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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第473話

翌日の夕暮れに、ギルバート達はノフカの町に辿り着く

そこで城門の兵士達に、捕まえた山賊達を引き渡す

兵士達には感謝されたが、ギルバートはそれ対して首を振る

こんな者達がが出ない様に、住民達の暮らしに気を配ってくれ

ギルバートはそう伝言を残して、町の宿屋に向かった

宿の2階で寛ぎながら、ギルバートは意識を集中する

しかし頑張ってみても、あの時の様な感覚は感じられ無い

僅かな魔力を集めて、掌を頭上に掲げてみる

そうして呪文を唱えても、僅かな光が漏れ出るだけだった


「やはり駄目か?」

「ああ

 見ての通りさ」

「それでも…

 一応発動はしているんだろう?」

「一応な」


アーネストの言葉に、向かいに座るエルリックが答える。

魔力の流れを見る限りは、どうやら魔法自体は発動出来ている。

しかしあの時とは、輝きが違っていた。


「何が違うのかな?」

「さあな?」

「うーん…」


ギルバートは唸りながら、繰り返し呪文を唱える。

しかし僅かな輝きだけで、その効果は目に見える事は無かった。


「こんな事なら光の精霊に会った時に、回復魔法も頼むんだったな」

「それはどうだろう?

 授かる魔法は本人の資質にも依るから」

「ギルじゃあ…」

「そうだな

 攻撃的だからな…」

「おい!

 お前達どういう目で私を…」

「いや、別に?」

「ええ

 神聖魔法を使えるだけでも、奇跡的ですからめ」

「ぐぬう」


ギルバートは悔しがっていたが、実際に奇跡に近いのだろう。

他に使える者は、帝国に居るマリアーナぐらいしか居なかった。

そんな彼女も、攻撃よりは簡単な治療の魔法と、悪しき者から身を守る魔法だけだった。


その後もギルバートは何度も試してみるが、先ほどの様な魔法は使えなかった。

周囲を光が包むが、先ほどの様な輝きを放つ事は無い。


「ぬうっ…」

「まあ…」

「偶然だったんだろう?」

「ぐぬぬぬ…」


何度も試してみるが、使えるのは先程ほどの威力の魔法では無い。

ホーリー・ライトの輝きが、薄っすらと周囲を照らすだけだった。

アーネストが同情する様な顔で、ギルバートの肩を叩く。


ポンポン!

「まあ、そのうち使える様になるさ」

「そうだな」

「エルリックは使えもしないだろう」


ギルバートは悔しがったが、結果は同じだった。


「むう!

 退屈!」

「あ…」

「ほら

 セリアの相手をしてやれ」

「セリア

 何ならお兄さんが…」

「いーだ!

 セリアはお兄ちゃんが良いの」


セリアはそう言うと、ギルバートの腕に絡み付く。

そのまま上機嫌になって、ギルバートの腕を引っ張って行く。


「あ…

 ああ…」

「振られたな」

「うるさい!」


エルリックは血の涙を流しながら、ブツブツと怨嗟の言葉を呟く。


「呪われろ呪われろ呪われろ…」

「そんな事してるから、余計に嫌われるんだろ」


アーネストは溜息を吐いて、魔導書を手にする。


ギルバートが神聖魔法を使えないのは、恐らく心の有り様なのだろう。

魔導書にも、神聖魔法は他者を慈しみ、救わんとする心が必要と書かれている。

その気持ちが強かったからこそ、駐屯地ではあれだけの力を発揮したのだ。

そう思えば、アーネストやエルリックが使えないのも納得が行く。


「慈しみか…」

「ん?」


「エルリックが使えないのは、その心が狭いからだろう」

「どういう意味だ?」

「まんまだよ

 心が狭いから、神聖魔法も応えてくれない」

「はん

 どうせ私は、心の狭い奴だよ」


エルリックはそう答えながら、どこかからリュートを取り出す。

そうして掻き鳴らしながら、音を調整する。


「そういうお前はどうなんだ?」

「ん?」

「それだけの魔力と才能があるのに…」

「ああ

 オレの心は、妻や娘と、親友の幸せにしか興味は無い」

「ふうん…」


エルリックはそう言いながら、リュートを奏で始める。


ある王国の王が、妻や息子を殺す哀しい物語だ。

彼は偉大な王として、一つの部族を纏める事に成功する。

しかしある夜に、突然狂ってしまった。

そうして妻や息子を殺すと、そのまま数夜を掛けて国を滅ぼす。


「何だよ…

 オレに対する当て付けか?」

「そうじゃあ無い

 妻や子供を大事にする事も大切だが…

 そればっかりだと道を踏み外す」

「それがその物語だと?」

「ああ

 そう伝えられている」


物語の中では語られていないが、そうなる様な事があったのだろう。

そうして王は、国を滅ぼす狂王となったのだ。


「彼に何があったのかは分からない

 しかし国を滅ぼすほどだ

 余程の事があったんだろう」

「国を滅ぼすねえ…」

「ああ

 後には何も残されなかったそうだ」

「ふうん…」


アーネストは聞き流し、魔導書を読んでいた。


「ん?

