表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
475/800

第475話

ギルバート達は、町や村から離れた場所に来ていた

そこは竜の背骨山脈の麓にある、小さな森の中だった

そこには心優しいオーク達が、穏やかに暮らす集落があった

そこでギルバート達は、オーク達から思わぬ歓待を受けていた

エルリックは朝から、不満そうな顔をしていた

何度妨害しようと、セリアはギルバートの方にべったりだった

兄である自分には、笑顔すら向けてくれない

それでイライラして、朝から肉に齧り付いていた


「いい加減諦めろよ」

「何をだ!」

「セリアの事だよ」

「ぐぬぬぬ…」


「お前がいくら反対しても、セリアの気持ちは変わらんぞ」

「それは…」


「それにな

 反対すれば反対するほど、余計に気持ちが燃え上がってしまう

 お前の持って来た本にも書かれていただろう?」

「それは!

 確かにそうだろうが…」


アーネストが手にしていたのは、エルリックがアルベルトに預けた本だった。

魔導書の翻訳に、魔導王国と帝国の言語の両方で書かれた本が必要だった。

それで渡した本だったが、それは子供に見せる様な本では無かった。

恋する大人の男女の、赤裸々な愛の形が描かれた読み物だった。


「こんな物を…

 オレは当時は、まだ子供だったんだぞ」

「仕方が無いだろう

 他に本が無かったんだ」

「だからって…

 本当に無かったのか?」

「ああ

 他は学術書や天体の仕組みの解析で…」

「何だ?

 それは?」


エルリックの言葉に、アーネストは興味深そうに食い付く。


「いや、難しい本ですし

 そもそも人間に与えられる知識ではありません」

「何だそれ?」

「秘密です」


エルリックはそう言って、首を振って拒否をする。


「そんなこと言って、こいつはお前の趣味じゃあ…」

「違いますって!

 それはアランに無理矢理持たされて…」

「アラン?」

「あ…

 何でも無いです」

「何でも無いって…」


尚もアーネストが聞きたがるが、エルリックは首を振って拒否する。


「言える事と言えない事があるんです」

「その…

 アランもか?」

「ええ」


「まさか…」

「いや!

 違いますよ」

「まだ言ってないだろう?」


エルリックが必死に拒絶するので、アーネストも肩を竦める。


「話題を変えましょう」

「変えるって…」


「そもそも、私達エルフは性欲は少ないんです

 その本も人間を勉強しろって…

 半ば強引に持たされまして…」

「それで表現や感情の籠った台詞に、線が引かれていたのか?」

「ええ

 詩人の勉強には役立ちました」


エルリックは肩を竦めると、背中からリュートを取り出す。

どこから取り出すのか分からないが、それは立派な木材で作られていた。

相当長く使っているのだろう。

木は滑らかに磨かれていた。


「詩人ねえ…」

「ええ

 英雄の感情や戦場の雰囲気を表現するのに、それは役立ちましてね」

「その割には、人間の男女の機微には疎いな」

「ぐぬ…」


「もういい加減、そっとして置いてやれよ」

「嫌ですよ

 あんな少年に妹を…」

「でも、セリアも本気だぞ?」

「それは…」


アーネストの言葉に、さすがにエルリックも落ち込んでいた。


「本気…

 何でしょうか?」

「ああ

 少なくともセリアは、ギルの事を本気で好きみたいだぞ?」

「何ででしょう?」

「はあ?」


「だって…

 さっきも言ったでしょう?

 エルフは元々、子供に関しては無関心なんです」

「ああ

 それで数が少なくなったって…」

「ええ

 ですから純粋種に近いイーセリアが、何でそんなに人間に固執するのか…」

「そりゃあ…

 それこそ男女の恋愛は、周りからは理解出来ないからだろ?」


アーネストはそう言って、先ほどの本を叩く。


「ここにも書かれていただろう?

 男女の思いは、最初は勘違いだって」

「勘違い?」

「ああ

 ギルは兄として、ずっとセリアの面倒を見て来た」

「そうでしょうが…」

「お前の代わりもな」

「ぐう…」


「それが兄への思慕から、恋愛に変わった

 それだけじゃ無いのか?」

「そうでしょうか?

 何かこう…

 もっと必死さを感じるんですが?」」

「必死?

