せりゃあああ」

ガイン!

グゴガア…


「もういっちょ!」

ズシャッ!

ガア…


三人掛かりで何とか、手前のオーガの首が切り裂かれる。

しかし懐に深く入り過ぎていた。

2体目のオーガが、彼を狙って腕を伸ばす。


「させるか!」

ガン!

グゴ…


後ろから飛び出した兵士が、渾身の一撃で何とかオーガの攻撃を弾く。


「すまない!」

「良いって事よ!」

「危ないぞ!」


ゴガアアア

ズドン!


そこにさらに、3体目のオーガの拳が振り抜かれる。

二人は何とか躱して、後続の兵士達と合流する。


「殿下だけに…」

「ああ

 恰好付けさせれねえ」

「おう!」


「うおおおお」

「おりゃああああ」


兵士達は気勢を上げて、一気にオーガに詰め寄る。


「ははは…

 私も…

 負けてられんな!」

ガン!

ゴガン!

ガギン!


オーガ3体の攻撃を弾きながら、ギルバートはオーガの足元に近付く。


ゴガアアア

ズシン!


「当たるかよ!」

ギャリン!

グガアア…


オーガは踏み付け様とするが、ギルバートは巧みに躱しながら切り付ける。

しかしさすがにオーガの着る鎧だけあって、なかなか簡単には切り裂けなかった。

3体の隙を窺っている間に、さらにオーガが近付いて来る。


「ギル!

 ソーン・バインド!」

「ふう…危ねえ!

 ありがとう」


ギルバートはオーガに気付き、素早く後方に下がった。

しかしそこにも、オーガが迫って来る。


「くそっ!

 切りが無いな…」

「殿下!」

「手前の3体を頼む!」

「え?」


ギルバートはそう言うと、前方に向けて大きく踏み込む。


「は、早い!」

「え?」


「…せりゃ…あああ…

 ふん!」

バキン!


グガア…


ギルバートは踏み込みながら、一気に後方のオーガの足元に移動した。

その速さは尋常では無く、一瞬の内に移動した様に見える。

そしてそのまま、オーガの足をスラッシュで切り飛ばしていた。

オーガは一瞬の事で対応できず、そのまま片足を失って横向けに倒れる。


「え?」


「せい!」

バギャン!


「とりゃああ!」

ガギン!


そこからギルバートは、一瞬の内にもう1体の眼前に跳躍していた。

反対側に居たオーガは、そのまま頭を叩き割られていた。

そのままギルバートは頭を蹴りつけると、その勢いでもう1体のオーガの方へ跳躍する。


オーガは片足を失っているので、地面にまだ手を着いていた。

そのまま跳躍した勢いで、ギルバートは魔物の首を切り飛ばす。

頭を失ったオーガは、その場にゆっくりと崩れる。


「ぜい、ぜい…」


さすがに無理をしたからか、着地するとギルバートは肩で息をしていた。


グガアアア

ゴアアア


ギルバートを危険と判断して、さらに2体のオーガが迫って来る。

それを見てギルバートは、剣を振り上げて身構える。


「くそ!

 間に合わないか?」

「殿下!」

「こなくそ!」

ガギャン!


兵士達はまだ、先ほどの3体を相手に戦っていた。

オーガの動き自体は、鎧を着ている分遅かった。

しかしその鎧が却って、兵士達の攻撃を阻んでいた。

彼等ではギルバートの様に、鎧ごと叩き切るなどという芸当は出来ないのだ。

だから兵士達は、鎧の隙間を突かなければ倒す事も出来なかった。

それで魔物との戦いが、想定以上に長引いていた。


「厄介な…」

「せりゃああああ」

ズドッ!


「はあ、はあ…」

「やっと1体?」

「殿下は?」


「くぅおのう!」

ガイン!

ガキン!


ギルバートは何とか、迫り来る2体のオーガの金棒を弾く。

しかし無理が祟ってか、大剣の刃は大分欠けていた。

切れ味も落ちていて、それで金棒を切り裂く事も出来なくなっていた。


「参ったねえ…

 ここまで手古摺るとは…」


「ギル!

 ソーン・バインド」

「助かる」


アーネストは兵士達の方の魔物の拘束を解くと、ギルバートの前の魔物を押さえる事にした。

しかしそれだけ集中させた魔力でも、このオーガを拘束し続ける事は困難だった。

金属鎧を全身に纏うほどの力を持つ魔物だ、当然それだけの力を持っている。。


グガガガ…

ゴガアア…


「急げ!

 長くはもたない」

「十分だ!」


「すぇりゃああああ」

ガギャン!


「とりゃああ」

ギャリギャリ…ガギン!


ギルバートは跳躍すると、そのまま右のオーガの首を腕ごと切り飛ばす。

そして反転しながら、勢いを付けて左のオーガに飛び掛かる。

しかしオーガも必死に頭を庇い、両腕で頭を庇った。


グゴアア…

「甘い!」

ズドッ!


ギルバートは空中で身を捻ると、そこから剣を突き出す。

渾身の一撃がオーガの胸に深々と突き刺さる。


「とうっ!」


ギルバートは跳躍して、その場を離れる。

胸から出血したオーガは、ゆっくりと膝を着きながら崩れ落ちた。


「ぜい、ぜい…

 はあ、はあ…」


ギルバートは片膝を着くと、眼前のオーガ達を睨む。


「残り…

 半分!」

「ギル!

 無理はするな!」

「そうは言ってもな…

 はは…」


ここで無理をしなければ、後方の兵士達も危ういだろう。

兵士達は何とかオーガを倒したものの、半数が負傷をしていた。

傷こそ打撲がほとんどだが、これ以上の戦闘は厳しいだろう。

そうなれば、ここはギルバートが踏ん張るしか無かった。


「お兄ちゃん!」

「セリア…」

「うみゅう…」


セリアは涙目になり、心配そうにギルバートを見詰める。


「そんな目で見るな

 まだ私は…戦える!」


グゴアア…


後方のオーガ達が、ゆっくりと進んで来る。


いよいよヤバいかな?


ギルバートはそう思いながら、腰のポーチからポーションを取り出す。

それを一気に飲み干すが、大した回復にはならなかった。

スキルと身体強化を無理して使った反動だろう。

ポーション飲んだぐらいでは、大した回復にはならなかった。


「さあ…

 掛かって来い!」


ギルバートは気勢を上げて、大剣を正面に構えた。

まだまだ続きます。

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