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聖王伝  作者: 竜人
第二章 魔物の侵攻
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第45話

思わぬ魔物との邂逅の後、街はその魔物の噂で持ち切りだった

豚の顔をした人間の様な魔物に襲われたという隊商はいたが、実物は見られていなかった

それが初めて住人にも見せられた

守備隊で遺骸を詳しく調べ、対策を協議する事となった

守備隊が運ぶ魔物の遺骸は、否が応でも住民の目に付いた

豚の頭が載っているが、あれは本当に魔物なのか?

あれに出くわした隊商はほとんど殺されたのに、一体誰が倒したのか?

見た目は頭だけ豚だが、あれは豚みたいに食べられるのか?

等々、街では噂で持ち切りだった


「すっかり噂になってますねえ」

「仕方が無いだろう

 大きな図体だったんだ、荷車で運ぶしか無かった」

「その分、一緒に運んだ兵士の死体と間違われて、向こうで大変だったみたいだよ?」


街に戻った大隊長達は、既に話題になった魔物の話に驚いていた。

外に出ていた偵察隊を回収して、南門から帰還する間に、住民達に見られてしまったからだ。


「だが、幸い被害が少なくて助かった」

「それでも、こっちは使者5人に怪我人が8人ですよ

 結果としては散々です」


「うむ

 殿下がご活躍なさっていなければ、もう2、3人死んでもおかしくなかったな」

「ええ」


「その殿下なんですが…

 あの後邸宅へ帰られたみたいですよ?

「ああ

 あんな事があった後だ、致し方あるまい」

「大隊長…甘いですよ」

「ん?」


部隊長のハウエルは、大隊長が子供に甘いのを嗜める。

今回の事に限らず、少年兵の失敗にも寛容である。

まあ、そのおかげか彼を慕う兵士は多いのだが。


「時にはガツンと叱らないと

 子供だからと甘やかしていると、いつか取り返しの付かない失敗をしますよ?」

「分かっている

 その為に、お前達が必要以上に厳しいのもな」


大隊長はニヤリと笑い、その様子を見てハウエルは肩を竦めた。

損な役回りとは分かったいるが、彼の性格では心配するほど厳しくしてしまうのだ。

そういう意味では、部下の育成が上手いのは、エドワード隊長と亡くなったロンであった。

今でもロンを慕う部下は多く、その損失は大きかった。


「コボルトならいざ知らず

 ゴブリンにやられた者も多いな」

「ええ」

「まさか待ち伏せされていたとは…」


大隊長の帰還が遅れたのは、後始末もだが、南に向かった偵察隊の救援に向かった事にもある。

ギルバート達が帰った後に、南側でゴブリンの待ち伏せがあったと報せが届いた。

幸い、数は大した事は無かったが、奇襲を受けて死傷者が多く出てしまった。

この事でも、大隊長はもっと修練を課さねばと思い知った。


「兎に角、今日はもう帰って休もう

 流石に疲れた」

「いいえ

 先に遺骸の検分があります」

「そんなのギルドの連中に任せれば良いだろう?」

「いいえ

 こちらはオレと大隊長が出なければ、示しが付きません」

「そんなあ…」


大隊長はガックリと肩を落とした。


大隊長達が、南門の前でこんな会話をしている頃、アルベルトはアーネストの報告を聞いていた。

その報告は重過ぎて、領主は即決を躊躇っていた。


「本当に、今の報告で間違い無いのか?」

「ええ

 残念ですが…」


「あのオークと言う魔物でも、最低ランクなのか…」

「はい

 その上にも多くの魔物が存在します」


アーネストは机上に開かれた書物のページを捲る。

そこには様々な魔物が描いてあり、主な特徴が記されていた。


「どこまでが真実か?

 どこまでが誇張か?

 これはまだ、検証の必要が有りますが、少なくとも今日の事で、ある程度は参考になると確信しました」


アーネストは、随分前に書庫で、この魔物大辞典という絵本を見つけていた。

いや、実際には辞典であったのだが、魔物が見られない以上空想の産物と思っていた。

それが急に魔物が現れ、女神聖教でも情報が開示された。

それを見て、アーネストはこの辞典の信憑性が高いと見ていた。


「しかし、書庫にこんな本が在ったのか?

 ワシは知らなかったぞ」

「陛下の贈り物の中に入っていたのでは?

