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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第459話

平原の野営地では、兵士達が新人冒険者に負けた事が話題になっていた

隊商や冒険者達も、すぐ隣に野営をしている

それで必然として、その話題は冒険者や隊商達にも聞こえていた

そして冒険者達が、食後の訓練をする様も注目されていた

冒険者達は、食後に少し休憩してから、武器の手入れを念入りにする

それが終わってから、半数が見回りに出て、残りがその辺の木の枝を拾って来る

それを棒状に加工してから、互いに向き合って打ち合い始めた

力こそ入れていないが、それは一様に同じ型をなぞっていた。

スキルの訓練でもあるからだ。


「あれは何の訓練なんだ?」

「そうだな…

 その内殿下から教わるさ」

「だから何の…」

「あのなあ…

 あんた等基礎も出来ていないんだろう?」

「う…」

「それがあんな訓練したら、怪我をするだけだ」

「そんなに危険なのか?」

「ああ」


冒険者はそう言うと、葉っぱの付いた枝を拾う。

それを持って身構えると、鋭く振り抜いた。


ビョウッ!


「な!」

「分かっただろう?

 うっかり振り抜いてしまうと、相手を怪我させる

 これは胆力も鍛える訓練なんだ」


スキルの型をしっかりと身に着けて、同時に仲間との信頼関係も築く。

この訓練にはそういった意味も含まれている。

しかし兵士達には、先ずは基礎の訓練が必要だった。

体力を着ける事と、身体強化を身に着ける。

先ずはそれが先決だろう。


「先ずはしっかりと走り込んで、足腰を鍛えないとな

 あんた等はそこからだろう」

「ぬう…」

「それと魔力も無いらしいじゃ無いか?

 それじゃあ魔物と戦えないぞ?」

「しかし魔力なんて…

 簡単には身に着かないだろう?」

「そりゃそうさ」


冒険者は訓練している新人冒険者を指して呟く。


「あいつも親父さんが亡くなって…

 本気で冒険者を志願した」

「親父さんを?」

「ああ

 王都が巨人に襲撃されてな

 話は聞いてるだろう?」

「ああ」


「あいつは子供の頃から、憧れで冒険者を目指していた

 しかし親父さんが亡くなってからは、これ以上魔物の被害を出したくないと言ってな

 それで冒険者に志願したんだ」

「どうして冒険者に?

 兵士だって不足していただろう?」

「そうだな

 しかしあいつは…

 いや、あいつも魔力が無くて兵士を諦めたんだ」

「諦めた?」


この話は、兵士にとっても意外だった。

兵士は誰でもなれる物だと思っていた。

しかし冒険者からすれば、それは過酷な物だと言えた。


「適正もあるんだ

 あいつの魔力では、身体強化を長続き出来ない

 生まれ持った体質なんだろう」

「そうなのか?

 それじゃあオレ達も…」

「あんた等は帝国の出だろう?

 帝国の民は、魔力を生まれつき持っていると聞いている

 あんたもそうなんだろう?」

「しかし魔石が…」


兵士はそう言うと、魔石を取り出して見せる。

兵士がうんうん唸りながら握っても、魔石は光る事が無かった。


「ん?

 どうしてなんだ?」

「さあ?

 むしろ教えて欲しいよ」

「そうか?

 それぐらいならオレでも…

 ほら」


冒険者が手にすると、魔石は光を放つ。

それは兵士達の誰よりも、強く光を放っていた。


「何で?」

「さあ?

 魔力の出し方が分からないだけじゃ無いか?

 きっかけがあれば、出来るんじゃないかな?」

「そうかな?」


兵士はそう言いながら、暫く魔石と睨み合っていた。


「まあいい

 オレは巡回に戻るよ」

「ああ、すまない」

「いいって事よ」


冒険者はそう言いながら、周囲の巡回に戻った。


少し離れた所で、ギルバート達はその様子を見ていた。


「なあ?

 どうして魔石が使えないんだ?」

「さあ?

