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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第472話

ギルバート達が立ち寄った、駐屯地は何者かに襲われていた

最初は山賊かと思われたが、彼等はそれ程の力を持っていなかった

ここを襲ったのは、魔王ムルムルだった

再びムルムルは、ギルバート達の前に立ち塞がった

何とか負の魔力を追い払い、ギルバートはムルムルを解放する

しかし彼は、死霊を討ち祓う際に巻き込まれてしまう

ギルバートの放つ神聖魔法の光が、彼の身体を激しく焼き尽くした

彼はその光に耐えられず、塵一つ残さず焼き尽くされた


「え?

 あれ?」

「何て事を…」

「へ?

 何が起こった?」


そこにあった筈のムルムルの身体は、ギルバートの放つ光に焼き尽くされた。


「ムルムル?」

「何て事を!

 よりによってムルムルまで殺す事は無かったでしょう」

『え…っと』

「ムルムル?

 さっきのはムルムルだったのか?

 それじゃあこの死霊も…」

『あのう…』


「何も殺す必要は無かったでしょう」

「そんな事言っても…」

「今のはギルがやったのか?」


三人が騒いでる横で、兵士達は呆然と眺めていた。


「そもそもエルリックが!」

「私は死霊を攻撃する様に言ったんです

 それをムルムルまで焼き殺すなんて」

「今のは神聖魔法か?

 ギル

 どうやって…」

『おーい』


「ん?」

『勝手に殺すな―!』

「え?」

「あれ?」


三人がよく見ると、ムルムルがあった場所に何かの影の様な物が見える。


「あれ?」

『あのなあ…

 私も魔王だぞ

 聖魔両属性が存在するんだ』

「あ…」


エルリックは何か思い出した様子で、罰が悪そうに頭を掻く。


シュオー!


ムルムルが居た場所に、ゆっくりと光が集まり始めた。


「これは?」

「ムルムルの本体です」

「え?

 でもさっき…」

「あれは闇の属性の方の身体で、殻の様な物ですね」

「ちょ!

 エルリック!」

「はははは…」


「ふう

 死んだと思ったよ」

「生きているんかい!」

「いや、死んでいるよ

 私はアンデットだし」

「どっちだよ!」


ギルバートとアーネストが突っ込む中、光り輝くムルムルが立ち上がる。


「よっこらせ」

「全く…」

「魔王ってみんな、こんな出鱈目なのか?」

「そうですね

 アモンは心臓が複数ありますし、ベヘモットも雌雄別々の身体を持ちます」

「って事は?

 エルリックも?」

「それは無い」

「そうですよ

 フェイト・スピナーはほとんど、人間と変わりません」


ムルムルが否定して、エルリックも首を振る。


「だからこいつは、使徒の中でも最弱な部類に入る」

「あなた達面白変態集団と比べないでください」


エルリックは憤慨するが、それもそうだろう。

死霊な筈なのに、ムルムルは神聖魔法で焼き尽くされても平気だった。

しかも光り輝き、神聖な雰囲気を漂わせている。

背中にも翼が生えて、まるで別人の様な姿になっていた。


「…って翼?」

「ん?」

「ああ

 精属性になったから、天使の身体になってますね」

「あ…

 これか?」


ムルムルは思い出した様に、背中の翼を広げる。


「今までも纏っていたんだがな…」

「え?」

「あの襤褸の様なローブ

 実はこの翼を擬態化した物です」

「そう言う事だ」


ムルムルはそう言うと、翼を畳んで身体を覆う。

それは純白のローブに変わり、ムルムルの姿も輝きを抑えた。


「へえ…」

「便利でしょう?」

「お前が自慢するな」

「そんな事よりも!

