表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
477/800

第477話

女神に会う為に、ギルバート達は竜の背骨山脈に訪れていた

その麓の洞穴から、一行は深い迷宮へと入って行く

そこは女神が用意した、特別なダンジョンだった

ギルバート達は罠を潜り抜けて、その奥へと進んで行く

長い迷路を潜り抜けて、一行は既に疲れていた

ここは洞窟の中なので、今の正確な時刻は分からない

しかし体感では、既に夜に入っているだろうと感じていた

野営の準備をすると、一行は交代で仮眠を取る事にした。


「それじゃあ私は、先に仮眠させてもらうぞ」

「ああ

 変な事はするなよ?

 ここじゃあ声が響くからな」

「するか!」


ギルバートは顔を赤くしながら、天幕の中に入ろうとする。


「お兄ちゃん♪」

「あ、こら」

「にゅふふふ…」

「抱き着くなって」


セリアがギルバートに抱き着き、ギルバートは困った様な顔をする。


「お前もほどほどにして寝ろよ」

「ああ」


ギルバートはセリアを抱き抱えると、そのまま天幕に入って行った。

中から暫く、セリアが甘える声が聞こえる。


「やれやれ

 兵士に悪いと思わんのかな?」

「ぐぬぬぬ…」

「お前はお前で、諦めも悪いし」


アーネストは歯軋りするエルリックをみて、肩を竦める。


「しかし…」


それからアーネストは、懐から小瓶を取り出した。

そこには先ほど採取した、光苔が詰められていた。


「見れば見るほど、不思議な植物だ」

「ん?」


「エルリック

 こいつは何なんだ?」

「光苔

 正式名はライティング・モス」

「そうじゃ無くて

 何で光るんだ?」

「それは…」


エルリックは少し躊躇ってから頷いた。


「ここまで来たら、隠しても無駄なんでしょうね」

「何だ?」


「ここは竜の背骨山脈」

「ああ

 知っている」

古代竜(エンシェントドラゴン)の腹の中です」

「はあ?」


エルリックは分かり易く、地面に図を描き始める。


「今の場所が…ここ

 (ドラゴン)背骨(スパイン)山脈(マウンテインレインジ)の、ちょうど腹の中の辺りです」

「それで古代竜の腹の中か?」

「いいえ

 本当に古代竜(エンシェントドラゴン)の腹の中だからそう言ったまでです」

「へ?」

「知らないんですか?

 ここは古代竜(エンシェントドラゴン)の中ですよ」

「ええ!」

「しっ!

 セリア達が驚いて、起きて来ますよ」


「驚くって…

 そりゃあ驚くに決まってるだろう」

「え?

 本当に知らないんですか?」

「ああ

 そんな当たり前の事の様に言うなよ」

「だってミッドガルドでは…」

「それは古代王国だろ」

「あ…」


アーネストに突っ込まれて、エルリックは誤魔化す様に笑う。


「はははは…」

「いつの常識か知らないが、古代竜(エンシェントドラゴン)って言葉自体知らないぞ」

「そうですか…

 帝国も罪な事を…」


エルリックは地面の図に、さらに付け加えて行く。


「ここが腕で…

 こっちが脚になります」

「え?

 それじゃあ…」

「ええ

 文字通り『竜の顎(ドラゴンズ ジョー)』なんですよ」


エルリックはそう言って、地面に描かれた竜に眼を刻む。


「ここが古代竜の眼に当たります」

「ここは?」

「もう一つの端末が…

 そして魔王の居城、竜の瞳(ドラゴンズ アイ)城でもあります」

「魔王の?」

「ええ

 アモンの居城です」

「アモンの…」


「今はここには、アモンは居ません」

「何でだ?」

「さあ?

