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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
455/800

第455話

子爵達は困惑して、途方に暮れていた

前知識として平原がどんな物か、アーネストには聞いていた

しかしこんなに何も無い場所が、ただっ広くあるとは思ってもいなかった

せいぜい広場程度の空き地が、森の中に開けている景色を思い浮かべていたのだ

だから平原を始めて目にして、ただ茫然とするしか無かった

近くの森の中から、ギルバート達はそんな子爵の様子を眺める

無事に平原の入り口に着いたのに、子爵達が動かないからだ

何が起こったか気になり、平原を見渡してみる

しかし魔物も居なければ、周囲には何も変わった気配は無い


「どうしたんだろう?」

「さあ?」

「まさか初めて見た景色に、感動しているとか?」

「ただの平原にか?」


これが絶景の竜の背骨山脈の上や、平原の中の湖なら納得もしただろう。

しかし周りには、ただ草花や灌木しか無いのだ。

感動する様な景色など期待出来ない。


「殿下

 子爵殿は平原が初めてでは?」

「そういえばそうだな

 カザンからこっちでも、ずっと公道の周りだったからな」


公道の周りにも、ちょっとした平原はあった。

しかし精々、向こうに森や山が見える程度だ。

これだけ何も無い場所は、子爵にとっても初めての事だったのだ。


「え…っと」

「初めての平原に面食らっているとか?」

「まさか?

 いや…まさかな」


しかしギルバートの予測に反して、子爵は面食らっていた。

そして思考が停止して、暫く呆然としていたのだ。


「子爵様

 どうします?」

「ん?

 どうするとは?」

「いやあ…

 こんな何も無い場所とは…」

「そうだな…」


子爵もどうした物かと、困って頷く。

ギルバートの計画では、ここで適当な場所を決めて野営するという事だった。

しかし適当と言われても、そもそもどうすれば良いか分からない。

こんな事ならば、もっと真剣に聞いておくべきだった。

子爵はそう思って、今さら後悔するのだった。


「殿下

 子爵様に助言しますか?」

「今さらか?

 それに出て行ったら、私達が居るのがバレるだろう」


ギルバート達が出るのは、魔物に襲われてどうしようも無い時だけだ。

こんな場面で出て行けば、そもそもの訓練の意味が無くなる。


「参ったなあ…」

「殿下

 子爵様に野営の知識は?」

「そりゃあるだろう?

 砂漠の何も無い場所に住んでたんだぞ」

「殿下…」

「ここは砂漠じゃありませんよ」


ここで兵士達も、ギルバートが野営の指導をしていない事に気付く。

砂漠で慣れているだろうと、詳しい指導はしていなかったのだ。


「殿下

 マズくありません?」

「え?」

「恐らく子爵様は、どこでどう野営するか分からないんでしょう」

「まさか?

 はははは」

「殿下!」

「え?

 まさか?」


ここでギルバートも、事の重大さに気付く。

そもそもがギルバートは、砂漠で野営していると考えていたからだ。

確かに移動する時は、その場で野営もしていた。

しかし砂漠と平原では、決定的な違いがあるのだ。


「えっと…

 砂丘の様な場所が…無い?」

「そうですね

 気付いていただけた様で」

「そうですぜ

 これじゃあ子爵殿も困惑するでしょう」


何も無いという事は、隠れる場所も無いのだ。

だから平原で野営する時は、焚火を中心にして円形に天幕を配置する。

そうして天幕の傍らに、篝火や魔石を配置して警戒する。

しかし子爵達は、砂丘の上に配置する事で見通しを良くしていた。

ここでは高低差はほとんど無く、向こうもこっちが丸見えなのだ。


「見通しが良い分、有利さが無いんですよね」

「殿下はその辺、オレ達に任せっきりでしたからね」

「すまん…」


ギルバートは基本、部下に任せられる事は任せていた。

そういう所が好かれる所以でもあるのだが、こういう時には有害にもなる。

出来ると思って任せるから、出来ない事を想定していないからだ。


「まさか子爵が…」

「そりゃあそうでしょう

 彼等は初めて王国に住んでいるんですよ」

「尤も勘の良い者は居る様ですが

 動きましたよ」


漸く子爵達は、馬を動かし始めた。

最初は入り口の森に集まるが、そこで兵士達が何やら反対をする。

それで子爵は、今度は少し離れた場所に移動する。

それで兵士達も納得したのか、その場で荷を解き始めた。


「おいおい

 大丈夫か?」

「そうですね

 みんなで一斉に荷を解き始めましたよ」


こういった場所では、半数が荷を解いて、残りは警戒をするべきである。

そうしなければ、魔物の接近に気付けないからだ。


「お?

