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聖王伝  作者: 竜人
第二章 魔物の侵攻
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第48話

みなが魔物の襲撃の対策に奔走する中、領主の息子であるギルバートの姿は、討伐軍の中にあった

実践で魔物との戦闘の技量を上げて、少しでも領民を救いたいと願ったからだ

今日もゴブリンとコボルトの群れを追って、ノルドの森へと出ていた

街の東門を抜け、討伐軍が駆け出す

騎兵部隊が2部隊24名出て、公道の安全を確保する

その後を追う様に歩兵部隊が森へ進み、弓兵が森の入り口で待機する

森の中では、弓兵の弓は遮蔽物が多くて戦闘に向かない

歩兵の打ち漏らしと、逃走する魔物を掃討する為に警戒を続ける


「ここから潜入して、コボルトの集団を掃討する

 奴らは鼻も利くし、頭も切れる

 慎重に進むぞ」


歩兵隊を率いるのは、歩兵隊の隊長であるガストンという中年の兵士だ。

エドワード隊長が歩兵と弓兵の指揮官に昇進したので、代わりに彼が隊長を務めていた。


どちらかと言うと、直情的で自ら突進して行くタイプの兵士で、常に先頭を切って進んで行く。

その代わり、副隊長のマイクが冷静な判断をするタイプで、常に周りを確認していた。

この二人の息が合っていたので、魔物の掃討は上手くいっていた。


「隊長、突出し過ぎです

 もう少し抑えてください」

「そうは言ってもな

 魔物に逃げられてしまうぞ」


副隊長は隊長に囁くが、隊長はガサガサと音を立てながら、尚も前へ出ようとする。

そこで隊長は何かに気が付いて、合図を送った。

副隊長は慌てて左右に兵士を展開させ、魔物を包囲させようとする。

その間も隊長はガサガサと前進して行く。


「そこ

 4人で右から回って

 そっちも4人で回り込んで」


ギルバートも左の一群に加わり、繁みを掻き分けて進む。

少しずつ獣臭い臭いがして、魔物との距離が近付いた事を告げる。

繁みの中から、大人ぐらいの身長の魔物が見えてくる。

周囲の異変に気付いたのか、周囲を見回している。

近付きながら腰の剣に手を当てて、みなが一斉に飛び出すタイミングを待つ。

隊長が抜刀し、一番乗りの咆哮を上げる。


「いまだー!

 かかれえええ!」

「うおおおお!」

「りゃあああ!」


一斉に抜刀しながら飛び込む。

既に隊長は1匹の首を刎ね、2匹目に切り掛かっていた。

森の開けた場所に、20匹近くの魔物が集まっていた。

それに対して、切り込む人数は9人と少ない。

しかし、全員が討伐に慣れてきていて、倍以上の人数にも怯まず向かって行った。


「うりゃああ!」

ザシュッ!


ギルバートは1匹目の左足を、駆け抜けながら切り落とした。

魔物がバランスを崩して倒れる間に、背中から2匹目の魔物を袈裟懸けに切り裂く。

振り向き様に、1匹目の魔物の頭を砕き、3匹目のまものの振り下ろした棍棒を避ける。


「はああ!

 ふん!」

ズバッ!

ガス!


魔物と向き合い、振るわれた棍棒を受け止める。


ガキーン!

「っと」


周囲では魔物は次々と倒され、その様子に怯んで委縮している。

そのお陰で、魔物の攻撃は散漫になり、冷静に対処出来た。


ものの数分で倒しきり、広場は静かになった。


「マイク

 付近の状況は?」

「今のところ大丈夫です」

「分かった

 遺骸を回収するぞ」


隊長が合図して、一人1体ずつ担いで行く。

この数では2回以上往復する必要があるが、ここで解体出来ない以上仕方が無い。

森の外まで運べば、他の兵士が回収してくれるので、そこまで抱えて運ぶ。

森に入ってから、魔物を討伐して運び出すまで、時間にして2時間ぐらいは掛かる。

これに捜索が加われば、もっと時間が掛かるが、今日は幸先が良かった。


これが慎重に捜索しながらだと、捜索だけで相当な時間が掛かる。

しかもゆっくり進んでいる分、先に見つかってしまう事もあった。

今の隊長みたいに、勢いで突っ込んで行った方が見付かり難いのは皮肉だった。


「隊長はあんなに音を立てているのに、よく見つかりませんね」

「ははは

 なあに、見つかるまでに近付いて、後は叩くだけだからな」


「はあ

 普通はそうは行きませんよ?