 アルバート様はその辺の確認が甘いですから」

「うぬぬ

 否定は出来ん…」


アルベルトは国王から頂いた物の管理が杜撰だった。

全て執事に任せて、目録の確認しかしていなかったから、そう言われても仕方が無い。

本もいつから置いてあったか知らなかった。


「この辞典を見てみると、最弱の魔物であるGランクに属していると

 人間に近しい魔物で、魔石も殆ど有しておらず、魔法の行使も出来ないと書かれています」

「魔法か…」


「もし仮に、魔物が魔法を使えたなら、どれほどの脅威になる?」

「少なくとも、ランクは1つ上がりFランクになります

 Fランクの魔物となると、オーガやトロールと同等になるかと…」

「オーガやトロールとは?」


「先ず、オーガから

 身長2m~3m

 表皮は頑丈で、巨体から繰り出す強力な一撃は、城壁でも崩される恐れがあるかと」

「おい…」


「次にトロールですが

 こちらは2m~2m50cmぐらい

 力もオーガほど有りません

 動きは遅く、剣や斧でも傷付けれます」

「ああ…良かっ…」

「しかし、問題は表皮にあります」

「ん?」


「トロールの表皮はブヨブヨして柔らかいのですが、腐食性の粘液を出します」

「おい!」

「これは人体に掛かれば溶かされて危険ですし、武具も痛んでしまいます」

「はあ…

 北で見た巨人の影が、これで無ければ良いのだが…」


そこでアーネストは何か言いかけたが、状況が分からない為に躊躇った。

それがもし、本物の巨人なら、ランクは更に上がってDランクになる。

それは城壁なんぞ軽く砕く化け物だ。

そんなのが来たら、本当に街はお仕舞いだ。


「確証の無い魔物の話をしても、仕様がありません

 先ずは当面の脅威を取り除かなければ」

「そうだな」


「先ず、今後当面は、開拓や貿易の為の隊商は無理でしょう」

「ああ」

「備蓄の食料は?

 どのくらい余裕がありますか?」

「うーむ」


アルベルトは考え込む。

今年の収穫はほとんど終わった後だった。

後は家畜で賄えば、春まではもちそうだろう。

しかし、来年の事を考えれば、種や家畜の消費を抑えても半年はもたない。


「冬を越すのが…やっとだろう」

「それは何故です?」

「穀物よりも、肉の供給が止まるからだ」

「ああ、なるほど」


「肉の供給があれば、もっともちますか?」

「それは可能だろう

 だが、どうするのだ?」

「これは、これから調べますが…」


アーネストはひそひそ声で領主に耳打ちする。


「な!

 しかし…

 それなら何とかなるのか…」

「ええ

 まだ確証はありませんが、この書物に書いてある事が本当なら

 今回の厄災は贈り物に変わるでしょう」

「うーむ

 後は民衆の倫理観だけか…」

「はい

 そこは領主様の手腕を信用しています」

「むぐ

 本当に、お前は口が悪いな」

「はは」


問題の後始末を丸投げされ、アルベルトは閉口する。

その後も細かい話を詰めて、アーネストは魔物の遺骸を調べる為に、守備隊の宿舎に向かった。


アーネストが宿舎前に着くと、そこには多くの住民が集まっていた。

恐ろしい魔物が出て、討伐されたと噂が広まったからだ。


「はいはい、ごめんよ」


アーネストは小柄な体を活かして、するすると人込みを掻き分けて行く。

そうして宿舎に辿り着くと、兵士が入り口を塞いでいた。


「どうも、ご苦労様

 おじさんは居る?」

「誰だ!

 ここは通さない…なんだ、坊主か

 大隊長なら中だ」

「ありがとう」


アーネストは軽く挨拶をして、慣れた様子で入って行く。

それを見た男が喚く。


「なんであのガキは良いんだ!」

「あの子は特別だ!」

「ふざけるな!!」

「あんた、アーネストを知らないのかい?」

「あの坊やを知らないとは…」


アーネストは自称大魔導士とか領主と懇意にしているとか、兎角噂も多いが、何よりもその容姿で一部の住民には人気者になっていた。

可愛い顔と小柄な身長、そして大人顔負けの毒舌が人気の秘訣だ。

一部のご婦人や女性達から『アーネスト坊や』とか言われて可愛がられていた。

それを知らない者はどうなるのか?

