第450話
ギルバートは食堂に向かうと、そこで暫く待っていた
暫くするとセリアが来て、嬉しそうに隣には知って来る
そして椅子に飛び乗ると、メイドにその椅子を押してもらう
そうして嬉しそうに、ギルバートに微笑むのだった
セリアが来てから少しして、アーネストとバルトフェルドが入って来る
二人は疲れ果てた顔をして、ギルバートの方を一瞥する
バルトフェルドは何も言わなかったが、アーネストは不満そうに愚痴を言い始めた
それはギルバートが、うっかりジェニファーに話した事だった
「何でジェニファー様に話したんだ」
「いや、フィオーナと話しているところを聞かれてな」
「そうだったとしても、そこは隠せよ」
「はははは
二人は何も言わなかったと伝えたんだがな…」
ギルバートは確かに、アーネスト達が黙っていたと伝えた。
しかしジェニファーは、それでも許してくれなかった。
「そうは言ってもな…」
「ええ
こってり絞られましたよ」
二人が説教される姿は、ギルバートも目撃していた。
しかし巻き込まれるのを恐れて、ギルバートは黙ってその場を立ち去った。
わざわざその事は、二人に伝える必要も無いだろう。
「セリアを呼びに来させたって事は、お前気付いていたな」
「いやあ…
何の事かな?」
「くそっ!
とぼけやがって」
アーネストは一言文句を言うと、そのままグラスに注いだ葡萄酒を飲み干す。
「ぷはっ
覚えていろよ」
「はははは
今度は気を付けるよ」
「当たり前だ
こんな事は金輪際御免だ」
「はははは
アーネスト殿はフィオーナ様にも叱られましたからね」
「あ…」
「バルトフェルド様
余計な事を言わないでくれ」
アーネストは膨れっ面で葡萄酒を呷ると、手近な肉にフォークを突き刺した。
「それで?
子爵とはどうなった?」
「ああ
書類は渡しておいたぞ」
「そうか」
「あれでよろしかったんでしょうか?」
バルトフェルドも気になっていたのか、ギルバートに確認をする。
「ええ
問題は無いかと」
「そうですか…」
「そうだろうよ
何せ無償で家まで提供するんだ、それに見合う働きはしてもらわないと」
「ああ
三枚目の資料は、兵役も仕事も無い者で良かったか?」
ギルバートは書類について、細かい確認をする。
子爵には話してあるが、細かい擦り合わせは必要だった。
それから暫く、三人は食事をしながら話し合う。
子爵は引き続き、バルトフェルドの下で働く事になる。
王国の税制や街の仕組みを、そこで学んでもらう事になる。
「兵役はどうする?」
「明日、広場の訓練場で訓練を開始する」
「おいおい…
いきなり潰すなよ」
「ああ
明日はうちの兵士達に、どれほどの技量があるか示させる」
「帝国の兵士に、どれぐらいの技量が必要か見せるんですな」
「ああ
そのつもりだ」
三人が話している横で、セリアはお腹が膨れて眠くなっていた。
そのままウトウトし始めたのを見て、バルトフェルドが待ったを掛けた。
「殿下
そろそろ姫様が…」
「ん?
あっと」
ギルバートは慌てて、セリアが椅子から落ちない様に支える。
「ギル
良いからもう行け」
「え?」
「そうですぞ」
「しかし…」
ギルバートは困った顔をして、頭を掻いていた。
「眠り姫が待っているぞ」
「今夜はセリア様と過ごしてください」
「ううむ…」
「ほら!」
パシン!
アーネストに背中を押されて、ギルバートは席を立つ。
そしてそのまま、顔を赤らめながらセリアを抱き上げる。
「頑張れよ」
「うるさい」
ギルバートはセリアを起こさない様に、器用に小声で怒った。
そんなギルバートの背中を、二人は黙って見送る。
「上手く行きますかのう?」
「行ってもらわないと困る
オレがまたフィオーナに叱られる」
「はははは
それはそれで、良いんじゃありませんか?」
「バルトフェルド様…」
アーネストはジト目で、バルトフェルドを睨んでいた。
セリアを抱っこして、ギルバートは回廊を進む。
セリアは眠そうに薄眼を開けて、ギルバートを見詰めていた。
「お兄ちゃん…」
「ん?」
「大好き」
「はははは」
ギルバートは寝室に入ると、セリアをベッドにそっと下ろす。
しかしセリアは、そんなギルバートの手にしがみ付く。
「いや
一人にしないで」
「はははは
ドアを閉めるだけだよ」
ギルバートはドアを閉めると、そっとセリアの隣に腰を下ろす。
「お兄ちゃん…」
「ん?」
「いっぱいキスして」
「ああ」
「うむっ、んふ…」
二人は唇を重ねると、お互いを求めて下を絡める。
「ぷはっ
お兄ちゃん…」
「セリア…」
「あふん」
キスをしながら、ギルバートは小さな身体を抱き締める。
それからその腕は、小さな膨らみに手を掛ける。
優しく撫でる様に、その膨らみに触れると、セリアの手がその上から重なる。
「良いよ…」
「セリア…」
「にゃふっ
あふああん」
セリアは頬を赤らめながら、気持ち良さそうに声を上げる。
ギルバートは興奮して、セリアの服の紐に手を掛けた。
「良いか?」
「うん
でもちょっと待ってね」
セリアははにかみながら、そっと目を閉じる。
淡い緑色の光に包まれて、セリアの身体が一回り大きくなる。
そして身体が大きくなった事で、服の紐が解けてずり落ちる。
「うふ
お兄ちゃんはこの方が好きなんでしょう?」
「ああ
とっても綺麗だ…」
セリアは可愛い少女から、少し大人びた美しい女性の姿に変わっていた。
それはセリアの本来の姿、精霊女王としての姿だった。
「お兄ちゃん…」
「セリア…」
「いっぱい愛して…」
「うおっほん」
「な!」
「うにゅっ!」
「そこまでにしてもらえないか?」
声に振り返ってみると、そこには派手な真っ赤な出で立ちの男が立っていた。
セリアの実の兄であり、女神の使徒であるエルリックである。
そのエルリックが、いつの間にか後ろに立っていたのだ。
「な!