 そうだな…」


確かにセリアは、妙に積極的だった。

フィオーナが焚き付けたのもあるだろうが、ギルバートの子供を欲しがっている節も見える。


「何で子供が欲しいんでしょう?」

「それは…

 寿命が短いから?」

「あいつが死んだら、それこそ悲しみに…」

「だから子供が欲しい

 そうなんじゃ無いのか?」

「そうなんでしょうか?」


エルリックに必死に聞かれるが、アーネストもそこまで詳しい訳では無い。


「まあ、こればっかりは本人達の気持ちだ

 オレ達じゃあ分からない」

「それはそうですが…」

「ほら、起きて来たぞ」

「ぐぬぬぬ…」

「やれやれ」


朝からギルバートに引っ付いて、セリアは上機嫌になっている。

それを見て、エルリックは再び唸り声を上げていた。


「朝から噛み付くなよ?」

「それは彼次第です」

「セリアじゃあ無いのか?」


どう見ても引っ付いているのは、セリアの方だった。

ギルバートは照れながら、胸元に抱き着くセリアに困っていた。


「おはよう」


ギルバートは焚火の近くに座り、セリアはその膝の上に座る。


「んふふふ♪」

「ぐぎぎぎ…」

「はあ…」


そんな三人の様子を見て、アーネストは溜息を吐いていた。


「さあ

 じゃれて無いで、食事が終わったら出発だ」


アーネストは先に食事を終わらせると、自身の支度を始める。


「友達

 これから何処に行く?」

「ああ

 あそこに向かう」


アーネストは洞窟を指差す。


「あそこは…」

「神様の居る…」


ハイオークは警戒して、この時初めて身構える。

そうして警戒しながら、アーネストを取り囲む。


「何しに行く?」

「そう

 神様に何をする?」

「ああ

 その神様と、お話をしに行くんだ」

「お話?」


ハイオークは構えを解くと、集まって話し始める。


「神様とお話?」

「何を話す?」

「オレ分からない」


「安心しろ

 みんな仲良くしよう、そうお話するんだ」


アーネストは笑顔を浮かべて、オーク達に微笑み掛ける。


「お話?」

「みんな仲良く?」

「ああ

 そうだ」

「それなら嬉しい♪」

「みんな仲良くする♪」


ハイオーク達は喜び、抱き合って笑い合う。

ハイオーク達の姿に、アーネストも嬉しそうに笑う。


「だから…

 行ってい良いよな?」

「ああ

 オレ達邪魔しない」

「神様に会ってくれ」


ハイオークはそう言って、アーネストを囲む事は止める。


「それですまないんだけど…」

「ん?」

「こいつ等を見ておいてくれ」

「ああ」

「分かった」

「オレ達世話する」


ハイオーク達は昨日に、兵士達が馬を世話する様子を見ていた。

それで馬を引き受けると、優しく撫で始めた。


「アーネスト様」

「大丈夫でしょうか?」

「信じてみようよ」


アーネストはそう言って、馬の事をハイオークに任せる事にする。


馬を任せる事で、安心して洞窟に潜る事が出来る。

兵士達に荷物を持たせて、アーネストは洞窟に入る準備をする。


「ほら

 帽子も被って…」

「うん」


ギルバートはセリアに、探索用の服を用意する。

それはドレスやワンピースでは無く、丈夫な革で編まれた吊りズボンだった。

セリアはそれを穿いて、丈夫な革靴を履く。


「うにゅう…

 重いよう…」

「はははは

 我慢しろ」

「そうですよ

 洞窟の中は危険が一杯なんですから」


セリアはゴワゴワした革のズボンに、顔を顰めていた。


「うにゅう…」

「動き回っていたら、すぐに柔らかくなるぞ」

「本当?」

「ああ」


セリアはギルバートの言葉を信じて、その恰好で野営地を走り回る。


「うんしょ、うんしょ」

「はははは」

「可愛い…」

「はあ

 ほどほどにしとけよ

 後で疲れても知らんぞ」

「はーい♪」


セリアは掛け声を上げながら、暫く野営地を走り回った。

それが効いたのか、ゴワゴワだったズボンは、少しだけ柔らかくなっていた。


「はみゅう~

 疲れた~」

「ほら

 言わんこっちゃない」


暫く走り回ったので、セリアは疲れて木陰に寝転がる。


「こら!

 服が汚れるぞ」

「ふみゅう

 疲れた!」

「はあ…」


アーネストは溜息を吐くと、ギルバートに鋭い視線を向ける。


「ギル」

「ん?」

「負ぶってやれ」

「はあ?」


「これからここに潜るんだ

 どうやって行く気だ?」

「え?

