第470話
ギルバートは兵士を率いて、女神様に会いに向かっていた
少しでも急ぐ為に、トスノの街には立ち寄らずに通過する
そうして公道の途中の、兵士が見張っていた駐屯地に到着する
今は兵士は、魔物の対策で駐屯地には常駐していない
しかし城門は、不自然に開け放たれたままだった
ギルバート達が駐屯地の中に入った時、既に中は荒らされていた
中には血の臭いが残されていたが、誰も生きている者は居ない
そして焼け焦げた馬車の残骸や兵舎の中に、無残な死体が残されていた
しかし死体の数は、明らかに少なかった
「これは…」
「襲撃の後でしょうね」
「ああ
しかし死体が少ない
生き残りは何処に行ったんだ?」
馬車の数は4台ある。
そこから考えて、20名は越えていた筈だ。
しかし焼け焦げた死体は、僅かに6名分しか無かった。
それなら残りの、10名以上の者はどうなったのか?」
「まさかな…」
ギルバートは周囲の状況から、これは魔物の襲撃とは思えなかった。
この状況を見る限り、まるで人間に襲われた後の様に見える。
襲撃して火を放ち、生き残りを連れ去る。
そんな状況にしか見えなかった。
「魔物にしては、随分と手際がいい
まるで山賊か何かに、襲われた後にしか見えない」
「そう言われれば…」
兵士達も馬車や、逃げ込んだ兵舎が燃やされている事に不審感を感じていた。
魔物が襲ったのなら、食料や人間を食らっていただろう。
しかしここには、その様な痕跡が残されていなかった。
殺された者も、そのまま焼き捨てられた様に見える。
「山賊ですか?」
「ううむ…
他国が攻め込む余裕も無ければ、そんな話も聞かない
そう考えれば、隊商の荷が目当ての山賊か…」
「ええ
そう考えるのが普通です」
「そうだな…
そうなんだよな」
しかし山賊の仕業にしても、わざわざ積み荷ごと馬車を焼く必要があるのか?
折角奪いに来たのに、それでは襲った意味が無いだろう
それに襲われた者達は、一体何処に行ったのか?
周囲を見回してみたが、それを示す痕跡は残されていなかった。
まるで襲撃者から逃げ出した様に、積み荷もそのままで姿を消していた。
「これではまるで…
彼等から逃げる為に火を放ったとしか…」
「え?」
「まさか?」
ギルバートの言葉に、兵士達も違和感の正体に気付く。
言われてみれば確かに変なのだ。
襲われてきて逃げたのなら、何で焼け崩れた馬車の下敷きになっていたのか。
兵舎の方の死体も、崩された壁の下敷きになっていた。
焼けた様子から見ても、わざわざ殺してから焼いている様に見えた。
「殺す時に焼けたと言うより…」
「殺してから焼いた?」
「ああ
そう考えると筋が通る」
わざわざ殺して、丁寧に焼いている。
そこに違和感を感じていたのだ。
「ですが、死霊にならない為に…」
「わざわざ?
その山賊なり生き残りが、死体を焼いて供養したのか?」
「それは…」
山賊が襲ったのなら、死体はそのまま放置するだろう。
殺した相手を、わざわざ焼く必要があるとは思えない。
そして仲間が焼いたのなら、その仲間は何処へ行ったのか?
少なくとも死体の様子から、死後数日が経過している。
それなら先日の隊商や、トスノの兵士も何か聞いているだろう。
「私達がここに来るまで、ここで襲撃があった様な話は聞いていない」
「確かにそうですが…」
「ですがこれが初めてとか?」
「それは無いだろう
例え山賊の襲撃にしても、ここに居ないんだからな」
「あ…」
山賊が襲撃したのなら、ここにそのまま籠った筈だろう。
なんせこの駐屯地は、拠点にするにはちょうど良かった。
隊商が訪れるだろうし、何よりも魔物に襲われ難い。
門を閉めていれば、そのまま立て籠もれるからだ。
「他に拠点が…」
「何処に?
この近くには村とか無かった筈だが?」
「そういえば…」
村がある場所は、ここから少し離れている。
だからこそ公道に、こんな駐屯地が造られていたのだから。
「他に拠点を築くにしても、そうなれば相当な人数になるな
そうすれば…」
「王都や領地に報告が来ていますね」
「そんな話は、ここ数年ありません」
魔物が増えてから、町や村の外の者も多くが移住している。
城壁が無い場所では、安心して暮らせないからだ。
いくら山賊だからと言っても、魔物には敵わないだろう。
だからここ数年、山賊行為の被害はほとんど無かった。
「それなら何が…
ここを襲ったんでしょう?」
「そうだな
門は調べたか?」
「え?」
「よく見てみろ」
ギルバートに言われて、兵士達は門を詳しく検分する。
「外からでは無いですね」
「そうだよな
これは内側からの傷だ」
門には幾つかの、剣による物と思える傷が残されている。
しかしそれは、門の内側にしか無かった。
「ここで戦ったんだろうな」
「え?
