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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第471話

ギルバート達は、襲撃して来た山賊を捕らえた

しかし彼等は、どう見ても強そうに見えなかった

何と言うか、食い詰めて山賊の真似事を始めた様にしか見えない

そう考えると、ここで殺しを行った者には見えなかった

山賊達は兵士達に怯えて、頭を下げて命乞いをする

とても死体を焼き払ったり、隊商を襲った様には見えなかった

アーネストは不審に思いながら、彼等を尋問させる

しかし予想通り、彼等からは大した情報は得られなかった


「アーネスト様

 やはり彼等は違うみたいです」

「ここまで隊商を追ったのは認めましたが…

 冒険者達に追い返されたそうです」

「だろうな

 どう考えても、こいつ等では無理だろう」


アーネストもそう考えていた。

確かに剣は持っているが、この装備ではまともに戦えないだろう。

大方山賊の真似はしているが、まだまともな稼ぎは得て無いのだろう。


「おい!」

「は、はい」

「反省はしているのか?」

「はい

 もう二度としません」


「そうだな

 お前等じゃあ、どんなに頑張っても山賊など無理だろう」

「はい…」

「地道に牢屋で反省して、農民からやり直せ」


「でも…」

「ん?」

「それが嫌で飛び出して来まして…

 へへへへ…」

「ふざけるな!

 それならここで、今すぐ斬首だ!」

「ひいい!」

「もう許してやれよ」


怯える山賊達を見て、ギルバートが止めに入る。


「これでも鍛えれば、町の警備にぐらいは使えるかも知れん」

「しかし…」

「後はノフカの町に預けて、そこの領主に任せよう」

「ううむ…」


アーネストは不満そうだったが、確かにアーネストには決定権は無い。

町に引き渡すからには、そこの領主の裁量に任せるしか無いのだ。

ノフカのアレハンドラなら、彼等をどう使うか考えるだろう。

これ以上の尋問は、ただの八つ当たりにしかなりそうに無かった。


「そうだな

 問題はこっちの事か」

「ああ

 こいつ等じゃ無いんなら…」

「そうだ!」


アーネストは振り返り、エルリックにさっきの結果を確認する。


「エルリック

 さっきの魔法の結果は…」

「使った主が現れた様だぞ」


急に辺りがうすら寒くなり、うなじがゾワゾワする感覚を味わう。

それはまるで、危険な魔物が目の前に迫る時の様だった。


「な!」

「これは?」


兵士達も異変に気付き、再び剣を抜き放つ。


「慌てるな!

 円陣を組んで、周囲に警戒しろ」

「周囲にって、何処にですか?」

「そうですよ

 ここには我々しか…」


兵士は戸惑い、周囲をキョロキョロと見回す。

しかしここに来た時に、念入りに調べはしていた。

だからこの野営地には、彼等と山賊しか居ない筈だった。


「強い迫力を感じるな…」

「ああ

 これは…魔力の波動か?」

「気を付けて!

 そこから出ますよ」

「出るって?」


エルリックの叫びに、兵士達は慌ててその場を離れる。


「ひいっ!」

「今、足元から手が?」

「な、何なんだ!」


兵士達が逃げた場所から、地面がゆっくりと持ち上がる。

そしてそこから、人間の手が生えて来た。

そのままそこに居たら、兵士は足を掴まれていただろう。


それからゆっくりと、手の数は増えて行く。

それは肉が着いていない、骨だけの手も混じっている。


「死霊か!」

「そうなると!」

「ええ」


アーネストは周囲を見回す。

エルリックも呪文を唱えて、魔力の流れを可視化する。


「そこか!」


エルリックは短剣を腰から引き抜き、素早く投擲する。


カシーン!

カラカラン!


「ふん!

 私の魔法を見破るとは…

 貴様は何者だ?」

「やはりムルムルか」

「私を知っている?」


ムルムルはエルリックを睨み、警戒しながら杖を振り翳す。


「行け!

 我が僕たちよ!」

「させるか!

 フレイム・ウオール」

ゴウッ!

パチパチ!


アーネストが呪文を唱えて、炎の柱を吹き上がらせる。

野営地に火柱が立ち昇り、周囲を明るく照らす。

そこには地下から死体が這い出て、人間達に襲い掛からんとしていた。


「こいつ等は生ける死体だ!

 死体はそのまま燃やしてしまえ」

「しかし、骨だけの死霊もいますよ」


兵士は松明や火の着いた枝を手に、懸命に死体を殴り付ける。

しかし骸骨の死霊は、それをものともとしない。


「骨は打撃で壊せる

 動きが素早いから気を付けろ」

「はい」


兵士は剣を構えると、そのまま剣を叩き付ける様に振り回す。

切ると言うより打撃で、骨を打ち砕く為だ。

中には火の着いた枝で、そのままぶん殴っている者も居る。

しかし骸骨は素早く、なかなか効果的な打撃は与えられない。


「くふふふふ

 貴様らも死んで、私の僕となるのだ」

「そうはさせないぞ」

「ああ

 どういうつもりなのか、話してもらおうか」


ギルバートとエルリックが、ムルムルの前に立ち塞がる。

死霊は兵士達に任せて、操っているムルムルを押さえるつもりだ。


「貴様等は何者だ?

