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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第481話

クリサリス聖教王国の西に、竜の背骨山脈がある

その中にあるエルリックの住処で、ギルバートはエルリックと対峙していた

エルリックが語る話は、ギルバートとセリアに取って大きな問題であった

ギルバートはその話を聞いて、大きな選択を迫られていた

エルリックは静かに語る

嘗て彼が愛した人間の女性

彼女に対する思いは、本物の愛だったのだろう

それだけに彼は、辛い別れを選択していた

そしてエルリックは、ギルバートにも選択を迫る


「リディアとその子供は…

 二人共苦しんでしまう

 リディアは私を独りで残す事を…

 そして私達の子供は、私と同じ苦しみを抱えるんです…」


エルリックの言葉は、ギルバートの胸に深く刺さる。


「そんな…」

「それが長命の種族として生まれた者が、短命の種族と愛し合う事で起こる悲劇です」


その言葉が、ギルバートに深く突き刺さる。


「それじゃあ…

 私とセリアに子供が出来ても…」

「ええ

 その子が苦しむ姿が…」


エルリックは自嘲気味に笑って頷く。


「私には想像出来ますね」

「そんな…」


「私は…」

「ええ

 あなたの気持ちも…

 分からなくは無いです」


エルリックはギルバートに、嘗ての二人の姿を重ねる。

愛故に子を欲して、苦しみながらも求めた者。

そして、愛故に傷つけ後悔する事を恐れて逃げ出した者。

彼の決断はどうなるのか?

エルリックは優しい目で見詰めていた。


「ギルバート、今の話を聞いても…

 あなたはセリアとの間に、子供が欲しいと願いますか?」


「分からない

 私には分からない…」

「そうでしょうね…」


エルリックは溜息を吐くと、哀しそうに頭を振った。


「焦って答えを出せば…

 きっと後悔します

 私みたいにね」

「そうだな…」


「そもそも、ハイエルフと人間では子供は産まれ難いんですよ」

「え?」


「私も逃げ出さずに、真剣に向き合えば良かった…」

「それは?」


「そうですね

 女神様にも叱られました

 『この!

  ヘタレ@ンポの馬鹿たれが!』ってね…」

「はははは…

 女神様も口が悪いな…」


その光景を想像して、ギルバートは思わず苦笑いを浮かべる。

似た様な光景を、アーネストとフィオーナの二人に見ていた。

きっとあんな感じで、激しく罵るんだろうなと思うと、何故か笑いが込み上げて来る。


「くくく…」

「ギルバート?」

「いや、なに

 その光景が想像出来てね」

「あんまり楽しい光景じゃあありませんよ」


エルリックが肩を竦めるが、それは本人だからだろう。

周りから見れば、酷く滑稽な光景に見える筈だ。


「しかし…

 子供は出来ないのか?」

「いいえ

 出来ない訳では無いんです

 しかし…出来難いですね

 それがエルフ達を、奴隷として求めた理由の一つですから」

「子供が出来難い事で?」

「ええ」


エルリックは不愉快そうに眉を顰める。


「ギルバート

 あなたもイーセリアが…

 とても可愛いと思いますよね?」

「そりゃあそうさ」

「妹馬鹿と言われようとも、私は可愛いと思います」

「うん

 それは同感だ

 しかし自覚があったか…」

「ん?」

「何でも無い」


「可愛い娘が居て、好きに出来る

 あなたならどうします?」

「え?

 どうって…」


ギルバートは返答に困って、首を傾げる。


「はあ…

 まともなあなたに聞くのも間違いか…」

「へ?」


「凌辱するんですよ」

「凌辱?」

「ええ

 好き勝手出来るから、それこそ気分が乗ったら好きな時に…」

「それは…

 何だ?」

「…」


二人の間に沈黙が訪れる。


「はあ…

 あなたはもう少し、勉強が必要ですね」

「へ?」

「凌辱とは…そのう…」

「そのう?」


エルリックは顔を赤くしながら、もごもごと答える。


「男女のする事をですね、相手の了承も無く無理矢理する事です」

「はあ?」

「それを奴隷にする事で、可能にする訳です」

「しかしそれは…」


愛するからでは無く、ただするという事がギルバートには理解出来なかった。


「エルフは見た目が美しいからね…」

「そりゃそうだろうが…」

「イーセリアを見れば分るでしょう?」

「ああ」


「それで幼い少女や、果ては男の子まで…」

「え?

 男の子?」

「おほん

 今のは忘れてくれ」


しかしギルバートは、益々混乱して質問した。


「男の子って…

 どうやって?」

「詳しく聞くな!

 胸糞悪い事だ」

「そりゃそうだが…」


「まあ、そういった理由でね

 慰み者にする為に、大量のエルフが狩られて行ったんだ」

「慰み者…」

「ああ

 奴隷にして、好きっ勝手に凌辱する

 人間はそうやって欲望を満たしていたんだ」

「ああ!