 見つかって待ち伏せされたらどうするんですか?」

「そんときゃ、そんときだ

 そのまま当たって砕ける」

「砕けちゃダメでしょ!」

「がははは」


隊長は豪快に笑っているが、この場合は砕くが正解だろう。


「次はどうします?」


副隊長が周囲を見回しながら、隊長に確認する。


「そうだなあ

 一旦外に出て、昼飯にしよう」

「はあ

 休憩ですね」


副隊長が警戒に当たる兵士に声を掛ける。

そうして公道に向かって歩き始める。


「どうせなら、他の魔物でも出て来ないかな」


隊長は辺りをキョロキョロと見回し、そんな事を呟く。


「止めてください

 本当に出たら、どうするんですか?」

「そりゃあ、ど頭カチ割ってやるだけさ」

「はあー

 その間、他の兵士が襲われたらどうするんですか?」

「そこは、お前の指揮を信用している

 オレは存分に戦うだけさ」

「ああ…」


副隊長は、脳筋の隊長の言葉に、ぐったりと項垂れるだけであった。


素材回収の為に、魔物の遺骸を公道まで運び出し、正午前には全て運び出せた。

隊長の言葉もあり、一旦木陰で昼食になる。

各自で干し肉や黒パンを取り出し、水で飲み込む。


「塩味の野菜スープでもあれば、十分なんだがな」

「贅沢は言うな

 糧食が無い場合には、パンすら無くなるんだぞ」


侘しい食事をして、再び森の中に向かう。

今度は先ほどとは違う場所から入り、方角も北東に変えてみる。


「こっちはゴブリンの報告が多いが、他の魔物も居るかも知れない

 各自、周囲に警戒しておけ」


そう言うと、隊長は大股で入って行く。

ずんずんと歩いて、木立の間を抜けて行く。

途中で栗鼠か野兎か、繁みをガサガサと動く音がする。


「野兎程度じゃ、腹は膨らまないな…」

「最近は大トカゲも居ますよ」

「ああ

 アレは美味いらしいな」


魔物の中には、動物型の魔物も多数見掛けられた。

その中で一番美味しいのは、ワイルド・ボアという猪の魔物だ。

表皮は固く、強力な突進も有るが、狩れたら上質な肉が手に入る。

次に人気があるのが大トカゲ、ジャイアント・リザードだ。

こっちはそこまで大きくは無いが、動作は緩慢な草食動物だ。

討伐は簡単で、鶏肉みたいな肉が取れる。

しかし目撃情報が少なく、ワイルド・ボアの方が討伐対象に選ばれていた。


「ゴブリンやコボルトが食べられたら、食料事情も変わるんだろうな」

「しかし、食べれるけど不味いって話ですよ」

「いや、それより見た目が問題だろう」

「確かに…」


全員が思い出し、流石に無いなと思った。


「せめて、人型で無かったらな

 知ってるだけに抵抗があるよな」


みながうんうんと頷いた。


そうこうする内に、隊長が合図を出す。

再び木立を回り込み、魔物を囲む。

今度はゴブリンだった。

しかし、副隊長は隊長の近くに進み、何事か話し始めた。

暫く話し込み、副隊長が戻って来る。


「ゴブリンの素材は使えないから、必要なのは魔石だけだ

 だから暫く追って、集まっている場所を特定したい」

「それは集落か何かがあるという事ですか?」

「ああ、そうだ」


副隊長はそう言って頷き、追跡を開始する。


暫く追跡を続け、やがてゴブリンの数が増えてくる。

やがてゴブリンは、森の開けた場所に入って行く。

そこを木陰から覗くと、小さな木を集めた家が数軒建っていた。


「見ろ、集落だ」

「おお」

「結構居るな」

「全部で…7、80匹ぐらいか?」


「弓兵も必要ですね」

「ああ」


副隊長は頷き、兵士に伝令を頼む。

弓兵と増援を頼み、一気に潰そうという魂胆だ。

兵士が走り去り、一行は暫く集落を観察しながら待った。

それから数十分ほどして、一団の歩兵と弓兵が向かって来た。


「ごくろう」

「はい」


「それで、件の集落は?」

「こっちだ」


副隊長に促され、弓兵達は集落を覗いて見る。


「なるほど

 これは増援は必要ですな」


