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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第479話

ギルバート達は、女神の元へ向かっていた

ここは古代竜の身体の中で、今はちょうど胃袋を上った辺りになる

そこに女神が立てた、立札が立てられていた

しかしそれは、悪戯に立てられた物だった

立札の通りに進んだ先は、壁があるだけだった

そして壁面には、ハズレのメッセージと可愛い女の子のあっかんべえする絵が描かれている

それを見て、エルリックはガックリと崩れる

折角ここまで来たのに、女神へ接触する端末の場所が分からないのだ


「エルリック…」

「言うな!」

「しかし、これでは…」

「そうだぞ

 場所は分からないのか?」

「それは…

 いつもは自分の家から向かっていて…」

「それなら、その家に向かえば?」


しかし進んでみても、その家の入り口が分からない。

何ヶ所か進んでみるが、その先にはまたしてもハズレと書かれていた。

どうやらエルリックの家には、ここから向かう事は出来そうに無かった。


「なあ…」

「え?」

「転移魔法を使って出入りしてたんだろう?

 それを使えば…」

「駄目です!」


エルリックは頭を振って、それが出来ないと断る。


「前にも話しましたが、転移魔法は危険なんです」

「しかし…」


「もし、魔法で行った先に壁があったら?」


エルリックは壁を指差しながら呟く。


「それは…」

「あなたは壁の中に出ます

 そしてそのまま…」

「うげっ!」


その光景を想像して、ギルバートは身震いをする。

壁の中に出て、そのまま身動きも出来ずに死んでしまう。


「それならどうやって?」

「私が王都に転移する時も、細心の注意を払っていますよ

 壁や人の中に出ない様に、時間帯も考えてですよ」

「人の中って…」

「もっと最悪ですよ

 その人の中に出るんです

 試した事はありませんが…」

「あ…」


誰かの中に出て、その人が弾き飛ばされる。

それもどの様になるか想像すると…。


「それに理論として、魔力が収束した際に対象の魔力と混ざり合って…」

「もういい!

 分かった!

 分かったから」

「分かっていただけたのなら…」

「でも…

 どうするんだ?」

「うぐ…」


どうやらこの広間も、以前にエルリックが通った時とは構造が違うらしい。

そうなってくると、何処に向かえば良いかも分からない。

凡その場所は分かっても、そこまでの順路が分からないのだ。


「女神様

 何でこんな…」

「防犯の為だろうな」

「そうだな

 そもそも、エルリック以外の者が入り込まない為に、こうやって迷宮にしているんだろ?」

「それなら…」


エルリックなら、道が分かってもおかしく無いだろう。

しかし当のエルリックがどうやら方向音痴の様だ。

そうで無ければ、立札の通りに進もうとはしないだろう。


「どうする?」

「そうだな…」


ギルバートは兵士に指示を出して、端から通路を調べさせる。

そうして何度も繰り返す内に、少しずつだが奥へと進んで行った。

しかし、今度は別の問題が起ころうとしていた。


「なあ、アーネスト」

「言うな

 オレも何となく気になっていたんだ」


何度か回廊を戻る内に、戻った場所が違っている気がしていた。

それが何度か繰り返す内に、段々と確信に変わる。


「これって…」

「はあ…

 これも罠だな」


恐らく全員が進んだ先で、元の順路が閉じられている。

そうして別の道が開かれて、迷わせる様に新たな道が続く。


「しかしな、オレを舐めるな」

「ん?」


アーネストは地面に向けて、呪文を唱え始める。

この回廊に入ってからは、地面も金属で出来た回廊となっていた。

それは恐らく、その場に目印を残させない為だろう。

しかしアーネストは、魔法で地面に図を描き出した。


「ここがこうで…

 さっきの道はこうなる」

「アーネスト?」」

「黙れ!

 分からなくなる」


アーネストはそう言いながら、まだ踏み込んでいない場所を記す。


「そこを左に進むぞ」

「あ、はい」


兵士に指示を出しながら、時々立ち止まって図を描く。

それをそのまま残して、後で確認するのにも利用する。

こうして何時間か歩き回って、大体の法則を捉える事が出来た。


「そう、そこを右に…」

「はい

 右があります」

「ようし

 良いぞ…」


最早元々の道は、誰も分からなくなっている。

しかしアーネストだけは、何とか頭に図を描けている様子だった。

正解のルートを選んで、着実に進んで行った。


「出ました」

「ここは?

 さっきの広間とは違いますね」

「ああ…」

「ここだ!」


エルリックは駆け出すと、壁の一部を押し込んだ。

そこは静かに開くと、数人が入れる小部屋が中に現れた。


「良かった

 エレベーターは本物だ」

「エレベーター?」

「ええ

 ここからなら私の家に戻れます

 やっと我が家に帰れる」


エルリックは感極まって、その場に座り込んだ。


「なあ

 ここはその端末とか言うのと…」

「違います

 しかし私の家に戻れれば、後はそこから向かえますから」

「そうか…」


ギルバートが話している間も、アーネストは小部屋を調べていた。

そこは透明な壁になっていて、中から外が見えていた。


「不思議な壁だな」

「ええ

 ここを押すと」

プシュー!