何でここに」
「うみゃあ!
馬鹿!
エッチ!
変態!」
「うわっぷ」
エルリックは怒ったセリアに、枕やシーツを投げ付けられる。
「待て!
お前が精霊の力を使ったからだ」
「何でここに居るのよ!」
「お前こそ
何でそんな男に…」
「お前なんか嫌いだ!
ふえええん…」
「セ、セリア」
セリアが盛大に泣き出して、ギルバートは慌てて慰め始める。
「エルリック
お前が邪魔しに来るから」
「当たり前だ!
私はまだ、妹がお前と付き合う事を認めていないぞ」
「そんな事を言うから、セリアが泣いているんだぞ」
「ふぐっ
うぬぬぬ…」
「うわあああん」
「ああ、よしよし」
「くそ!
何でこんな男に…」
「良いから出て行け」
セリアが泣き止まないので、エルリックは一旦部屋から外に出る。
そこには何事かと、数人の人が集まっていた。
「エルリック!
何でお前がここに!」
「イーセリアが精霊力を使ったからだ」
「精霊力?」
「ああ
どういうつもりか知らんが、あの男の前で裸になって…」
「馬鹿野郎!
お前、折角の二人の初体験を邪魔したのか?」
「うるさい
誰が認めるものか!」
今度は部屋の外で、エルリックとアーネストが激しく罵り合い始める。
その隣にはフィオーナやジェニファーが、ハラハラしながら見守っている。
少し離れた物陰には、バルトフェルドも控えていた。
「大体、何でお前達がここに居る?」
「それは二人を心配して…」
「どうせ出歯亀根性で見に来たんだろう?」
「そうじゃあない
二人が上手く出来るか心配で…」
「そもそもあんたは何者なの?」
「私はイーセリアの兄だ」
「もう、折角上手く行きかけてたのに…」
「うるさーい!」
ドアを開けて、セリアが大声で怒鳴った。
それは普段のセリアからは、考えられない様な声だった。
よく見ればシーツを被っているが、その姿は大人に近い姿に成長していた。
「え?
セリア?」
「まあ?
まさか本当に大人になったの?」
「違う
精霊力で無理矢理元の姿に戻っているんだ
そんな事をすれば…」
「はにゃあ…
ふみゅう…」
「あ!
セリア!」
空気が抜ける様に、急にセリアは小さくしょぼんだ。
そしてギルバートの胸に、意識を失って倒れ込む。
「ほら
言わんこっちゃない」
「どうしたんだ?」
「無理に力を使ったから、精霊力が切れたんだ
暫くは起きないと思うぞ」
「え?」
ギルバートは困惑しながらも、優しくセリアを抱き抱える。
そうしてシーツに包んだまま、優しくベットに寝かせた。
「一体、何をどうなったらこんな事になるんだ」
「知るか
セリアが自分で大きくなったんだぞ」
「どうせお前が、スケベ心で望んだんだろう?」
「そんな事は…」
「いい加減にしなさい!
セリアが起きるでしょう」
「は、はい」
ジェニファーの一喝に、ギルバートとエルリックは飛び上がる。
そのまま睨み付けられて、二人は小さく縮こまっていた。
「はあ…
一旦場所を変えましょう
あなたも着いて来なさい」
「はい…」
ジェニファーの圧に負けて、エルリックは黙って従っていた。
それから一行は、少し離れた来客用の談話室に移動する。
ギルバートはそのまま寝室に残り、眠るセリアの様子を見守っていた。
そうしてジェニファーは、一行を座らせるとメイドにお茶を用意させた。
「さあ
先ずはあなたが何者で、何でギルバートの部屋に居たのか聞かせてもらいましょうか」
「えっと…」
エルリックはアーネストに視線を向けて、恨みがましそうに睨む。
「早く話しなさい」
「は、はい」
「私はエルリック・ディアーナ・アルフェイム
女神の使徒のフェイト・スピナーの一人です」
「え?