 私の名も知っている様だが…」

「何?」

「ギルバート

 奴は操られている」

「操られている?」


ムルムルはエルリックを見据えると、怪訝そうに首を傾げる。


「私を操るだと?

 そんな者がこの世に…」

「私やギルバートを覚えていない

 それが操られている証拠だろう」

「ギルバー…

 くっ

 覇王の卵…」


不意にムルムルの様子が変わる。

肩を震わせて、見えない何かを必死に振り払おうとする。


「止せ!

 私を…」

「ムルムル?」

「やはりな…」


「私を…

 操るな!」

バシュオーッ!


周囲に黒い霧の様に、魔力が吹き出し始める。


「くっ!

 何だこれ?」

「ムルムルを操っていた魔力だ

 気を付けろ!」


その黒い靄自体は、何も害を感じさせない。

しかしギルバートは、それに触れると気持ち悪い感覚に襲われる。

腹の底から、何かどす黒い物が這い上がって来る様な感覚だ。


「油断するな!

 また負の魔力に侵されるぞ」

「くっ!」


ギルバートは慌てて、その黒い靄から身体を離す。

どうやらこの靄の様な物は、アモンを操っていた物と同じ様だ。


「という事は…」

「ああ」


「はあ、はあ…

 くそっ!

 女神め…」


ムルムルは肩で息をして、ゆっくりと立ち上がる。


「また操られていたのか?」

「貴様はエルリック?

 こんな所で何をしている」

「私はギルバートを連れて、女神様の端末に向かっている」

「端末だ?

 それでか」


ムルムルは何か知っているらしく、悔しそうに肩を震わせる。


「ムルムル

 何か知って…」

「おい、小僧!

 どうでも良いから、早くこの靄を何とかしてくれ」

「え?」


「今の私は闇の属性なんだ

 多少は抵抗出来るが…

 影響を受けやすいんだ」

「何とかって…」

「お前?

 聖なる属性に目覚めてるんだろう?」

「そうだよ

 こんなのちゃちゃっと、神聖魔法で何とかしなよ」

「何とかって…

 それに神聖魔法って?」

「はあ?」

「おい…」


ムルムルもエルリックも、ギルバートに呆れた様な顔をする。

何か間違った事を言ったかと、ギルバートは思わず後ずさる。


「え?

 光の精霊に会ったんだろう?」

「その精属性は何の為にあるんだ?」

「へ?」


「はあ…

 おい!

 エルリック」

「そう言われてもな…」

「おいおい

 何なんだよ」


二人の呆れた様子に、ギルバートは困惑する。


「光の精霊に、神聖魔法の力を授かっただろう?」

「その身体から発せられる光が、何よりの証だろうが」

「え?

 そんな事を言われても…」


ギルバートは回答に困り、思わずアーネストの方を見る。

しかしアーネストも、死霊を封じるので手一杯だ。

とてもギルバートの事を気にしている余裕は無かった。


「おい、エルリック

 あんたならこいつに、神聖魔法を教えてやれるだろ?」

「ううん…」

「聖魔両方が使えるのが、使徒の条件だって言ってじゃないか」

「え?

 エルリックも使えるのか?

 それじゃあ…」


「使えるけど…」

「使えないんだよ

 こいつは持ち前の魔力不足で、里を逃げ出して来たからな」

「はあ?」

「逃げ出して無いぞ」

「魔力がほとんど無いから、里で暮らすのが嫌になったって…

 そう言ってなかったか?」

「ぐぬう…」


エルリックは、エルフの思想が嫌で飛び出したと言っていた。

しかし実は、別の理由があったのだ。

それを知られたくなくて、あんな事を言っていたのだ。


「良いから…

 しょうがないな」

「へ?」

「先ずは腹の底に意識を集中してみろ」

「え?

 ああ」


ムルムルに言われて、ギルバートは目を瞑る。


「そこに光を感じないか?」

「ひか…

 なんだか暖かな…」

「よし!

 それに意識を集中しながら…

 魔石や能力を使う感覚で、掌にそれを集めてみろ」

「能力…

 魔石…」


ギルバートはブツブツ言いながら、懸命に意識を集中する。


「早くしろ

 私も長くはもたんぞ」

「わかってるって

 それで?

 どうすれば…」


「何か頭に浮かばないか?」

「文字?

 呪文?」

「ああ

 それを唱えながら、光を放って…」


ギルバートは手を頭上に掲げると、呪文を呟く。


「我、大いなる光の精霊に乞わん

 汝が光を持って、暗き束縛から解き放て

 ターン・アンデット」

シュバーッ!


ギルバートの掌から、光が迸る。

それは死霊の頭上に降り注ぎ、死霊の身体を崩して行った。


「おお!」

「おおじゃねえよ!