 しかし私が向かった時には、彼の姿はありませんでした」


エルリックはそう言いながら、地面にさらに描き加えて行く。


「元々は…

 こんな感じに」

「大きな…」

「ええ

 これが古代竜です」


「古代竜は嘗て、この世界を総ていました…」

「こんな大きな物が…」


アーネストはさらに、地面に図を描いて行く。


聖なる竜(ホーリー ドラゴン)

 大空を舞う風の龍(ウインド ドラゴン)

 大地を総べる…地の竜(アース ドラゴン)

「そんな…」


「今は力を失い、それぞれこのアースシーの源となっています」

「力を失い?」

「ええ

 それが女神様との契約です」


「契約って…

 何で?」

「さあ

 そこまでは教えていただいていませんから」


エルリックはそう言いながら、地面に描かれたアースシーの大地に、何体かの竜を描く。


古代竜(エンシェントドラゴン)が眠りに着き、大地(アースシー)が生まれる

 そうして精霊(スピリット)が手を貸して、私達人間(ヒューマン)が生まれた…

 それが創世記(ジェネシス)の始まりです」

「創世記?」

「ええ

 嘗てミッドガルドに伝えられたという、この世界の始まりの物語です」

「しかしそんな物は…」

「ええ

 失われたんでしょうね」


エルリックは頭を振りながら、地面の図を掻き消す。


「まあ、私も子供に聞かせる寝物語(ストーリーテリング)程度にしか知らないんです

 詳しくは女神様でしか…」

「そうか…」


アーネストは掻き消された地面を見て、静かに頷いていた。


「なあ

 その古代竜ってのは、もう生きていないんだろう?」

「ああ

 正確には…

 いや、生きていないも同然なんだろうな」


エルリックはそう言って、壁を指差す。


「ここもそうなんだが…

 竜の顎(ドラゴンズ ジョー)を見ただろう?」

「竜の顎?」

「ああ

 この壁もまた、古代竜の身体の一部だ」

「そういえば…

 古代竜の腹の中って…」


「ああ

 そうして竜の顎も、ここと同じ古代竜の身体で出来ている」

「そう言えば…

 そうするとあの険しい山も、その竜の身体なのか」


アーネストは壁に近付くと、ポーチから短剣を取り出す。

それは白い熊の骨を加工した、今のクリサリスで一番強固な素材だった。


カキン!

「ぐっ…」


「硬いだろう?」

「ああ

 傷一つ付かないなんて…」


アーネストが振るった短剣は、まるで何事も無かった様に弾き返される。

それは石の壁に見えても、古代竜の身体一部なのだ。

それを素材にした壁だからこそ、何物をも通さない強固さを備えていた。


「それじゃあ山脈の方も…」

「ああ

 普通じゃあ削る事も出来ないだろう

 だからこそ、魔王の居城でもあるんだ」

「しかし魔王は…」

「ああ

 何故か不在なんだよね…

 女神様なら何か知っているかも」


その理由に関しては、エルリックも知らなかった。

だからアモンを探しに向かった時にも、居城はもぬけの殻だった。


「こんなに強固な壁なら…」

「そうだな

 そして魔力も込められている」

「魔力?」


エルリックが呪文を唱えると、壁面が強く蒼白に輝く。


「これは?」

「魔法に感応しているんだ

 それだけ魔力に浸透性のある素材なんだろう」

「それじゃあ…」

「ああ

 光苔(ライティング・モス)が自生出来るのも、この鉱物で出来ているからだ」

「古代竜の身体…」


手で触れてみた感覚は、普通の石の壁と変わらなかった。

しかしこれは、古代竜の身体から出来上がっているのだ。


「しかし、こんな物をどうやって…」

「女神様だからな…」

「そんな一言で…」


しかし説明出来ない以上は、そう表現するしか無かった。


「古代竜の素材か…」

「変な事は考えるなよ

 そもそも人間には…」

「はははは…

 さすがにこれを掘る事なんて無理ですよ」


笑いながらアーネストは、壁を探検で壁を叩いてみる。


キンキン!

