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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第469話

ギルバート達は、朝早くからリュバンニの街を旅立つ

そのまま何事も無く、一行は公道の途中の駐屯地に辿り着く

そこはこの1年ほど、兵士の守りも無く放置されていた

本来はリュバンニか、トスノの街から衛兵が派遣される

しかし魔物の襲撃が増えてからは、兵士を配属する余裕はどこにも無かった

兵士達の居ない駐屯地は、門を固く閉ざされている

中から炊事の煙が上がっているので、そこに人が居るのは確実だった

しかし衛兵の姿は無く、その周辺では冒険者達が立って周囲を警戒していた

どうやら彼等が、ここを野営に使っている様子だった


「止まれ!」

「ここに近付くのは何用だ?」


ギルバート達の姿を見て、冒険者達は警戒して身構える。


「私はギルバート

 この紋章を見れば分かるよな?」

「王太子殿下?」

「これは失礼しました」


冒険者達は慌てて跪くと、頭を垂れて恭順の意思を示す。


「そんなに畏まらなくても良いよ

 しかし何でここに居るんだ?」

「はい

 侯爵様のご厚意で、旅の安全の為に立ち寄らせて頂いてます」

「侯爵?

 バルトフェルド様かな?」

「はい

 隊商の安全な移動の為に、立ち寄って使って良いとの事でして…」


冒険者達の話では、隊商の為にバルトフェルドが、駐屯地を解放していると言うのだ。

本来は兵士が立っているのだが、今ではその兵士を向かわせる余裕が無い。

それで自分達の自己責任になるが、駐屯地を使って良いと許可が出たのだ。


「それで野営を?」

「はい」

「しかし危険じゃないか?」

「ええ

 普段は門も鍵が掛かっていません

 ですから魔物が入り込む可能性もあります」

「しかし大概がゴブリンやコボルトです

 ついでに我々が討伐しますので、領主様も安心という訳で…」

「なるほど…」


リュバンニで兵士達が、駐屯地を使う様に勧めていた。

これは兵士達も、駐屯地の現状を知っていたからだ。

魔物を一掃すれば、後は門を閉めて安全な野営が出来る。

そういう意味では駐屯地は、安全な場所と言えるだろう。


「私達も使っても良いかな?」

「はい」

「しかし中は…」

「そうだな

 先に隊商が入っているんだ

 我々は中で天幕を使うよ」

「それでは殿下に…」

「気にするな

 警備は兵士達も手伝わせる」

「すいません」


ギルバートは隊商に気を遣って、身分は明かさずに中に入る。

中に入ると共に旅する者として、隊商の者達も歓迎してくれた。

隊商達の邪魔にならない様に、ギルバート達は駐屯地の空き地に天幕を張った。

そうして野営の火を囲んで、しばし和やかな夕食が行われる。


「はははは

 そうですか、これから山脈に」

「ええ」

「あそこは冬は危険です

 急がれた方がよろしいですよ」

「そうですね」


ギルバートは商人達と、火を囲んで和やかに談笑する。


「なんで殿下が…」

「そう言うな

 そんな思想が選民思想に繋がる」

「しかし…」

「我々の方が後から入ったんだ

 不満なら外で寝るか?」

「それは…」


さすがに兵士も、この状況で外で寝たいとは思わない。

昼は安全でも、夜は真っ暗になるので何が起こるか分からない。

真っ暗な中では、魔物に襲われても対処が難しいだろう。


「分かったら不満は溢すな」

「ああ…」


兵士はそう言うと、冒険者と交代して外に立つ。

外は本当に真っ暗で、駐屯地から漏れる灯りしか光源が無かった。

油断して接近されれば、格好の的にされるだろう。

兵士は音と気配を頼りに、周囲を警戒して見回す。


「このまま何事もありません様に…」

「心配性だねえ

 何も起こらないよ」


冒険者はそう言って、周囲を見回りに回る。

彼等は明るい内に、周囲を見回って確認している。

だから周囲には魔物が居ないと安心していた。


「こんな状況でも、隊商は行われるんだな?」

「ああ

 隊商が居なければ、流通が滞るからな」

「ふうん…」


「それに、オレ達冒険者の訓練にもなる

 だから隊商は続けられているんだ」

「訓練にねえ…」

「ああ

 大概がゴブリンやコボルトだ

 偶にオークも出るが、腕利きの冒険者なら何とかなる」

「オークも倒しているのか?」

「リーダーは何体も倒している

 スキルも身に着けたらしいしな」

「へえ…」


称号に関しては口にしないので、どうやらスキルだけ身に着けているのだろう。

兵士は興味を持って、身体強化についても確認する。


「身体強化はどうなんだ?」

「それは…」

「ん?」

「長時間は無理だな

 オレでも1時間ぐらいしかもたない」

「そうか…」


正式な訓練を受けていないので、彼等は完全には使いこなせていない。