 何でここに居るんだ?」

「あ…」

「アーネストは聞いていないのか」


戦いに必死だったので、アーネストは会話を聞いている暇は無かった。

ここで改めて、4人で座って話し始める。

兵士達はその横で、死霊が這い出た穴を塞ぎ始めた。

死霊は焼き尽くされたが、その穴はそのまま残されていたからだ。


「なるほど…

 女神様の指示で」

「ああ

 直接では無かったが、神託が下されてな」

「しかし逆らえ無かったのか?」

「無理を言うな

 いきなり声が聞こえたと思ったら、既に負の魔力の影響かだ

 後はここに来るまで、ほとんど意識は残っていなかったさ」

「だろうな

 かなりの魔力が込められていた

 あれじゃあ抵抗も出来ないだろう」

「それに、私は闇の属性だ

 今みたいに光の属性なら、影響も無かったんだが…」


言いながらムルムルは、自身の身体を見る。


「そのう…

 最初からその恰好なら、女神様に操られる事も無かったんじゃ…」

「無理を言うな

 私が魔王になった時には、負の感情から死霊として蘇ったんだ

 この身体になれたのも、単なる偶然だからな」


ギルバートに負の魔力ごと焼き尽くされていなければ、今でもムルムルは死霊のままだっただろう。

光の属性の身体に変わったのは、偶然に近しい事だった。


「それじゃあ今後は…」

「いや

 人間が負の感情を抱く以上、少しづつ影響は受ける

 現にほら…」


ムルムルの身体の一部が、少しだけ汚れた様に濁っている。


「あいつ等の負の感情が、私の魔力を濁らせている」

「そんな…」

「それじゃああいつ等を」

「いや、それでも他の者から、やはり同じ様に影響を受けるだろう

 魔王とはそういう物なんだ」

「そうか…」


山賊に限らず、人間は少なからず悪い感情も持ち合わせている。

完全な負の感情を持たない者など、この世界には居ないのかも知れない。

そうした負の感情が、負の魔力となって影響を受ける。

それはギルバートも同じだった。


「しかし…

 今回はギルは大丈夫だったな?」

「ああ、それか?

 それは聖属性に目覚めたからだろう

 神聖魔法を身に着けているからな」

「そうだ!

 さっきの神聖魔法だろ?

 どこであんな物を…」


アーネストは目を輝かせて、ギルバートに詰め寄る。


「おい…」

「本当に知らないのか?」

「え?」

「光の精霊に会ったんだろう?

 そこで授かったんじゃあ…」

「あ…」


アーネストは何かを思い出し、視線を逸らそうとする。


「アーネスト!」

「やっぱり知っているんじゃないか!」

「いや、そういえば精霊がさ、何か言っていた様な?

 はははは…」

「ははははじゃ無いだろう」

「そうだぞ!

 知っていれば最初っから、こんな苦労はしなかっただろう」


二人に詰め寄られて、アーネストは必死に誤魔化そうとする。

そんな様子を見て、ムルムルは立ち上がる。


「ムルムル?」

「私は行くよ」

「一緒に来ないのか?」

「ああ…」


「女神の…

 女神様の正体に関しては、確かに気になる」

「それなら…」

「だが、一緒に行けば、私はまた操られるだろう」

「それは…」


今は光の力で、天使の身体に変わっている。

しかしいつ何時、再び魔王の姿に戻るか分からない。

そうなった時に、ムルムルは再びギルバート達に向かって来るだろう。


「私はまた、自分の住処に戻る」

「あそこか?

 しかしあそこは…」

「ああ

 晴らされぬ帝国の民の、怨嗟の声が鳴り響いている

 しかしこの身体なら…

 少しは浄化させてやれるんじゃないか、そう思うんだ」


ムルムルはそう言って、寂しそうに笑った。


「何だ?

 何処に行く気なんだ?」

「死の街だよ」

「死の街って…」

「危険な場所だよ」

「そうですね…」


ギルバートは意識が無かったので、その街の話は詳しくは知らない。

しかしアーネストから聞いて、どんな場所かは知っていた。


「ん?」

「何だ?」

「いや、何で危険だって…」

「そりゃあこいつ等が、私の住処にまで来たからな」

「はあ?」


エルリックが素っ頓狂な声を上げる。


「何だってあんな危険な場所に?」

「そりゃあ帝国の馬鹿貴族に追われて…」

「それで向かったのか?

 しかしそれじゃあ…」

「ああ

 ギルにも影響してな、かなりヤバかったよ」

「ヤバかったって…

 よく無事だったな」

「無事って…」

「私が押さえていたからな」

「そりゃあそうだけど…」

「ん?」


エルリックとムルムルの様子に、アーネストは不思議そうに質問する。


「そんなに危険なのか?」

「ああ

 あそこは封印されているんだぞ」

「そうだ

 私がそこの門番でな、押さえられていなければ…」

「いなければ?」

「嘗ての魔王が甦っていたかもな」

「魔王?」

「ああ

 あそこは霊廟だからな」


「帝国の初期に、魔王が一柱…

 あそこに封印されたんだ」

「そうだ

 私も直接は関わっていないが、酷く危険な奴でな

 女神様に封印されているんだ」

「え?

 そんな場所だったのか?」

「ああ

 負の魔力が充満していただろう?」


ムルムルはそう言って、肩を竦めた。

確かにアーネストも、不気味な魔力を感じていた。

しかしそれは、ムルムルが発していると思っていた。

実はそれは、封じられた魔王から漏れ出ていたのだ。


「それじゃあ街が滅んだのは?」

「ああ

 その魔王が封じ込められた時にだ

 その時にも多くの死者が出てな…」

「ムルムルは関わっていないだろう?」

「だが、父からは話を聞いている」


そう語るムルムルを見て、ギルバートはふと父親の顔を思い出す。


「ん?」

「いや、何となく…

 ムルムルが父上に似てるって思って」

「止せよ

 アルベルトの鼻垂れ小僧と一緒にするな」

「鼻垂れ小僧って…」


改めてムルムルの素顔を見るが、確かにアルベルトやハルバートに似ている。

しかしギルバートは、それが同じ帝国人だからだと思っていた。


「霊廟か…」

「魔王を封じているんだろう?