 慰み者って、そういう意味なのか」


ギルバートは長年疑問だった、その言葉の意味が理解出来てスッキリしていた。


「何だ

 知らなかったのか?」

「え?

 まあ…」

「そうか…

 君はそんな人間じゃ無いからな

 だからこそイーセリアは…」


エルリックはそう言うと、うんうんと頷いた。


「しかし…

 男の子?」

「いい加減、その話題から離れないか?」

「いや、だって…

 どうやってするんだ?

 そのう…男女の営みとか?」

「ストーップ!

 それ以上掘り返すな

 想像もしたくない」

「そうか?」


「そういえば城のメイド達も、そんな事を…」

「話題を変えないか?」


エルリックがいつになく、真剣な表情で詰め寄る。

それでギルバートも、黙って頷くしか無かった。


「あ、うん…」


「それで?

 イーセリアの事はどうするつもりだ?」

「どうするって…」


「子供が産まれれば、その子は苦しむ事になる」

「それはそうだが…」


「だが、セリアは私が死なないと言っていた」

「それは…」


「それに…

 私はガーディアンなんだろう?」

「いや、だからって…」


「そもそも、ガーディアンって何なんだ?」

「通常の人間とは異なる、魔王になれる素質のある者?」

「それなら、私もその様に…」

「魔王になるか?」


ギルバートはその言葉に、少なからぬ疑問を覚える。


「簡単になれる…」

「物では無いな」

「だろうな

 ムルムルも、魔王は激しい憎悪や苦しみを抱えた者がなれるって…」

「知っていたんですね

 それなら…」


「でも魔王になれば…」

「魔王になっても、長生き出来るとは限りませんよ?

 そもそもあなたでは…」

「無理かな?」

「ええ

 あなたは魔王になるには、純粋で優し過ぎます

 それでは使徒になれても…」


「それでは使徒では?」

「そうですね…

 しかし長命になるかは…

 私では分かり兼ねますよ」

「そうか…」


「イーセリアの為なら、魔王にでもなる…

 それは人間の敵になる事でもあるんだぞ」

「だからと言って、魔王が必ずしも、人間を攻める必要は無いんだろう?」

「いや、今の状況を見て…」

「それでも、アモンやムルムルは抵抗しようとしている」

「それはそうだが…」


「それに…

 女神様が何も言わなければ、魔王が人間を攻める事は…」

「分かった分かった

 そこまでの覚悟があるんだな」

「ああ」


ギルバートは思い詰めた表情で、真剣に考える。


「リディアも…

 きっとそうだったんだろうな

 私の事を本気で思ってくれて、それでも…」


エルリックは悔しそうに、後悔しながら呟く。


「リディアはあの時…

 泣いていたんだ」


「本当は子供が欲しかったって

 私と子供達と最後まで一緒に居たかったって…

 そう泣きながら逝きました」

「それは…」


「だから本気でイーセリアを求めるなら…

 あなたもその覚悟をしてください」

「覚悟?」


エルリックはギルバートを、真剣な表情で見詰める。


「ええ

 死が二人を別かつその時まで!

 イーセリアを本気で愛するなら、一人にして泣かせないでください!」


エルリックの気迫の籠った眼に、ギルバートは真剣に頷く。


「ああ」


「私は後悔したんです

 そうしてリディアが亡くなるその時まで、彼女を抱き締めて泣きました

 イーセリアにそんな事をさせないでください」

「ああ

 誓うよ

 この剣に賭けて」


ギルバートは大剣を引き抜くと、それを正面に掲げて跪く。


「良いんですか?」

「ああ

 私ギルバートは、この剣に賭けて誓う

 生涯イーセリアを妻とし、一生涯側に置く事を誓う」


それは本来は、婚姻の誓いとして教会で行う物だ。

それをギルバートは、ここで誓ってみせる事で本気だと証明してみせた。


「本気なんだな?」

「ああ

 男に二言は無い!」

「それならば私も…

 これ以上は何も言わないよ

 イーセリアも本気で君が好きみたいだしね」

「エルリック…」


「もし浮付いた気持ちなら、本気で別れさせようかとも思っていたんだが…

 しかし君は、本気でイーセリアの気持ちに応えていた」

「…」


「それなら…

 兄としては十分だ」


エルリックはそう、寂しそうに呟いた。

そして急に振り返ると、楽しそうに微笑んだ。


「さあ、片付いたぞ」

「って、おい!」


「いつまでもしんみりとするなよ

 人生は楽しく行かないと」

「はあ…」


エルリックらしいと、ギルバートは溜息を吐きながら肩を竦めた。

二人は厨房を出ると、休む為に部屋に向かった。

食堂にも人影は無く、通路にも誰も居なかった。

既にみんなは部屋に入って、就寝している頃合いだろう。


ギルバートが部屋に向かおうとすると、エルリックが後ろから声を掛ける。


「言っておくが、許したからと言って同じ部屋にはさせないぞ」

「はあ?」

「イーセリアとは別々の部屋にしろ」

「別々って…」


エルリックはそう言うが早く、壁の板を叩いた。

ポン!

