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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第461話

王都に帰還したギルバートは、直ちにオーガの素材を加工する様に指示を出す

その際に倉庫に保管されていた、ワイルド・ベアの素材も供給する

それを使って、新たな装備の開発を依頼する為だ

帝国の使っていた剣は、王国の剣とは違っていたからだ

それは振り易さと加工のし易さに重点を置き、片刃の反った形状をしていた

直刃の剣と違って、片方を固く鋭くさせている

その独特な形状は、王都の職人には馴染みの無い加工方法だった

しかし職人達は、不満を漏らす事無く加工に試みる

それは未知の武器に対する、職人としての興味があったからだ


「これは面白いですよ」

「面白い?」

「ええ

 重さで切るのでは無く、素早く切り付ける事に重点を置いています」


職人はそう言って、自身でも剣を振るってみる。

職人の様に剣に慣れていない者でも、その剣は振れる重さなのだろう。


「なるほど…

 しかしそうなると…」

「ええ

 こっちを肉厚にしても、結局は強度に問題が出ます」

「うーん…」


王都の魔鉱石を叩いた剣に比べると、その剣は薄く軽かった。

しかしその分、強度に不安が残るのだ。


「そこで新たな魔鉱石の登場です」

「新たな?」

「ええ

 殿下が用意してくださったこの素材

 より魔力を込めて練り込めます」


職工長はそう言って、炉で熱心に掻き回す職人を指差す。

そこではワイルド・ベアの骨粉を練り込み、職人が鉄鉱石を溶かしている。


「それで?

 魔力が込められるとどうなる?」

「ルーンを刻んで強化を出来ます」

「強化か…」

「ええ

 ですが今までよりは良くなりますよ」


そう言って職工長は工房の隅に視線を向ける。

そこには途中で折れた、帝国の剣を真似た剣の残骸が置かれている。

魔鉱石で打ったなら、それなりの武器になると期待はされていた。

しかし実際に打ってみて、それがなかなか難しいと思い知らされた。


見た目こそは似せれたが、実際に打ちあってみたら大して変わらなかったのだ。

魔鉱石の直剣には打ち負けて、真ん中の辺りからポッキリと折れてしまった。

そこで職人達は、より頑丈になる様に工夫をしていた。

しかし作業が難航して、ギルバートに素材の使用を求めていたのだ。


「まだ試作ですが…

 こいつはアーマド・ボアの素材を使いました」

「へえ…

 どこでそんな物を?」

「それが…」


職工長は、前のギルマスが国王に一式作った際に、余った端材を残していたと語る。

しかしその端材も、ギルドが崩れた際に紛失していた。


「それが先日、瓦礫の下から見付かったんです

 まあ剣が二振り程度の量でしたが…」

「へえ…」


ギルバートは剣を受け取ると、試しにそれを振ってみる。

しかし違和感を覚えて、元の帝国の剣も振るってみる。


「どうですか?」

「うーん…

 何て言うんだろう?」

「固いでしょう?」

「そう、それだ!

 何だか振るった感じが違うんだ」

「さすがは殿下です

 よく剣の違いが分かっておられる」


職工長はうんうんと頷くと、剣の腹をハンマーで軽く叩く。


カン!

カシーン!


「ね?