「しかし…

 掘れるものなのか?」


翌朝になって、ギルバートは交代で起きる。

正確には時刻が分からないので、翌朝かどうかは分からない。

しかし暫く眠ったので、疲れは十分に取れていた。


「ふぬ…はあ」

「ようやく起きたか」

「アーネスト?」


天幕から出て来たギルバートを、眠そうなアーネストが出迎える。


「お前、起きて…」

「これから少し寝る

 それよりも…」


アーネストはギルバートの手を引き、壁の近くに来る。


「どうした?」

「この壁なんだが…」


アーネストは昨晩、エルリックと話した時の壁を示す。


「この壁なんだがな、魔物の…

 いや、魔物とは違うのか?」

「アーネスト?」


「ギル

 この世界が生まれる前に、他の生き物が居たって…

 信じられるか?」

「え?

 だって女神様が…」

「勿論、オレ達人間やエルフも…

 いや、魔物すらも女神様が生み出されたんだろう」

「そうだろう?」


「しかしこの大地が生まれた時…

 ここには他の生き物が居たそうなんだ

「他の生き物?」

「ああ

 古代竜(エンシェントドラゴン)って巨大な生き物だ」

「巨大?

 しかしそんな生き物は…」

「これだ」


アーネストは壁を指差す。


「これって…」

「ああ

 ここがその…古代竜だ」

「はあ?」


アーネストは昨晩、エルリックが説明した事を繰り返す。


「竜の顎山脈があるよな」

「まさか?

 それがその竜の頭とか言うなよ?」

「そのまさかだ」

「はあ?

 ふざけるな

 あんな大きな物が…」

「しっ」


ギルバートが声を大きくしそうになるのを止めて、アーネストは地面に図を描く。

それは昨晩、エルリックが描いた物にそっくりだった。

少し違うのは、アーネストは魔法で地図に描かれた山を描いた。

だからこそ、エルリックが描いた図よりも正確だった。


「これは…」

「そう

 このクリサリス周辺の地図だ」


アーネストはそこに、魔法で土を盛り付けて山を作る。

当然絵画や絵を真似して、より正確な形にしてみせる。


「よく出来てるな…」

「ああ

 オレはお前と違って、色んな書物を見ているからな」

「ふうん…」


アーネストは土を盛り付けると、それを器用に動かす。


「え?

 あれ?」

「ふふふふ…」


そこには土で作られた、魔物の姿が現れていた。


「これが…」

「そう古代竜(エンシェントドラゴン)だ」


アーネストはそう言って、土の塊に魔力を流して動かす。


「ふうん…」

「こうして翼を広げて…」

「待て!

 どこから翼が?」

「それは魔力で作り出すらしい」

「魔力で?」


「ああ

 実物はもう、この世界には居ないみたいだが…」

「それなら何故?」

「魔導書には、こいつの小型の物が記されていた

 それでも砦一つ分ぐらいの大きさみたいだけど」

「砦一つ分って…」


「そいつは魔物として、女神様が生み出した事もあるそうだ」

「それじゃあ…」

「ああ

 ドラゴンと呼ばれる生き物は、この古代竜を元に作られたらしい」

「それで古代竜か…」

「ああ

 (ドラゴン)の原型になった、古代に生きていた本物の竜」


土の塊は大きな翼を広げ、力強くギルバートを睨む。


「こんな生き物が…」

「ああ

 女神様と交渉して、この世界を去ったそうだ」

「この世界を去った…

 それなら」

「ああ

 ここはその、古代竜の死体の中って訳だ」


アーネストが言いたい事が分かり、ギルバートは改めて周囲を見回す。


「これが?」

「ああ

 この古代竜の亡骸から作られているらしいぞ」

「ここの全てがか?」

「そうだ」


キンキン!

ガキーン!


アーネストは短剣を引き抜くと、壁に切り付ける。

しかし壁には傷一つ付かない。

その事は昨晩、アーネストも確認している。


「この短剣でも傷一つ付かない

 だからお前も…って」

「すえりゃああああ…」

ガキーン!