プシュー!


ギルバートの横の壁が開き、そこに個室が現れる。

中身は同じ様な個室で、壁には夜の山脈の景色が映し出されていた。


「そもそも個室用になっている

 あれじゃあ風呂もベットも一緒に使う事になるだろう?」

「それはそうだが…」


「そんな破廉恥な事は許さーん!」

「許さんって…」

「そういう訳でお前はこっちね」

ドガッ!

プシュー!


ギルバートはエルリックに後ろから蹴られて、個室に転がり込んだ。

そして壁は閉まって、ギルバートは個室に閉じ込められた。


「あ!

 おい!」

ドンドン!


しかし扉は閉まったままで、ギルバートは中から出られなかった。


「ふふふふ

 これでお前は、イーセリアとは別々の部屋だ

 様あ見やがれ!

 くふふふふ」


エルリックは嬉々として自分の部屋に向かった。


しかし彼は気が付いていなかった。

確かに中からは出られない様にしていたが、外からは操作出来るのだ。

翌日に彼は、セリアを抱えたギルバートを見る事になる。

その首筋にはキスマークが着いていて、昨晩何が行われていたかを示していた。


「ぢぐじょー!

 なんでだ!」

「いやあ…

 普通にセリアが入って来たぞ」

「はへ?」


「だって、外から簡単に開けられたよ?」

「え?」

「そういえば、お前は外から鍵をしたんだよな

 それって外から外せるんじゃ無いか?」

「ぢぐじょー!」


エルリックは泣きながら、自分の部屋に戻って行った。


「ああ…」

「まあ、いつもの事だから」

「そうだな…

 しかし食事が…」

「…」


少ししたら、エルリックは戻って来た。

女神と会わないといけないので、いつまでも時間は無駄に出来ないのだ。

エルリックはブツブツ文句を言いながら、朝食の支度をした。

そして朝食が終わったところで、みなは昨晩とは違う場所に集合していた。


「諸君

 これから女神様に会いに向かう事になる」

「ああ

 そうなんだが…」

「静粛に!」


「ここから本当に危険になる」

「いや

 昨日までの事があると、説得力が…」


「言いたい事は分かる

 しかしこの先に待つ女神様は、人間を滅ぼそうとしているんだ」

「そういえばそうだったな…」

「あまりに緊張感が無いから、すっかり忘れていたよ」


エルリックは熱心に演説をするが、兵士達は退屈そうに聞いていた。


「だからこそ、今一度緊張感を取り戻して欲しい」

「そりゃあ良いんだが…」

「お前が言ってもな…」


ここでギルバートが前に出て、剣を掲げて号令を掛ける。


「そういう事だから、気を引き締めて行くぞ!」

「はい」


ギルバートの言葉に、兵士達は急いで装備の点検を始める。


「何で私の時には…」

「それは役割の違いだな」

「そんな…」

「落ち込むなよ…」


エルリックを放って置いて、兵士達の支度は完了する。

兵士達はいつでも武器を抜ける様に身構えると、指定された小部屋に向かって行った。

それは昨日使われた、エレベーターと呼ばれる部屋と似た様な小部屋だった。

しかし今度は、上に引き上げられるのとは違って落ちている様な感じがした。


「これって…」

「大丈夫だよな?」


「大丈夫ですよ

 今度は下に向かっているので、昨日とは感覚が違いますが」


全ての兵士が降りたところで、再び広間に集まる。


「この先に端末がある筈なんですが…」

カチャカチャ!

ビー!


「ああ…

 予想通りだな」

「こういう展開、嫌いじゃないぜ」


広間の扉が開く時に、大きな音が鳴り響く。


ブー!

ブー!

ゴウンゴウン…!


上に赤く光る物体が現れて、何かを警告する様子が見られる。

そして開かれて行く扉の向こうに、武装した魔物が控えていた。


「お待ちかねの様だな」

「ああ

 大歓迎って様子だ」


そこには武装した、オークの群れが集まっていた。

彼等はニヤリと笑うと、腰に下げた両刃の斧を引き抜く。

その姿は、どことなく先日のオーク達に似ていた。


「あれって…」

「似ているな

 しかし…」


「お待ちしておりましたよ、愚かな人間達よ」

「そしてサヨナラです」


ハイオークは両刃の斧を構えると、ニヤリと笑っていた。

まだまだ続きます。

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