小さな音がして、壁が閉まった。


「え?

 あれ?」


そこには壁しか無く、先ほどの小部屋は無くなっていた。


「おい!

 エルリック!

 アーネスト!」

ガンガン!


ギルバートは壁を叩くが、それは先程までの壁と同じで頑丈に作られている。


「くそ!」

「殿下

 エルリック様も一緒です」

「そうですよ」

「しかし」

「待ちましょう?」


暫くギルバート達は、閉ざされた壁を前にして途方に暮れていた。


「どうしたんだろう?」

「さあ?」

「開かなくなったとか?」

「そうだとしても、アーネスト様が一緒でしょう?」

「こちらからどうしょうもない以上」

シュー!


そうこう話していると、壁が静かに開いた。


「凄いぞ!

 ギル」

「あ、うん…」


中から興奮したアーネストが出て来て、凄い凄いと連呼する。


「中は透明な壁でな、一気に上に上るんだ」

「あ…」

「それでな、凄いのは音もしなくてな」

「ええっと…」

「あっという間に上の広間に出たんだ

 凄いぞ!」

「アーネスト?」


「こんな物があるなんて…」

「そうですね

 古代魔導王国でも、ここまでの物はありません」

「凄いな

 これも女神様が?」

「ええ

 女神様しか作れないでしょうね」


「アーネスト!」

「ん?」

「え?」


いい加減に頭に来て、ギルバートは大声を出した。


「こっちは心配してたんだぞ」

「心配も何も…」

「そうですよ

 これは安全な装置で…」


「そういう問題じゃ無いだろう

 勝手に居なくなって、無事だから大丈夫?

 こっちは何も分からなくて、ずっと心配してたんだぞ!」

「え?

 説明しませんでしたか?」

「そうだぞ

 中で安全だって…」

「エルリック様

 アーネスト様」

「お二人は、これが動き出してから話しておりましたよ?」

「殿下は外に居たんですよ」

「あ…」

「えっと…」


ここで二人は、ようやく事態に気が付いた。

アーネストと兵士は、エレベーターの中に居た。

だからエルリックの説明も聞けたし、安全なのはよく分かった。

しかし残されたギルバートと兵士達は、何も知らないでここで待っていたのだ。


「ごめんって」

「謝るから」

「うるさい!」


暫くギルバートは、へそを曲げて怒っていた。

二人のした事もだが、それで興奮して肝心の使命も忘れていたからだ。

それから順番に上る時も、アーネストは興奮して何度も乗り込んでいた。

その様子を見て、兵士達も呆れていた。


確かに物珍しく、とても驚くべき光景だろう。

しかし何度も乗り込んで、喜ぶ様にはさすがに兵士達も引いていた。


「それで?

 肝心の…」

「見ろよ、この光景を」

「ふふふふ

 絶景でしょう」


エルリックの家は、先ほどの部屋の遥か上に位置していた。

その上層の広間の壁に、家の中に入る入り口があった。

その中には透明な壁があって、外側の山脈の光景が見えていた。

確かにそれは絶景で、驚くべき光景であった。


山脈に差し込んだ夕日は、そのまま部屋の中を赤く染めている。

バルコニー風に作られたその部屋は、山脈の上から麓も見渡せる。

しかしそんな美しい光景も、部屋の中の散らかり様で台無しになっていた。

確かに女神が言う様に、部屋の中は散らかって汚かった。

その情けない光景が、よりギルバートを苛立たせていた。


「これを見る事が…

 旅の使命だったか?」

「え?」

「はははは…」


「それにこの様は何だ?」

「ええっと…」

「確かにこれは…」

「アーネスト

 お前の部屋も変わらんだろう

 そもそもフィオーナが片付けるから…」

「分かった

 すまないって」

「そうそう

 今日はもう遅いから、明日の朝にでも…」

「何処に寝かせる気だ?」

「えっと…」

「はははは…」


散らかった部屋の中では、足の踏み場すら少ない。

そんな場所で寛げと言われても、とてもじゃ無いが寛げ無いだろう。

ましては兵士達を、どこで休ませると言うのか?


ギルバートは苛立って、足元のクシャクシャの服を蹴り上げる。


「何処で誰が寝るって?」

「ああ!

 それは帝国で流行っていた服で…」

「こんな汚く脱ぎ捨てられて、流行り物とか無いだろう

 大体片付けをしないから…」

「分かった

 分かったから…」


エルリックは壁の一面を押すと、出て来た板を叩き始めた。

ピコピコと音がすると、別の壁が静かに開いた。

そこには長い廊下が続き、左右の壁面に光る板が見える。

それが等間隔に並んでいて、エルリックはその一つを叩く。


ポン!

プシュー!