 固いでしょう?」

「ああ…」


帝国の剣は柔らかく、一瞬だがたわんでいる。

しかし魔鉱石の剣は、ハンマーの衝撃を受け流せなかった。


「これが兵士達の言うには、そのまま衝撃が手に掛かるそうです

 ワシ等には分からないんですがね」

「なるほど…」


「それがワイルド・ベアの素材では、衝撃を吸収するみたいですね

 それで鎧のプレートには向いているみたいでして…」

「そういえば陛下も、試しに振るって言っていたな」


国王は一式を身に着けた際に、剣は振り難そうにしていた。

元々ギルバートは、武骨な大剣を気に入って使用していた。

だから細剣や軽めの剣の特性は、ギルバートには分かり難い物だった。

その頑丈な装備一式も、今は国王と共に巨人に踏み砕かれていた。

あれがオーガであったなら、衝撃を多少は吸収していたのかも知れない。


「ワイルド・ボアの鎧か…」

「まあ、巨人の様な理不尽な存在には、どんな装備も関係無さそうですが」

「そうだな

 しかしそんな違いがあったとは…」


ギルバートは城に戻ったら、他の素材も探してみる事にする。

確かアーマド・ボアの素材も、少しは残っていた筈だ。


「それでですな

 このワイルド・ベアの素材なら、柔軟性のある剣が打てそうです」

「それではこれで…」

「帝国兵の剣は揃えれそうです」

「そうか!」

「後は素材の量が…」

「あ…」


多少はあるものの、そこまで多量には残されていない。

兵士の人数を考えれば、相当数のワイルド・ベアを狩る必要があった。


「後はオーガの素材ですが…」

「ああ

 柄やプレートには使えるだろう?」

「それなんですが」


職工長は図面を広げて、帝国兵からの提案を説明する。


「今回の遠征で、彼等も剣では不便と感じた様子で…」

「遠征って程じゃあ無いがな」


ギルバートは苦笑いを浮かべて、訓練の様子を思い出す。


「確かに馬では攻めあぐねていましたね

 しかし馬に不慣れだからでは?」

「それもありますでしょうが…

 武器のリーチの問題でしょうな」


職工長はそう言って、奥からサンプルの武器を取り出す。


「こっちは弟子たちが打ったんですが…」

「へえ…」


それはポールアックスやクリサリスの鎌に、手を加えた物だった。

その中の1本が、ギルバートの目に留まる。


「これってその図面の?」

「ええ

 かなりバランスは悪いんですが…」


職工長は苦笑いを浮かべるが、確かにバランスは悪かった。

片刃の大きな斧に見えるが、柄の先端には穂先も付いていた。

それで突き刺す事も出来る様になっている。


「片刃だから振り難いし、斧の部分も重たいな」

「ええ

 しかし馬に乗るのであれば、後はそれを振れる膂力があれば…」

「強力な武器にはなるか…」


それは長柄の先端にあるので、近付く敵を振り回して攻撃出来る。

しかも斧になっているので、当たればオーガの腕でも一撃で切断できそうだ。


「随分と攻撃的な斧だな?」

「ええ

 しかしオーガぐらいの魔物が相手となれば…」

「そうだな」


子爵や帝国兵達も、オーガの脅威は十分に目の当たりにした。

それでこの強力な武器を、作って欲しいと願い出たのだろう。


「分かった

 これの製造を許可する」

「ありがとうございます」

「しかし実戦に使うのは…」

「ええ

 当分先でしょうな」


職工長も、子爵から訓練の様子は聞いている。

その上で工房に訪れて、必要な武器の発注をお願いしたのだ。

それだけ子爵の本気が窺える。


ギルバートは素材の在庫を確認して、幾つか補充を検討する。

その上で兵士達に、魔物の討伐の依頼を出す事にする。

狙う魔物が強力なので、今回は冒険者には斡旋できそうには無かった。


手続きを済ませてから、ギルバートは王城に向かって歩いて戻る。

既に帰還した兵士達は、報告の為に王城に戻っている。

ギルバートだけが、残務処理で街に残っていたのだ。


「殿下

 戻られたんですね」

「今日はワイルド・ボアの肉が入っていますよ」

「イーセリア様はいらっしゃらないんですか?」


道行く先々で、ギルバートは王都の住民と話しながら帰る。

1週間とはいえ、留守をしている間に心配を掛けたのだろう。

特にセリアが寂しがっていたと、心配する住民が多かった。

それだけセリアが住民達に、次期王妃と慕われているのだろう。


「セリアか…」


ギルバートはこっそりと、溜息を吐いて王城を見る。

エルリックからもセリアが、寂しがって怒っていたと聞いている。

そして住民達からも、何度かセリアが寂しがっていたと聞かされていた。

それだけセリアが、ギルバートが居ない事に寂しがっていたのだろう。


王城の城門を潜り抜けると、兵士達が敬礼をして出迎える。


「殿下

 お帰りなさい」

「イーセリア様がお待ちになっていますよ」

「ここでもセリアか…」

「ん?」


兵士達は首を傾げて、ギルバートの様子を見ている。


「ああ

 街の住民達も、セリアが寂しがっていたって」

「ああ

 そういえばそうですね」

「城下に出られましては、城門の方を見られておりましたから」

「はあ…」


あれから少しだけ、二人の中にも進展はあった。

その事で却って、セリアは前よりも甘える様になっていた。

人前でも腕に絡み付いたり、抱っこを要求する様になっていた。

その度に窘めるが、二人の時にはお互いに求め合っていた。

それが1週間だけの外出で、ここまで寂しがらせてしまっている。

ギルバートは反省しながら、これからどうすべきか考えていた。


「お兄ちゃん!」


王城の回廊に入ると、さっそくセリアがギルバートを発見して抱き着いて来る。


「セリア

 あまり人前で抱き付いちゃあ駄目だよ」

「むう…」


セリアは頬を膨らませて、ギルバートを上目遣いに睨む。

しかしその様子が可愛いので、ギルバートは思わず頬を指先で突く。

ぷにぷにした感触が柔らかく、セリアは益々頬を膨らませる。


「むう!」

「はははは

 そんなに膨らませていると、ほら」

「うみゅう!」

ぽこぽこ!