 気付いた者も居ますね」


数人の兵士が、荷を解かずに周辺を見回る。

子爵の手勢にも、頭が回る者は居る様だった。


「漸く天幕を張り始めましたか…

 しかし時間が…」

「ああ

 そろそろソルスが沈む時間だ」


既に日は傾き、東の森に沈みかけている。

このペースで行くと、薪を集める時間が無くなってしまう。

ギルバート達は、見守りながら手に汗を握っていた。


「おい!

 焚火はどうするんだ?」

「そんなの用意してある…」

「どこに用意してあるんだ?」

「あ…」


ついいつもの様に、薪の用意があると考えていた。

しかしここは街の外で、薪を用意してくれる者も居ない。

砂漠に居る頃は、みんなが気を付けてサボテンを乾かして用意していた。

しかしここには、そういった物も存在しないのだ。

灌木を剣で切って、それに火を点けようとする者もいる。

しかし水気の多い木では、火は着く事は無いのだ。


「くそっ!

 点かねえ」

「そりゃあそうだろう?

 そんな乾いていない木じゃあ…」

「そんならお前が用意しろよ」

「何だと!」


ついに喧嘩が始まり、子爵が間に入って収める。


「貴様等!

 何をやっている」

「しかし子爵様

 こいつが文句ばっかり言って…」

「お前が見当違いな事ばっかりするからだろ」

「何だと!」

「いい加減にしろ」


子爵が一喝してから、兵士達にそれぞれ指示を出す。

しかし子爵もよく分かっていないので、その指示も難航していた。


「あーあ…」

「喧嘩してら」

「困ったな…」


様子を見ているギルバート達も、兵士達の行動に溜息を吐く。


「まあ、仕方が無いでしょう」

「そうですよ

 庭で焚火ぐらいしかしてないのが、いきなりここですから」

「ううむ…」


兵士達の言う事も尤もだった。

森や平原の知識も満足に無く、いきなり野営をしているのだ。

失敗しても仕方が無いだろう。

ギルバートは自分の判断が、思った以上に甘かったと痛感していた。


「なあ

 私の指示って…」

「そうですね

 結構無茶なんですよね」

「そうそう」

「ぐぬ…」


「でも、不思議と上手く出来ちゃうんですよね」

「はははは

 そうだよな

 この前のオーガの時だって」

「あれはお前達なら大丈夫だと思って…」

「それが無茶なんですよ」

「でも信頼されている以上、それに応えませんとね」

「うぐっ」


兵士達は笑いながら、ギルバートの無茶振りを上げる。

しかしそれは、ギルバートを信頼しているからこそである。

帝国の兵士達には、まだそこまでの信頼感は無い。

だからこそ、こうして意思の疎通が出来ていないのだ。


「あ…

 薪を探しに行くみたいですね」

「漸くか…」

「しかし天幕も…

 まだ半分も出来てませんよ」


そろそろ夕暮れになり、辺りは薄暗くなっている。

早くしないと、焚火を点けるのも難しくなるだろう。


「水も汲みに行っていないな」

「そもそも、水場も探していないんじゃあ?」

「そういえば、彼等は砂漠の出だもんな」

「まさか…な?」


子爵はこんな場所に、水が湧き出るとは思っていない。

だから川や泉なども、当然探させていなかった。

探せばそんなに離れていない場所に、小さな泉もあったのだ。


「あ…

 これは間に合わないな」

「うーん

 思った以上に酷いな」


子爵は指示を出すが、どれも中途半端になっている。

天幕はほとんどが張られず、兵士達は作業に難航している。

焚火もまだ点いていないし、当然食事の用意も出来ていない。

薄暗がりの中、兵士は手探りで作業を続ける。


「殿下

 灯りの魔石は?」

「当然持たせているぞ

 一人1個は持っている筈だ」

「おかしいですね…」


魔力を込めれば、淡い光を発する魔石。

ギルバートもアーネストから教わり、兵士に持たせる様にはしていた。

それを使う事で、魔力を使う訓練にもなるからだ。

しかし元々、この訓練は魔石を使う事も組み込まれている。

兵士の大半が、魔石を使う事も出来ないのだ。


「殿下…」

「言い難いんですが…

 魔石を使えないんじゃあ?」

「まさか…」

「あ?

 あれがそうでは?」


野営地の中で、薄っすらと灯りが見え始める。

しかしその大きさは小さくて、灯りも薄暗かった。


「小さいな

 それに弱々しい…」

「ええ

 やはり無理では?」

「ううむ…」


ギルバートは悩んでいた。

このまま継続しても、訓練にすらならないのでは?

そういう思いが胸に過る。

しかし帝国兵達は、何とか薄暗がりの中で作業を続ける。

実際には口論しながら、何とか続いている状況だった。


「そんなんじゃあ見えないぞ」

「うるせえ!