 違うだろ!」

「え?」


どうやらその呪文は、ムルムルが要望する物とは違った様だ。

死霊の半数を打ち崩したが、黒い靄はそのまま健在だった。


「違うんだよ

 もっとこう…

 なんというかな」

「え?

 どうすれば…」

「そうだな…

 周りの人々を救いたいという…

 光?

 女神に祈る様な?」

「女神様に?」


ギルバートはもう一度、目を閉じて深く呼吸をする。

そうして一心に祈り、何かを感じようとする。


「光よ…

 大いなる光よ

 汝が翼を広げ、邪悪なる波動を打ち滅ぼせ

 ホーリー・サークル」


今度は上手く行った様子だった。

暖かな光が溢れ、足元に輝く魔法陣が描かれる。


「うーん

 まあ、及第点かな?」

「へえ…

 ホーリー・サークルか」


黒い靄は光に掻き消されて、その空間には入れなかった。


「はあ…

 これで何とか落ち着ける」


ムルムルはそう言いながら、光のサークルの中に腰を下ろす。


「え…っと

 大丈夫なのか?」


ギルバートが指差す先には、ムルムルの身体がじりじりと焼かれている。

聖なる光に触れて、彼の身体は焼かれているのだ。


「ああ

 この程度ならな」

「ムルムルは闇の属性だからな」

「しょうが無いだろう

 完全な闇の属性の、リッチにならないだけマシさ」

「立地?」

「まあ、それは良いのだが…」


ムルムルは姿勢を正すと、ギルバートに頭を下げる。


「すまなかった

 また女神様に操られていた

 おかげで助かった」

「操られていたって…」

「ああ

 恐らくはお前達を、足止めする時間稼ぎだな」

「時間稼ぎ?」


ギルバートはエルリックの方を向く。


「ああ

 時間稼ぎしている間に、何か用意しているんだろう」

「という事は、歓迎は…」

「されていないんだろう」


こちらは話し合いに向かっているのに、女神は殺す気満々でいるのだ。

だからムルムルを寄越したり、魔物を集めているのだろう。

ここ数日魔物が減っているのは、やはりギルバート達を殺す為なのだろう。


「直接は会ってはいないが…

 あれは本当に女神様なのか?」

「ん?」

「お前が言っていた様な、輝く様な神聖な感じはしなかったぞ」

「…」

「エルリック?」


「こいつは私の後輩に当たる者で…

 女神様に会う時は、私は同席していなかったんだ」

「ああ

 ザクソンを落とした後は、私は一人で向かったからな」


ムルムルが魔王に襲名する時、エルリックは同席していなかった。

その時から、どうやら女神は別人の様だった。


「なんて言うのか?

 邪悪な感じがしたな

 少なくとも、私と同じぐらい人間を憎悪してる

 そんな感じだった」

「ふうむ…

 その前に会ったのは、帝国が出来る前だったからな」


「エルリックが会ったのって?」

「魔導王国に国が滅ぼされ時と、初代皇帝を引き合わせた時かな?」

「その頃は、まだ女神様は…」

「ああ

 人間を信じておられて、輝く様な笑顔を浮かべられていた」

「そうなると…

 皇帝が亡くなられた後からなのか?」

「そうだな

 あの頃から、眠りに着かれていた筈だ」


「おい!

 こっちも手伝ってくれ」

「あ!」

「しょうがないなあ

 ギルバート」


アーネストは悲鳴に近い声を上げて、懸命に火球を飛ばす。

数が減ったとはいえ、まだ死霊は健在だった。


「さっきみたいに神聖魔法を使うんだ」

「おい!

 止め…」

「ようし!」


ギルバートはさっきので、何となくコツを掴みかけていた。

そこで広範囲に、死霊を払える魔法を思い浮かべる。

意識を集中すると、そこに何かの文字が浮かんで来る。

それを読み上げる様に、意識を掌に集中させる。


アーネストの魔法も、こうやって使っているのかな?


ギルバートはそう考えながら、目を見開いて死霊達を捉える。


「聖なる光よ

 邪悪なる僕を討ち祓え

 ホーリー・ライト」

「おお!

 神聖魔法の攻撃魔法か

 なかなかやるな」

「ぐぎゃあああ」

「え?」

「あ…」


聖なる光が迸り、周囲の黒い靄を焼き尽くす。

次いで死霊達を包み込むと、それも焼き尽くしていった。

そうして光は、当然後方にも届いていた。

次にムルムルを包み込むと、そのまま光は彼を浄化する。


「ぐぎゃあああ…」

「マズい!」

「え?」

ジュオオオ!

ボシュッ!


輝く光はムルムルをも包み込み、その身体を激しく焼き尽くす。

元々ホーリー・サークルに包まれ、弱体化をされていた。

そんな彼に容赦なく、弱点属性の光が降り注ぐ。

結果は激しく燃え上がって、彼を跡形も無く焼き尽くした。


シュー…チリチリ!


襤褸のローブも焼き尽くし、全てが灰となって消え失せる。

そこには彼の姿は、跡形も残されていなかった。

まだまだ続きます。

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