男は女性達に囲まれて、震え上がる事になった。

そんな外の騒ぎも知らずに、アーネストは大隊長の待つ部屋へ向かっていた。


「お待たせしました」

「おう、来たか」


大隊長は魔物の解体をする為に、兵舎の一角に集まっていた。

そこには他の人も集まっており、アーネストの方を見て微笑む者もいた。


「待っていたよ」

「遅いぞ」

「それでは、これで揃ったかね?」


大隊長を始めとして、第1、2、3、4部隊のダナン、アレン、ハウエル、エリック豚長が出席し。

それから歩兵部隊、弓兵部隊を代表してエドワード隊長が。

騎士団からはオーウェン副隊長が将軍の代理として出席していた。

また、魔術師、冒険者、商工ギルドの代表としてギルド長が出席している。


「領主様がおられませんが?」


女神聖教の代表の司祭が呟く。


「ボクが後程、報告する手筈になってます」

「そうですか」


「私は解体なんぞ見たくは無いんですが…

 女神様の託宣もありますからねえ」


司教は魔物の遺骸を嫌そうに見て言う。


「そう言うなよ、オレも領主の頼みで無かったら見たくもないぜ」


冒険者ギルドの長も嫌そうにしている。

しかし、ここで魔物の倒し方や、その遺骸から取れる素材の事を聞いていなければ、後々情報の共有が出来なくて不便になる。

ここは我慢をして見てもらうしかない。


「それでは、始めますぞ」


商工ギルド長が声を掛け、解体専門の職人が、ナイフを手に前へ出る。


魔物の解体は2時間ほど掛けて慎重に行われた。

先ず、表皮は人間よりも豚に近い事が分かった。

しかし素材としての価値は低く、皮として扱い難い事が分かる。


次に肉が切り分けられる。

この辺は人間に近く、食用には向いていないだろうと判断された。

種族が違う高ランクのオークは食用に適していたと記録があるが、このオークは臭みが強くて飼料や肥料に回す事になった。

臓物も同様で、これも飼料や肥料にする事となる。


次いで、魔石だ。

魔石は3体あった内の1体にしか見られず、それもとても小さい物だった。

しかし、ここで魔術師ギルドから意見が出る。


「この魔石を触媒にすれば、魔術の発動を楽に出来る様になる」

「と、言うと?」

「具体的には?」


「魔術の発動に必要な魔力を供給出来る様になります

 ほとんどの魔術は、個人の魔力に依存しています

 それが…これを使えば、外界から魔力を供給出来るので…」

「より強力な魔術の行使が可能になる?」

「そうです」


「嘗て、強力な魔法を持った王国が在りました」

「そんな話、聞いた事が無いぞ」

「王国は滅んで、書物もほとんど残っていません

 教会では記録は?」

「実は…

 古代王国の資料はあります」

「何だって!」

「ええ?」


その場のほとんどの者が騒然とする。

それは、今まで聞いた事の無かった古代王国が在り、その情報もあるという事だったからだ。


「正確な資料はほとんど残っていません

 しかし、そういう王国が在って、帝国によって滅ぼされたという記録はあります」


場は騒然とし、古代王国と魔石の事で話し合われる事となった。


「今後、魔物の遺骸を回収し、魔石を集める

 それでよろしいですな?」

「はい」

「冒険者ギルドでも、クエストとして推奨するぞ」


「次に…

 得られる素材ですが

 現状では骨ぐらいですかね?」

「ああ

 それもどこまで耐久力があるかは、試してみんと分からん」


「コボルトですか?

 アレは犬みたいに毛むくじゃらですよね?

 アレの皮は使えませんか?」

「可能とは思う

 だから、そいつの皮も集めてくれ」


「後は食用の魔物か…」

「今のところ、見つかってはいませんね」


アーネストは辞典を開き、Gランクの魔物のページを示す。


「ここにある…

 ワイルド・ボア、こいつが有力な候補です」


「まだ目撃されていませんが、魔物が居たとなればこいつらも居る筈です

 冒険者ギルドでのクエスト対象にしてください」

「分かった」


「後は各自の力の底上げです」


「魔術師ギルドでは、目下、新開発の魔法の習得に力を入れています」

『おお』


これは例の魔法だが、新開発として話を通していた。


「後は冒険者ギルドと兵士のみなさんに、スキルの習得をしていただきます」

「例のヤツだな

 少しずつだが、習得させている

 これもクエストとしてやらせている」


「後は…

 先ほどの魔石なんですが

 数が揃ったら、商工ギルドにも協力していただきたいんですが」

「魔石を使った装備じゃな

 任せろ」


「それでは、今後の方針は以上です

 何か質問は有りますか?」


冒険者ギルド長と司教が手を挙げる。


「それは…

 本当に領主の命令なんだな」

「信じて良いんですね?」

「はい

 ボクと領主様で、先ほど相談して決めました」

「ならいい」


「教会としては、魔物の討伐に思うところはございますが

 領主のお決めになられた事なら、異存はございません」


こうして急遽開かれた魔物の解体作業に伴い、今後の対策が決まった。

魔物の襲撃が、いつ起こるか分からない。

しかし、それまでは出来る事を精一杯やって、襲撃に備えようと決まったのだ。

オークの肉に関しては、物語によって様々です

豚と同じか、または魔力を持って上質の肉になっている場合もあります

私としては、見た目が人間だし、不潔だし、とても上手そうに思えないんですが…

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