ですが…」
「この傷では外からと言うより…」
「ああ
この門の中で戦いが起こった
その痕だろう」
魔物や山賊が襲撃したにしては、傷の付き方が不自然だった。
「アーネスト」
「ああ
オレも同じ考えだ」
「ここの中で何かが起こって…
仲間割れでも起きたのか?」
「そうだな
それで殺し合いでも始まった」
「え?
それじゃあ…」
「ああ
考えられるのは、冒険者が戦った…」
「そうだ!
冒険者達も見当たらない」
ギルバートの言葉に、兵士達も改めて気が付いた。
護衛に着いていた筈の、冒険者の姿見当たらないのだ。
「隊商だったのなら、護衛が居た筈です」
「その護衛に着いていた、冒険者は何処へ?」
焼け残りから推察しても、馬車は貴族の物には見えなかった。
荷物を主に載せる、隊商がよく使う荷馬車しか無かったからだ。
しかしそれなら、護衛に冒険者を雇っていた筈だ。
だが、肝心の冒険者達の姿は、この近くには見当たらなかった。
「いずれにせよ、警戒は必要だな」
「はい」
「詳しい検分は後だ、門を閉めて野営の支度をするぞ」
「え?
この中でですか?」
「そうだが?」
ギルバートは当然の様に言うが、兵士達は気まずそうな顔をする。
「死人が出た場所で…」
「ああ
遺体は死霊に成らない様に、手足を切って丁重に埋葬するぞ
彼等は被害者だからな」
「は、はあ…」
兵士達はギルバートの、豪胆さに顔を見合わせて溜息を吐く。
「よくこんな場所で…」
「焼け死んだ死体もあるんだぜ?」
「ううむ…」
「聞こえてるぞ」
「え?」
「はははは…」
「私も安全な場所があれば、そこに移っているさ
しかし外には、山賊や魔物が居る可能性もある」
「それは…」
「それにな、襲撃者が居るのなら、再びここに来る可能性もある」
「え?」
「ここに?」
「折角襲ったのに、荷物はこんな状態だ
また次の襲撃の為に、この周辺に居る可能性が高い」
「それじゃあ危険じゃあ…」
「大丈夫だろ?
お前達が居るんだ」
「う!」
「い?」
「周囲の警戒を頼むぞ!」
ギルバートはそう言うと、自分でも安全の確認をする為、駐屯地の中を調べ始めた。
「どう思う?」
「ん?
アーネストはどうなんだ?」
「オレは…」
アーネストも隣に並んで、杖の先の魔石で周囲を照らす。
既に駐屯地の中は、薄暗くなっている。
兵士達は慌てて、焚火に火を点けて灯りを点す。
そうして松明を掲げると、焼け焦げた死体を運び始めた。
「手足を切断って…」
「ここまで焼けていたらな…」
兵士が持っただけで、死体は脆く崩れて行く。
そのまま広場に掘った穴に、死体を丁寧に埋葬する。
そうして埋めた穴の上に、墓石代わりに崩れた兵舎の外壁の石を載せる。
「迷わず成仏してください」
「女神様の下に、無事に着けます様に」
「化けて出ないでくれよ」
「おい!」
「お前なあ」
「はへ?」
「言うなよ!
出て来たらどうするんだ!」
「そうだぞ
オレだって言葉を選んでなあ…」
「でも、出て来て欲しく無いだろう?」
「だからって…」
「そんな事言ったら、余計に出て来そうだろうが!」
「騒がしいな…」
「不安なんだろ」
兵士達が騒ぐ様子を見て、ギルバートは肩を竦める。
「あんな状態だ
死霊になっても大した物じゃあ無いだろう」
「それはそうだが…
相手が死霊だから、怖くて不安なんだろう」
「怖いって…
私は魔物の方が怖いがな」
「お前なあ…」
ギルバートに呆れながら、アーネストは足元の地面を照らす。
「あ!
これは?」
「うむ
明らかな剣の痕だな」
「おい
いい加減腹が減ったぞ」
「うるさい」
「エルリック
少しは自分で用意しろよ」
ギルバートは様子を見に来たエルリックの、人任せな言葉に反論する。
「こっちは調べ物を…」
「セリアが腹を空かせている」
「あ…」
「ギル…」
アーネストが何か言う前に、ギルバートは慌てて馬車に向かった。
駐屯地の様子に驚き、すっかりセリアの事を忘れていたのだ。
「それで?
何を調べているんだ?」
「ああ
ここを襲撃した奴の痕跡だ」
「そんなの調べてどうするんだ?」
「また襲ってきたら困るだろ?」
「それもそうか…」
エルリックは納得すると、短く呪文を唱える。
「おお!」
「何だ?
トーチの魔法だぞ」
「灯りの魔法なんて、習って無いからな」
「そうか?
そういえば…」
「生活魔法のほとんども、帝国が失わせたからな」
「そうか…」
エルリックは納得すると、さらに幾つか呪文を唱える。
エルリックが呪文を唱える度に、周囲に魔力が拡散する様子が伝わる。
アーネストはその様子に、目を輝かせて周囲を見回す。
「凄い!