 残されなかったそうだ?」

「ああ

 今でも廃墟が…」

「それは事実に基づいてなのか?」

「ああ

 北の国の話でな

 今でもあそこは、氷漬けにされたままだ」


エルリックは肩を竦めて、興味無さそうに答える。


「いや、あそこは巨人の巣で…」

「それは魔導王国のせいだろ?

 その前には緑もあって、人が暮らせる王国も在ったそうだぞ」

「あんな場所にか?」

「ああ

 だからそれは、巨人が現れたからだ」


巨人の話には、いろんな逸話がある。

その中には吹雪を吐き、全てを凍らせる巨人の話もある。

エルリックが言っているのは、その巨人の事だろう。


「それじゃあ巨人が、そこを凍らせていると?」

「さあな?

 最初に凍らせたのは、その国王って話だけど?

 だけど今でも吹雪いているのは、氷の巨人の仕業って事になっている」

「それじゃあ巨人が住んでいるのも…」

「氷の巨人の影響だろうな」

「へえ…」


アーネストは感心して、他の物語もリクエストする。

エルリックも興に乗ったのか、何曲か奏でる。

いつしか兵士達も集まり、その曲に聴き入っていた。


「へえ…」

「色んな物語があるんだな?」

「本当の話しなんです?」


「そうだな

 私はそう聞かされて育った」

「案外オレ達の事も、そうやって物語になるのかもな」

「ハッピーエンドになれば良いですね」

「良いですねじゃない

 するんだよ」

「はははは」

「そうですね」


それからエルリックは、何曲か弾き語る。

それを聴きながら、兵士達は決意を漲らせる。

必ず成功させて、無事に帰って来ると。


翌朝の兵士達は、やる気に満ちた顔をしていた。


「殿下

 早く出発しましょう」

「ん?

 ああ…」


「必ず成功させましょう」

「女神様がどんな強力な魔物を用意していても、オレ達は負けません」

「ああ…」


ギルバートは驚いた顔をして、アーネストに尋ねる。


「アーネスト」

「いや

 オレは何も知らないぞ」


アーネストは首を振って否定する。


「それよりも

 折角彼等がやる気になっている」

「そうだな…」


さっそく出発の準備をすると、ギルバート達はノフカの城門に集まる。

あまり大々的にすると、町の住民達を不安にさせる。

兵士達の準備が出来たところで、静かに城門から出発した。


「ああ

 これから大きな冒険なのにな」

「でも、町の人達を不安にさせられない」

「そうだな」

「ああ

 オレ達が魔物を止めれば、それで全てが良くなる」


兵士達はそう話しながら、真剣な表情で馬を進める。


「どうしたんだ?

 いつもならもう少しふざけてたりするんだが…」


ギルバートは不安に思いながらも、兵士達の気持ちを尊重した。

そうして兵士達も、いつも以上に頑張ろうとしていた。


「前方にオークです!」

「数は12体」

「よし

 警戒しながら…」


「それぐらいならすぐに排除出来る

 行くぞ!」

「おう!」

「あ!

 ちょっと待て…」

「うおおおお」

「倒してやるぞ!」


兵士達は隊列を組むと、一気に魔物の集団に向かって行った。

そうして新調の鎌を振り上げると、一気に魔物を切り倒して行く。


「え?

 あいつ等あんなに強かったか?」

「ええ

 彼等は気持ちに斑があったので、その力を発揮出来なかっただけです」

「エルリック?」

「ほら」


エルリックの指摘通り、物の数分で彼等は、魔物の集団を全滅させる。

そうして魔石を回収すると、魔物の遺骸も処分した。


「殿下

 魔石は回収しました」

「ああ…」

「死体は手足を切断して、地面に埋めています」

「今さらオークの素材なんて、必要無いでしょう?」

「そう…だな」


「殿下?」


兵士達の様子に、ギルバートは戸惑っていた。

そしてそんなギルバートの様子に、兵士達も首を傾げる。


「どうされました?」

「いや!

 どうされましたじゃ無いだろ!

 お前達こそどうしたんだ?」

「はあ?」

「ええっと?」


ギルバートはいよいよ不安になり、兵士達に詰問する。


「何でこう…

 急にやる気になっているんだ?」

「え?」

「いつもならこう…

 殿下、どうしますか?とか

 殿下、ここは身を隠して進みましょうとか言ってるだろ?」


「はははは」

「そうですね」

「確かにそうかも?」


兵士達は苦笑いを浮かべて、ギルバートの評価に落胆する。


「確かに、今までのオレ達はそうでした」

「しかし昨晩、エルリック様の詩に感銘を受けました」

「何?」


ギルバートは驚き、馬車から顔を覗かせるエルリックを見る。


「英雄って、独りでは無いんですね」

「英雄の連れる兵士も、英雄に負けない勇気を持つ必要がある」

「だからオレ達も、もっとしっかりとしないといけない

 そう思ったんです」

「それはそうだろうが…」


ギルバートはエルリックを睨みながら、言葉を濁す。


「エルリック

 何をした?」

「私は何も?

