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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第476話

ギルバート達は、エルリックの住処だという洞窟を進む

しかしそこは、怪しげな光る苔が生い茂っていた

そして奥に進む兵士達は、何かの罠に掛かったのか大声を上げる

それは恐ろしい洞窟探索の、始まりに過ぎなかった

先に進んだ6人から、不意に大声が上がった

後続の6人が、慌ててその先に進んだ

しかし彼等からは、何も声は聞こえなかった

ギルバート達は固唾を飲んで、彼等の報告を待っていた


「殿下…」


後続の兵士達が呼びに来て、ギルバートはその後を追う。

彼の後に着いて進むと、少し開けた場所に出る。

そこには一人の兵士が、首だけになっていた。


「そんな…」

「何だ?

 どうした?」


アーネスト達も後を追って来て、その惨状を目の当たりにする。


「な!」

「これは…」

「くそっ!」

ドガッ!


ギルバートは悔しそうに、座り込んで地面を殴り付ける。


「何て事をしやが…」

「何だ

 脅かしやがって」

「へ?」


アーネストは肩を竦めて、首を左右に振る。

周りの兵士達も、哀しそうに俯いて泣いているのかと思っていた。

しかしよく見てみると、彼等は肩を震わせて笑いを堪えていた。


「何だ、お前達!

 仲間がこんな姿にされて…」

「だから…くくっ」

「笑いを堪えているんです…」

「へ?」

「酷いなあ

 早く助けてくれよ」

「な!」


生首から声がして、ギルバート驚愕する。

兵士の生首が、困った顔をしてギルバート達を見上げる。


「よく見ろ」

「そもそも、地面にも注意書きまでしてある

 殺す気は無かったんだろ」

「え?」


兵士の前を見ると、地面には何か書かれている。


「何々…

 しっかりと踏ん張ってくださいね

 女神より?」

「どうでも良いから、早く引き上げてくれよ」


そこで改めて注意深く見ると、兵士は死んではいなかった。

彼は首を落とされたのでは無く、沼に落とされていた。

それも底なしでは無く、ちょうど首の辺りまで埋まる様に計算された沼にだ。


「首じゃあ…無い?」

「ああ

 泥沼に嵌って、首だけになる」

「罠に注意しろって警告だな」


仲間の兵士が引っ張り出し、彼は救出される。

しかし泥だらけになり、途方に暮れていた。


「これはまた…」

「見事に嵌ったからな」

「くそっ」

「剣を手放さなかったのは正解だな

 そうじゃなきゃあ、剣を失っていたぞ」


他の兵士達は慰めるでもなく、軽率な兵士を笑いながら揶揄っていた。


「こっちに泉が湧いているぞ」

「気を付けろよ

 他にもあるかも知れない」

「こっちは大丈夫みたいですよ」


兵士が指差す先には、また注意書きが書かれていた。


「ごめんね

 ここで汚れは落としてね?」

「また女神様の名前が…」


「どうでも良いよ

 少し待っててくれ」


兵士はそう言って、身体に着いた泥を洗い流す。

泥は泉の水で綺麗に洗い流される。

よく見てみると、そこから先ほどの罠に繋がっていた。


「なるほど…

 この水で沼になる様に…」

「考えましたね

 これなら泥が乾く心配もありません」

「しかし…」


罠がある場所に、わざわざ注意書きが記されている。

よく見てみると、それが何ヶ所か見付かった。

そこには全て、女神と署名がしてあった。

ご丁寧に罠を仕掛けて、そこに署名までしてあったのだ。


「くそっ!」

「馬鹿にされていますね」

「ああ」

「いや

 どうやら違うぞ」


アーネストだけが、その罠の様子を注意深く調べていた。

そして全員とは、違った視線で罠を探っていた。


「エルリック

 これはお前宛てのメッセージだぞ」

「え?」


エルリックはアーネストに言われて、そのメッセージを読み上げる。


「何々?」


エルリックは壁に書かれた、長いメッセージを読み上げる。


「エルリックちゃんへ

 あんたっておっちょこちょいだから、わたし心配でねえ?

 おいおい、女神様

 何を書いてんだ」

「良いから

 続きを読めよ」


エルリックは顔を赤くしながら、ブツブツと続きを読み上げる。


「あんたって、せっかくここを用意してあげたのに、仕事仕事で滅多に戻らない

 おまけにわたしへの、報告だってしないんだから

 本当にもう、ぷんぷん?

 そりゃあ忙しかったから…」


「何だか女の子が、男から連絡が無いのを怒っているみたいですね」

「ああ…」


「オレ…

 何だか女神様のイメージが…」

「ああ

 これじゃあ女神様って言うか…」

「ああ

 その辺の女の子の置き手紙?

 そんな感じだな」


兵士達はエルリックの読み上げる内容に、戸惑いを隠せなかった。

女神というので、もっと威厳のあるイメージを抱いていた。

しかしそのメッセージからは、年頃の女の子の不満の様な物が感じられた。

これではまるで、エルリックが会いに来ないので彼女が怒っているかの様だ。


「私が作ってあげた部屋も、着替えぐらいにしか来てないよね?