音がすると、壁が開いて部屋が現れる。


「ほら

 ここが個室になっている」

「え?」

「凄い!」


その個室は金属の壁に囲まれていて、中にはベッドと椅子が置かれていた。


「これは…」

「見た事の無い素材だ…」

「はははは

 特殊な素材で作られていて、少々放って置いても傷まないんだ」

「へえ…」


表面はすべすべの布に覆われていて、エルリックが言う様に綺麗な状態だった。

ほとんどここに立ち寄っていないのに、この部屋は綺麗だった。

それだけこの素材が、傷みにくいという事だろう。


「綺麗だな…」

「まるで使われていない様だ」

「というより、誰も来ないからか?」

「そうだな

 こんな所に来る者って…」

「おい!」


「いや、誰も友達が居ないって…」

「そうだぞ

 魔王ぐらいは…」

「そんな友達が居ないみたいな…」


エルリックは膨れるが、ギルバートは核心を突いた事を聞く。


「え?

 それじゃあ魔王は来たのか?」

「き、来てないよ…」

「はあ?」

「え?」


「それって…」

「止せよ

 可哀想だろう」

「そんな目で見るな!」

「これじゃあ女神様も、心配するよな…」


ギルバートだけでなく、兵士達まで憐れむ様な視線を送る。


「何だよ、それは!

 私は別に…」

「エルリック様」

「寂しかったんですか?」

「そういえばここに来る時も、随分と嬉しそうでしたね」

「それはアーネストが興奮して…

 それで…」

「素直になりましょう?」


兵士達に慰められて、エルリックはキレ気味に反論する。


「別に嬉しくなんて…」

「でも…

 友達が居なかったんでしょう?」

「そうですよ」

「お一人で寂しくて…

 うおおお」

「何でお前が泣くんだよ」


「オレ達で良ければ…」

「うるさい!」


エルリックはそう言うと、照れたのか部屋を出て行ってしまった。


「はあ…」

「本当に素直じゃないな」


ギルバート溜息を吐くと、部屋の隅の窪みを覗き込む。


「おい!

 これって…」

「おお!

 個室に風呂まであるのか?」

「そうだよな…」

「お風呂ですか?」


そこには湯船とお湯の出る魔導器具が設置されている。

湯船の中には金属製の桶も入っていて、そこにお湯を汲む事も出来る。


「これって…」

「金属なのに軽い?」


それは金属製で硬いのに、何故か木の桶よりも軽かった。


「これは便利だな…」

「向こうの端まで、同じ部屋があるんでしょうか?」

「そうだな…」


数をかぞえてみると、片側だけで50部屋が用意されている。

兵士一人に1部屋でも、十分に数は足りている。


「一人1部屋で良いんでしょうか?」

「そうだな

 エルリックもそのつもりだろう

 しかし…」


ここに入る時は、エルリックが扉を開けていた。

しかしエルリックが居ない今、どこをどうすれば扉が開くか分からない。

部屋は提供されたものの、これでは軟禁に近い状況だった。


「弱ったな…」

「あいつ、何処に行ったんだ?」

「あんまり揶揄うからだよ」

「そうは言っても、ギルもノリノリだっただろう」

「そりゃあそうだが…

 どっちかと言うと…」


「すんません」

「調子に乗り過ぎました」


兵士達が頭を下げる。

どちらかと言うと、彼等が揶揄った事が一番効いていた。


「まあ…

 あいつももう少しな…」

「そうだな

 しかし…」


エルリックが友人を作らないのは、彼がハイエルフである事が原因でもあるのだろう。

前にセリアの事を話す時に、彼は寂しそうな顔をしていた。

それは彼自身が、人間とは生きて行けないと感じていたからだ。

女神が恋人を作れと言っても聞かなかったのは、それも原因なのかも知れない。


「ギル

 エルリックがああなのは…」

「分かっている

 あいつがハイエルフだからだろう」

「殿下?」

「ハイエルフって?」


「エルリックは実はな、ああ見えて長命のハイエルフなんだ」

「ええ!」

「あいつがですか?」

「おい!」

「す、すいません」


ギルバートに睨まれて、兵士は黙って俯く。


「あんな風だからな…

 だが、それは本当だ」

「それだからこそ、あいつは一人なんだ

 長命なんだからな」

「長命って…」

「それって…」


「ああ

 私達が年を取って死んでも、あいつは生き続けるんだ」

「そうなんだよな

 人間なんかと仲良くしてたら…

 ましてや恋人なんか作ってたら…」

「それって…」

「何か悲しくないですか?」


長い時を一緒に歩む事が出来ない。

それを分かっているから、エルリックは一人で生きる事を選んでいた。

それを聞いた今、兵士達は涙を流していた。


「そんな悲しい事…ぐずっ」

「少しの間だけでも…」

「ああ

 だがそれでも、却ってあいつを苦しめる事になるんだろうな…」


ギルバートがそう言った時、不意に入り口の壁が開いた。


「おーい!

 食事の準備が出来たぞ」


そこには満面の笑みを浮かべる、エルリックの姿があった。

それはいつもの真っ赤な出で立ちでは無く、可愛い絵の描かれた前掛けをしていた。

まだまだ続きます。

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