これは何の魔法だ?」
「ああ
魔力の流れを見たり、魔力が収束した痕を調べる魔法だ」
「へえ…
それで?」
「まあ、ちょっと待て
ふむふむ…」
エルリックが魔力を操作すると、馬車の周りに淡い紫の光が浮かび上がる。
「あの辺りで使ったな」
「使った?」
「ああ
それでこっちに…」
エルリックが魔力を手繰ると、それは青く輝きながら流れて行く。
その様子を見守っていると、不意に広場が騒がしくなる。
「何だ?」
「折角これからってところで…」
アーネスト達が話している間に、駐屯地の入り口には人だかりが出来ていた。
そこには武器を手にした、兵士達が集まっていた。
最初は門を、一人の男が叩いていた。
「こんばんわ」
「何だ?」
「そこに入れて欲しいんですが…」
男は道に迷って、駐屯地に灯りが点いているの見付けた。
それで中に入れて欲しいという事だった。
「道に迷いまして困っているんです」
「しかし…」
「おい
一人ぐらいなら…」
「そうだな」
兵士達は警戒しながら、門の閂を上げる。
そこで男は急に、乱暴に門を押し開けた。
「今だ!
一気に雪崩れ込め!」
「ヒャッハー!]
「食い物と荷物を…」
男に続いて、一気に武装した男達が雪崩れ込む。
しかし入り口には、10名以上の兵士が立っていた。
しかも何か起こった時の為に、兵士達は剣を抜いて身構えていた。
「へ?」
「で?
何をどうするって?」
雪崩れ込んで来た男達は、あっという間に兵士に囲まれる。
その数は10名で、鎧も身に着けずに剣だけを手にしていた。
だから兵士に囲まれると、一気に戦意を失っていた。
「え…」
「あ…」
「何をするつもりだったのかな?」
兵士達はニヤニヤ笑いながら、剣を構えて男達を囲んだ。
「お、おい
何が商人だ」
「だって灯りが点いていて…」
「残念だったな」
「オレ達は兵士だ」
「ここを襲ったのは、貴様らだな」
兵士達は顔を険しくして、非道な山賊達を取り囲む。
「隊商を襲っていたのは、お前達だな」
「積み荷ごと焼き払うだなんて…」
「今度は貴様等を、そのまま焼き殺してやる」
凄む兵士達に、山賊はすっかり怯えていた。
「ひいいっ」
「許してください
ほんの出来心なんです」
「おがあぢゃ~ん」
山賊達は泣きながら、地面に頭を擦り付けて謝り始めた。
「おい!」
「ああ
こんな奴等に殺されたのか?」
兵士達は疑問に思い、アーネストの方を振り返る。
「アーネスト様!」
「こいつ等どうします?」
ここでアーネストは入り口の騒ぎに気が付いた。
「折角これからってところで…
何なんだ?」
アーネストが振り返ると、兵士達が男達を取り囲む様子が見えた。
「そいつ等はどうしたんだ?」
アーネストはそう言いながら、兵士達が居る入り口に向かった。
「それが山賊みたいでして…」
「我々を隊商と思って、襲いに来たみたいです」
「はあ?
山賊だと?」
アーネストは男達を見て、些か呆れた様な顔をする。
どう見ても彼等は、そこらの有り合わせの剣を拾って来た素人に見えた。
とてもじゃ無いが、ここを襲った山賊には見えない。
むしろ食い詰めた農民が、戦場跡で拾った剣で山賊の真似事をしている様にしか見えなかった。
「お前達!
ここを襲った山賊か?」
「ひいい!
すいません」
「ほんの出来心だったんです」
怯える山賊達を前に、アーネストは溜息を吐く。
「ここを襲ったのは、お前達で間違い無いか?」
「はい」
「灯りが見えまして…
それで…」
「それで商人達を殺して、死体はどうしたんだ?」
「へ?」
「殺す?」
ここで山賊達は、会話が嚙み合って無い事に気が付く。
「襲うって…」
「先日の追い返された事ですか?」
「追い返された?」
「ええ
屈強な冒険者が居たので、オレ達は必死に逃げて…」
「逃げて?
殺して無いのか?」
「は、はい!」
「オレ達は何も取れず…」
「食う物にも困ってこうして…」
「へへへへ…」
アーネストは呆れた顔で、兵士達の方を向いた。
「おい!
こいつ等を拘束しろ」
「はい」
「ひい!」
「勘弁してください」
「ゆるして!」
「だずげで~」
兵士達は縄を用意すると、山賊達の手足を縛る。
そうして男達を一纏めに括り付けると、広場の隅に連れて行った。
「ううん…」
「どうしたんです?」
「ああ
あいつ等じゃ無さそうなんだ」
アーネストはそう言って、男達を見る。
「するとここを襲ったのは、一体何者なのか…」
アーネストは思案しながら、男達の方を見ていた。
まだまだ続きます。
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