 彼等に英雄譚をお聞かせしただけです」


「そうですよ」

「エルリック様は別に、何かした訳ではありません」

「オレ達の不甲斐なさを、気付かせてくれただけです」

「…」


ギルバートはエルリックと兵士を交互に見て、困惑した表情を浮かべる。


「良い事じゃ無いか?

 自分達の役割に気付いて、率先して戦う様になった

 成長した証拠だろ?」

「アーネスト

 しかしな…」


急にやる気になったからと言って、すぐに強くなる訳では無い。

こんな調子では、危険な魔物が現れたらどうするんだ?

ギルバートの心配は、まさにそこだった。


「オークだから良かったものの…」

「殿下」

「オレ達は自分達の強さを知っているつもりです」

「だからその強さが…」


「オレ達では、オーガやワイルド・ベアが精々です」

「それ以上の魔物となると、さすがにアーネスト様に確認しますよ」

「え?

 ああ…」


兵士達は、何も自分達の強さを過大評価してはいなかった。

オークだからこそ、すぐに倒せると踏んでいた。

そしてこのまま放置しては、他に被害が出る事も考えていたのだ。


「あのまま躱して進む事も出来ます」

「しかしそうしますと…」

「隊商や冒険者達に被害が出ますからね」

「お前達…」


ギルバートは兵士達の成長に、感激していた。


「泣いているんですか?」

「うるさい!

 大体、普段が不甲斐ないから…」

「はははは

 そうですね」

「すぐに殿下やアーネスト様を頼って、後方から見てる事が多かったですから」


兵士達はそう笑いながらも、自分達が如何に心配掛けていたか理解する。

そうして心配してくれるギルバートに、感謝もしていた。


「これからは、オレ達も頑張って戦います」

「まあ、オーガぐらいまででしょうが…」

「それでも殿下が恥じない様な、そんな兵士として戦いますよ」


兵士はそう言いながら、何故か決めポーズを取る。


「へ?」

「エルリック様に教えていただきました」

「強い男という物は、格好も付かないといけないって」

「さあ!

 殿下も一緒に!」

「嫌だよ!」


ギルバートは真剣な顔をして、断固として拒否する。


「何が恰好を付けるだ」

「いえ!

 こういうのは決めのポーズから…」

「そうですよ

 女神様も英雄達に、色んなポーズを授けていたそうです」

「初代皇帝はこう…」

「違う

 そこは首を斜め45度にして、腰に手を当てるんだ」

「だそうです」

「出来るか!」


「感動して損した気分だ!」


ギルバートは暫く、感動を返せと怒っていた。

しかしそのやり取りがあって、緊張感が解れる事になる。


その後もオークとコボルトが現れたが、ギルバートは兵士に任せていた。

今までは彼等には、逐一指示を出さなければならなかった。

しかし指示が無くとも、戦える事は大きな成長だった。


「まるで…」

「まるでダーナに居た頃の様だ」

「え?」


ギルバートの呟きを、アーネストが続ける。


「アルベルト様が居て、ヘンディー将軍が居て

 魔物の襲撃も上手く抑えられていたな」

「ああ

 そうだな…」


アーネストは馬車から身を乗り出し、ギルバートに話し掛ける。


「ここ数年は、あれほどの練度の兵士は居なかったからな」

「そうでも無いぞ?

 ジョナサンもしっかりしてたし…」

「それでも王都が落ちる、半年ぐらいの事だろう?」

「そりゃまあ…

 そうだけど」


ギルバートは懐かしく思い、思わず空を見上げる。


「むう!

 もっとぎゅっとして」

「はははは」

「そうやってセリアを抱っこして、戦場には出れなかっただろ」

「そうだな」


兵士達の頑張りを見せる為に、ギルバートはセリアを前に乗せていた。

そうしてセリアの姿を確認すると、兵士はなおも一層頑張っていた。


「頑張り過ぎて怪我しなければ良いが…」

「そうは言ってもな

 兵士の半数はセリアの信者だぞ」

「信者って…」


「今じゃあお前よりも、セリアの方が大事って奴も居る」

「おい!

 それは問題じゃあ…」

「はははは

 表面上は、お前の方が大事って事なんだ

 問題無いだろう?」


アーネストはそう言いながら、前方を指差す。


「そろそろ見えて来たぞ」

「ああ」


ノフカの町を出てから1日が経ち、いよいよその姿が見えて来る。

前方にそびえる険しい山脈。

あの竜の背骨山脈に、女神様と会話出来る場所があるのだ。

この旅もそろそろ、大詰めに近付いていた。

まだまだ続きます。

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