 それは…」


「セリアが大人しいのは良い事だ

 そのまま負ぶって行ってやれ」

「しかし…」

「序でにお前も大人しくなる

 一石二鳥だ」

「アーネスト

 お前!」

「さあ

 行くぞ」

「はい」


兵士達はアーネストの号令で、素早く隊列を組む。

既にこの事を予想して、セリアが大人しくなるのを待っていたのだ。


「これで大丈夫だ」

「ああ

 殿下と一緒なら、イーセリア様も大人しくされるだろう」


兵士も納得して、洞窟に向かって進み始める。


「行ってらっしゃい」

「お気を付けて」

「ああ

 あんた等もな」


見送るハイオークに手を振って、兵士達は洞窟に向けて進み始める。


「さあ

 諦めて負んぶするんだな」

「お前…

 計ったな!」

「はははは」

「お兄ちゃん

 抱っこ」

「ぬぐう…」


「抱っこでも良いぞ

 その方がより一層、不用意に前に出れなくなるだろうからな」

「くそっ」

「ふみゅう」

「ああ、はいはい

 負んぶで良いか?」

「抱っこ」

「無茶言うなよ

 前が見えなくなるだろう?」

「うううう」

「はあ…」


ギルバートは渋々従って、セリアを抱き抱える。

セリアは上機嫌になって、ギルバートの肩に手を回していた。


「ぬぎぎぎ…」

「さあ

 見たくないならオレ達は前に行くぞ」

「くそっ!」


悔しがるエルリックを引っ張り、アーネストは兵士達の後を追う。


「殿下

 オレ達も行きましょう」

「殿はオレ達に任せてください」

「ああ

 頼んだぞ」


ギルバートはセリアを抱っこしたままで、兵士達の後を追い掛ける。

そんなギルバートに抱き抱えられて、セリアは嬉しそうに胸に顔を埋める。


「にゅふふふ♪」

「こら

 くすぐったいって」

「お兄ちゃん♪」


「くそっ!」

「羨ましくなんか無いぞ」

「イーセリア様…」


兵士達はそんな姿を見ない様に、周囲を警戒する様に後ろを追った。

まともに前を見ていたら、二人のイチャ付く姿が視界に入るからだ。


「くそお!」

「泣くな

 オレまで悲しくなる」

「イーセリア様

 はあ、はあ」

「お前は周りを見ろ」


一人だけセリアを見て、興奮している兵士が居た。

そんな彼は他の兵士に叱られて、渋々周囲を見回す。


「そんなに警戒したって…」

「これは?」

「オレ達、洞窟に入ったんだよな?」


殿の兵士達も、その光景に目を奪われていた。

そこは暗い洞窟の中の筈なのに、周囲には光が溢れる。


「おい?

 ここは洞窟の中だよな?」

「ええ

 これは…」

「何で明るいんだ!」

「ですから説明を…」


「これは何だ?」


アーネストは走り出すと、壁に集まる光の塊を手にする。


「それが光苔です」

「光苔?」

「ギル

 凄いぞ!

 こんなに沢山の光苔が」


アーネストは嬉しそうに、周囲を走り回ってその塊を集めようとする。


「ストップ!」

「へ?」


アーネストが苔を集める事を、エルリックは止める。


「それを今集めちゃったら、道が分からなくなるだろ」

「あ…」


「帰りにゆっくり集めれるから

 今は先に進みましょう」

「はーい」


エルリックに促されて、アーネストは洞窟の先に進もうとする。


「よし!

 さっさと行って、女神様に…」

「ちょい待ち!」

「そうだぞ

 何があるか分からん」

「分からんって…

 ここはお前の…」


アーネストが進もうとすると、ギルバートとエルリックが止める。


「確かに明るいが、それでも光には斑がある」

「ああ

 それに…

 何処に罠があるかも分からない」

「罠?

 お前の住処だろ?」

「ああ

 そうだが、さっきも言った様に、普段は転移魔法を使っている

 だからここに入るのも、実は数十年ぶりになるんだ」

「数十年って…」

「そんなに使われていないのか?」

「ああ」


エルリックは哀しそうに頭を振る。


「苦心して刳り貫いたんだがな

 それからほとんど使っていないんだ」

「しかし住処が…」

「それはここの、上層に位置する

 ここは入り口に過ぎない」

「それじゃあここは?」


「ああ

 放ったらかしだった」

「威張って言う事か!」

「だからそれで、あのハイオークにも気が付いていなかったのか?」

「ああ

 まさかあんな者が住み着いて居たとはな…」


ハイオーク自身は、ここを神の住処だと判断していた。

だからほとんど入る事も無く、周囲に木で家を作っていた。

しかし中は、彼等自身も何があるか知らない様子だった。

エルリックが使わない間に、女神が何か仕掛けていても分からないのだ。


「そういう事だから

 女神様が何か仕掛けているかも知れない

 先ずは警戒して、ゆっくりと進もう」

「いや、自分の住処なのに分からないって…」

「本当にいい加減だな…」


ギルバートとアーネストは、肩を竦めて溜息を吐く。

兵士も同様に、エルリックのいい加減さに呆れていた。


「おい

 大丈夫なのか?」

「そうだな」

「何が起こるか分からんぞ」


「二人ずつで組んで、先ずは6人で確認しろ」

「はい」


ギルバートの指示に、兵士達は直ちに6人で集まる。

そうして剣を引き抜くと、頷き合って前方を睨む。

彼等は二人ずつで並ぶと、ゆっくりと奥に向かって進み始める。


「何があるか分からん

 何か見付けたら、すぐに…」

「うわあああ」

「何だ!」

「何事だ!」


入って行った兵士が、すぐに大声を上げる。

慌てて次の兵士達が、剣を構えて後を追った。

それは長い洞窟の探索の、始まりに過ぎなかった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