女神様の?
これは失礼いたしました」
ジェニファーとバルトフェルドは、その名を聞いて慌てて跪く。
二人からすれば、女神の使徒となれば格上の存在だった。
しかしフィオーナとアーネストは、ジト目でエルリックを睨んでいた。
「しかしそのお名前は…」
「ああ
アルフェリアの後継者に当たる」
「ですがそのお姿は…」
「ああ
ちょっとした魔法の力さ」
エルリックはそう言うと、髪を掻き上げてポーズを決める。
その耳は長く尖って伸び、ハイエルフの姿に戻る。
「おお…」
「まさしくハイエルフのお姿」
「ふふふふ…」
「はん
駄目王子だけどな」
「おい!」
アーネストの言葉に、エルリックは傷付いた様に顔を顰める。
「しかしそんなお方が、何で殿下の寝所に?」
「そうですぞ
一体何をしていたんですか」
「それは…」
「事と次第によると…」
「そうですわね
いくら使徒様でも、他人の逢瀬を邪魔するなんて…」
「認めていないぞ…」
「え?」
エルリックはそう呟くと、プルプルと肩を震わせる。
「私はあの男と、妹の付き合いは認めていない」
「え?」
「はあ?」
「大体、何で人間の男なんだ!
探せばエルフの生き残りだって…」
「もしそんな男が現れても、お前は認めないんじゃ無いのか?」
「うぐっ
それは…」
「シスコンね…」
アーネストとフィオーナは、再びエルリックをジト目で睨む。
「まさか使徒様は、二人の邪魔をする為に?」
「そんな
使徒様ともあろう者が…」
「妹離れが出来ないんだよ」
「全く…
さすがにキモイわよ」
「ぐはっ!
キモイ?」
エルリックはフィオーナの言葉に、深く傷付いた様に蹲る。
「そうよ
私はギルバート殿下を兄として慕っているわ
でもその兄が、妹の寝所に乱入するなんて…
そんな事をされたら軽蔑するわよ」
「そうだよな
さすがにこれは…」
「うるさい!
私だって好きでこんな事…」
「だったら何で、こんな事をしたんだ?」
「それは妹の…
イーセリアの精霊力を感じたから…」
「それで夫婦の寝所に乱入か?」
「ぬぐうっ」
フィオーナとアーネストに睨まれて、エルリックは悔しそうに震えていた。
「仕方が無いだろう…
急にあんな精霊力を使うから、何かあったと思って」
「そういえばそうだな
なんでセリアはあんな事を…」
「それは気にしていたからよ
セリアも女の子だもの」
「え?」
「何で?」
「はあ…
セリアは胸や身体が小さいから
だから魅力が無いのかなって思ったんでしょう?」
「そんな事で?」
「そんな事?
大体男はねえ、胸の大きい小さいとかすぐ見るでしょう」
「ちょ!
フィオーナ
落ち着いて」
フィオーナはキレ気味に、アーネストに食って掛かっていた。
「アーネストもそうよ
胸が大きい女の方を見てるでしょう」
「そんな事は…
オレはフィオーナ一筋だし」
「本当に?」
「ああ
お前だけしか見ていないよ」
「アーネスト…」
「うおっほん」
「あ…」
バルトフェルドの咳払いに、二人は気まずそうに俯く。
「二人は熱いのは構わんんが…
それで姫様はあの姿に?」
「ええ
お兄様がなかなか手を出してくれないって、悲しんでいたから…」
「うぬぬぬ
だから信用ならんと…」
フィオーナの言葉に、エルリックは怒りを露わにする。
「あんな可愛いイーセリアに、何もしないなんて…」
「どっちなんだよ!」
「うるさい」
「大体な、ギルはセリアを大事に思うから手を出さないんだぞ」
「そうね
お兄様がヘタレだから、こうしてみんな心配してるんだし」
フィオーナの言葉に、一同は黙って頷く。
エルリックだけは不満そうだったが、それ以上は何も言わなかった。
下手に口を出せば、またジェニファーに叱られそうだったからだ。
「兎に角
セリアの精霊力だったか?
それを感じて慌てて来たんだな?」
「ああ」
「しかしどうやって?」
「そうよ
外には私達が居たのよ?」
「ふふふふ
それは転移の魔法があるからね」
エルリックは自慢気に、髪を掻き上げてポーズを取る。
「使徒の力の無駄遣いね」
「ああ
全くだ」
「はあ…
女神様の使徒がこんなのだなんて…」
「これで使徒様だというの?」
決めポーズを取るエルリックを見て、一行は呆れるのであった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