 オレ達に聞かれましても…」

「そうだよな」


しかしどう考えても、ギルバートには理解出来なかった。

子供の頃から領主の邸宅で、照明用の魔石を使っていた。

だからギルバートからすれば、魔石が使えない理由が分からない。

そしてそれは、兵士にしても同じだった。

彼等も仕事柄、松明代わりの魔石を使っている。

魔石を光らせる事は、王国民では普通に出来る事だった。


「そもそも魔石は、帝国からもたらされた物ですよね?」

「ああ

 王国が停戦を申し出た際に、結構な量が国内にもたらされた筈だ」

「戦場で回収されていましたからね」

「ああ

 その頃はまだ、魔物は帝国では見掛けられていたんだろうな」


クリサリスでは魔物は、帝国の動乱以降は現れなくなっていた。

それはフランシス聖王国に、女神の神託が降ったからだ。

それで西方諸国においては、魔物が一時的に現れていなかった。

封印の結界石は、それだけ信頼されていたのだ。


「折角魔石があったのに、帝国では使わなかったのかな?」

「使わなかったのじゃ無くて、使えなかったんじゃ無いですか?」

「使えなかった?」

「ええ

 帝国では我々に負けが続いて、多くの街を奪われていた

 だから魔石も不足してたんじゃ無いですか?」

「なるほど…」


街を攻め落とされれば、それだけ物資も失われる。

今はそんな者は居ないが、昔の兵士がどうだったかは分からない。

もしかしたら、街を攻める時に略奪も働いていたかも知れない。

それで魔石も奪われていれば、使いたくても使えないだろう。


「そうか…

 それで日常的に使っていなくて…」

「あり得ますね」

「そうなってくると、使っていればその内に…」

「まあ、期待は出来ませんけど」


そんな会話を続けながらギルバート達は野営地を見守っていた。


翌日になると、兵士達は冒険者達に混ざって、朝から走り込みを始めていた。

冒険者達にとっては、眠気覚ましの軽い走り込みだった。

しかし兵士達にとっては、それは全速力でも追い付けない物だった。


「ぜえ、はあ…」

「ひい、ふう…」


「参ったな

 これにも着いて来れないのか…」

「こりゃあ基礎から頑張らないと」

「う、うるせ…へはあ…」


ほとんどの兵士達が、その場に座り込んでへたっていた。

子爵はその様子を見て、改めて自分の訓練が甘かったと痛感する。


「よくあれで今まで、魔獣を倒せていたな」

「そうですね」

「砂竜に乗っていたからじゃ無いですか?

 だから走ったりするのは無理だとか」

「それにしたって…」


兵士の体力不足は深刻だった。

特に王都に入ってからは、贅沢な食事に不真面目な訓練。

すっかり身体が鈍っていたのだ。

ギルバート達が推測する様な、砂竜が優秀だったからでは無かった。


「これは王都に戻ったら、最初からやり直しだな」

「そうですね

 オレ達も訓練の方法を考えます」

「頼むぞ」

「はい」


兵士達もこの現状を見て、危機感を覚えていた。

彼等が戦える様になったら、共に王都を守る為に戦う。

そう思って期待をしていたのだ。

しかし現実は、思った以上に厳しそうだった。

こうなった以上は、少しでも彼等が使い物になる様に鍛えるしか無い。


「先ずは走り込みからだな」

「ええ」

「これは暫く、魔物討伐とか言ってられませんね」

「ああ

 ゴブリンぐらいなら安心だが…」


コボルトではどうなるか、それは不安で聞けなかった。


「どうします?

 少し早いですが帰還させますか?」

「いや

 もう少し様子を見よう」

「そうですか?」


そのまま4日目も様子を見て、夜も静かに更けて行く。


5日目と6日目も順調に過ぎて、兵士達はすっかり自信を着けていた。

しかし相手はゴブリンやワイルド・ボアだけなので、いい加減飽きて来ている。

そこでギルバートは、こっそりと兵士に指示を出した。


「なあ

 この近くにオークは居るか?」

「オークですか?」

「ああ

 コボルトは危険だが、オークなら何とかなるんじゃないか?」


「ううん…」

「オークですか?」

「危険ですが…

 何とかなりそうですね」


兵士達は地図を広げると、さっそくオークの目撃情報を確認する。

ここから近いのは、森を抜けた先にある集落だ。

しかしさすがに、集落では数が多過ぎる。


「ううん

 もっと手頃な数は無いかなあ?」

「そうですねえ…」


ギルバートは兵士達に調べさせて、他にオークが居ないか探させる。

しかしオーガは居るものの、少数で動いているオークはなかなか居なかった。


「殿下

 新しい斥候の報告です」

「よし

 オークの報告はあるか?」

「オークですか?」

「ああ

 集落の奴以外にだ」

「そうですねえ…」


斥候の報告を広げて、地図の上に印を付けて行く。

そうして行くと、少数で移動するオークの一団が見付かった。


「これは?」

「集落から食料探しに出ているんでしょう」

「そうか

 こいつを何とか引っ張って来れるか?」

「え?」


「この数なら何とか戦えるだろう」

「ここにですか?」

「ああ」


「しかしオークが9体ですよ?」

「大丈夫だろう?