しかし短時間でも、どうやら使う事は出来るらしい。


「訓練はしないのか?」

「ああ

 生活で目一杯だからな

 こうして旅に出ながら、魔物との戦いで使う

 それぐらいしか使う暇は無いさ」

「そうか…」


冒険者になる者は、生活が苦しいか冒険者に憧れた者達だ。

しかし実際は、生活するのもやっとの状況だ。

依頼を受けていないと、資材や武器を買う金も稼げない。

メンテナンスもほとんどが自分でして、どうしょうも無い時だけ鍛冶屋に預けている。

冒険者という者は、なかなかに稼げない仕事なのだ。


「兵士には…

 ならないのか?」

「止してくれよ

 オレ達は規律に縛られたく無い者や、荒くれ者がほとんどだ

 兵士としてやって行けないからこそ、冒険者になる者がほとんどだ」

「そうか…」

「まあ…

 若い者には兵士になった方が良さそうな者も居るがな…」


兵士として働けないから、冒険者や狩人として生活する。

そういった者達は軍規に縛られる事を嫌い、気儘に生活する事を好む。

だからこそ兵士には、なりたいと思う者はほとんど居ない。


兵士と冒険者はその後も時々雑談をする。

あの町の娘は可愛かったとか、どの酒場が安かったとか他愛もない話ばかりだ。

魔物が出ない事に安心して、彼等は雑談をしながら見張りをしていた。


「といった状況で…」

「しかしそれはな、領主が考えるべき仕事だ」

「ですが冒険者達が、生活が苦しいのは確かです」

「何の話をしてるんだ?」


ギルバートは朝から、兵士に嘆願をされていた。

冒険者達が生活が苦しく、満足な訓練が受けられないという事だ。

しかし生活が苦しと言っても、ほとんどが彼等自身が望んだ結果だ。

ある意味自業自得と言う物だろう。


「冒険者達ねえ…」

「ええ

 生活が苦しいので、訓練をする時間も無い様で…」

「それは仕方が無いだろう?

 彼等は生活の為に依頼をこなしているんだ」

「しかし…」

「それにな、彼等を無償で訓練する余裕など、今の王都には無いぞ」

「それは…」


アーネストの言葉に、兵士は悔しそうに俯いた。


「気持ちは分かるがな

 今はどこも、満足な暮らしを出来ない状況なんだ」

「ああ

 魔物が少なければな…」

「そうですか…」


兵士は納得出来ないという顔をして、ギルバート達の前から立ち去る。


「昨晩は一緒に警備をして、随分と仲良くしてたみたいだ」

「そうだな

 しかし…」

「ああ

 確かに冒険者に関しては、私も問題が多いと思う」


ダーナでも冒険者達は、生活に追われて満足な訓練を出来ていなかった。

それが短時間だけでも、身体強化を使える様にまでなっている。

そう考えれば、少しはマシになっていると思われる。


「訓練か…」

「ダーナでも行ったが…」

「ああ

 結局ほとんどの冒険者達が、生活に追われて満足な訓練は出来なかったな」


兵士の気持ちも分かるが、結局は余裕が無いのだ。

ギルバートは冒険者達と挨拶をして、駐屯地を立ち去った。

これから彼等は、リュバンニに向けて進む事になる。

途中に魔物は居なかったので、襲われる可能性は低いだろう。


「彼等が強くなる方法か…」

「え?」

「いや、何でも無い」


ギルバートは頭を振ると、兵士に何でも無いと答える。

今はそんな事に、意識を取られている場合では無かった。


「無事に着かないとな」

「ええ

 この先も暫くは、魔物が見られていません」

「魔物が居ないか…

 変だな?」


冒険者達に聞いた話では、ここ数日魔物の数が減っているそうだった。

それで公道の安全が確保されるのならと、隊商の者達は喜んでいた。

しかし冒険者達も、何か嫌な予感を感じていた。

急に魔物が少なくなる、理由になりそうな事が無いからだ。


「少し肌寒いが、まだ冬には早い」

「え?

 まあ、そうですね?」


兵士はギルバートの発言の意味が分からず、首を傾げる。


「だからと言って、何処かの町が襲撃されたとか、大規模な討伐の話も聞かない」

「そうですね

 もしそんな事があったら、却ってここに魔物が押し寄せそうですが」

「何でだ?」

「そりゃあ魔物が一ヶ所に集まれば、他の魔物は逃げ出しますよ

 それに討伐が行われた場合も、逃げ出した魔物が来る可能性もあります」

「そうか

 それもそうだな…」


兵士の言葉に、ギルバートは納得して頷く。


「前方に魔物です!」

「ゴブリンですが…」

「現れたみたいですよ」

「そうだな

 全滅した訳では無さそうだ…」


「例えゴブリンでも、公道の脅威となり得る

 一気に殲滅しろ」

「はい」


ギルバートの号令に、兵士達は馬を駆って魔物に向かって行った。

ゴブリンの数は40体ほどで、大した脅威では無かった。

そしてワイルド・ボアも連れていたので、肉の確保も出来た。


「ワイルド・ボアが4体

 これは嬉しい報酬ですね」

「ああ

 そのまま解体して、半分は樽に詰めておけ」

「塩漬けですか?