 危険じゃないか?」

「ああ

 しかしそこを封じる事も、魔王である私の仕事だ」

「しかし…」


「なあに

 お前のおかげで、この身体になれたんだ

 暫くは封印の作業も楽になるだろう」


ムルムルはそう言うと、ゆっくりと駐屯地の隅に移動する。


「気を付けて行け

 女神は邪悪な存在かも知れない」

「ああ

 今回の事で、より確信が持てたよ」

「じゃあな」


ムルムルは転移魔法を使って、その場から姿を消した。

残されたギルバート達は、エルリックの方を見る。


「ムルムルはああ言っていたけど…

 大丈夫なのか?」

「さあな?」

「さあなって…」

「まあ、少なくとも

 暫くは聖属性の力を取り戻している」

「そうだな

 元の神聖魔法の使い手なら、少しは浄化出来るんじゃ無いか?」

「アーネストまで…

 大丈夫なのか?」


ギルバートは心配するが、こちらも大変なのだ。


「それよりも…」

「そうだな」


アーネストとエルリックは、呆然とする山賊達の方を見る。


「へ?」

「はははは…

 オレ達はどうすれば?」

「そうだな

 明日にでもノフカの兵に引き渡す」

「そんな!」

「まだ何もしてませんぜ」

「しようとしてただろう」


兵士達に一喝されて、山賊達は大人しくなる。


「明日も忙しくなりそうだ…」

「そうだな」

「ああ

 早く食事にしてくれ

 腹が減ったよ」

「エルリック…」


兵士達が支度をしていたが、死霊の騒ぎですっかり遅くなっていた。

兵士達は慌てて、食事の支度を始める。


「そうだ!

 セリアがまだ馬車の中だ」

「外に出してなかって良かったな」

「ああ

 あんなの見てたら、卒倒してただろう」


ギルバートは馬車に向かい、セリアの姿を探す。

セリアは待ちくたびれたのか、中で横になって眠っていた。


「うにゅう?

 お兄ちゃん?」

「ああ

 遅くなってすまなかった」

「くちゃい!」

「え?」

「おにいひゃんくひゃい」


セリアが鼻を摘まんで、不満そうな顔をした。

そこでギルバートは、駐屯地の中に腐臭が漂っている事に気が付いた。

死霊は浄化されたが、その腐敗臭は残されたままだったのだ。


「ムルムルめ…」

「くちゃあいい」

「分かった分かった」


ギルバートとセリアの遣り取りを見て、兵士達も改めて周囲を嗅ぐ。


「確かにこれは…」

「どうにかなりませんか?」

「ううむ…」

「仕方が無いな」


アーネストが指示を出して、良い匂いのする香草を集めさせる。

駐屯地の中では少ないので、慌てて外にも探しに出させる。

そうして集めた香草を、ゆくりと焚火の側で燻した。


「これで少しはマシだろう」

「ええ」

「しかし…」

「傍迷惑な奴でしたね」


傍迷惑程度で済んだのは、ムルムルが完全に操られていなかったからだろう。

あそこで意識を取り戻せていなければ、もう暫くは死霊と戦う事になっただろう。

そうすれば腐りかけた、死霊の腐肉が辺りに散らばっていた筈だ。

早目に浄化出来た事で、被害は少なくて済んでいた。


「怪我人は居ないか?」

「軽傷の者が居ます」

「ポーションでよく洗い流しておけ

 身体に悪そうだからな」

「はい」


「ギルの神聖魔法が、回復の魔法だったらな…」

「すまない」

「私が見る限りでも、攻撃や浄化の魔法に特化しているみたいですね」

「まあ、仕方が無いさ」


兵士達の手当てが終わる頃には、食事の準備が整う。

山賊達にも仕方が無いので、見張りを付けてパンだけが渡される。

そうして遅くなったが、食事が始められた。


駐屯地の中は、アーネストが焚いた香の香りが漂っている。

それは単に死者の腐臭を隠す為だけでなく、心に安らぎを与える。

そんな香草を選んで、アーネストが集めさせたからだ。

それで駐屯地には、穏やかな時が訪れていた。


「さっきまでの騒がしさが、嘘の様だな?」

「ああ

 原因はあそこに居るがな」


山賊達も香が効いたのか、大人しくなっている。

最早追い詰められて、悪い事に手を出す意思も失っている。

このまま兵士に引き渡して、罪人としてやり直す事になるだろう。

しかし原因となった存在は、未だにこの世界には健在している。


「女神様の事も、何とかなれば良いが…」

「そうだな」


アーネストはそう言うと、スープを飲み干して立ち上がった。


「それにはオレ達も、もっと抗える力を着けなきゃな」

「力か…」

「ああ

 神聖魔法、あれを使いこなせないと」

「そうだな」


ギルバートは頷くと、再び魔法を使ってみようと意識を沈める。

しかし先ほどの様な、明白な力を感じられ無かった。


「あれ?」

「ギル?」

「使えないみたいだ…」

「ええ!」


駐屯地の中に、アーネストの絶叫が響いていた。

まだまだ続きます。

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