弓兵達は頷き、副隊長の指示に従って、集落を囲む様に移動する。

それに合わせて、歩兵も4人一組で移動する。

先ずは弓兵が弓を射掛け、それから歩兵で殲滅する算段が練られる。

各自が配置に着き、隊長の合図を待つ。

12名の弓兵が矢を番え、集落の中のゴブリンに狙いを定める。


「撃て!」


隊長の号令に、一斉に矢が放たれ、魔物の頭や胴に突き刺さる。


ギャワー

グギャア


「行くぞ!」


続いて、隊長を先頭に、集落へ雪崩れ込む。

隊長の振う剣に、魔物が両断される。

ギルバートも集落に踏み込むと、武器を片手に飛び掛かって来た魔物に剣を叩き込む。

大きく振り下ろした剣は、頭から真っ二つに叩き割る。


「はあああ!」

グギャアア


続いて、片目に矢を受けた魔物が迫るが、これを肩口から横振りに両断する。


「うりゃああ!」

ギュッ


「まだまだ」


さらに魔物に向かって挑発し、剣を肩に構える。

それを見た魔物が、棍棒を振り回しながら向かって来る。


ギャワワー

「うりゃああ!」

グギャアア


ギルバートは棍棒を叩き切り、そこから刃を返して切り上げる。

スキル、ブレイザーで棍棒と胴を叩き切ると、魔物は悲鳴を上げながら吹っ飛んだ。


「次!」


ギルバートが5匹目の魔物の頭を叩き割った頃、辺りの魔物は粗方倒され、呻き声だけが残っていた。

ギルバートは辺りの魔物を調べ、止めを刺しながら魔石を探した。


魔石は心臓の周りに着いているので、胸を裂いて心臓を取り出す。

しかし、ギルバートの周りに居た魔物は魔石を持っていなかった。

胸を裂く序でに、死霊にならない様に首や腕を切り落とす。


「ダメだ

 こっちも魔石は無い」


あちこちでそんな声が上がる。

どうやら魔石持ちは居なかった様だ。

その代わりに、魔物の集落は潰せたのだから良かったと副隊長は言う。

これで少しでも魔物が減れば、結果として侵攻して来る魔物が減るのだから、それだけでも十分だろう。


隊長の指示で、魔物の遺骸は広場の中央へ集められる。

そして建物が壊され、死体の周りに積まれる。

それに火が付けられ、周りの木に燃え広がらない様に注意しながら焼かれた。


「こうして集落も潰せば、それだけ効果的だろう」


そう言って隊長は、壊した建物の残骸を火に投げ込んだ。


「さあ、火が落ち着いたら帰るぞ」


この日は大きな収穫は無かったが、守備隊は魔物の討伐を繰り返し行った。

ギルバートも参加して、剣術の研鑽に励んだ。

最初は魔物に対する感情に支配されかけていたが、修練を重ねるに連れて、感情を抑える事も出来る様になってきた。

今では憎しみに支配されずに、魔物と戦い続ける様になっていた。


ギルバートは、この事を秘密にして、自分で解決しようとしていた。

自分の未熟さがそうさせるのだろうと思っていたからだ。

しかし、この事を早めに相談していれば、軍の中にも似た様な経験をしている者がいる事知らされただろう。

スキル習得者の一部が、魔物に対して、言い様の無い殺意に悩まされていたのだ。


そんな事は梅雨知らずに、ギルバートはささくれた心を癒す為に、妹に会いに向かうのだった。


「兄さま」

「お兄ちゃん」


日に日に、言葉が上手になっていく。

そんな二人の姿を見ると、この幸せを守るのだと決意が湧いて来る。

そして、二人を抱き締めると、優しく撫でてあげた。

優しい気持ちに満たされ、魔物に対峙していた時の殺伐とした心が洗われる。

こうして、今日も眠るまで妹の相手をしてあげていた。

ギルバートが救われていたのは、可愛い妹が居たことだろう。


忙しい日々は過ぎ去り、いよいよ決戦の日を迎える。

準備は万全とは言えないが、やれる事はやったと感じていた。

ギルバートは新しく用意した武具に身を包み、戦場へと向かった。

いよいよ開戦となりますが、場所はダーナの東になります

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