 何の為に、ここを用意したと思っているの?

 いい加減にここに気付きなさいよ?」

「ここで一旦切れているな」


そこまでは古くて、文字のところどころに苔が生えていた。

そこから後は、その後に掘られている様だ。


「これを読んでいる頃には、わたしは長い眠りに着いています

 ごめんね

 でも心配なのは、あなた達の今後の事です

 これは!」

「女神様が眠りに着く前に書いたんでしょう」

「ううむ…」


そこから暫く、エルリックへの生活の不満が書かれている。

肉ばっかりの食事の不摂生や、着替えをちゃんと畳まない事。

中には洗濯をして、服を仕舞った事への愚痴も書かれていた。


「へ?

 何?」

「女神様ってエルリック様の事を?」

「いや

 最初はそうだったけど…」

「うん

 こっちはどちらかと言うと…」


「この前も街で、素敵な女性に声を掛けられていたでしょう?

 っていつの話だ!」

「ぷっ」

「こいつは…」


「何で人間だとかハイエルフだとか気にするの?

 少しはあなた自身の、幸せを…

 あんたは母親か!」

「はははは」

「こいつは…」

「どうやら心配だったんでしょうね」


そうして最後の方は、ここが悪用される事への不安が書かれていた。

そして不用心なエルリックに、罠を仕掛けた事への警告が書かれていた。


「わたし心配なの

 エルリックちゃんっておっちょこちょいだから、引っ掛かるんじゃないかって

 それでここに、警告を書いたんだけど…読んで無いよね?

 ああ、そうだよ

 今まで全く気付かなかったよ」

「よほど信頼されているんだな…」

「くっ…」


「最期に

 いつまでもあなた達の事を愛しています

 最愛の母より

 っておい!」

「ぶはははは」

「こいつは傑作だ」


女神様は最後まで、お茶目な言葉で締め括っていた。

他の者が読んだ時に、どういう反応をするか予想していたかのようだ。


「エルリック

 女神様って…」

「ああ

 こんな方なんだ…」


「いつも十代の少女の様なお姿をされて

 コロコロと笑われる可愛らしい…」

「へえ…」

「ほう…」


「それでいながら、突然こんなドキツイ冗談をかましたりして…

 何度死にそうになった事か…」

「ああ…」

「でも、死んでいないんだよな?」

「ええ

 ちゃんと傷付かない様に、計算して悪戯するんですよね

 それが質が悪くて…」

「ふうん…」

「ははあん…」

「ん?」


「なあ

 エルリックが恋とか出来ないのって…」

「そうだよな」


「まさかエルリック様って…」

「そうだよ、絶対」


ギルバートやアーネストだけでなく、兵士達までヒソヒソと話し始めた。


「何だ?

 何か文句あるのか?」


「なあ

 エルリックって」

「止せ

 可哀想だろう」

「ん?」

「女神様の事が好きなんだろう?」


エルリックは一瞬、何の事を言われているのか理解出来なかった。


「当たり前だろう

 我々使徒は、女神様に命を救われたんだ

 あの方を慕って当然だ」

「そうじゃ無くて…」

「馬鹿だなあ

 気付いていないんだぞ、それ」

「それは…」


アーネストに言われて、何故かギルバートは、可哀想な人を見る様にエルリックを見詰める。


「おい!

 何だ?

 その憐れむ様な視線は」

「いや…」

「気付かないって…

 罪だな」

「はあ?」


「あれでしょう?

 エルリック様って、女神様に恋しているんでしょう?」

「あ、おい!」

「馬鹿!」


兵士の一言で、エルリックの様子が変わった。


「へ?」

「だってそのメッセージを読む時も、恋文を読むみたいに…」

「そうだよな

 突っ込み入れながらも、嬉しそうにニヤニヤしてたし」

「凄く幸せそうでしたよ」


「ば、馬鹿も休み休み言え!

 わ、私が女神様をだなんて、そんな不遜な…」

「でも、好きだったんだよな」

「そうそう

 その動揺が証拠だな」


「う、うるさーい!」


とうとうエルリックは、逆ギレ気味に怒り始めた。


「まあまあ

 そういう事なら、人間の女性には興味は持てないな」

「そうだな」

「違う!

 違うぞ!

 あの方は母の様に優しく…」


「なるほど

 そういうタイプが好きなんだ」

「しかし、少女みたいに可愛い感じだったんだろう」

「ギル

 男はそういうギャップに弱い物なんだ」

「なるほど…

 そういえばセリアも…」

「うにゅっ?」


「うるさい!