セリアは両手を振り回して、ポコポコとギルバートの胸を叩く。

叩かれても痛くは無いが、セリアの怒りは収まらない。


「むう…」

「しょうが無いな」


ギルバートはそう言うと、セリアを横から抱き上げる。

それから回廊を謁見の間に向けて、セリアを抱いたままで進む。

二人の様子を見て、城内の者達は頬を緩めて見守る。

膨れていたセリアも、いつの間にか上機嫌でギルバートの腕に抱かれていた。


「あ!

 お兄様、やっと戻られたんですの?

 セリアが膨れて…」

「ああ

 そこで会ったよ」


ギルバートは苦笑いを浮かべて、抱き締めたセリアを指差す。


「あ…

 よかった…」

「ん?」

「怒って飛び出して行ったから、心配してたのよ」

「そうか…」


ギルバートは抱き着いている、セリアの顔を覗き込む。

セリアははにかんだ笑みを浮かべて、ギルバートの顔を見詰めていた。


「仕様が無いな…」

「それはお兄様でしょう!

 大事な婚約者を放ったらかしにして」

「放ったらかしにはしていないよ

 大事な仕事があるんだ、仕方が無いだろう」

「もう!」


フィオーナは憤慨しながらギルバートを指差す。


「暫く公務はお休み!

 バルトフェルド様に任せて、お兄様はセリアと居る様に」

「おいおい

 何を勝手な…」

「これはバルトフェルド様も承知しています」


フィオーナは腰に手を当てて、怒って手を振り上げている。

その姿を見ていると、ジェニファーが亡きアルベルトを叱っていた光景を思い起こす。


「ふふふふ」

「何がおかしいの!」

「いや、そうしているのを見ると、母上…

 いや、ジェニファー様がアルベルト様を叱っていた姿によく似ている」

「まあ…

 それは…そのう…」


フィオーナは思い出したのか、恥ずかしそうに頬を染める。

幼心に、母の怒った姿は恥ずかしいと思っていた。

しかしいつの間にか、そんな母の様に怒っていたのだ。


「うう…」

「はははは

 その調子でアーネストも叱っているのか?」

「もう!

 お兄様!」


フィオーナは顔を赤らめたまま、ギルバートの前から走り去った。


「やれやれ

 アーネストも大変だな」

「うにゅっ」


セリアを抱き抱えたまま、ギルバートは謁見の間の前に来る。


「これは殿下…

 と、ぷっ」

「バルトフェルド様は…

 執務室です、くく…」


兵士達は笑いを堪えながら、バルトフェルドの行き先を伝える。

どうやら今は、執務室で報告を聞いている様だ。

しかし笑うだなんてとギルバートは兵士を睨む。

だがセリアを抱っこしていては、睨んでも迫力は無いだろう。


ギルバートは肩を竦めながら、そのまま執務室に向かった。


「バルトフェルド様」

「おお!

 お戻りに…ぶふっ」

「はははは

 これは…」

「何でみんなして笑うんだよ」


ギルバートは気が付いていなかったが、セリアは上機嫌で足を振りながら、変な顔をしていたのだ。

ギルバートが真面目な顔をすればするほど、セリアがする顔が面白く見えていたのだ。


「く…兎に角

 イーセリア様を下ろしてください」

「そうですね…

 このままでは…」

「むう!」


ギルバートが下ろそうとすると、セリアは駄々をこね始めた。

ギルバートが困っていると、バルトフェルドが妥協案を示す。


「報告は全て、子爵殿から伺っております

 殿下は先ずは、イーセリア様の機嫌を取られては?」

「そうですな

 相当怒っている様ですし」

「怒って?」

「ええ

 さっきからずっと…ぷっ」

「ん?

 ああ!」


そこでギルバートは、セリアが変な顔をしているのに気が付いた。


「セリア、お前…」

「だってお兄ちゃん、抱っこはしてくれても仕事のはなしばっかりだもん」

「う…」


「はははは

 これは暫くは逆らえませんぞ」

「そうです

 訓練については兵士達が引き受けますから」

「しかし…」

「イーセリア様を大事にしてあげてください

 これが王都の民の総意です」

「そうですぞ

 ワシからもお願いします」


子爵とバルトフェルドは、ギルバートに頭を下げる。

それでギルバートも、大人しく引き下がる事にした。


「分かりました

 暫くは公務をお任せしますね」

「ああ

 任せてください」

「しかし強力な魔物が…」

「その時はアーネスト様が居ります」

「そう…

 ですか」


ギルバートは頷くと、セリアを抱いて執務室を出て行った。


「ふう…」

「何とかなりましたね」

「ええ

 それもイーセリア様の機転のおかげじゃな」

「ぷっ

 しかしあれは…」

「はははは

 相当怒っておられたんじゃろう」

「ですな」


子爵はそう言うと、再び報告の続きをする。

そこには今回の訓練で問題になった事が、箇条書きに並べられている。

これを何とかする事は、相当な手間が掛かるだろうと、バルトフェルドはこめかみを押さえていた。

まだまだ続きます。

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