 しかし塩が…」

「もうすぐトスノだろ?

 立ち寄りはしないが、塩だけ買って来てくれ」

「分かりました」


必要な物資をメモして、数名の兵士に買い物に向かわせる。

残りの肉は火を通して、さっそく昼食に使われる事になった。

トスノの近くの広場で、ギルバート達は簡単な野営をする。


「彼等が買い物に行っている間に休憩だ」

「あいつ等の分はどうします?」

「ちゃんと焼いて取って置いてやれ

 パンにでも挟めば良いだろう」

「はい」


兵士はパンに切り込みを入れると、そこに野菜と焼いた肉を挟む。

それを綺麗な布に包んで、買い物に行った兵士達に渡す準備をする。


「いやあ

 良いタイミングで狩れましたね」

「ああ

 塩に漬けておけば、保存も効くからな」


本格的に干したり、塩漬けにする必要は無い。

数日もつ様に、軽く塩を振って保存するだけだ。

後は新鮮な肉が無くなった時に、塩を払い落として焼けば良いだろう。


「スープに入れても良いですね」

「ああ

 しかしそこまで…」

「ええ

 そんな長い旅では無いですから…」


野菜は町に近付いた時に買えば良い。

だから肉だけを、事前に干し肉にして用意していた。

だからワイルド・ボアの肉も、無理に必要な物では無かった。


「ま、まあ

 臨時に美味い肉が手に入ったって考えれば…」

「酒のつまみなら良いんですが

 却って荷物になりますね」

「ううむ

 なんだか贅沢な悩みだな」


買い物に向かった兵士達が戻ったところで、一行は再び出発する。

ここから頑張って進めば、ノフカとの間の駐屯地に到着出来るだろう。

そうすれば翌日には、ノフカの町で休む事も出来る。


「すまないが君達は、馬で食べてくれ」

「はい

 しかし塩は…」

「まあ、そんなに必要は無いだろう」


トスノの街に向かった兵士は、塩を求めて店を回った。

しかしちょうど隊商が出たばかりで、思ったほど塩は残されていなかった。


「すいません」

「いや、数日もたせれれば良いだろう

 これは料理用に取って置こう」

「はい」


少量の塩では、却って掛けない方が良さそうだった。

肉はそのまま樽に入れて、野営の時に使われる事になった。


「先日の隊商達から、買っておけば良かったですね」

「そうだな

 まあ、今は涼しいから、そんなに傷まないだろう」


樽を乗せて、一行は再び出発する。

今度はトスノの街の先にある、ノフカとの間にある駐屯地だ。

夕日が差し掛かる頃に、一行はその駐屯地に到着した。

駐屯地の門は開け放たれており、中からは血の臭いが漂っていた。


「これは…」

「中で何かあったな」

「ええ

 気を付けてください」


兵士達は剣を引き抜き、ゆっくりと馬を降りて近付く。

門の中の広場には、半壊した馬車が4台、焼け焦げて残されていた。


「うっ…」

「これは…」


馬車の残骸を持ち上げると、そこに焼け焦げた死体が見付かる。


「逃げ込んでみたものの…

 ここで全滅か?」

「そうだろうな

 あっちを見ろ」


兵舎の一部も焼けて、そこに焼けた死体が転がっていた。


「酷いな…」

「ああ

 殿下にお願いして、死体の始末をしよう」

「そうだな」


兵士達は戻ると、中の状況を説明した。


「死体か…」

「死霊になられても困る

 埋めて供養してあげよう」


アーネストも賛成して、手分けして死体が集められる。

しかし焼け焦げた死体以外には、死体は見付からなかった。


「変だな?

 死体を持ち去った?」

「さあ?

 しかしオーガが暴れた痕にしては…」

「そうだよな

 これはどう見ても…」


襲撃を行った魔物は、明らかに大型の魔物では無いだろう。

火が点いた理由は分からないが、破壊された痕は武器による物だった。


「これじゃあむしろ…」

「ああ

 魔物と言うより、人間の仕業だな」


襲撃された痕跡だけを見ると、人間同士が争ったと見る方が自然だった。


「何だか嫌な予感がするな…」

「ああ

 しかし今夜は…」


既に外は薄暗くなっている。

不安はあるものの、ここで野営した方が安全だろう。

ギルバートは兵士に野営の準備をさせて、自身は壊された兵舎を見に向かった。

報告では無く、自分の目で確かめたかったのだ。


「ここに死体が…」


ギルバートは破壊されて、燃やされた外壁を調べる。

しかし見た目には、何者かが武器を振り回して、破壊した痕にしか見えなかった。

それに死体も妙だった。

ここで殺したのなら、わざわざ焼く必要も無かっただろう。


「まさか…な」


ギルバートはそう呟くと、他に痕跡が残されていないか、駐屯地の中を調べる。

しかし何かを示す様な痕跡は、駐屯地の中では見付からなかった。

まだまだ続きます。

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