 むしろ訓練の意義を思い出してもらうのに、ちょうど良いと思わないか?」

「ええ?」


兵士は困った顔をするが、確かに今のままでは、帝国兵の訓練にはならないだろう。

そのオークの集団は、ここからそう離れた場所ではない。

弓で攻撃して引っ張れば、簡単に連れて来れるだろう。


「良いんですか?」

「ああ

 こいつ等を引っ張って来てくれ」

「分かりました

 それでは向かいますね」


兵士は弓の用意をすると、馬に乗って野営地を離れる。

そのまま弓で攻撃して、馬で逃げながら誘導するのだ。

ギルバートは兵士に任せて、野営地の様子を見守っていた。


暫くすると、兵士が馬で移動するのが見えた。

そのまま上手く移動して、オークの索敵範囲から逃げて来る。


「殿下

 上手く釣り出しました」

「ああ

 見えていたぞ」

「このまま上手く移動しますかね?」

「そうだなあ…」


しかし野営地では、美味そうな煙が上がっている。

冒険者達に教えられて、帝国兵達もスープを作れる様になったのだ。

その煙を見て、オーク達は森から平原に出て来た。

弓を射た者とは思っていないが、暢気に野営しているのに腹を立てたのだろう。

怒声を上げながら、オークは野営地に向かって行った。


「よし!

 上手く行ったぞ」

「しかし大丈夫ですか?

 まだ気付いていませんよ?」

「え?」


子爵達は気が抜けていたのか、オークの接近に気が付いていなかった。

オーク達の怒声が聞こえる頃には、既に見える距離に近付かれていた。


ウガアアア…

「何だ?」

「魔物です!」

「豚の頭をした魔物です」

「総員迎撃の準備をしろ!」


子爵の号令に応えて、兵士達は慌てて剣を手にする。

しかし魔物達は、既に十分な距離に近付いていた。


ウガアア

「くうぬう…」

ガキン!


「こいつ等…」

「強いです」


兵士達は必死に応戦するが、防戦一方だった。

魔物に不意討ちに近い形で、野営地は襲撃されていた。

魔物の数こそ少ないが、その膂力は十分に脅威だった。

兵士達は身体強化が使えないので、全力で受けても負傷者が出ている。

そんな中で、数名の兵士が奮戦する。


「ぬりゃあああ」

「せりゃあああ」

グガアアア

グゴハア


彼等は子爵の側近で、タシケンでも腕利きの兵士として活躍していた者達だ。

余裕の討伐とまでは行かないが、何とか魔物の攻撃を押さえていた。

その間に他の兵士達が、背後や横から魔物に切り掛かる。

そうする事で兵士達は、何とか魔物を倒していた。


「そこで切り込め」

「はい」

グガアア

ガキン!

「くうっ」


しかし魔物は強力で、兵士達も多少であるが負傷をしていた。

打撲や切り傷を負って、数名が後ろに後退する。

その間に他の兵士達が、懸命に前に出て魔物を押さえる。


「くぬううう…」

ゴハハハ


「笑いやがるな」

「食らえ!」

ズシャッ!

グゴアアアア


「あと5体だ

 一気に囲むぞ」

「おお!」


兵士達は前に詰め寄ると、懸命に剣を振り下ろす。


ガキン!

ゴハハハハ

「くそっ」

「そんな…

 5人掛かりでも押さえ込めれない?」


オークは木の棍棒で剣を受けると、それを力任せに弾き返した。


グガアアアア

ガイン!

「ぐはっ」

「ぬああっ」


最後の1体が手強く、兵士達の攻撃を一気に弾き返した。


「ま、マズい」

グガアアア

ガキン!


「ぐぬぬぬ…」

「今だ!

 切り付けろ」

「うりゃああ」

「せりゃああ」


しかし兵士達の渾身の一撃も、オークの表皮を切り裂く程度だった。


「マズいな…」

「上位種ですか?」

「いや

 上位種には成り切れていないが…

 魔石を食って力を着けているな」


ギルバート達も、その様子を見守っていた。

しかしそのオークは、他の個体よりも強力だった。

リーダーを任されていただけあって、魔石を食らって力を身に着けていた。


「ぐぬぬぬぬ…」

「オレに任せろ!」

ズガッ!

ゴガアアア


兵士の渾身の一撃が、遂に魔物の腹を貫く。


ゴガアア…

「せりゃあああ」

ズシャッ!


最後に棍棒を食い止めていた兵士が、渾身の一撃で首を刎ね飛ばす。


「はあ、はあ…」

「何とか倒せた…」


兵士達のほとんどが、その場にへたり込んでいた。

しかしその様子は、強敵を倒した事で喜びに満ちていた。


「お前達

 良くやった」

「子爵様…」


子爵も魔物を倒した事に喜び、兵士達と抱き合って喜んでいた。


そうしてオークは無事に倒されて、兵士達は何とか生き残れた。

しかしそれは、ギルバートが仕組んだ事だとは知られていなかった。

当のギルバートは、遠くからその光景を見て、頷いているのだった。

まだまだ続きます。

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