 文句があるなら自分でやれよ」

「出来たら頼まないさ」


「文句を言う暇があるなら、さっさと焚火を点けろ

 そしたら明るくなるだろう」

「しかしこれでは…」

「点いたぞ」

「早く燃やせ!」


兵士達は慌てて木を乗せて、焚火の火を大きくしようとする。

しかし水気の残った木では、なかなか火は大きくならない。

中には弱くなり、慌てて枯れ木を探す者も居る。


「火が点いたんならこっちを照らしてくれ

 天幕が張れないぞ」

「馬鹿!

 そんな所で持ってたら、天幕が燃えるだろう」


兵士達は松明代わりに持った木で、何とか灯りの確保をする。

そうして手探りで天幕を立てるが、そのペースは非常に遅かった。


結局夜も更けて来て、少ない天幕に兵士達が寄り添う様に詰め込まれる。

そうして寒さを凌ぎながら、干し肉を齧って飢えを凌ぐ。

初日はそうして、何とか夜を過ごした。


「殿下…」

「まあ待て

 今日が駄目だったら…」

「そうですか?」


しかし2日目は、起き始めてから違っていた。

彼等は砂漠で暮らしていて、元々が過酷な環境に強かった。

朝早くから起きると、天幕を片付け始めていた。


「殿下

 彼等は起き始めましたよ」

「ん?

 ああ…」


ギルバートは天幕を出ると、子爵達の様子を見る。

子爵達は天幕を畳むと、それを無造作に運んで行く。


「あれ?

 どうするつもりだ?」

「あちらをご覧ください」


兵士の指差す先には、平原の小さな泉が見えている。

帝国兵達はそこに集まると、今度はしっかりと基礎の杭を打ち込み始めた。


「殿下」

「ああ

 あそこに野営地を作り直す気だな」


少し時間は掛かったが、彼等はしっかりとした天幕を作って行く。

そうして天幕を作りながら、森からは乾いた薪を探して集めていた。


「どうやら気が付いた様だな」

「ええ

 さすがに慣れているみたいですね

 何が重要か気が付いたんでしょう」


帝国兵達は気が付いていなかったが、昨日の失敗から学んでいた。

そうして下準備をすると、焚火を作って食事を始める。

今度は焚火の火もあるので、昨日とは状況が違っていた。

鍋で野菜や干し肉を煮込み、スープにして食べていた。


「良かった

 これは大丈夫そうだな」

「ええ

 何とかなりそうです」


兵士やギルバートも、その様子を見て安堵する。

取り敢えずは不格好だが、野営の準備は整っていた。


それから帝国兵達は、2組に分かれて行動を始める。


「ん?

 どうする気だ?」

「あれじゃあ無いですか?」

「ん?」


それは少し前から、帝国兵の様子を窺っていた。

空きっ腹に美味そうな香りが、魔物達を誘き寄せていたのだ。

帝国兵の半数は、魔物に備えて武器を構えていた。

そうして残りの兵士達は、集まって何かの作業を続けている。


「何をしているんだ?」

「さあ?」

「あれ?

 魔石か?」


兵士達の声に、ギルバート達は目を細めてその様子を確かめる。

確かに彼等の中から、淡い光が漏れていた。


「何で今さら、魔石を使っているんだ?」

「夜の為の訓練では?

 昨晩は碌に使えませんでしたから」


確かに言われてみれば、輪の中心には子爵が立っていた。

子爵の指導の下で、兵士達は懸命に魔石を光らせようとしている。

今夜は昨晩の様に、魔石が使い物にならない様に練習しているのだ。


「これで安心だな」

「そうでしょうか?

 今からこんな事をしてたら、夜には魔力切れで…」

「あ…」


その予想は当たっていた、すぐに兵士の1人が、頭を抱えて藻掻き始めた。


「ほら

 無茶して魔力切れになるから…」

「…」


慣れない魔力切れに兵士は頭痛で倒れていた。

二日酔いとは違う痛みに、驚き苦しんでいるのだ。


「魔力切れの説明は?」

「アーネストがしている筈だ」

「つまり殿下は、何も教えていないんですね」

「いや、ちゃんと資料は渡しているぞ」

「でも、子爵も碌に字が読めないんですよね」

「…」


遠くから見ていても、子爵が慌てている様子が見て取れる。

子爵は天幕に戻ると、何かの羊皮紙を手に戻って来る。

しかし読めないのか、兵士の周りで右往左往していた。


「ほら

 子爵も困っていますよ」

「…」

「今度は事前に、よく相談してからにしてください」

「はい…」


ギルバートは兵士に睨まれて、シュンとしながら答える。


その後も暫くは、子爵は苦しむ兵士達の応対に苦心していた。

しかし頭痛も、少し休めば回復する。

それが分かってからは、子爵達は再び訓練を再開した。

そうして再び、帝国兵達は頭痛にのた打ち回るのだった。


「ああ…」

「いつか見た光景だな」

「オレ達もああだったんだな」

「そうだな

 それもこれも、殿下のせいだがな」

「すまん…」


兵士達の非難の視線に、ギルバートは小さくなって反省していた。

まだまだ続きます。

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