 うるさいうるさいうるさい!」

「はははは」


エルリックが怒る様を見て、アーネストはニヤニヤと笑っていた。

ギルバートもこれは、当分使えると考えていた。

今度セリアとの逢瀬を邪魔されたら、この話を持ち出そうと考えていた。

しかし今は、それどころでは無かった。


「まあまあ

 これで罠の事は分かった」

「そうだな

 元々はエルリックの気を引く為に、女神様が仕掛けたんだろう」

「うう…

 女神様…」


エルリックは予想外な事が続き、すっかり混乱していた。


「しかし…

 本当にイメージが違うな」

「ああ

 人間を創られたり、滅ぼしたり

 もっと威厳のある姿を想像していた」


ギルバートは女神を、もっと大人の女性にイメージしていた。

言うなれば、アルベルトを怒っている時の、ジェニファーの姿をイメージしていた。

アーネストも同様で、老婆か大人の女性だと想像していた。


「そうだな…

 確かに私も、最初は妙齢の女性をイメージしていた」

「だろ?

 それが少女みたいな姿だなんて」

「それに、こんな子供じみた悪戯とか…」


その先にも罠があるが、どれもよく見れば回避出来る簡単な罠だ。

しかもご丁寧に、見た目で分る様に設置されている。

これに掛かるのは、確かに余程のおっちょこちょいだろう。

二人はエルリックの方を見る。


「何だ?」

「これに引っ掛かるか…」

「ああ

 だが…」

「引っ掛からんぞ!」

「引っ掛かるな」

「ああ

 絶対に引っ掛かる」


「良いから!

 先に行くぞ!」

「あ、おい!」

「そんなに怒るなよ」


エルリックは憤慨して、先に進もうとする。

しかしその足元には、警告文と踏み込み式の罠が用意されていた。


カチッ!

「あ!」


「言わんこっちゃない」

「はあ…」

「うるさい!

 早く助けろよ」


その罠は老朽化していて、ロープもすっかり朽ちていた。

そこで助けるまでも無く、ロープはすぐに千切れてしまった。


「あ痛っ」

「はあ…

 先が思いやられる」


「しかし、こう古くなっていては…」

「ああ

 作動しない罠もあるだろうな」

「一応警戒は必要だが、そこまでの脅威でも無いか」


ギルバートは兵士達に合図して、再び先を確認させる。

今度は兵士達も、罠を警戒して進んでいる。

罠の周りには、必ず女神が何か記している。

それに注意していれば、罠に掛かる事も無かった。


一行はそのまま、罠を回避しながら進む。

進みながらも余裕が出て来たのか、兵士達も雑談を始める。


「女神様って少女みたいなのか…」

「まあ、その方が親近感があるな」

「そうそう」


「お前は単に、小さい女の子の方が良いんだろう」

「何を言っている!」

「いや

 こいつはイーセリア様の信者だからな」

「オレはジェニファー様が良いな…」

「おい!」


「はあ…

 あいつ等…」

「まあ、緊張しっぱなしだともたないからな」

「だからって…」


「そもそも何で、女神様は少女なんだ?」

「それは昔、英雄の一人が言ったらしい

 厳かなのも良いが、それじゃあ畏れられるって」

「へえ…」


エルリックは昔の英雄の話をする。

彼が何者かは知らないが、恐れ知らずにも女神様に警告したらしい。

それで女神様は、以降は少女の姿になられたというのだ。


「それはまた…」

「確かに厳ついお婆さんより、女の子の方が親しみ易いかもな」

「お婆さんって…」


エルリックは顔を顰めて、アーネストの方を睨む。


「そんなに睨むなよ

 もしお婆さんの姿だったら、お前もそんなに好きじゃあ無かっただろう?」

「そりゃあ…」


「おい

 やっぱりエルリックって」

「いやあ

 確かにセリアも女の子だが、だからって…」

「聞こえてるぞ!」


「私は少女趣味じゃあ無い!」

「説得力がねえ…」

「ああ」

「ふみゅう?」

「くそっ!」


エルリックが苛立っていると、前方から声がした。


「殿下!」

「今度は何だ?」

「それが…」


その先は石造りの回廊で、長く奥まで続いている。

問題はその先が、T字路になっている事だ。


「この先は?」

「それが…」

「曲がっていたり、同じT字路や十字路になっていて…」

「つまりは迷路か」

「ええ」


そこには罠は無かったが、広大な敷地を使って、大きな迷路が作られていた。


「こんな物まで…」

「ええ」

「それで行き止まりには、ここはハズレだよとか書かれていて…」

「はあ…」


一行は手分けして、迷路の正解を探す事になる。

幸い魔物や罠も無く、ただ迷路を進んでは戻る繰り返しになる。

それでも少しずつ進んで行き、遂には回廊を抜けられた。


「やっと出口か?」

「ええ

 どうやらその様ですね」


地面には文字が刻まれ、『おめでとう!出口だよ』と書かれていた。


「そろそろ…」

「ああ、ここで一旦野営をしよう」


何処かに外へ繋がる道があるのか、風が時々吹いている。

焚火をしても問題無さそうなので、一行は天幕を張って野営の準備をする。


「ここにも光苔があります

 炊事と暖を取る焚火で十分でしょう」

「そうだな」


焚火を囲んで、一行は食事を取り始めた。

まだまだ続きます。

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