「ぐぬ…」

「おい!

 だから止めろって…」

「大丈夫だ

 少し痺れ…って、ぬお!」


ギルバートは剣を見て、情けない声を出す。

それは接近戦用の、予備のショートソードだった。

しかしワイルド・ベアの素材を使った、かなり丈夫な魔鉱石製の剣だ。

それが刀身に、見事な亀裂が入っていたのだ。


「ああ…」

「馬鹿だなあ…」

「こんな事が…」


「だからここでは、壁には気を付けろって話だったんだが…」


二人の様子を見て、兵士達も壁の方を向く。

彼等も知らなければ、壁に思いっ切り打ち込んでいただろう。

アーネストの忠告が聞こえて、彼等は壁から少し距離を取った。


「後で他の剣を用意しとけ

 それじゃあ戦闘中に、砕けてしまうぞ」

「ああ…

 畜生!」

ガン!


「ぐ・ぎ・が…」

「馬鹿

 だから硬いって…」


悔しさでギルバートは、思いっ切り壁をぶん殴っていた。

剣に亀裂を入れるほどの壁だ。

当然その硬さは相当な物だっただろう。


「ポーションで治療しとけ

 兵士が困った時に、王太子が手が痛いって後ろに居たままじゃあ恰好付かんだろう?」

「ああ

 そうするよ…」


ギルバートはしょんぼりと肩を落として、ポーションを取りに向かう。

よほど剣が駄目になったのが堪えたのだろう。


「間違っても、もう壁で試し切りはするなよ」

「するか!」

「はははは

 それなら大丈夫そうだな

 オレは一眠りしてくる」


アーネストはそう言って、天幕の中に入って行く。

ギルバートはその後ろ姿を見て、ブツブツ不満を漏らす。

気が付けば、もう剣に亀裂が入った事を忘れている。

兵士達はその姿を見て、さすがは王太子の性格をよく分かっていると思った。


「殿下

 予備の剣です」

「そちらほどの強度は無いので…」


兵士はポーションと一緒に、予備の剣を手渡す。

本当は予備の剣も、ワイルド・ベアの剣の用意はしてある。

しかしその事は伏せて、チラリと壁の方を一瞥する。


「お前達まで…」

「はははは…」

「私もそこまで馬鹿では無い

 ふん!」


ギルバートは不貞腐れて、グローブを脱がせた手にポーションを掛ける。


「痛てて…」

「骨に異常は?」

「大丈夫だ

 そこまで全力では…」

「でも、結構いい音してましたよ」

「ぐぬ…」


ギルバートは痛めた、手の甲をそっと見る。

確かに真っ赤に腫れて、相当な痛みを感じる。

骨に異常は無さそうだが、ハンマーで殴られたぐらいの痛みは感じられた。


「暫く無理はしないでください」

「ああ

 ポーションが効いたとはいえ、まだ痛むからな」


ギルバートはそう言いながら、しょんぼりと焚火の前に座る。


「このまま暫く…」

「ああ

 大人しくして欲しいな」


「しかしこの壁が…」

「りゅうだっけ?」


兵士達も、ギルバートの声で途中から会話は聞こえていた。

それでこの迷宮が、りゅうという物の亡骸だとは理解出来た。

しかしどう見ても、その様な物には見えなかった。


「外から見ても、相当な高さなの山脈だったよな」

「ああ」

「それが生き物だなんて…」


山脈の様な巨大な物が、生き物として襲って来る。

まだアーネストが、作った竜の人形はそこに残されていた。

それが本物の様に襲って来る様を想像して、兵士達は戦慄を感じる。


「生きて無くって良かったな」

「そうだな」

「しかしアーネスト様の話では…」


砦の様な物が、小型として現れていたと言っていた。

巨人でもあの被害だったのに、それが本当に現れたら、この国はどうなってしまうのか。

兵士達は土人形を見て、それすら恐ろしいと感じるのだった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